第三話 守れたもの、守れなかったもの


第三話 守れたもの、守れなかったもの

クロスの赴任から2ヶ月の時が過ぎた・・・。 ある晴れた日、クロスはビースト2、ゲイリーと ビースト0、ソリスのキャリーと共に、本日来るといわれている連邦事務官の基地視察の為の 航路安全確保のため、基地北西部にある山岳地帯へと足を運んでいた。 アンドリューとラピスは後方の臨時司令本部から、 レイチェルはダミーのコースの護衛に回っていた。 そのためクロスは絡む相手もおらず、暇をもてあましながら 少し離れれば友軍もいるものの、静かな山間の景色を眺める事3時間、 予定の時間までまだ2時間あるというこの状況で 周りにあるものといえばビースト0、レジーキャットこと武装キャリーと ビースト2、ゲイリーのゲシュペンストスナイプカスタムあらため、ハンターレオパルド。 先の作戦で課題だった後方支援、狙撃能力の向上を目的に かねてよりラピスが考案していた改修を行った機体で、 基本的にはゲシュペンストであるため素体はそれほどのいじっていないものの、 役割柄殴り合いの戦いは無い事から左手のジェットマグナムは廃され、 新たに追加された牽制用の三連マシンガン。これはゲシュペンストMk-V用に設計されたものだそうだが パーツとして入手したので装備したそう。 そして左肩にはビームキャノンを装備し、主兵装にはロングレンジスナイパーライフルを配備された。 万一の近接戦闘のためにプラズマカッターとコールドメタルナイフは装備しているものの、 メインカメラは狙撃用に大型化されているあたり、距離を置いた戦いにさらに特化した機体といえる。 対して自分は、せめて色だけはとパーソナルカラーの黄色に塗り替えた見目派手になった亡霊。 それを横目に新型を受領しご機嫌のゲイリーは、先ほどからキャリーの方を向いている所を見ると 麗しのソリスと甘い時間を過ごしているのだろうが、こちらとしては 暑い中、話し相手もおらずただ輸送機が来るのをあと二時間待たねばならない。 「……ラシェルもラピスもいないもんなぁ」 誰とも無く、虚空に呟くのも無理はない、と思う。 するとそんな呟きが聞こえたのか、レジーキャットから通信が入った。 「あ、クロスさん、もしもし?」 「ボンジョールノ、ピザタイガーでーす、ご注文はー?」 「えぇっ?ええと……マルゲリータひとつ……」 「だんけしぇーん……で、何か用かい、フロイライン」 イタリアなんだかドイツなんだか。自分で言ってて非常に阿呆な会話だが、 決してツッコミではないソリスを相手にこれ以上ボケるのは酷だと本題を求めると ソリスも苦笑いしながら、 「すいません、ゲイリーさんと話してばかりで……  あの、配備されたばかりのハンターレオパルドの仕様を、姉から聞いてたところを伝えておかないと  いけなかったので……」 「ああ、別に気にしないでいいって。  一人身の寂しさより、この地方特有の暑さにだれてただけだから」 それに別に個人の会話に首を突っ込むほど野暮じゃないし、二人の事はラピスからも聞いてたつもりだ。 むしろ二人にしてやりたいぐらい。 こっちも気にしていないことがわかると、ソリスも申し訳ないという風な笑みを浮かべ、 「こっちに冷たい飲み物ストックありますから、今もっていきますね」 「お、それは助かるよ。あれ、でもレーダー見てないで大丈夫?」 「ゲイリーさんに、自分の機体の方が良い目を持ってるから昼寝でもしてたらいいって言われちゃいました」 もっともゲイリーも冗談のつもりだろうが、苦笑いを浮かべるソリスに クロスは一仕事をお願いする事にした。 「じゃあお言葉に甘えて。 良く冷えたヴァルシュタイナーを宜しく」 しれっとアルコールを要求してみると、一瞬考えたソリスは気づいたのだろう。 ジト目で通信画面のこちら側をにらみながら、 「……それビールですよね?駄目ですよ、無いですよ」 やんわりとツッコミを入れてくれたので、それでクロス的にはもう満足だった。 「オーケー、じゃあ水で我慢する」 「はい、ちょっとまっててください」 ペットボトルの水をクーラーボックスから取り出して見せると、 ソリスは通信画面から姿を消した。 クロスは外部カメラに映る、キャリーから出てくるソリスの姿を確認して ゲシュペンストを跪かせ、手のひらを差し出してソリスをコックピットまで招いた。 キャノピーを開くと、申し訳程度のエアコンがもたらしてくれた冷気はあっという間に外気に溶け、 暑さが中に侵攻して来ると同時にソリスも身を乗り出して500ml入りの水を手渡してくれた。 「あんがとさん。 暑いところすまん」 「いえ、また足りなくなったら言ってください」 猛暑の中、嫌な顔一つせず水を届けに来てくれたソリスに感謝しつつ、彼女を地面に降ろし、 再び外気と遮断されるコックピットの中で水を一口頂いた。 「ふぅ……生き返る」 水だけではない、人と話せた事も先ほどのまどろみから解消された事の一因。 甲斐甲斐しくサポートに回ってくれるソリスのような存在は貴重だ。 と、そこへ今度はビースト2、ハンターレオパルドから通信が入る。 潤いの時間、終了― 「こちらビースト3、どうかした?」 「ソリスと何してたんだ?」 「ただの出前さ。心配しなさんな」 わかりやすいヤキモチだ。微笑ましくすら思えてくる。 すると向こうはこちらの余裕のある態度が気に食わないのか、舌打ちをしながら 「いいか、お前は前衛、少しでも異常があれば前進して情報を集めろ。  マーカーを指定さえすれば俺がそこを狙い撃つ。  隻腕の野郎が出たら特にだ。 ヤツは俺が狩ってやる」 「了解りょーーかい、逸るなよ旦那」 何をそんなに焦っているのか、そうも思えるような逸り様は 新しい機体に乗って気が大きくなっているからだけなのか。 こと、この地区のゲリラ相手に対してこの男の態度は戦果を求める以上の何かを感じる時が時折ある。 誰かの仇……とも違うだろう。 初めて会った時、この男もブルーノのことは良く知らないようだった。 にもかかわらずここまでのこだわりっぷりは、解せない点が多分にある。 もっとも色恋沙汰同様詮索する気はあまりしないが、後ろの警戒だけは怠らないようにしよう、 そう思っていると、不意にキャリーに戻ったばかりのソリスから通信が入る。 「音源接近です。 エンジン音3、一つはバイクのようです」 「敵の斥候か……?」 「あ……銃声です!」 「追われてんのか!?」 そう言うが早いか、クロスは自身のゲシュペンストを音源の方向へ走らせていた。 そんな行動に後ろからゲイリーの声が飛ぶ。 「おい!持ち場を離れすぎるな!」 「隊長不在は確固の判断!いずれにせよこっちに目標は向かってるんだ。  敵だったら放っておいてもここの配置はばれるよ!」 そう言い放ち、プラズマカッターとマシンガンを両手に握ったクロスのゲシュペンストは 山間を無駄のない動きで駆け抜け、やっと自機の集音マイクでも銃声を拾う距離へ近づくと、 岩山の陰から丁度左右を高い岩山に囲まれている見通しの良い通りにさしかかる。 カメラユニットを岩陰から出して視界に入ったのは、オフロードバイクを追いかける2台のジープ。 後ろを気にして必死に走るバイクには小柄な体躯のシルエットで それを追うジープはアサルトライフルを持ったいかにもなゲリラだ。 時折威嚇で発射する弾丸もかなりコースとしてはきわどく、何度かバイクを掠めることがあったが、 運が良いのか腕が良いのか、ギリギリかわしてなんとか逃げているという様子だった。 いずれにせよ長くは持ちそうにない。そう判断して、クロスは 18mはあろうかという自身の機体、ゲシュペンストを完全に相手の視界に入るよう 岩山から出して走り出した。 その瞬間、後ろのゲリラが発射した弾丸がバイクの前方の石を砕き弾いて それが当たったのかバランスを崩してバイクは倒れこんでしまう。 それを見てクロスはジャンプ、バイクとジープの間に飛び込んだ。 「カーチェイスはそこまでっ!!」 外部スピーカーを響かせながら、ゲシュペンストの巨体が地響きと共に降臨。 突然の登場に驚いたのだろう、ゲリラの先頭のジープも慌ててハンドルを切って横転、 後ろについていた車両も横転は免れたがスリップして岩に激突した。 すかさず車からは銃を構えた男どもが出てきたが、所詮対人装備ではPTにはダメージはほぼ皆無。 クロスは落ち着きながらこちらもマシンガンを向けると、 「所謂一つのホールドアップだ。 どういう理由か知らんけど一方的なのは見過ごせないんでね……っと」 追走側に銃を向けつつ、ふと倒れたバイクの方に視線を向けると さっきは遠目でわからなかったがそこにいたのはまだ10代中盤だろうか、 思いの他小柄で倒れた拍子に体でも打ったのかもしれない、起き上がるのに難儀している様子だ。 いずれにせよ、放っては置けない。 クロスは再び正面にてこちらをにらむお客さんに退席願うべく、銃口を向けて声を放つ。 「えー……こちらは"連邦軍パトロール隊"。この地区でのゲリラ活動は、自治法により禁止されている。  銃を降ろし、引き返しなさい……と、  警告に応じない場合は、攻撃対象となるのでそのつもりで」 あくまで巡回中、ということにして警告する。 ここが暫定的なものとはいえ、方面司令が通過するという重要なエリアである事を思わせないためだ。 すると向こうもこちらの警告を聞いたのか、何か話すそぶりを見せながら 横転していない方の車に乗り込み、撤退していく。 「そうそう、人間素直が一番♪ばいばい」 わざわざゲシュペンストの手を使い、手を振って彼らの姿が見えなくなるまで見送ると、 再び見下ろしたバイクの少女は、上体を起こして、こちらを見上げていた。 「お……気がついたかい?」 外部音声で呼びかける。同時に外部集音マイクの感度を上げて相手の声も拾えるようにした。 「あ……あの……私……」 荒野を越えるため肌を守るツナギのような野暮ったい服を着ていたので 気がつかなかったが、声を聞いてはじめて気がついた。女の子だ。 「柄の悪そうな連中に追われてたんでね。怪我は?」 「あっ……は、はい!プロテクターもしてるので……かすり傷程度です。  すいません、ありがとうございます……」 思いのほか快活、素直そうな娘だ。 てっきりいきなり逃げられたりでもするかとも思ったが、 こんな所に珍しく、普通の女の子、と言った感じだ。 「どうして追われてた……とか聞くのは野暮かい?  一応こっちは軍人だもんでね、こんな所で地元ゲリラといざこざのある君を  何も聞かずに返すわけにはいかないんだが……」 「あの……旅行してて……私この辺の情勢何も知らなくて、  近くの町に立ち寄ったら急に追いかけられちゃって……」 「そうそう、大人しく話を聞かせてくれたら、基地への同行は無しにしといてあげ……っ!?」 突然の背後からのロックオン警報。 すかさずクロスは少女を自機の陰になるよう警報に対し背を向け 直後一発の砲撃がクロス機の右肩アーマーを貫通し、右肩関節が吹き飛んだ。 「くっ…………!  お礼参りにしちゃずいぶんお早いお着きで……!  ご両人!敵だ!」 急いで味方と通信を試みる……だが、通信機から返ってくるのはノイズのみ。 「ジャミングか……!ええい……」 振り返って敵を確認するがすでに姿は無い。 先行しすぎたか、だが遅くなって女の子の身に危険があってもまずい。 ここにまず自身が到着したことは良しとして、この後どうするか。 「スナイパーさんは前には出てこないし、ホバーは戦力には辛い……  うは……、ラシェルの存在が早くもありがたいぞ」 こういうとき背中を預けられる相手が居るのがチームのありがたみ。 クロスはのこる唯一の戦闘メンバーが後衛のみというこの組み合わせの悪さに嘆くも 原則専守防衛という作戦に反しているのは自分の方だと思い出すと ぼやきは封印して身構えた。 「とにかく……と、  君!どこか物陰に隠れるんだ!ちょいとばかり危ないからな!ここは!」 まずは保護対象の身の安全。 その声に少女もバイクを起こしてここに来る少し手前の洞窟の方へ向かう。 その間も周囲に気を払っていると、今度は別の方向から熱源探知。 「ミサイル……っ!」 狙いは自分。マシンガンを向けて撃つもなかなかあたらず、 ようやくあたったころにはかなりの近距離だった。 爆風が左腕を飲み込み、熱でマシンガンがやられるとほぼ同時、 使い物にならなくなるより前に左腕を引き抜くと 腰後ろにマウントしていたショットガンを取り出だして ポンプアクション式のそれを片手で装填し構える。 「やれやれ、向こうもスナイパーさんか……?  こういうときけん制してくれると助かるんだが……くっ!」 今度は視界のはずれで一瞬何かが光ったのを見えた。 すかさず回避運動を取ると、ゲシュペンストの耳にあたるアンテナを もぎ取るように砲弾がかすめていく。 「あっぶ……!ぐあっ!!  く……まだ回復しないか、回線……!」 回避したと思ったのはつかの間、直後二撃目が クロスのゲシュペンストの頭部を吹っ飛ばした。 右腕損傷にメインカメラの破損、武器は近距離向けのショットガンとプラズマカッターのみ、 相手はこちらの射程外から狙ってくる遠距離タイプ。 どう考えても分が悪い。 すると今度はマシンガンの弾が機体を掠め、クロスは反射的に身を翻すと それまで自分が居た方向で無数の穴が開く音がした。 それと同時に機体の背や腕に壁がぶつかる。どうやら岩陰に逃れたらしいがピンチは変わらない。 「マシンガン……さっきまでのやつじゃないのか!  やばいな、万事休すか……!」 徐々に近づく銃声……クロスは出会い頭にショットガンをお見舞いする事を考え、 これならある程度射角も広いこともあり、打って出るタイミングを見計らう……すると、 近づいて来ていたであろう足音と銃声に割り込むような衝撃音。 直後大きな爆発がして、追ってきていた機体の残骸が転がってくる音がして 回復する通信からはゲイリーの声が聞こえてきた。 「ドイツ人、死んでなければ返事しろ」 「……心配ありがとさん、イギリス人」 スナイパーようやくの参戦。 ほっとすると同時に少しの苛立ちも覚えるが、ここはそんなこと言ってる場合ではない。 「敵は?敵側にスナイパーもいたろ?」 「1匹やったが1匹しとめ損ねた。こちらからは死角に隠れた。  敵の遠距離機は、すでに狙撃し仕留めた」 「お一人様ならやれるか……」 「片腕と目をやられた上に厄介な荷物がいて、か?バイクの小娘の確保も忘れるなよ」 「この状況下じゃそればっかりはどうにも。  まあ、敵のほうは何とかなるさね、いざとなったら蹴りでも入れるさ。  けん制をしかけてくれ。それを合図に俺も打って出る。  もし敵が死角から出たらとどめよろしく」 そういうと、意識を集中する為通信を切った。 ショットガンのトリガーに指をかけたゲシュペンスト、その指を引くトリガーに クロス自身意識を集中させ、機体を飛び出させるタイミングを、 自分の聴覚、直感にゆだねる。 「…………」 時々敵のけん制の射撃が近くを抜けていく。 タイミングを間違えば蜂の巣だ。 意識を集中……そして砲撃の重低音と同時に敵の威嚇射撃のテンポが崩れ、 クロスはいよいよ飛び出そうとトリガーにかける指に力をいれかけた、その時だった。 「ちょっと待って!」 「おわっ!?」 思わずつんのめってしまいそうになる。 通信機から聞こえたのはゲイリーでも、ソリスでもない。 「君は……さっきの!?」 「だめ!罠です!マシンガンを持った機体……ゲシュペンスト量産型一機の他に  戦車が一台狙いをつけてますっ!」 「何……?」 クロスはその声の主、先ほどの少女を見下ろしながら彼女の訴えをもう一度聞く 「狙いは私じゃなくて、軍人さんです!そのための装備で狙ってます!」 「マジか……?」 熱源探知などもろもろの機能を持っているアンテナ基部が破損しているため それらの情報も乏しい。 ゲイリーからも見えてなかったのだろうか、 装甲越しに聞こえる音と位置確認用の後方サブカメラ程度しか 動かないこの状態では、彼女の情報はまさに命綱だった。 クロスは再び無線を開いて、ゲイリーへ連絡を取る。 「どうした、敵を攻撃するんじゃないのか」 「ビースト2、そっちから戦車見える?」 「戦車……?待て、あれか……!  チッ、上面を砂岩迷彩してるうえに遮熱フィルタか。  ずいぶん手の込んだことしやがる。  よく気づいたな」 「肉眼でそおっと見たら、ね」 それは嘘だった。だが、助けた相手の情報提供だと言うとまた事情聴取だとかややっこしいことになるだろう。 クロスがそういうと、 「死角に隠れた敵のそばだ。戦車を撃ち抜いて脅かしてやる。  そのタイミングで残りのやつをやれ。  俺は俺の狙いを確実にしとめる……爆発と破片の計算に60秒時間をもらうぞ」 「よろしく。それならだいぶ楽だ」 そう言ってクロスは再びゲイリーとの通信を切った。 そしてショットガンを持ち替えて銃身を握るように持ちかえると、 一瞬で勝負を決める為キャノピーを開いて肉眼で景色を視界に納め、 クロスはさっきの女の子からの音声通信回線に向かって呼びかけた。 「まだ繋がってる?サンキュ、なんとかなりそうだよ」 「いえ、最初に助けられたのは私ですし……」 「……それはそうと、クローズチャンネルによく割り込めたね。  まあおかげで助かったんだけど」 「ギクッ……」 「今、口でギクって言った?言う人いるんだ、ほんとに……」 「ええと、無線が趣味でごにょごにょ……」 「ま、いいさ。おかげで助かったし。  君はどさまぎで逃げな。このまま軍に関わってもめんどいだけだし。  縁があったらまた会おうぜ。 今度は戦場こんなとこ以外で、な。  俺は人呼んで王者の虎、クロ……ってやば、60秒経つわ」 「あ、あのっ!」 もうすぐ60秒。クロスは通信を切ってゲイリーの合図を待つ。 すると定刻どおり砲撃音に続いて大きな爆発音。 クロスはショットガンを岩陰から放り投げ、 ゲイリーの砲撃に動転した敵PTがあわててそれに狙いを定め ショットガンが暴発、爆発を起こしたその隙に クロスのゲシュペンストが飛び出し、ジャンプした。 「もらったぁっ!ゲシュペーンキック!!!」 ゲシュペンストの全体重を乗せた飛び蹴りが敵PTにジャストミート。 向こうも同型機である以上PTの体重に重力と加速が乗ったキックを受けて 無事で居られるほどのスペックはない。 四肢がばらばらになるほどの衝撃で敵機体が吹っ飛ぶと、 クロスの着地と同時に背後で大爆発。 ややあってあたりにようやく静寂が訪れた。 「ふ……は。なんとか、なった……」 見渡す限り敵はいない。やっと落ち着いて深い息をつくと ゲイリーから通信が入った。 「いい格好だな」 「だろ?今度オシャレのコツを教えてやってもいい」 「あいにく俺のレオパルドは綺麗好きなんでね、遠慮しておく」 その言葉と共にゲイリーのハンターレオパルドが合流する。 見れば見るほど怪我一つない。対してこちらは満身創痍といってもいい。 だがそのおかげで一人の少女を救うことができたので クロス自身後悔はなく、そして大怪我を追った相棒も満足していること であろう今ではそんなゲイリーの皮肉も気にならない。 と、安心したところで不意にソリスが居ないことに気が付いた。 「あれ?ソリスちゃんは?」 「キャリーの足でこんなところまでまっすぐこれるわけないだろう。  おまけにジャミングで俺だってお前の発見、支援にてこずったんだぜ」 「そいつは悪かった。で、彼女はどこ?」 「予定のコース上で待機させている。  お前の方はどうした。誰か追われてたんじゃないのか」 ゲイリーはクロスの周りを見渡すが当然回りに散らばるのは今倒した連中の残骸のみ。 助けた女の子はとうに逃げている。 だがクロスは逃がしたことなどおくびにも出さず、 「ああ、いや、ただのゲリラの小競り合いさ」 「それで収穫無しの上、機体がその有様か。お粗末だな。  まあいい、ソリスをいつまでも一人にさせておくのも心配だ。ここは危険だからな」 「同感、それじゃあ早いところ戻ろうか」 それは身をもって知った。 クロスは悲鳴を上げつつある機体に今しばらくの無理をお願いして、 ひとまずソリスと合流する為、予定のポイントまで歩いて戻った。 だが…… 「これ……なんだ……!?」 開け放たれたキャリーの扉と、扉の脇についた銃創…… そしてそこにソリスの姿はなかった。 「ソリス!!」 ゲイリーが声を荒げて車の隅々まで探す。 だがキャリーのドック部分にいたるまで探してもそこには彼女の姿は無く、 クロスも驚きを隠せぬまま調べていると、 入り口付近に弾痕があったのに気づいた。 「弾痕……まさか、ソリスが……?」 「何……!?おい!今なんていった!」 すかさずゲイリーがクロスの肩をつかみ、怒鳴るようにたずねてきた。 クロスはややそれに圧倒されながらも、恋人の危機に焦るのは 理解できるので落ち着かせるように、ゆっくりと言葉を返す。 「あ、ああ……これを見てくれ、銃の痕がある。  彼女のかどうかはわからない。抵抗したあとかもしれないし……  いずれどちらかが発砲、あたったかどうか別にしてもここに彼女が居ない以上  連れ去られた可能性が高いが……」 「くっ……!お前のせいだ!」 だがゲイリーの動揺……いや、怒りは収まらず、その矛先は当然のごとくクロスに向けられる。 しかしそれもクロスは理解できた。 「お前が独断先行しなければ……」 「……すまん。先に部隊を割ったのは……俺だ」 そこは言い訳をするつもりも無い。そもそも任務外のことだったのだ。 結果として行った事で一人の少女を救うことはできたが、この場面において非は 自分にあることは重々承知していた。 「地元ゲリラの連中に決まってる……やつらはまともに人質交渉に応じない野蛮な連中だ……!  連中の声明にただ利用されて、きっと殺される……!」 「お、おい。何もそう決まったわけじゃ……  もう少しこの辺を探してみないか、何か手がかりがみつかるかも……っ、通信……!」 キャリーの通信機がコールしているのに気づいて、急いで運転席の無線をとる。 するとノイズ交じりに隊長アンドリューの声が聞こえてきた。 「こちら作戦本部、作戦は完了、基地に視察団が到着した。  ベースへ帰還しろ」 「こちらクロス!ちょっと待ってくれ、ソリスが……」 クロスはあわててこちらからの通話モードにしてソリスの捜索を始める旨を 伝えようとするが、すかさずそれをゲイリーが奪い取り 「……了解。これより帰投する」 とだけ答えて通信を切った。 それには今度はクロスも少し声を荒げて、 「お前っ……!彼女を見捨てるつもりか!?お前のガールフレンドだろうが!」 怒気も若干混じりつつ言い放つと、次の瞬間爆発したように ゲイリーがクロスの襟をつかんでキャリーのボディに背中をたたきつけた。 「お前が言えた立場か……!」 「ぐ……!」 前髪の長さもあってかその表情は口元しか見えないが、 搾り出したような重い声でゲイリーがゆっくりとクロスの襟にこめた力を緩めて、 もう一言つぶやいた。 「もう一度だけ言う……帰投だ」 「……、」 それ以上はクロスも何も言うことはできず、振り返りそれ以上こちらに対して 何を言おうともしないゲイリーが基地に戻る準備を始めるのを、 しばらく立ち尽くして見ていた。 それから数十分後…… 基地に戻ったクロスとゲイリーは帰還後、隊のミーティングで先の事柄を説明し、 それを聞いたラピスは当然の事ながら言葉を失い、 気分の悪くなったところでレイチェルが付き添うかたちで席を立つ。 それを追うようにクロスも部屋を出たものの、その場を離れるラピスの背に かける言葉が見つからず、さらにはラピスの事の原因とゲイリーにも言われ メンバーの元にはいづらくなり気が付けば傷ついた相棒のところへやってきていた。 「……」 「……ずいぶん派手にやられたな」 「隊長……」 先のミーティングでも彼、アンドリューはクロスのことを糾弾しなかった。 終始クロスを責めていたのはゲイリーで、ラピスはといえばただ言葉を失うばかり。 レイチェルはそんなラピスのことを気遣っていた。 「すいません…………」 「……そう自分を責めるな。 ラザフォート曹長も命は無事だろう。  ゲイリーは大げさに言い過ぎている」 「……だと良いんですけど、ね」 クロスとてゲイリーが言ったようなあまりに悲観的な展開は想像していない…… というよりは想像をしたくない。 ソリスはラピスに似て良い子だ。  クロスも個人的には、割と自分本位なゲイリーにはもったいないと思えるぐらい。 勿論彼女だって軍人なのだからいざと言う時の覚悟のひとつはあるだろうが、 それはあくまで精神論の話。 死んでも仕方ない……そう考え始めたら人間おしまいだ。 するとアンドリューが、クロスの傷だらけの相棒を見上げ、おもむろにつぶやいた。 「……ところで、お前が単身突出した目的についてはまだ報告を聞いていなかったが」 「え……あー……いや、結局逃げられたんで……俺が悪いんですけど……」 「いいから話して見ろ」 「……実は、女の子がゲリラに追いかけられてて、それをソリスちゃんが音を拾って  それで足の速い俺が助けに行きました」 「対象は?」 「間に合いました。追っ手は追い払ったんですが、  潜んでいた敵機体に囲まれて……。敵の狙いが俺に集まったところで女の子は逃げて、  あとは敵機と交戦してこの有様です」 我ながら情けない報告だと思う。 だが、アンドリューはそれを聞いて少し満足そうに、軽くクロスの背中をぽんとたたいた。 「なら、良い。  ゲイリーのやつは敵を見つけてお前が飛び出したとしか言っていなかったが……  ひとつの人命を救ったのなら、お前のしたことは間違ってない」 「……そういやゲイリーが追いついてきたのはもうあの子を逃がす直前だったからな……  あの子のこと知らないのも無理はない、か……」 と、ため息混じりにそうつぶやいた瞬間、ふと自分の中で何か違和感のようなものがざわめいた。 「……あれ……?」 「……どうした?」 「あ……いえ、別に……」 この違和感はなんだろうか。 クロスは額に手を当てその違和感の正体を探ろうとする。 と、その時鉄製の床板にかかとを鳴らして、レイチェルがやってきた。 「珍しいツーショットだね」 表情は蔭っていたがわずかに笑みを見せて二人にレイチェルは言うと、 アンドリューは彼女の方を向きなおして、 「カルヴィン少尉、ラザフォート准尉は?」 と、ラピスの様子を尋ねる。 それにはレイチェルも再び重たい表情を見せて答えた。 「ドクターから薬をもらって、今は落ち着いてるよ。  ラピスにとっても、ソリスはたった一人の肉親だからね……無理もないよ」 その言葉に、クロスも身をつまされる思いになる。 するとそんなクロスの心境を表情から察してか、つかつかとレイチェルはクロスに近づき よける暇も与えられずに彼女のデコピンがクロスの額にジャストミートした。 「ぐあっつ……!な、なにすんのよ」 「あんたね。いつもの調子いいのはどこいったのさ?」 「俺そこまで空気の読めない男じゃないよ……?」 「……馬鹿だね。ラピスは別にあんたのこと責めたりなんてしてないよ」 痛みにこらえながら答えたクロスに返ってきたレイチェルの言葉は、 思いもよらぬものだった。 その言葉の意味が一瞬わからずほうけていると、レイチェルは言葉を続けた。 「ラピスはあんたのことも、それからゲイリーのやつも責めてない。  そりゃあ、妹が敵に捕らえられて少し気分が悪くなったけど、  それで戦えなくなるほど弱い女じゃないし、まともな判断力を無くすほど馬鹿じゃない。  キャリーのレコードにも残ってた、あんたが追われてる誰かを救う為に飛び出したのは  勿論そいつを早く助けるってだけじゃなく、戦場を待機地点……  武装の貧弱なソリスのキャリーから遠ざけようとしたこともちゃんとラピスはわかってる」 「それは……買いかぶりすぎだよ、ってあいたぁっ!」 再び二発目のデコピンがクロスの額を打ち付けた。 「らしくないっつってんの」 「……カルヴィン少尉の言うとおりだ。  少々口が軽いきらいがあるが、いつも明るいお前がしんみりしているのも  傍から見ればひどく気味が悪い」 「……ひどいな、隊長」 冗談なのだろうが、寡黙かつ常に厳しい表情を崩さないので 本気で真顔で言われているようで、クロスは苦笑いを浮かべて答える。 レイチェルも軽くこぶしでアンドリューの胸を小突いて 「隊長、あんた顔筋固いんだよ。そういうことは笑って言わないと」 「むぅ……あまり慰め慣れてないものでな」 「フフ、ま……そういうこと。 ここであんた一人が沈んでたって何も解決しやしない。  今必要なのは落ち込むことより、次を考えること、だろ?」 そうレイチェルは笑って言い、 アンドリューもその通りだと頷いた。 その言葉にクロスはだいぶ助けられた気がして、少しだけ胸のつかえも取れた気がした。 そう、今こうしている間にソリスは身の危険にさらされているのかもしれない。 過ぎてしまったことをないがしろにするつもりはないが、今はただ彼女の無事を祈るのみ。 クロスは事態の解決を強く心に決めると、そんな表情を見てかアンドリューは クロスの肩をポンと叩き踵を返した。 「今諜報部が現地ゲリラの情勢を拾っている。 ラザフォート曹長の情報も何がしか手に入るだろう」 「そう……ですね。そう祈ります」 「ああ。 それじゃあカルヴィン少尉、後を頼む。  ここにきたのもあの件だろう?君はともかく、今の少尉にはまず必要なものだからな」 アンドリューは格納庫の奥を指しながらそういうと、 レイチェルもそうだと頷き、 「ああ、任しといて」 そういって脇に抱えていた二冊のファイルを見せて、アンドリューを見送った。 クロスも彼の姿が見えなくなるまでその背を見送って、視線をレイチェルの手のものへ移す。 「それ、何?」 「ま、見てのお楽しみ」 珍しくいたずらっぽい笑みを浮かべ、レイチェルは先を歩き出す。 クロスはそんなレイチェルのしぐさに一瞬ドキッとしつつ、その後に続いて 格納庫奥へと進んでいった。 普段立ち入らない格納庫奥にさらにもう一つの扉があった事を知ったのはそれから5分後のことだ。 キャリアーが降りれるよう斜めになって、地下へと続いていく通路を歩いた先にあった扉をくぐると、 そこに待っていたのは2機のPTの姿だった。 「これは……」 一つは両腕にプラズマステークを改造した爪、さしずめプラズマクローといったところか、 それと両肩にマシンキャノンを装備、背部のスラスターは大型化し、加速力を挙げた、 パイロットの好みが前面に押し出されたような、ゲシュペンストの亜種…… そしてもう一つは、 両肩に大型のスラスターを装備し、旋回性、機動性を強化し 左手にはビームキャノン付きシールド、右腕にプラズマカッター、 さらには左肩にミサイルコンテナと武装が充実する中一点目を引く右肩にある 大きな曲刀、ベースを黄色でカラーリングされたゲシュペンストタイプの機体が 二人を出迎えた。 「RPT-007-BC03 ゲシュペンストMk-2M改 アームドタイプと  RPT-007-BC04 ゲシュペンストMk-2M改 アグレッシブタイプ。  隊長のRPT-007-BC01 コマンドタイプ・シルバリオと  ゲイリーのRPT-007-BC02 スナイプタイプ ハンターレオパルドに続く、  あたしたちの部隊の、あたしたちの為のカスタム機。  ラピスの仕事よ。 もう、それぞれのゲシュペンストからOSの移し変えもしてる」 「俺の……専用機……」 正直驚きを隠せなかった。 傭兵として参加している自分に満足な機体が与えられているだけでも厚遇だとは思ったが、 ほぼ基礎の他は大幅に改修が加えられているカスタム機を準備してくれた。 このことにクロスが言葉を失っていると、 「ラピスの父親もメカニックだって話はしたろ?  父親も、いろいろ難題を押し付けられる外人部隊、まあ遊撃任務にこき使われるメンバーの  選任技術官として働いてる時期が長くってさ。  その時はまだPTなんてものは無くて、戦車や戦闘機での戦いがメインだった時代だけど  充分な物資が無く満足のいくチューンをできなくて前線で戦う仲間に苦労をさせた、  それを悔やんでいたってよく聞かされてたんだって。  それでラピスは自分があたしたちにできること、それを目いっぱいしてくれようとしてる。  この短い間であたしたちの好み、スタイルを理解してここまで形にしてくれたんだ。  今この基地に視察団が来てるだろ?完成前にあれが来ちゃったら建造に支障がでかねないからって  昼夜問わず建造に付き合って……  だからさ……」 そこまで言ってレイチェルは起動キーを一度宙に放って、それをパシッとキャッチすると クロスの胸にグッと押し付けた。 「あたしたちはそれに報いてやらなきゃ。……だろ?」 静かだが重い、レイチェルの決意もこもったその言葉に クロスも断る言葉も最初から無く、 「……ああ、そうだな」 ゆっくりと起動キーを手にとり答えると もう片方の手で懐の クロス、そしてレイチェルはお互いの機体と向き合い、こぶしを向けた。 「……頼むぜ。 ケーニッヒスティーゲル」 「……よろしく、アサルトジャガー」 クロスが、自身のヨーロッパ戦線での渾名をそう名づけたように、 レイチェルも自身の戦い方、それを標榜するような名前を彼女の新たな相棒へ名づけ、 二人、次なる戦いへの決意を新たにした。
第四話 突入救出戦