第四話 突入救出戦


第四話 突入救出戦

ソリスの安否が知れぬまま、三日の時が過ぎようとしていた。 ラピスの調子も何とか戻り、正式にケーニヒスティーゲルとアサルトジャガーがロールアウトされると アンドリューのシルバリオ、ゲイリーのハンターレオパルドと合わせ いよいよビースト小隊はそれぞれの特性を活かしたカスタマイズ機で固められ、 真の完成をむかえることとなった。 ただひとつ、サポートキャリアーであるレジーキャット、そのオペレータで チームのメンバー、ソリス=ラザフォートの不在を除いて……。 そして四日目の朝、チームを含む待機メンバーはミーティングルームに集められ、 次なる作戦の内容が伝えられた。 「全員そろったようだな。それでは作戦の説明を始める」 基地司令が壇上にて作戦説明開始を告げると、 アンドリューが代わり次の説明を始めた。 「諜報部からの情報で武装ゲリラ内に匿われている旧政権保守派のメンバーが  ここより北東23km地点にある炭鉱跡に潜伏している事がわかった。  政府軍は現在、隻腕の悪魔の動向を察知しその動きを封じるべく動いているため  本作戦は我々連邦軍のみで行うこととなる。  現地は一部PTサイズで進入可能であり、敵の抵抗も予想されるが  民間人は不在とのことであり、激しい抵抗が予想される。  そのため作戦は二段階に分けて行う。  まず本作戦に参加する五つの小隊で波状攻撃をかけ、防衛戦力を無力化。  然る後、少数精鋭で基地内部へ突入。これはビースト小隊で行うが  目的はあくまで殲滅ではなくターゲットの確保。  旧政権保守派の幹部を確保し撤収する。  無論内部でも抵抗が予想されるので油断はするな」 重要任務をまかされたことで、周囲の視線がクロスたちに向けられる。 するとゲイリーがおもむろに手を上げて、 「内部でターゲットによる抵抗があった場合は?」 「内部では通信が繋がらない可能性も指摘されている為  この時点である程度の指示は出しておく。……質問の答えだが、  応戦を許可する、が、炭鉱内部で落盤の可能性があることと  今後政治的に対象を必要とする場面が予想される為可能な限り生きて確保するように」 「……了解……クッ」 「……?」 一瞬ゲイリーがくぐもったような声を上げたような気がするのは気のせいか。 クロスが斜め後ろのゲイリーを見たがすでに仏頂面に戻っており、 クロスが自分の方を向いているのに気づくとこちらを睨み返してくる始末だ。 (……まさか俺を撃ったりはしないだろなぁ) 一抹の不安を覚えながら視線をそらすように再び前を向き、 クロスはゲイリーの顰蹙覚悟でアンドリューに質問を投げかけた。 「隊長、質問。ソリス……ラザフォート曹長がそこにいる可能性は?」 瞬間、刺すような視線が後頭部に感じるもそれを無視して アンドリューの反応を待つと、手元の資料に視線を落とした彼は再び顔を上げ、 「今のところそういった情報は入っていない」 と答えるが、今回聞きたいのはもしいた場合の判断だ。 「でも民間人はいなくて重要人物を匿ってるのだったら、  いざと言うときのための人質もいる可能性も無くはない、でしょ?  居たら、救出優先しても?」 続けざまにそう質問すると、不意に後ろでガタッと音がしたかとおもうと ペンとノートパッドが飛んできた。 「痛っ」 「いい加減にしろよ、偽善者野郎」 ゲイリーの一言に、場も凍りつく。 だが一人ヒートアップしたゲイリーはとまらず、立ち上がって クロスの襟首をつかみ立ち上がらせると、 「誰のせいでソリスがあんなことになったと思ってるんだ。  いまさら贖罪のつもりか?今は敵との戦いの話をしてるんだ。  作戦に参加する気が無いのなら野でも山でもあいつを探しに行くんだな」 「……そういうあんたは、もう彼女探す気ないみたいね」 ここまでくるとさすがにクロスも、ゲイリーとソリスの間を見て 冷ややかな気持ちになってくる。 それにはゲイリーも言い返してきた。 「問題をすり返るな。俺はプロの軍人、それも傭兵だ。  仕事に私情は挟まない。お前と違ってな」 その割には私怨がこもってるようにしか見えないまなざしで、ゲイリーは クロスをにらみつけている。 が、それを言い出すと押し問答になりかねないのでクロスはそれ以上言葉を返さず、 ただ冷ややかな眼差しでゲイリーを見下ろしていた。 するとそんな場の空気を切り裂くアンドリューの一声。 「そこまでだ、二人とも」 「……」 「……」 クロス、ゲイリー共に離れて自席に着く。 それを見てアンドリューは司令の方を一度見て、 「ゲイリーも言った様に我々はプロの軍人だ。  わかっていないようだから言っておく……ヴァインニヒツ少尉。  判断を誤るな。正しい判断を行え。 たとえ、敵中で孤立したとしてもな・・・・・・・・・・・・」 「っ……」 基地司令や他の面々の前で恫喝するようにアンドリューはクロスにそう告げる。 それはまるで、私情にとらわれず任務を優先しろ、そう言っているようにとらえられるが クロスにとっては違った。 最初の顔合わせの時の隊の約束事。それを忘れるなと、アンドリューは言っているのだ。 だがそれをおおっぴらに明るく受け止めては、隊長の心意気にそむくことになる。 今はただ粛々と、黙って席に戻り 残る作戦の説明に耳を傾けることにした。 それから数時間後、目的の炭鉱を前に部隊は展開。 連邦の布陣を察知した敵側も2砲塔型の戦車や 鹵獲、あるいは闇ルートから購入したと思われるPTがクロス達を出迎えた。 対してクロス及びビースト小隊は仲間の部隊の中央に陣取り、 突入の為弾薬を温存する作戦をとっていた。 とりわけクロスとレイチェルは乗り換えて間もない。 シミュレーションは済ませたものの、慣熟は実践と言うなんとも乱暴な乗り換え劇を こなさなければならなかった。 「基本モーションはOSの移行で済んでるが……  ブースト時の出力はノーマルの2倍、スラスター位置も異なるから  バランス取りが難しいな……」 おまけに左肩はミサイルポッド、右肩には大きな曲刀を積んでいる。 だがそれゆえの両肩のスラスター追加で、すでにある程度ラピスの方で 重量バランスを考慮した出力調整はすませているとのこと。 その証拠にここまでは特に違和感なく参陣できている。 「乗りこなせるか……じゃないよな。乗りこなさなきゃ」 誰に言うでもなく、クロスはふとつぶやくと それとほぼ同時にクロス機のコックピットへプライベート通信が繋がる。 「クロスさん……すいません、作戦行動中に」 「っ……ラピス」 思わぬ相手からの通信。 結局あれから戦闘開始前まで会えなかったラピス本人からの思わぬタイミングでの通信に 思わずクロスは返す言葉を詰まらせてしまうが なんとか、何か話そうとクロスは言葉を搾り出す。 「もう、大丈夫なのか……ってのは、大丈夫なわけはないよな。  ……無理はするなよ」 「はい、ありがとうございます……。  あの……すみません、ろくな説明もできないまま機体を預けてしまって」 そう謝るラピスの表情からは憔悴しきった様子が伺えた。 両親を戦争で失い、たった二人だけ残った姉妹…… そしてそのたった一人の肉親である妹もまた安否が気遣われているのだ、無理も無い。 だがそれでも、ラピスは仲間の為己の信念を貫いてチームの機体を仕上げた。 となればあとはそれに応えるのが、自分たちのすべきこと…… クロスは穏やかな笑みを浮かべ、普段の軽口は一度胸の奥へしまって ここに居ればその頭を軽くなでてやったように、その心に落ち着きが取り戻せるよう 穏やかな口調でラピスに言葉を返した。 「いや、あのまま何もできずに居るより一億倍ましさ。  こうしてここに立っていられる……それはスタッフみんなや、  何よりこの機体を仕上げてくれたラピス、君のおかげだ。  必ず、妹のソリスちゃんは俺が連れ帰る。 だから、安心して待っていてくれ。な?」 「クロスさん……。  ……はい。ありがとうございます。  でも、無理はしないでください。  あの……ゲイリー中尉はああは言いましたけど……  私は、ソリスの事は……クロスさんに非はあるなんて思ってません」 「……ああ、ありがとう」 それはラピスの本心なのだろう。 クロスにもそれはわかっていたが、だが事実として、クロスの突出の末にソリスが さらわれたのは現実だ。 いまこうしてソリスの奪還に燃えているのも、その自身の呵責の念も多分にある。 しかし、ラピスのその一言は、そんな思いつめにも似たクロスの強張った心を少し溶かしてくれる、 そんな一言だった。 「私たちは戦争をしてる……その上での身の危険は、私もソリスもわかっています。  だからせめて、戦っても無事で居られるように……願っています。  レイチェルも、隊長も、ゲイリー中尉も、クロスさんも、私の大事な仲間なんですから」 「ああ、そして、ソリスちゃんも含めた全員で戻る。だから待っててくれ」 「……はいっ」 最後は目じりに溜めた涙を一筋こぼし、ラピスは通信をきった。 クロスも、「DISCONNECT」と表示された通信機の画面をそっと指で撫で、 薄暗くなった画面に反射する自分の顔を見ると、おもむろに両手で頬をパァンと張った。 「……気合入れようぜ、クロス」 自分にそう言い聞かせるように言い、ちょうどタイミングよく 地面の起伏をクリアする為ケーニヒスティーゲルが駆動音を上げたことが まるで相棒の嘶きにも聞こえて、それと同時にレーダーの警戒エリアに敵機の反応が映ると 「熱烈歓迎ってわけか……でもな、押し通させてもらう!」 クロスのケーニヒスティーゲル、そしてそれに続くようにレイチェルのアサルトジャガー、 アンドリューのシルバリオ、ゲイリーのハンターレオパルドが味方の援護射撃を受けながら 敵陣、そして採掘基地を改造した地下施設へと向かっていった。 戦車砲の砲撃、トーチカからのミサイル射撃、それらを岩山や機動性を駆使しながらかいくぐっていく。 すると敵防衛網第二陣としてPT部隊が投入され、クロスたちの前に立ちふさがる。 「来たね……!あたしとジャガーで蹴散らすよ!」 「おっと、俺たちもお忘れなく!」 飛び出すレイチェル&アサルトジャガーに遅れまじと、クロスとケーニヒスティーゲルも 敵陣に切り込んでいく。 後ろからはゲイリーとアンドリューの支援射撃を受けながら、 まず敵のゲシュペンスト量産型に一撃を加えたのはクロスだった。 左肩を前に突っ込み、その下げた左手で握ったのは右肩の大曲刀「ズィルバーシュナイダー」。 およそPTの身長の8割ほどもあるそれを捻りの勢いも加えて一気に振りぬくと、 相手のガードの上から敵機の胸から上を切り飛ばす。 同時に下半身が崩れ落ちると、向こうのパイロットも何が起こったかわからない様子で あわてて機体下半身から這い出して逃げていった。 「重さで問答無用でぶった切る……虎の牙に噛み砕かれたくなきゃ道をあけてくれよな!」 スピーカーでそう告げるが、そういわれてはいそうですかと退くのであれば戦争はもっと早く終わっている。 逆にいきり立つぐらいの勢いで敵ゲシュペンストがショットガンを向けてくると、 不意に間に割り込む一つの影。 「ラシェルっ!」 「はぁっ!!」 バスン!という音と共に散弾砲から散弾が放たれるが ある程度広域を狙った散弾もアサルトジャガーは通常の機体を上回る俊敏性で完全回避し、 その後続けての二射、三射も回避に成功するとその時にはすでに敵の懐にもぐりこんでいた。 「舌かまないように、歯ぁ食いしばってな!!」 そういうとまず右腕のクローで敵の肩ごと左腕をアッパーカットのように持って行く。 さらにはその上昇の勢いで膝蹴りをメインカメラに直撃させて破壊すると 相手の背後に着地すると同時に繰り出したしゃがみ足払いで相手機体を倒す。 最後に残った右腕で反撃をされないよう、倒れた敵機の右腕をクローでつぶして 再び次の機体へ向かっていった。 まるで獣の猛撃。一連の流れで完全に相手を無力化したレイチェルの所業に クロスも思わず背筋を冷たくして、 「ひえぇ、怖……」 とボソッとつぶやくと ピタリとレイチェルのアサルトジャガーが立ち止まり振り返った。 「何か言った!?」 「い、いえ!なにも!?……地獄耳かい」 アサルトジャガーに乗り換えてさらにインファイターっぷりに磨きがかかった レイチェルにうかつな事をいえない。 思わず背筋を伸ばしてしまった自分に苦笑しながらクロスは レイチェルを側面から狙う敵機めがけ、左腕のシールドに内蔵されたビーム砲で その足を打ち抜くと、バランスを崩して前のめりに倒れるそれの頭部を 接近に気づいたレイチェルが回し蹴りで吹っ飛ばして沈黙させる。 何のかんの言いながら成立してる連携にクロスも気をよくしながら、 「いいバランスじゃないの、俺たち!」 背中合わせになりながら警戒のポジションを取ると、レイチェルも珍しく 「ラピスに感謝しないとね……!」 少しだけ笑みを浮かべて応えてくれた。 だが、そうであればなおさら彼女の期待には応えなければいけない。 レイチェルの言葉に彼女自身、そしてクロスも笑みを封じ 洞窟となっている鉱山入り口を見据え、背後にアンドリューとゲイリーも追いついたのを確認すると 敵防衛網の間隙を突いて一気に突っ込んだ。 「っ……!クロス!前!」 「おいおい、店じまいにはちょっと早いだろ……っと!」 多重装甲材のゲートが洞穴入り口の上から降りてくる。 クロスとレイチェルの機体は罠の可能性も予感しつつ、だが強襲となるこの作戦の目的を考えると 時間をあまり与えたくない。 何よりこうしてメインゲートを封鎖する決断をしたと言うことは、他にこちらの知らない出入り口が ある可能性が高い。 クロスがその考えに至った時、同時にレイチェルも同じ事を考えていたようで ゲートが降り始めたとわかった瞬間二人が行ったのはスロットル全開だった。 「このまま……!」 「滑り込む!!!」 スタートダッシュもよかったこともあってか、二人の機体は侵入に成功する。 だが、後続が間に合うかどうか微妙なラインで、 滑り込むと同時にクロスとレイチェルは後ろを振り返った。 すると、降りかけたゲートにスラスター全開で押し上げているアンドリューの隊長機シルバリオ、 そしてその隙に後続から滑り込むゲイリーのハンターレオパルドと数機の友軍機が目に入った。 「隊長!」 「くっ……ブーストのリミットか……!俺も中に……!!」 スラスターのレッドゾーン突入を警告するシグナル音が通信機を通じてクロスたちの耳にも入る。 数機の友軍を招いて、アンドリューのシルバリオも中に入ろうとすると、 突然振り返ったままのクロスたちの前方から砲撃がゲート方面へ向けて通り抜け、 ゲートの真下で押さえていたはずのシルバリオと、 突入してきた友軍の量産型ゲシュペンストMkUに直撃した。 「うぐっ!!」 「隊長!」 外側に押し出される形でバランスを崩すシルバリオ。 すると直後巨大な質量の金属の扉は上からズドンと音を立てて外界と内部を隔て、 クロスたち侵入したチームは、ゲート脇の岩壁に身を隠し前方からの砲撃に備えた。 「分断された……!外とも通信はできないか……」 「こうなりゃ進むしかないわね……」 クロスが現実を口にすると、レイチェルは不適な笑みすら浮かべつつ言う。 たしかにせっかく閉鎖前に突入したのだ。 ここで再びゲートを空ける時間を浪費しては意味が無い。 するとゲイリーの機体からデータが転送されてくる。 「ここの基地は地下鉱脈に沿って広がってて、PTサイズの機体でもなんとか立ち回りできる。  障害物も多いが、逆にこの限られたスペースを有利に使った方が勝ちだ。  お前たちはそっちのルートから行け、  俺はこっちのルートをこいつらと行く」 ゲイリーが提案したのは、クロス・レイチェル組とゲイリー・マゼンタ小隊3名のチーム。 調度今メイン通路を挟んで分かれているチームわけだが、 出撃前の様相を見ていると別の意図があるような気がして、クロスは 「フォワードは不要か?旦那」 「……貴様が前に居ると、撃ちたくなる。  死にたければ一緒に来るか?」 冷静に徹しているが、まなざしはやはり怒りのこもったもの。 クロスはそれ以上絡むのは逆に状況がこじれると判断し、肩をすくめた。 「……そいつは勘弁。了解、ご武運を」 「貴様に祈られるのこそ勘弁だ。不吉極まりない」 と言われた所で通信は途絶。 同じく別のモニターに映るレイチェルとは肩をすくめ顔を見合わせると、 ひとまずゲイリーの提案どおり彼とは別のルートで進む事にした。 向こうのチームとは丁度居住エリアで合流する算段だ。 クロスたちのルートは正面通路からではなく、今自分たちが隠れた岩陰の先にある 搬入用通路から資材庫方面へ抜けるルート。 この基地が採掘場だったころの地図ではあるが、十年前の地図であるし施設の名前が変わったぐらいで 地形には大きな差は出ていないだろう。 「目的地は作業員の元居住スペースか……お偉いさん隠匿するにはもってこいか」 「そして人質を監禁するのも、な」 レイチェルもまた、クロスと同じことを考えていた。 ソリスはきっとここに居る。  それはほぼ期待以外の何物でもなかったが、クロスにはどこか確信めいた、勘のようなものがあった。 それを頼りに二人は進んでいく。 「……しかし、こんな狭いところで強敵と出会いたくないもんだね。  隻腕の旦那が出ませんように……」 「それは無いはず……諜報部の情報だと"アームズ"は内部のやり取りで  手薄な避難民キャンプの防衛に回るという情報が流れていたらしい。  軍事施設であるここにはやつは居ないだろう」 「それをきいて安心した。 どうもあの旦那はやりづらいや。  …………」 そうつぶやいた所で、クロスはふと周りの光景に違和感を感じ取る。 それが機体の歩みにも出ていたのだろう、スピードがゆるくなったクロス機に レイチェルも足を止めて振り返った。 「どうした?」 「……いや、なんか変……だなって」 完全に立ち止まりクロスは再び周りを見渡す。 純度の低く利用価値の無い鉱石の山や朽ちた資材、食料コンテナの残骸があたりに散らばっている。 レイチェルもそれはわかっているようで 「何かおかしい?元々鉱山だったところだし……これぐらいの資材……」 「そう、元々、だろ?今はなんだってんだ?」 「それは敵の、武装ゲリラの砦だ……何をいまさら?」 「だったら、もっと抵抗が激しくあってもいいんじゃないのか?  それこそ突入した瞬間、四方八方からホールドアップってなぐらい」 事実ここまで抵抗らしい抵抗は外の守りと突入時の砲撃ぐらい。 あれも固定砲台によるもののようで自分たちが入り口近辺で正面ルートをあきらめて以降 後続の敵部隊が追ってくる様子は無い。 「そういわれてみれば……何かの罠?」 「だとしたら俺たちは完全に敵の胃袋の中だ。  でも、多分そうじゃない。なんか違う気が……」 「……でも今は考えていても仕方が無い。敵の陣中なのは確かなんだから。  アイツに先に到着されると、またアンタ遅いだの何だの言われるよ」 レイチェルもゲイリーのここのところの態度には辟易しているのだろう。 やれやれと言うような調子で言うと、クロスもその光景が目に浮かんだので 「同感」と苦笑いを浮かべて返した。 そのまま二人は機体のホバー機能ですべる様に洞窟内を進んでいくと、 ふとしたところで迎撃の射撃が前方の壁を蜂の巣にする。 「いくら静かにしてても、このガタイじゃ、まあバレるよね」 「対人兵器よ。このくらいならアンタの装甲で防げるんじゃない?」 「おお、お姫様の盾になれるなんて騎士の誉れ。  喜んで盾になりましょ。とほほ」 押し出されるようにクロスのケーニヒスティーゲルが通路から開けた空間に飛び出す。 するとそこはスタジアムほどの空間にいくつかのビルがが建設され、一つの町のように なっている空間。そして牽制をしたにもかかわらずこちらのまさかの飛び出しに驚く 武装した兵士……いや、少年兵がこちらを見ていた。 いや、少年兵といえば聞こえはいいが、まだあどけなさの残る子供が 銃を持ってこちらを困惑しながら見ている。 「……どういうこと?」 レイチェルも顔を出してクロスにたずねる。 「あいにく俺もここくるの初めてなもんで。  ロケハン済みのシナリオどおりのデートも時にはつまんないでしょ……っ!!!」 クロスも笑みを浮かべそう答えようとしたその瞬間、 急速接近する反応が一つ、クロスは即座に反応してシールドをその方角へ向けると 激しい閃光と鋭い衝撃がシールド越しに伝わってくる。 シールドの向こうに居たのは、右腕を大刀装備に変えた継ぎ接ぎだらけの不恰好なカスタム機だった。 「ぐっ!!」 「連邦が……!そこまで腐っていたか!」 スピーカー越しに聞こえるのはあのブルーノの声。 だが以前町で出会ったときとはまるで別人でその声は怒りに震えていた。 もとよりその相手、ドゥンケルゲシュタルトが彼にしか扱えない事はわかっている。 クロスはその斬撃をこらえながら、呼びかけを試みた。 「おっさん!俺だ……!クロスだ!」 「その声……フン、貴様も所詮連邦の犬か……!む!」 スッとドゥンケルゲシュタルトが距離をとり、直後その居た場所をアサルトジャガーの爪が通り抜けた。 「バカ!何ボーっとしてるんだ!」 「おいおい、お話し中なんですって……。  なあ、おっさん!ここは反政府軍のお偉いさんをかくまってる軍事基地じゃないのか?  だからアンタここにいるんだろ……!」 「何……?これのどこが軍事基地だ……見てみろ!」 そういうと、ドゥンケルゲシュタルトが建物の合間の方を指差す。 そこにはさっきの少年兵や、女子供……それに負傷した兵士だろうか、包帯を巻き 不自由そうに動きながらこちらの様子を伺う姿が多く見られた。 「非武装の……民間人……?」 「ここは地下資源の利権のために土地を追われた者や、新政府軍やお前ら連邦の  テロ掃討の名の下行われる弾圧から逃れた者たちの住む場所だ……!  武装だって自衛のための最低限しかありゃあしない……!」 「……それで、これだけあっさり最深部まで……」 思えば外の防衛戦力だってこれまでの敵からしたら温いものだった。 中に入ってしまえば戦力といえるものは対人武装での牽制がいいとこ。 そもそも充分な戦力は、ここに近づけるまでに振舞った外の戦力がすべてなのだろう。 それを補う為に、この男……ブルーノがいる、ということか。 「あれ……じゃあ待てよ、新政府軍が追っていたってあんたがここに居るのは……」 「……新政府の連中と示し合わせてたんじゃないのか。  体よく追い払ったと思ったところへの連携だと思ったがな。 「じゃあここは民間人の保護区域で、諜報部の情報が間違っていた……?  おっさんが守ってるのは反政府軍のお偉いさんじゃなく女子供と負傷者達……  これじゃこっちに攻める理由なんざないじゃないか……」 クロスは愕然として武器を下ろす。 それを見てレイチェルはそんなクロスの代わりにクローの付いた拳を構えようとするが、 「構えろクロス!敵が目の前に居るんだぞ!」 「やめろ!俺達が今は悪者だ。……撤退するぞ」 クロスの静止に、ハッとした様子で構えを緩める。 そんなこちらの態度を理解してくれたのか、ブルーノのドゥンケルゲシュタルトも 構えを解き、言葉をかけてきた。 「誤解があった……そう言いたい様だな」 「すまん……雇われの身としちゃあ、中々上の言うことは疑えないもんでね……。  まだやらなきゃいけないことがのこってるから投降は出来ないけど、  帰してくれるとありがたいな……。ここには基地は無かった事も早めに伝えておきたいし」 「……その証言を軍が信用するかわからんがな。  どの道お前達を力ずくで拘束するだけの戦力もこっちに無い。好きにしろ」 「助かる。この埋め合わせはいずれするよ。  迷惑ついでにもう一つだけ、ソリスって女の子知らないかな。  反政府軍幹部を逮捕しようとしてたのはホントだけど、  その子も居たら助けようってのが俺やこいつの目的だったんでさ」 「ソリス……?」 ブルーノがその名前に怪訝な表情を浮かべた、その瞬間。 「クロスさん!レイチェルさん!」 どこからか声がする。 あたりを見渡して建物のほうを見るとそこには、見紛う事なきソリスの姿があった。 腰から下は現地の子供達にかこまれていて、その様子はまるで保母か学校の先生のよう。 「ソリスちゃん!」 「ソリス!無事なの!?」 「はい!心配かけてすみません、私あれから……っ」 クロス、レイチェルともに仲間との思わぬ再会に声を上げると、 その瞬間何かが視界に飛び込んでくる。 岩のような塊が、視界の中、そしてソリスが出てきた建物に向かって飛び込んでいく。 まるで音が消えた世界のように、それは静かにクロスたちの横を通り抜け ぶつかった瞬間から再び世界が通常の時の流れを取り戻したように、 衝撃音、ビルの崩れる崩落音と悲鳴、それらがクロスたちの耳に飛び込んできた。 「なっ……!?」 もぎ取られたばかりのゲシュペンストMkUMの頭部がビルを倒壊させる。 崩落するビルの足元で、ソリスは懸命に子供達を避難させていた。 だがその崩れ落ちる瓦礫が一つ……子供達の頭上めがけ落ちてきた。 「く……そぉっ!!」 クロスが、レイチェルが、そしてブルーノもそれに気づいてそれを止めようとするが 間に合うような距離とタイミングではない。 その次の瞬間、間一髪何かに突き飛ばされるように子供は瓦礫から逃れて地面に転げ、 「っ……!!!」 数十秒、数分にも感じた一瞬が、次の瞬間まるで何倍速にもなったかのように流れ、 クロスやブルーノが硬直する中、大小の瓦礫は音を立てて地面に落ちた。 幸いさっきの最大の危機以外で女子供に危険が及んだ様子は無い。 だが、たった一つ、先ほど子供達を襲った瓦礫と地面の間には別の何かの影があった。 「うそ……だろ……」 瓦礫から覗く上半身。 連邦の女性士官用軍服にカチューシャをはさんだ栗色の髪。 下半身は数百kg、下手したら数トンはあろう瓦礫の山の下……。 倒れこむその上半身と瓦礫の隙間からは赤い液体が染み出していた。 「ソリス!!!ソリス!!」 絶叫にも似たレイチェルの叫び声があがり、彼女はアサルトジャガーから離れようとするが クロスはあわててそれを静止した。 「待った!」 「止めんな!ソリスが!」 「降りたら死ぬぞ!ぐっ!!」 その瞬間、クロスたちが来た方向とはべつの洞穴から数発のビーム砲による砲撃が 空間内めがけランダムに発射される。 そしてそれは一発がアサルトジャガーの肩に当たり、もう一発が膝を直撃し、 その衝撃はソリスを救うべく立ち上がろうとシートベルトを緩めていたレイチェルを襲った。 「うっ……!」 吹っ飛ばされた拍子にコックピット内で頭を打ち、モニターの向こうで レイチェルは意識を失う。 そして崩れ落ちそうになっていたアサルトジャガーをそっと支えたのは ブルーノのドゥンケルゲシュタルトだった 「ラシェル……!……ありがと、おっさん……!」 なおも続くその砲撃は、或いはビルを直撃し、或いは天井を撃ち、 まだ人が残っているビルの方への砲撃はとっさにクロス、そしてブルーノもが間に割って入った。 「ぐっ……!やめろ!ここには民間人がいるんだぞ!」 だが何とかとっさにシールドでガードし、直撃は避けたものの その熱量にシールドの表面は大きく溶解してしまう。 同じくブルーノのドゥンケルゲシュタルトも肩や頭部アンテナを吹き飛ばされながら、 そして最後に撃った一撃はクロスたちが来た道とその攻撃の来た方向との合流地点、 この地下ドームの入り口天井を崩落させて、姿の見えない攻撃の主の姿ごと 岩壁は進入口をかきけしてしまった。 「あっ!……入り口が……!」 なんとか崩れるのを止めようと足を一歩踏み出すが、 勢いよく崩れる様にたかだかPT一機で止められようもなく、クロスは冷静に歩みを止める。 そして再びその場に静寂が訪れると、 クロス、そしてブルーノの間に今一度刃を交わそうと言う意識はなくなっていた。 「……ん……うっ」 焚き火の前、ぼろ布を敷いただけのそこに寝かされていたレイチェルが 軽く呻いて寝返りを打つ。だが、その拍子にどこか痛みを受けたのだろう、 表情をゆがめてやがて覚醒に至った。 「ここは……あたし……どうして……」 ゆっくりと目をあけ、それを見たクロスはそっとレイチェルの額に手を置いた。 「ストップ動かないの。頭打って脳震盪起こしたみたいなんだから。  少し安静にしてなさいって。先生が」 「先生……?」 レイチェルはそう言ってわずかに首を動かすと、クロスの横に居た町医者の先生…… そう、レイチェルも知っている先生の姿に気づいたようで 「どうして、ここに……?あたし……」 混濁する意識のなか、必死に状況を整理しようとしていた。 とりあえず意識が戻った事を確認して、先生は後をクロスに任せて去っていった。 そんなレイチェルに、クロスはやさしく頭を撫でながら言葉を返す。 「ちょっとジャガーちゃんの中で揺さぶられてね。気を失ったの」 「ジャガー……っ、そうだ、敵は……?」 「敵?……どんな?」 クロスはそれまで浮かべていた穏やかな笑みをわずかだけ消して、 レイチェルが言う敵と言うのは一体何なのか、たずねてみた。 すると一瞬ハッとした様子でレイチェルは言葉に詰まる。 「それはっ……」 「……俺達を暗闇の中から襲ったやつ……アイツは洞窟崩して姿を消した。  姿は見てない……でも……」 クロスの脳裏には一人の顔が浮かんでいた。 そしてそれはレイチェルにも同感のようで 「……敵……か。  ……隻眼の……」 「……ブルーノのおやっさんは……」 不意にクロスがブルーノの事をそう呼びかけたその時、 足音に気づいてクロスは振り返る。 「……水だ。飲め」 「……貴重じゃないの?物資」 「俺からじゃない」 と、ブルーノの大きな体の後ろから恐々覗き込む子供達の姿。 そこには以前町の診療所で会った少年の姿もあった。 「……そっか、お前らからか」 クロスはにこっと笑みを浮かべ、そんな子供達のあたまをくしゃっと撫でてやると 頂いた水をありがたく封をあけ、まずレイチェルの口へ近づけた。 「飲めよ。気分がさっぱりするぜ」 「ん……」 そっと首を支えてやりながら口元にペットボトルを近づけると、 レイチェルは驚くほど素直にそれを受け入れた。 「お……可愛いところあるじゃない。ラシェル」 「……」 「ぎゃあっ!」 ギロリと睨まれたかと思った瞬間、ペットボトルに添えていた人差し指に噛み付かれた。 「あら、ごめんあそばせ。意識が混濁してるもので」 「いちち……その調子なら太鼓判で医者にOKサインもらえるよ」 再びそっとレイチェルの頭を降ろし、とは言いながらも本当にやっと意識がはっきりしてきたであろう レイチェルのまなざしに、クロスは話すならそろそろだろうと 子供達の方を向いてそのうちの数人の軽く肩をたたいた。 「ちょーっとだけ俺とおねえちゃん、あとブルーノのおやっさんだけにしてくれるか?  あとでドイツ仕込のサッカー教えてやるよ」 「……向こうで片付けの手伝いをしていてくれ」 ブルーノもそういい、子供達は素直に従ってその場を去っていった。 そんな子供達を、レイチェルはいつくしむような目で見ており 「……かわいい子供達じゃない。……こんなところにいたなんて……ね」 「ああ……守らなきゃっておもうよな」 クロスがそう言葉を返してやると、レイチェルはふと「守る」と言う言葉に反応して、 ハッとして体を起こしたものの不意に襲う頭痛に首の後ろを押さえてうずくまった。 「うっ……く……そ、うだ……ソリス、ソリスは……!?」 「ソリスは……」 どうなったか……その先の言葉を、起こった事実を口にする勇気はクロスには無かった。 だがその様子を見てすべてを察したのか、レイチェルは愕然として遥か高い 洞窟の天井を見上げた。 「そんな……」 「……少しだけ……話を聞けたよ。  喋るなって言ったのに……俺に……俺達に必死に自分に何があったのかを伝えようとして……。  それからブルーノのおやっさんからも、話を聞くことができた」 クロスはそう言ってブルーノにも視線を送る。 ブルーノは話しづらいクロスの表情を察してか、クロスとは反対側に腰を下ろすと 重たい声でしゃべり始めた。 「……あの娘は、数日前この基地の近くで発見された。  その身なりや話の内容からすぐに連邦の下士官である事はわかったが、  あいにくここは軍事拠点ではなかったのでな。  事情や幾つか情報を聞いて、それが終わったら  お前達連邦も足を運ぶ町に連れて行ってやろうと思っていた。  だが、見つけたのが子供だったこともあって、あいつらに懐かれてな。  相手をしてやってくれていた」 「ソリスは、反政府軍に拉致られたんじゃなかった……ってことか」 「少なくとも俺の知る範囲では、そういった動きはない。  それに一度捕まえた敵をわざわざ放す理由がみつからない」 「それについてソリスは?」 クロスは彼女の言い分……何か遺していたかを尋ねる。 ブルーノは少し思い出すしぐさを見せ、首を振るうと 「……いや、後ろから殴られ意識を失うと、  気が付いたら子供たちに囲まれていた。と言っていた」 「じゃあ、襲った犯人は彼女を気絶させて、ここの近くに運んだだけ……  犯人は何が目的なんだ……」 クロスもそう続け、共に考え込んだ。 すると、それまで黙っていたレイチェルが、視線をクロスに向けると おもむろに話し始めた。 「……クロス、あんた気づいてるんじゃないのか?犯人が誰かって……」 レイチェルの顔には怒りと悲しみと苦悶が入り混じってみえる。 それはレイチェルもまたクロスと同じ人間を思い浮かべているからだろう。 するとブルーノも 「……あのゲシュペンスト頭部、俺達が使っているものや鹵獲したものではない。  ごく最近までよく整備された、正規軍のそれだ」 それはあのゲシュペンストの頭部の残骸は クロスたちと共に、別ルートで進入した機体のうちの一機である事に他ならない。 「……考えられるのは、一人だ」 「あの野郎……一体何の目的でこんな……!」 レイチェルはそう言いながら拳に力を込める。するとそれに対しクロスは、 「だが……アイツ一人じゃ無理だ。  ソリスがさらわれた時、アイツは遅れて俺の応援には来たものの  ソリスを気絶させて、こんなところまで運ぶ時間なんて無い。  仮に一度どこかに隠したとしても、戦闘終了後は俺と共に帰還して  それから今日までは基地を出ていない。  ……ブルーノのおやっさん、アイツはおたく側のスパイってことはないのか?」 念のため確認するようにブルーノに尋ねるも、 「……無いな。俺も無論ゲリラの全容を知るわけでもないが、  今日の動きを見ただけでも、それはない  ……お前たちとて、素性の知れない者は戦列に加えないだろう」 ほぼ断定といわんばかりの回答。 それにはクロスも、 「ま……俺達も傭兵って事にはかわりないけどね。連邦の作戦にばかり参加してたとはいえ、さ。  ……たしかに、アイツのゲリラに対する敵意は本物だ。  短い間だが並んで戦ってそれはわかる。  ……ソリスをどうやってここに運んだかはわからないが、仮に仲間が居たとして  目的は……連邦にゲリラを攻撃させる口実を作ろうとした……と考えるのが自然か……?」 推測ではあるが、それであれば筋が通らなくも納得できなくも無い。 だが手段については話が別だ。 「だとしたら、そんな事のためにソリスの命をダシに使ったってこと……  それが本当なら……あたしはアイツを許さない……!  ソリスの想いを、気持ちを踏みにじってまでアイツは……!」 「……タンマ、そこまで。  あまりカッカしすぎると頭に響くよ」 と、クロスはいきり立つ彼女を宥めるように、額に乗せていた手拭いにペットボトルの水をかけ、 冷たい水分を吸収させるともう一度レイチェルの額に乗せた。 「……く……そんな事……早く基地に戻って、奴を……」 「だから落ち着きなって。 君自身もだけど、君の機体もさっきの砲撃でダメージ受けてるんだ」 細かい症状までは判断できないが、ショートしている様子を見ても 満足な歩行ができるかどうか保障はできない。 クロスがそういうと、おもむろにブルーノがそこで数枚のポラロイド写真を二人の前に放った。 「……状況はこんなだ。 だいぶカスタムしてはいるが共通部品は可能な限り使用し  メンテナンスをしやすいように設計してある。 どこのどいつの仕事か知らんが、いい腕だ。  このパーツならここにも予備がある……3時間ほど待て、俺が……直してやる」 「な……なんでアンタがそんな事……!」 レイチェルは上半身こそ起こさなかったが、そんな義理は無いと言うのか 声を張り上げてブルーノの行動をとめようとしたが、 「俺の本職はメカニックだ。壊れたマシンは放っておけん……。  お前も本職としてパイロットはパイロットらしく、いざと言うときに備え自分の体を養生する事に集中しろ」 年長者としての、まるで昔かたぎの技術者のような叱り方に レイチェルもそれ以上は言葉を返す事ができない。 クロスはそんな二人のやり取りにクスッと笑みを浮かべると、 「おやっさん、いいとこあるな」 「フン……これで子供らの菓子代はチャラだ」 あくまでギブアンドテイクに過ぎない。 それだけ言い、ブルーノはアサルトジャガーのほうへと向かっていった。 「あら、素直じゃないの。  でも正直ラピスに感謝だな。  ただのゲシュペンストじゃあのビーム砲は防げないし二発の直撃で  肩アーマー、膝関節の損傷だけってのはできすぎだ。  おかげでパイロットも概ね無事。ほんと、感謝、だな」 そういうと、クロスは傍らのレイチェルの頭をそっと撫でた。 だがレイチェルはパッと手でクロスの手をはらって、 「けど……助けられなかった」 「……いや、助けたさ」 「どこがっ!」 激昂して起き上がるレイチェル。途端に頭痛が襲ったのだろう、表情を歪めて 上半身がふらついたところでクロスは強く、手を彼女の肩と頭に添えて抱きしめた。 「っ……!」 「ソリスが助けようとした命を、俺達はあの場に居た事で助ける事ができた。  ……彼女の死は、無駄じゃない。  俺達がここまで来た事は……奴よりも早くここに到着できた事は意味があったことなんだ。  だから責めるな……自分を」 諭すように、宥めるように彼女の耳元で言葉をかける。 すると空をかいていたレイチェルの手が、クロスの肩にしがみつくようにかかり、 「……っ……じゃあ、アンタは言えるのか……ラピスに、この事を……  あたし……あたしっ……」 嗚咽をこぼすように、言葉を搾り出して言う。 クロスはしばらくの沈黙の後、 「……俺が伝えるよ。……ソリスにも約束したから」 そう言い、レイチェルが肩をつかんだ手にぎゅっと力を込めたのを肯定と受け取ると ぽんぽん、とやさしく頭をさすってレイチェルを再び寝かせた。 「そいじゃラシェル、おやっさん手伝ってくるわ」 「…………ごめん」 「おいおい、らしくないよ。ほら、ラシェルっ、ラシェルっ」 「……馬鹿、ジャガイモ頭にぶつけて死ね、地獄に落ちろ」 「普段通りを通り越してひどいねお前……」 もっともその表情は少しだけ穏やかな笑みを浮かべたもの。 勿論ソリスを失った悲しみ、友であるラピスの気持ちを考えたことで 浮かない表情である事にはかわりはないが、それはクロスとのやりとりで わずかばかり晴れたのか、いつもの調子が出てきた事にクロスはうれしくなり、 悪態をつかれながらも笑って手を振るとその場を後にした。 そしてレイチェルに完全に背を向け、ブルーノの居るアサルトジャガーへと向かいつつ、 クロスは誰にも聞こえない声でつぶやく。 「……大丈夫。咎は受けてもらうさ。必ず……」 獅子身中の虫……とでも言えばいいのか、元凶となった者を討つため しずかに一言、クロスは決意を新たにした。
第五話 脱出