第八話 絆の双牙


第八話 絆の双牙

まどろみの中からクロスが意識を取り戻した時、 クロスは両手を後ろで縛られ床に転がされていた。 一瞬何が起きたのかわからなかったが、目の前に 同じく両手を縛られ気を失っているラシェルがいる事に気がついて 今異常事態が起きている事を悟った。 「ど……どうなって……そうだ、あの子は……っ!」 状況を確認するべく身をよじって上体を起こす。 両手の自由は奪われたままだがなんとか体を起こすと、 そこには思いもよらぬ人物の姿があった。 「っ……あんたは……」 「ん……う……クロス……?」 その声に気がついてラシェルも目を覚ます。 クロスが先に起き視線を向けている先にラシェルも気がつくと、 彼女も驚いたように声を上げた。 「あんた……!隊長……!?」 「……アンドリュー=ボルコフ大尉……」 ラシェル、クロスの目の前にいた人物、 それは他でもない、リューナに話していた昔話の登場人物の一人、 アンドリュー=ボルコフ大尉。 クロスとラシェル、ラピスが軍を抜けるに際し協力してくれた人物が、 今、クロスたちを縛り上げ目の前で鎮座していた。 そんな二人の呼びかけに、アンドリューは閉じていた目をゆっくりと開き、 手に持った拳銃を二人に向けた。 「……久しぶりだな。クロス=ヴァインニヒツ。レイチェル=カルヴィン。  ……いや、今はラシェル=ヴァインニヒツか」 「説明を求めたいな、隊長……それから、リューナちゃん?」 クロスはかつての上官、そしてこの部屋の入り口の陰でなりを潜める リューナに対しそうつぶやくと、 ガタッという音と共に、扉がゆっくり開いてリューナが姿を現した。 「リュンちゃん!?あなた……!」 「……」 ラシェルの驚きの言葉にも、リューナはまともにこちらを見ない。いや、見れないのだろう。 クロスやラシェルに対する裏切り、その自責の念から 最初姿を隠していたと言うのは容易に想像できる。 もっとも、彼女の目的が最初からこの形であったのだろうというのは この手際のよさから想像できたが、今現在のこの状況は彼女の本心とは異なる状態にあるのは 今のリューナの態度が説明していた。 「……リュンちゃん。いや、リューナ。  君は、はじめからこれが目的でここに潜入していた。ってことでいいかな?」 クロスは視線をアンドリューに向けたままリューナにたずねる。 返ってきたのは相変わらず沈黙だが、それは肯定とほぼ同意で、 ラシェルもそれには愕然とした様子でリューナに視線を向けていた。 「……でも君には恐らく動機がない。  状況から、あの子を使ったのは隊長……あんたってこと?」 「相変わらず頭の回る男だな……お前は。  そうだ。俺があの娘を使い、お前達を捕まえた」 「何が目的で……!」 「お前達が、とんでもない邪魔をしてくれたからだ」 「……邪魔だって!?」 ラシェルは怪訝な顔でアンドリューの言葉を反復する。 クロスは黙って続きを促した。 「ラナジスタン新政府が樹立し五年……  今、国内では先の世界の混乱もあり反政府ゲリラが再度活発化し  連邦も特務隊による掃討作戦が新政府側の工作により失敗して以降、  新政府と連邦の間に溝が出来、かねてよりの懸念だった地下資源の採掘権も  先進国や企業団体との間で対立が深まり、いまだ準備段階として  正式な連邦加盟に至っていない。  新政府はあくまで、自国の問題は自国で解決し、  エネルギー問題についても対外に強気な外交が出来る事を望んでいる。  そのためには連邦の介入で、介入のおかげで内紛を封じた事はあってはならないことで、  自国の力で解決して初めて、それらを守れるとしている。  その為に反政府ゲリラのよりどころ、旧政府の指導者とそれに連なるものを  全て拘束しなければ内乱は収束しないと判断した」 「……だから、ゲイリーの奴は連邦の介入を妨害し、  ゲリラ側の懐刀であるオヤジさん……ブルーノ=カラスを倒そうとした。  それがなんだっていうの……!」 アンドリューを前にラシェルの言葉がだんだん昔のそれに戻っていた。 何よりクロスもラシェルも子供達が心配で、気が気じゃない。 そんな中、ふとクロスはアンドリューのその物言いに ある可能性に気がついた。 「……俺らがあの国から連れ出した子供達の中に……」 「……さすがだな。気がついたか。  トラン=マーシュ……知っているな。  指導者である男は新政府樹立の前後に掃討戦で命を落としたが、  その忘れ形見がこの少年だ。  国外に逃亡したと思われてたが……まさか、逃がしてやったお前達が  連れ出しているとはな。探し出すのに4年かかったぞ」 アンドリューはそう言うと、4年前にもあまり見なかった笑みを浮かべ、 懐から取り出した古い写真を取り出し、二人の前にほうった。 そこには確かに、クロスとラシェルがかつてあの土地で出会い、 そして戦災孤児として引き取った少年のあの当時の姿が映っていた。 「トラン……っ、でも待って、なんでその子を隊長……あんたが追ってる!?  新政府を押さえ込む為?そんな政治の道具にあの子を……」 「いや、そうじゃない」 「っ……、どういうこと……?クロス」 「アンタも、あの時から新政府側の人間だったってことだろ?アンドリュー=ボルコフ大尉」 先ほどからの物言いで、なんとなく予想はついていた。 するとアンドリューもその指摘には否定もせず、クッと笑みをこぼして 「本当に、説明がいらないな、お前には」 ほぼ自供に近い言葉が返ってきた。 そうなるとクロスはあの四年前の戦いの真の姿が気になってきた。 新政府のスパイとして動いていたゲイリーのことだ。 「……ゲイリーはアンタとグルだったのか?」 「奴はこの事は知らん。 だが、秘密回線経由での俺の指示を  本国のエージェントからの指令としてうけとっていた。  奴は根回しが得手だが詰めが甘い……。だからお前のような野良犬に手をかまれる」 「虎、といってほしいね……」 皮肉を返すがアンドリューは特にリアクションはしない。 クロスは肩をすくめて続きを促すと 「あの時点である程度連邦の作戦に支障を与えた事、  そしてお前達とブルーノ=カラスの接触でいくつもの拠点情報を手に入れる事が出来た。  それにブルーノ=カラスには旧体制側の人間を守る理由が無いのと、  いずれお前達の差し金であの男がこの地を離れるという事がわかったのでな。  ゲイリー=バートンの役目も終了した……そういうことだ」 と、悪びれもせずあの男を使い捨てにした事を告白する。 それにはクロスも胸糞悪い思いをしたし、ラシェルも同様なのだろう。 いつしかアンドリューを憎しみのこもったまなざしで見て、 「隊長……あんた、いつからそんな男に……!」 「クロスが言ったはずだ。俺は四年前から変わっていないと。  そして、俺はゲイリーのように相手に銃を持たせたまま勝ち名乗りはしない。  ここまで話したということは、自分達がどういう末路をたどるか理解しているな?」 アンドリューの向けた拳銃に指がかけられる。 照準はクロスの頭に向けられていた。 と……その時だった。 「ちょっと待って……!」 「……何だ、まだいたのか」 引き金に指がかかっていたアンドリューの意識が、横にそれる。 クロスの絶体絶命のピンチに声を出したのはそう、リューナだった。 「……嘘……だったんですか?  この家にいるのは、各地で子供を誘拐してきた人攫い夫婦だって……  あなたは子供達を助ける為に……それで無事親元に帰すためにって……  だから私、協力するって……」 声が震えている。 それはだまされた事の心の痛みか、クロスやラシェルに対する良心の呵責か、 いずれにせよ彼女の言っている事はアンドリューの言っていた話とは違う。 するとそこへアンドリューの部下だろうか、目立たぬよう地味な戦闘服を 身にまとった兵士が数人やってきた。 「子供らを地下室に移動させました」 「仕上げの準備も完了しました」 「ご苦労。対象は俺の機体に移したな?」 その報告を受け、アンドリューは銃をしまうと 部屋の出口へと立った。 「ちょっと……!子供達を地下室にって……!仕上げって何を……!」 ただならぬ様子にラシェルが声を荒げる。 それには歩みを止めたアンドリューが顔をこちらに向けて、 部下らしき連中に指示した。 「……フッ、かつては上司と部下だったよしみだ。  死ぬ時ぐらいは家族と一緒にいさせてやろう。  ……この三人も地下室に放り込んでおけ」 「うぁっ!痛い……!」 そう言うと、部下連中はリューナも後ろ手をひねり上げ クロス、ラシェルも腕を掴んで強引に引きずり立たせると そのまま家の地下室入り口まで連れて行かれ、 三人押し飛ばすように地下室に放り込まれてしまう。 「ぐっ……」 「いつっ……!」 受身も満足に取れないままクロス、ラシェル、リューナは 地下室に放り込まれる。 そして扉が閉められ、白熱球ひとつの明かりで照らされた部屋のすみには、 おびえたように身を寄せ合う子供達の姿が在った。 「お……お前ら、無事だったか」 クロスはとりあえずみんなが生きている事に安堵の息を漏らすと、 子供達も駆け寄ってきた。 「ママ!」 「大丈夫!?ママ……!」 「……なにがどうなってるの?ママ」 「おいおい……」 やはりこんな時でも"パパ"とは呼んで貰えない。 まあ、かっこいいところは見せられてないのでなんだかとても残念な気持ちだ。 そんな子供達を前にじっと目を凝らして人数を数えていたラシェルが、不意に声を上げた。 「クロス……!トランがいない……!」 「やっぱり対象は可能な限りは生きて連れ帰るか……で、後の目撃者は消す。と。  やれやれ、徹底してらっしゃるね、隊長様は。  それに引き換えこっちは……」 クロスは同じく地下室に放り込まれた一人…… リューナのほうへ視線を向けた。 アンドリューにだまされていた彼女は、もろともに始末されると言われ 今はただ呆然と地下室の床にへたり込んでいた。 クロスはそんな彼女をまずは励まそうと、体を起こして笑みを浮かべた 「リューナちゃん……そう気を落とすなって」 「クロスさん……でも……でも……私……」 「君は正義感が強い子なんだな。 普通、誘拐犯っていわれてるやつの  暮らしている家に潜入なんてできないよ」 完全に意気消沈してしまっている彼女に対しては、今はとにかく慰める事が第一。 クロスはまずは彼女の勇気を褒めると、リューナは視線を落としながら、目にはうっすらと涙も浮かべていた。 「私も……変だなって思ったんです……。  でも、調べてみると確かに不自然な軍の退役の仕方をしてる二人だし……  その一方であの人は身元がはっきりしてたので……」 「調べた……?どうやって?あなた一体どうやってあの男と接触したの?」 「……察するに、君はただのジャーニーじゃない?」 政治的な話も絡む件に、単なる旅人を雇うわけは無い。 彼女を使う事でそれなりの計算ができた事から雇われたのだろうが、 その素性を今をもって尚彼女が隠すとも思えず、クロスは核心に迫った。 「……わかりました。全てお話します。  ……私の本当の名前は、リューナ=クルーラル……  フリーで情報屋をやってます」 「リューナ……クルーラル……くるー……らる  あ、ああ。ごめん。続けて。あと、縄も解いてくれると嬉しい」 すごく聞き覚えのある苗字に、クロスは思わず名前を繰り返す。 それにはきょとんとした顔を浮かべるので、 とりあえず愛想笑いで先を促した。 「軍もお得意様のひとつで……  他にもゲリラやレジスタンス、相手はその時によって変わるんですけど、  基本的に現地で警戒されやすい人たちの代わりに調査したりした情報を売ったり、  あとは単純な荷物運びとか、エージェント的な業務もやってます……。  それである時、私にあの男が接触してきたんです」 「国際指名手配の誘拐犯から子供を救う為に、協力しろ、と」 「……私子供大好きなんです。だから、そんなことになってるのを  放っておけなくて……。 一応の身辺調査でもさっき言ったみたいなことだったし……  でも、まさかこんな事になるなんて……。  ……すみません、腕、痛くないです……?」 話をしつつリューナが二人の縄を解くと、 ラシェルは膝をついて子供達を落ち着かせようと声をかけた。 一方クロスは立ち上がり扉に近づいて、開こうとするも向こう開きな上に 何か家財道具か何かでふさがれているのかびくともしない。 それどころか焦げ臭いにおいがして隙間からは煙のようなものが零れ入ってきた。 「くっ……奴さん、火をつけたな……!空気穴はこの扉の格子窓だけ……  蒸し焼きか燻製か窒息死か、いずれにしてもピンチ、だな」 「そんな……うぁ……あたしのせいで……」 刻々と近づいてくる最悪の現実に今にも泣いてしまいそうなリューナ。 クロスはそんな彼女の頭にぽん、と軽く手を置いた。 「泣くなよ、君の事べつに恨んじゃいないさ。  君は自分の判断で正しいと思うことをしたんだろ?」 「うぐ……っ……クロス……さん……」 「それに、それが過ちだと気がついた時、素直に心の声に従って行動してる。  そのおかげで俺は君に命を救われたんだから。 4年前のあの時、あの谷でね」 「え……っにゃぁっ」 くしゃっとリューナの髪を撫でて、彼女が言葉どおり猫なで声を出すと クロスは立ち上がってラシェルの元へ近づいた。 「ラシェル、ドア蹴破ってルート確保してみるからちょっとそこら辺あけてくれる?  炎が入ってくるかもしれないからできるだけ子供達と隅っこで、布かなんかでくるまって……」 とにかく今はここを脱出しなければ。 助走をつけるべくラシェルと子供達にそう言うと、 ラシェルは少し考えた風なしぐさを見せると、おもむろに子供達を横へ下がらせ 自身は今自分が立っている場所から僅かにドアの方へ後退する。 「ラシェル……?」 「脱出……できるわよ」 彼女はそう言いながら、床に敷き詰めてあったボロ布を引き剥がし始める。 そして木の板も取り外すと、そこにはクロスも知らない鉄の扉が存在していた。 「うおっ、こんなところに脱出口が? やるなぁ……」 普段家を留守にしがちだが、まさかこんな仕込までしているとは。 今は単純に嫁の用意周到さに感心するばかりだが、 驚かされるのはここで終わりではなかった。 「よし、とにかく脱出しよう。 これどこにつながってるの?」 「ん?……うん……」 どうにも歯切れが悪い。 だが、脱出しようと言ったのは他でもない、彼女だ。 脱出できるのには違いがないのだろうが、この歯切れの悪さはなんだ。 しかしいよいよ煙も部屋の中に入り込んできて、このままでは蒸し焼きか 扉が炎に負けて焼け死ぬか。 とにかく時間がないのでクロスはその扉を開けると、そこにあった急な階段に まずラシェルを先にいかせ、子供達の受け入れ態勢を作る。 3分ほどで子供達15人を無事送り出した頃には部屋もかなり煙たくなっており、 リューナを次に行かせてクロスも続いた。 クロスは自分が梯子をおりはじめるとすぐに扉を中から閉め、 持っていた布で通路の手すりと扉の内側取っ手を縛って 爆風などで開かないようにした後、みんなを追って下層まで行くと ペンライトでは照らしきれない、だが、 遠くは真っ暗ではあったが声の響きからするとそこは想像以上に広い空間が広がっていた。 「ここは……」 気温もだいぶ涼しい。少なくとも地上の火事からは免れたようだが、 「ここは、裏の湖の地下洞窟。  クロス……"あたし"が、上の火をどうにかするから、  そうしたらあんたはリューナちゃんと子供達を安全なところへ連れて行って」 闇を見つめたまま、ラシェルがそんな事を口にした。 クロスは一瞬彼女が言っている言葉の意味がわからなかった。 上の火をどうにかする?クロスに逃げろという? だが、それを実現する為の"力"が、その闇の中に静かに眠っているのに気がついたのは 暗闇に目が慣れてきた頃だった。 それを見て、クロスがこぼした言葉は一言。 「ず……ずりぃ……」 そんな呆然とした響きのクロスの言葉に、ペンライトの明かりの向こうで ラシェルは振り返り少しいたずらっぽい笑みを浮かべると、 子供達一人一人に声をかけて、エプロンとスカートのまま今度はべつの 鉄製の階段を上っていった。 そして、"それ"の入り口を慣れた様子で開くと、その中へと入り、 やがて暗闇の中バイザーアイの輝きと共に、一匹の猛獣が眠りから目覚めた。 "それ"と共に、ラシェルが湖底に続く水面に飛び込んでまもなく、 ズズン……という何かが崩れる音と、メキメキ……という木枠を壊す音が したかと思うと、遠くからラシェルの呼ぶ声が聞こえた。 クロスはリューナ、子供達をつれて 先ほど来た階段を引き返していくと、扉はすでにひしゃげて外の明かりが零れており、 下から思い切り叩き破ると、すでに家は倒壊……というか、ラシェルにより 地下室ごと地上にさらされ、火の手は少なくとも身の回りからは退かされていた。 そして朝焼けの日の光の下、数年ぶりに目の当たりにする彼女の愛機…… ビースト4……コードネーム・アサルトジャガーが、 周囲から見下ろす敵機に睨みを利かせて立っていた。 「……俺には乗るなって言ったのに……ずるいなぁ」 しょんぼりするクロスとは裏腹に、子供達はおおはしゃぎ。 そしてそんなアサルトジャガーのキャノピーが開くと、 コックピットから現れたのはエプロン姿の妻、ラシェル=ヴァインニヒツ。 彼女は鋭いまなざしで朝日の方にいる敵の一団の中でも特異なシルエットを持つそれをにらみつけ、 「……アンドリュー大尉……あんただけは許さない。  ずっとあたし達をだまし続けていた事……あたし達の家を焼いた事……  それになによりあたし達が守ると誓った子供達を危険にさらした事も……!」 というと、ラシェルは単にクロスの好みでつけていた眼鏡を放り捨て、 身にまとっていたエプロンとワンピースを剥ぎ取るように脱ぎ去った。 そして、肩口の破れた古いジャケットを羽織り、咥えていた髪紐で髪の毛を後ろで縛り上げれば いつのまにか履き替えていた軍靴で思い切りキャノピーの端に足をかけると、 彼女……レイチェルはアンドリューに向かって怒りをあらわに叫んだ。 「さあ、トランを返しな!そうしたら命だけは助けてやる!」 「わー……ラシェルってば男らしい……」 「あれ、ママが乗ってるの?」 「すごい!かっけー!」 もはやどうツッコんでもツッコみたりない。 一方で子供達は、ラシェルの違う一面に驚くことなく喝采をあげていたが それを黙ってみていたアンドリューの機体が、ゆっくりとレイチェルの前に下りてくる。 そこにいたのは、かつての彼の機体……ゲシュペンストMkU量産型をベースに改造された シルバリオではなく、さらにその進化系のように思える機体で、 「げ……なんだあの魔改造マシンは」 ゲシュペンスト……恐らく検討試作中といわれたMk−Vをベースに、 テスラドライブ、近距離用にスクエアクレイモア、Gインパクトステーク、 遠距離用にツインビームキャノンとオクスタンランチャーを装備したトンデモ機。 確かに遠近バランスの取れたシルバリオを踏襲してるともいえないこともないが、 いささかパワー&ストロングに傾きすぎた下品な仕上がりといえなくも無い。 とはいえ強力な機体であるのは想像に難しくなく、加えてアンドリューの部下が20、 ガーリオンや量産型ヒュッケバインMk−U、量産型ビルトシュバインなど 周囲を取り囲んでいた。 「フッ……出てきたのはビースト4だけか。  ここまで……お前達の守ろうとしている子供が待つ、このゴルドレオンまでたどりつけるかな?」 そういうのはアンドリュー。 そしてその機体の持つオクスタンランチャーの先端には、ロープで何かがぶら下げられていた。 「っ!!!  トラン!!!」 そこにいたのは他でもない、さらわれ気を失ったトランがぶら下げられている。 レイチェルが絶叫にも似た声を上げると 人質ではあるだろうが戦いをやめさせるつもりはないのか、 挑発でもするようにレイチェルに手招きすると、そのまま左手を上げて布陣を展開させる。 この機体構成はは、最悪クロスたちが機体をもって抵抗する事も想定していたのだろう。 そしてさっさと脱出してしまわなかったのも、口封じを確実に行う為。 確かにゲイリーよりは念が入ってる上にそつがない。 一対多数、そんな中戦闘が始まってしまった。 「はぁっ!!」 レイチェルのアサルトジャガーがまず狙いをつけたのは量産型ビルトシュバイン。 左手のサークルザンバーがうなりを上げ光の輪でアサルトジャガーを迎撃しようと身構える。 先制のアサルトジャガー、右のプラズマクローが振り上げられると、 敵の量産型ビルトシュバインはサークルザンバーでそれを切り払い、 右手のプラズマカッターで反撃をしてくるところを今度はレイチェルは左のプラズマクローで 右肘を貫き、反撃を挫いた。 「このまま……」 相手がひるんだその一瞬、こう着状態だった右手を翻し相手の手をつかんだレイチェルのアサルトジャガーが そのまま相手を引き倒して上のポジションを取ると、振りかぶった左腕を振り下ろした。 「貰った!」 外道に遠慮なし。 胸部の中枢部を貫く左のクローに、敵は活動を停止する。 だが敵は一人じゃない。 背後から接近していたガーリオンに気がついたクロスが声を上げようとすると、 「ラシェ……」 「ママ!後ろ!!」 「よけてー!!」 「!!」 子供達の高い声の方が耳に届くのだろう。即座に音を拾ったレイチェルは背後からアサルトブレードをまっすぐにつきたてようと 加速していたガーリオンを背を向けたまま宙返りで避け、背後に降り立つと今度はガーリオンの背中目掛けて突っ込む。 だが、振りかぶったクローがその背をとらえようとするものの相手はテスラドライブ搭載機。 バックを取られたことで即加速、距離をとりレイチェルの攻撃は空を切った。 「あぁっ!惜しい……!」 「空を飛べるからって……!」 それでもレイチェルはあきらめない。 両肩のマシンキャノンが展開し、無数の銃弾がガーリオンの背中に浴びせられると それは両肩のテスラドライブに着弾、 ブーストも中断し、ガーリオンはバランスを崩して地面に着地する。 となれば、そこは獣の狩場。 次の瞬間には猛獣のごとく突撃するアサルトジャガーがその首を撥ねていた。 「次……!ぐっ!!」 体を起こしかけたレイチェルの機体を、砲弾が掠める。 とっさに射線に対し身構えたレイチェルは、上空から狙いを定める3機の量産型ヒュッケバインMk−Uをにらみつけるが、 内蔵武器では中近距離での戦闘を得意とするはそれに対抗する術はない。 同様の射程の武器を持てば話は別だが、そこまでは用意できていなかったのだろう。 2機を撃破したところで距離を取る戦法に切り替えられ、レイチェルは絶体絶命のピンチを迎えてしまった。 「捕獲してあわよくば機体を頂こうと思ったが……なるほど、腕はなまっていないようだな。カルヴィン少尉」 「はっ……見くびらないで欲しいわね!」 現役時代を髣髴とさせる動きに、あえてかつての名前で呼ぶアンドリューに対して 不敵な笑みを浮かべるレイチェル。 だが実際問題空中の敵に対処できないのは事実で、追い詰められているのもまた現実だった。 それを見てクロスも、 「こりゃラシェル一人じゃきついな……くそ、  機体を置いてきたのがあだになった……、ラシェル!どいつか一機無傷で落としてくれ!俺も……」 クロスはリモートコントロールで機体を呼び寄せようとするが、 鬼嫁に今もケーニヒスティーゲルに乗っている事がばれるのも怖かったので 近くまで送ってくれた"クライアント"の船に乗せたままだったのだ。 勿論そんなクロスの要求もこの状況下では難しいことだが、 そうでもしないと彼女の援護が出来ない。 クロスがやきもきした気持ちで空を見上げていると、 リューナが携帯端末でしきりに何か操作をしながらクロスに駆け寄った。 「クロスさん!来ました!」 「え……?……この音は……!」 ゴォォ……という何かが飛行する音が上空から響いたかと思うと、 空中にいた量産型ヒュッケバインMk−Uが3機、何かの影が通り過ぎると同時に爆発すると、 三つの影が粉塵をたてて戦場に降り立った。 「ぺっぺっ……な、なんだ……!?」 「あたしの装備で、SOS通信を送りました……!」 「SOS通信……?どこへ、どんな……!大体そんな装備……」 彼女が持っているのは小さな情報端末一つ。 こっちが持っているのと対して信号強度は変わらないはず。 すると、「どこへ?」という問いの答えともいえる、そのSOS通信の相手が 粉塵の中から怒鳴り声を上げた。 「あーもう!緊急の呼び出しで来てみれば……どういう状況よ、これ!?」 「こういう状況だから緊急なんじゃないかな……」 勝気そうな女性の声と、少し気弱そうな男のツッコミが聞こえたかと思うと、 やがて粉塵ははれ、そこには三つの見慣れたシルエットが姿を現す。 「お、おおっ……!タイニーグリフ、リオン・フィンスタリヒト……それに……!」 「デリバってもらいました……!あなたの機体を……!」 同じくヴァールハイトに籍を置く仲間、ミティナ=クルーラルのタイニーグリフ、 ティエル=トリアのリオン・フィンスタリヒト、そして、預けたままだったクロスのケーニヒスティーゲル重装改。 だがクロスも乗っていないのに動いたそれは、クロスに気がついた様子でこちらに近づくと、 コックピットが開いてそこから一人の女性が顔をのぞかせた。 そこにいた女性に、クロスも驚きのあまり声を上げる。 「ラ、ラピス!?」 「クロスさん!乗ってください!」 「無茶するなぁ……だけど、子供達がいるんだ!こいつらをどうにかしないと……!」 「それも、手配しました!」 「へ?」 クロスにそう告げたのはまたもリューナ。 フッと、頭上に大きな影がかかったのに気づいて顔を上げると、 そこにはバレリオン……のようなシルエットの何かが近づいてきていた。 それにはミティナ、ティエルも、驚きを隠せずに 「な、何よあれ!?」 「バレリオン……?でも、ヘッドレールガン……じゃない?  ていうか、でかいコンテナになんてファンシーなネコのマーク……宅配便、じゃないよね?」 近づくそれを見上げていると、その悠々と近づく謎のPTに敵がいっせいに砲撃を始める。 だが、動きは鈍重なものの装甲は相当厚く作っているのだろう、 被弾こそはすれ一つも致命的なダメージはないまま、ミティナたちの守るクロスたちの前に降り立った。 両サイドには強固なシールド、各部に追加装甲、ビッグヘッドレールガンのあるべき場所にはなぜか カメラのレンズのような円柱とそれを保護するためのカバーが備わっている。 頭頂部には大型のレドームがあり、クロガネを探りそこへ応援を送ったのもその探査能力を使ってのことだろう。 どうして彼女がこんなものを持っているのかと言う疑問はあったが、そんな疑問をさえぎる様に 「これが私の装備です!さあ、ストレーリオンの中へ!」 リューナがドアのついたコンテナの扉を開いて叫ぶと、クロスは呆然と"それ"を見上げた。 「な、何これ?」 そんな率直な感想に対して、リューナは声を上げて訴える。 「話は後です!子供達を早く……!信じてもらえないかもしれないですけど……  お詫びをしたいんです、助けたいんです、この子達も、トランも……お願いします……!」 目の端からは涙も零れていた。 突然の味方と、味方?の登場劇に半ば呆然としていたクロスだったが、 彼女の涙に真実を見出すと、フッと笑みを浮かべてまたリューナの頭をなでてやった。 「信じるよ。子供達と、ラピスを頼む……!」 クロスの代わりに機体を降りたラピスと共に子供を預けると、 クロスのその言葉がうれしかったのか、リューナはぱぁっと明るい笑みを浮かべ、 「はい!!」 元気良く返事を返すと、子供達とラピスをストレーリオンと呼ばれたバレリオンのような機体の下部にある コンテナハウスのドアから中へ入れると、 自身はコックピットへと向かうため、コンテナブロックの脇についたはしごから上り始めた。 「……バレリオンなら下部から乗り込めたはずだけどな……」 そんなことを思いながらクロスはラピスの運んでくれた愛機、ケーニヒスティーゲル重装改に乗り込んだ。 機体はすでにあったまっており、残弾・エネルギーも満タン、戦闘準備は万全だ。 「こりゃ針千本は確実……ま、そりゃお互い様か。  だったら、毒を食らわば皿まで!とことんやろうぜ、相棒!」 クロスの言葉に応じるように第三の獣、ケーニヒスティーゲルが唸り声を上げた。 すると、クロスの背後には同じく背を向けるアサルトジャガー。 そしてこの4年の間に得た新たな仲間であるミティナのタイニーグリフ、ティエルのリオン・フィンスタリヒトも 子供達の乗るリューナのストレーリオンを守るよう配置した。 「クロス!」 レイチェルが通信をつないでくると、そこにいたのはさっきも会ったはずなのにまるで四年前から時が止まっているかのような、 背中を預けあったパートナーの姿。 クロスはそんな彼女の4年ごしの戦いぶりに笑みを返して、 「ラシェル、腕はなまってないみたいだな。安心したよ」 というと、レイチェルは仏頂面になって、それから深いため息。 「……あんた、まだわかってないのね。あたしはレイチェル。また頭吹っ飛ばすよ?」 「ははっ、相変わらずでなおさら安心!じゃあ行こうか、ラシェル」 「ったく……リューナ!援護するから子供達をつれて脱出しなさい!」 何から何まであの時のまま。予定調和なやりとりだったがクロス、そしてレイチェルもそれを楽しんだ様子で笑みを浮かべると やや当時の語調のままリューナに指示を出す。 すると通信の先で無事コックピットに収まったリューナが映像通信に応じると、 そこで大きな叫び声をあげたのは誰あろう、ミティナだった。 「ああっ!?リューナ!?」 「や。お姉ちゃん」 やはり姉妹。 なんとなく似た印象は持っていたが、先ほど本名を聞いてほぼ確信に近いものを得ていた。 リューナがそこにミティナがいることは驚いていないようで、 「ヴァールハイトって組織に移ったって話は聞いてたから、もしかしたら来てくれるかなと思った」 「だからってアンタ、その機体何よ。ていうかなんでこんなところに……!」 「話はあと!援護して、一旦脱出するから!この子動き鈍いうえ今人乗せてるからちゃんと助けてね!」 「ああもう!」 要領が上手く得られなくてミティナは髪をかき乱すと、 それを隙と見て、量産型ヒュッケバインMk−Uが迫り来る。 「ミティナ!」 「!!それであたしの隙を狙ったつもりかぁっ!」 フォトンライフルの光線は射線を読んで構えた左腕シールドではじくと、 そのままシールドについたグリフォンフェイスで相手のボディに強烈な一撃を叩き込んだ。 相手のボディは"く"の字にまがるどころか、そのまま勢いに乗って真っ二つに折れると、 ミティナは上空から狙いをつける敵目掛け飛翔した。 「天を見上げるだけのレオじゃないのよ!」 ウィングを展開しさらに加速したタイニーグリフは右腕のチェーンブレードでガーリオンに斬りかかる。 しかし向こうとてプロの兵士、直線的なミティナの攻撃は見切って避けて、 その背目掛けてバーストレールガンを構えた。 だが…… 「背中を預ける相手がいるのは、クロスだけじゃないの!」 「そーゆーこと!」 ミティナを狙うことで隙が出来たガーリオンを、ティエルのリオン・フィンスタリヒトが 両腕のフィールド発生器を全開にして突撃したブーストドライブで粉砕、 空への道を開くと、そこ目掛けリューナのカスタムバレリオン、ストレーリオンが飛び立つ。 クロスとレイチェルも地上からそれを見上げると、 クロスはゴルドレオン傍に待機する一機の量産型ヒュッケバインMk−Uが ストレーリオン目掛けレクタングルランチャーを構えているのに気がついた。 「させるか!!……くっ!」 クロスは攻撃を中断させるべくミサイルの有効射程まで接近するため加速するが、 それをさえぎるように量産型ビルトシュバインが割り込んでくる。 「リューナ!避けろ!」 クロスは声を上げるが、すでに敵パイロットはストレーリオンのコンテナに狙いを定めていた。 「遅い……!」 アンドリューの言葉と共に敵機の指がレクタングルランチャーのトリガーにかかった……その瞬間、 大きな爆発音が響き渡り、クロスもハッとする。 だが爆発したのはストレーリオンではなく、量産型ヒュッケバインMk−Uの方。 「……!誰だ……!」 狙撃者を先に狙撃し、しとめたのは何者か。 アンドリューも怒気をあらわにしながらそれを探すと、 高性能のレーダーでいち早くそれに気がついたリューナが声を上げた。 「あ……あれはっ……あなたはまさか……!」 「え……?あぁっ!やっと来たの!?」 ミティナもそれに気づくと、少し怒ったような声でその窮地を救ってくれた相手に向かって、 リューナとミティナ二人が同時に呼びかけた。 「ブルーノ様っ!」「眼帯ゴーレム!」 「……なんだかやかましいのが増えてるな」 二者二様の反応に、ブルーノは疲れたような声で答えると、 今度はティエルに呼びかける。 「……お前そいつの飼い主だろう。ちゃんとリードを引いておけ」 「あはは……ミティナっち、わんこじゃないからリードはちょっと……」 ティエルに一言文句を言ったブルーノは次にクロスとレイチェルに呼びかける。 「……懐かしい組み合わせだな」 「オヤジさん……助かったよ」 「懐かしの顔そろい踏み……って感じかな」 「ああ……」 クロスのそんな言葉に、ブルーノは上空を見上げ 今自分が狙撃した相手……部分部分に金色の装飾を施したゲシュペンストMk−Vカスタム・ゴルドレオンを見据え 「そうだな」 そこに乗るアンドリューをにらみつけそう言った。 そして深くは追求せず、リューナのほうを向くと 「そこに子供らが乗ってるんだな」 確認するように言い、通信画面とはいえ真正面から見られ言葉をかけられたリューナは緊張してか これまでになく肩を強張らせて 「は、はい!すごい……本物だぁ……」 クロスの昔話を聞いてすっかりファンになったのだろうか。いたく感動のご様子だ。 するとブルーノもそんな彼女の様子に無害であると判断したのだろう。 「……見たところ装甲は厚そうだ。お前が何者かは知らんが、クロスが任せているということは  味方なんだろう。子供達は任せた。  背中を狙う敵は、俺達で落としてやる。 戦いが終わるまで安全なところに避難していろ」 「はい!ブルーノ様!」 二つ返事で了解した。 と、そんなやり取りを見て、彼女の姉ミティナが割り込んでくる。 「ちょ、ちょっとあんた!様って何よ様って!こんなゴーレム相手に……サブイボわくわ!」 「お姉ちゃん!失礼な事言わないで!怒るよ!」 「んが……」 「……ブルーノ様、ラピスさんと子供達は私が責任もって守ります!  ただ、あの敵隊長機……トラン君を人質にとってます!助けてあげてください……!」 すっかりブルーノの男気にほれ込んだリューナに、姉とはいえミティナの声はまったく届かず、 またそのリューナの言葉にブルーノも、 「……わかった」 一言、そう答えゴルドレオンに向き直り、 そんな男の背中に向けリューナは、かつて彼が守ってきた子らに危険を及ぼしてしまったこと。 それについて、涙を浮かべつつ、素直に謝った。 「ごめんなさい……こうなったのも私のせいで……」 「……過ぎた事についてとやかく言うつもりはないが、過ちを認めたなら、それでいい。  あがないは、今自分が出来ること、自身の行動で示して見せろ」 リューナの謝意に対してブルーノはそう言葉をかけてやると それ以上は口にせず再びストレーリオンに接近を試みるガーリオン目掛けて 砲撃戦用カノーネ・アルムの大型カノン砲を発射。 華奢なガーリオンは一撃で撃破されるも、砲撃の隙を突いて地上を滑走してきた量産型ビルトシュバインが迫る。 「……!」 次弾装填は間に合わない。ブルーノのドゥンケル・ゲシュタルトの左肩をサークルザンバーが切り裂くが、 直撃は避けた形のブルーノはその重たい機体を巧みに操り、距離をとる。 だが今度は空中から量産型ヒュッケバインMk−Uがレクタングルランチャーでドゥンケル・ゲシュタルトの足元を撃ち抜き 逃げ場を奪っていく。 「やれやれ……俺との戦い方はレクチャーしてあるか」 相手はアンドリュー。無理もないことだが思わぬ苦戦にブルーノはつぶやくと 次の瞬間、地上の量産型ビルトシュバインの胸部が盛り上がり、直後後ろから爪が貫通すると 同じく上空の量産型ヒュッケバインMk−Uは高速回転する何かの飛来に反応しきれず真っ二つにされ、 それらを穿ったそれぞれが機体から離れると同時に爆発、 ブルーノを狙った敵はほぼ同時に撃破された。 「ま……だからこそ仲間がいるわけだけどな」 「隻腕の悪魔+猛獣二匹の恐ろしさは、未体験のようね。  もっとも、まだまだ味わってもらわないと困るんだけど……!」 クロス、レイチェルの機体がドゥンケル・ゲシュタルトに並び、 かつて一度は共闘した四人が、今は一人敵としてその場に集まっていた。 するとアンドリューは右手に構えたオクスタンランチャーを突き出し、 三人にその先端に吊り下げられた人質、トランを見せつけ、 「そこまでだ。降伏してもらおう。これ以上、手勢をやられては面白くないんでな」 そう、勧告してきた。 さすがにそれには三人も動きが止まり、 残りの敵に取り掛かろうとしていたミティナ、ティエルもそろって声を上げた。 「き、きたねえっ……」 「ちょっとあんた!恥ずかしいとおもわないわけ!?」 「使えるものは効果的に使う。俺はずっとそうしてきた。  もっとも、使い道がなくなったらどうなるか……わからんがな」 と、左腕の三連マシンキャノンを宙吊りのトランに向けるアンドリュー。 「そいつが死んだら、どうなるかわかっているんだろうな……小僧」 挑発にブルーノの怒りが増す。 するとアンドリューも、 「こいつが仮に死に、その末たとえ俺が死のうと、  ここで旧体制派の指導者の血を引くこの子供が死んだ情報が伝わればゲリラには  それだけで打撃になる。   その為にこの戦いの一部始終は遠距離通信で仲間の下へ送信されている」 「なに……!」 「生きて連れ帰ればそれはそれでよし。そのほうが手間が省けるからな。  さあ、どうする?傭兵諸君」 すでに勝ち誇った笑みで今一度クロスたちに呼びかけた。 確かにここで無理をしてもアンドリューに目的を達成させてしまうばかりか トランの命を失ってしまうことになる。 それだけは避けねばならない。 とはいえ、ここで殺されてはトランを助ける事が永遠に出来なくなってしまう。 すでに盤面は終盤、起死回生を狙うにはもう一枚ジョーカーが必要だ。 だが、他の味方が来てくれれば可能性こそあるが、現時点でそんな手札は……ない。 と、クロスがスロットルレバーを握る手に込める力を緩めた、その瞬間、 超高速で接近する何かにいち早く気づいたのは、あきらめかけ視線を落としたクロスだった。 「ブースト全開……ブレイクフィールドカット!!」 光の矢となって突っ込んできた何かが、一瞬で光を失い そこから飛び出した一つの機体が、ゴルドレオンの眼前をかすめて通り過ぎていく。 突然戦闘エリア外から飛び込んできたその影は、 ゴルドレオンから充分に距離をとると、 クロスたちの上空で滞空、アンドリューの方を向き直った。 「あれは……」 「それに今の声……リューナ!?」 クロス、そしてレイチェルが言うと、その謎の機体から通信が入り、 そこにはやはりリューナの姿があった。 「ストレーリオン……ただいま戻りました!」 「ちょ、ちょっと、あんたさっきのバレリオンもどきはどうしたわけ?」 ミティナがツッコミを入れる。 それも無理は無い。今彼女が通信を発しているのは ガーリオンをベースに両肩にはベースのテスラドライブに大型シールドをかぶせ、 脚部にもテスラドライブを装備したクァッドドライブのカスタム機。 背中にはレドームが装備され、ところどころさっきまでの機体と似た部分はあったものの 明らかに先ほどまでとは違うベースの機体。 それにいつ乗り換えたのかもわからない状態で登場したその機体に注目が集まると、 リューナは 「これも、ストレーリオンなの!  軍から払い下げたガーリオンとバレリオン、それを分離可能にニコイチしたのが  あたしのストレーリオン!」 と、紹介する。 それにはさすがのティエルも苦笑いを浮かべ、 「む、むちゃくちゃだなぁ……」 というと、リューナは頬を膨らませ、 「ちゃんとメリットはあるのよ!  あっちの形態は重装甲と居住性を重視した動く基地、  で、こっちは……」 そこまで言って、両手で包み込むようにして隠していたそれを、両手のひらを広げて みんなの前に披露して見せた。 そう、そこに横たわっていたのは、先ほどまでアンドリューにとらわれていた トランの姿だった。 「な……いつの間に……!」 「この機体、通常のガーリオンと違って両肩だけじゃなく両足にも  テスラドライブつけてるから加速性能はそこいらの機体とはダンチなの。  その分武器を積むキャパシティはほぼなくなっちゃったけど……  だけど、こういうものは持ってるよ」 そう言って今度は腰にマウントしていたAMサイズの拳銃のようなシルエットの 物体をトランをのせる手とは逆の手に取った。 だがそれが銃の類でないのは、その物体の正面から見た時 銃口に当たる部分がレンズとマイクのようなメッシュ状の物体の連結パーツと なっていて、それはレーザーガンというよりはむしろ、カメラに近い印象を覚える。 「カメラガン、戦場カメラマンもするからこういう装備はね。  で、どうするかというと……」 「……!」 リューナはガンカメラをアンドリューに向け、 「ここまでの会話はあなたの通信をハッキングして拾ってる。  その会話と、この映像は、エリア外に退避したストレーリオンのベース側に送られて、  さらにクロガネにも送っちゃってるよ。  これって使いようによっては……そう、連邦軍に渡せば  ラナジスタン新政府が連邦への背信行為を企てているとか、そういう見せ方できるよね?  あ……ついでに、私が地上に出た時からその機体からの遠距離通信は  ジャミングさせてもらってるから、あしからず!」 このやり取りが武器になるのはなにも相手にとってだけではない。 まさにアンドリューがやろうとした脅しを逆にかけてしまうリューナ。 さらには人質救出もこなす大金星を見せ、 クロスも自分には出来ない戦い方をする彼女に、「ひゅう」と口笛を吹いて感嘆しつつ アンドリューの顔に憔悴の色が見えはじめたのに気づき、一歩前に出た。 「隊長……いや、元か。 アンドリュー=ボルコフ大尉殿。  あんたは昔、軍人としての心得に、命の大事さを説いた事があったよな。  けど、今、それを自ら反故にした。  自分から地に落ちたんだ」 「ぐ……」 「あたしたちビーストはね、仲間、家族を大事にするんだ。  それを守る為ならどんな奴とだって戦う。  そして、その相手がそれを踏みにじり、命を弄ぶクズ野郎だったら……  ……あたし達は全力でそいつをぶっ潰す!」 クロス、レイチェルが言い放ち、同様にブルーノ、リューナ、ミティナ、ティエルの 刺すような眼差しがアンドリューに向けられる。 一転、窮地に陥ったアンドリューは押し黙ってしまうが、 不気味な沈黙の後、おもむろにスピーカーから聞こえてきたのはくぐもった笑い声…… 「ふ……ふふ……」 「……何がおかしい」 「からめ手にこだわり過ぎたようだ……。もともとこんな小細工は好みではなかった。  最初からこうしておけばよかったのだ!」 アンドリューのその言葉と共に、カスタムゲシュペンストMk−V・ゴルドレオンが 右手に構えた"槍"、オクスタンランチャーから砲弾を連続発射する。 クロスたちはすかさず散開して、また同時に飛来する敵量産機郡に対し迎撃の姿勢をとった。 「彼我戦力差は1:2……普通ならゲッってところだけど……」 「でも、もっとしんどい戦いは経験してるもんね!」 ミティナ、ティエルは互いの肩越しに顔を見合わせ、 左右両サイドから攻撃を仕掛けてきたガーリオンに対しまずティエルのリオン・フィンスタリヒトが その大きな手甲で本来攻勢防壁となる、ブレイクフィールドを展開し 防御層を厚くする事でバーストレールガンを防ぐ。 初撃を防がれ、旋回し再度攻撃に転じようとするガーリオンだが、 それを逃がすミティナではない。 「逃がすもんですか!」 シールドでもあるグリフォン・フェイスを頭部に接続し、 腕部・脚部を変形、機体が四つんばいになると 神話の獣、グリフォンを模した形態へとタイニーグリフが姿を変え、天空へと飛翔する。 「速度はこっちが上……!」 背中から伸びるウィングが機体の横幅のおよそ三倍に伸び、そこにうっすらとブレイクフィールドを 展開させたタイニーグリフが真後ろからガーリオンを通り過ぎるように駆け抜けると 逃げ遅れたガーリオンは真っ二つになって空中で爆散する。 と、そこで地上のティエルがミティナに接近する量産型ヒュッケバインMk−Uを見て 「ミティナ!後ろ!」 「隙だらけよ!!」 声を上げた瞬間、真下から勢いよく飛び上がってきた何かに貫かれ、 プラズマカッターが振り返ったタイニーグリフの目の前で静止し光を失った。 そしてさらにそれは、突き上げた爪とさらにもう片腕の爪を突っ込み、 力で強引に機体を引き裂いて空中にばら撒き、 やがて重力にしたがって降ちていく。 「あれは、クロスの奥さん?面白いじゃないっ。  ティエル!あれ!」 「あれ?了解!」 窮地を救ってもらう形になったミティナは笑みを浮かべティエルにそう言うと、 ティエルは機体が背負ったそれを指し、ミティナも大きくうなずいて リオン・フィンスタリヒトは背中の荷物を担ぎなおし、空中へ放り投げた。 それと同時にタイニーグリフも空中で人型に戻り、さらにはシールドと背部ユニットを パージすると、ティエルによって空中に放り投げられたそれを掴んで 地響きと共にレイチェルのアサルトジャガーの背後に着地する。 そしてPTサイズのそれが着地する事で発生した土埃が晴れていくと、 そこには四足の獣、大きな牙を持ち目の前の獲物に狙いをつける一匹の獅子の姿があった。 「己の美学を貫くのもありって感じ?タイニーレオ!参上!」 「面白い機体ね……背中預けるよ、可愛いライオンさん!」 「任せなさいって!」 レイチェルの言葉にも素直に応じると、爪と牙で戦う、原始的ではあるが 確実に相手の喉元をとらえる二匹の獣が地上に降りた敵を狩り始める。 それを見たクロスは単独で立つティエルの側に回り、 敵をけん制しながら通信回線をつなぐと、思わずつぶやいてしまう。 「なんか、似てるな……ラシェルとミティナ。  こう、血に飢えた獣的な、凶暴でこうなると手に負えなさそうっていうか……ヒッ」 他の機体へはつないでいない回線でつぶやいたはずだったが、 不意に、ミティナのタイニーレオに噛み付かれ、直後レイチェルのアサルトジャガーに 殴り飛ばされた機体がクロスの目の前を掠め、 タイニーレオの噛み付いた相手に爆薬入りの牙を残して折る技、グレネードファングによって クロスの背後で爆発すると、二人から通信が入った。 「何か……」 「言った?」 「い、いえいえ。頼りになる奥様方だと……」 この二人、確実に狙って即興のコンビネーションを発揮している。 そう確信すると、クロスは思わずリオン・フィンスタリヒトの陰に隠れた。 すると返ってきたのは今度はちょっと違う表情。 「なら、良い」 「だ、誰が奥さんよ!まじめにやんなさいよ!」 それぞれ違う反応を見せ、通信は切られると クロスは思わずなみだ目になりながらティエルに訴える。 「なにあれ、こわい」 「あはは……」 敵よりも怖い味方に思わずティエルも愛想笑いを浮かべるしかないようで、 クロスも立った鳥肌を押さえようと両腕をさすりつつ、敵の警戒に戻ろうとすると 一瞬頭上に陰がかかったことで即座に戦闘モードへ意識が戻る。 「ティエル!退け!」 「っと!!」 散開したその瞬間、二人のいた場所を極太のビームが焼く。 見上げるとそこにはゴルドレオンがオクスタンランチャーを構えており、 さらにアンドリューの機体は両肩のスクエアクレイモアを展開、 眼下のクロスらとさらに広範囲目掛けてベアリング弾の雨を降らせた。 「くっ!!」 「これは受けられない……!」 重装備となり多少機体の小回りに劣るケーニヒスティーゲルはそれを防御する事を選択、 一方ベースはガーリオンで、手甲の装甲は厚いがそれ以外は リオンのパーツもところどころ含まれるリオン・フィンスタリヒトは 避けるほうを選択し、ベアリングの雨から逃れると そこを狙い付けてきたガーリオンのソニックブレイカーで側面から吹き飛ばされてしまう。 「うわあっ!?ぐ……でもまだっ!」 「このぉっ!」 「え!?」 着地の瞬間、なんとか態勢を立て直し ダメージを最小限に抑えたティエルに代わり、 ブレイクフィールド展開状態で飛び蹴りを炸裂させたのはリューナのストレーリオン。 相対速度も手伝い、敵ボディにめり込むほどのキックをお見舞いしたリューナは、 蹴りの反動を使って後ろに飛ぶと宙返りをしてティエルの前に降り立った。 「……ふぅ」 「あ……ありがと……君、ミティナっちの妹だよね」 「……」 「あ……あれ?」 ティエルが礼を言うも、リューナはなにも答えない。 そして一瞥するように一度だけティエルを見ると、無言で再び背を向ける。 クロスもゴルドレオンにビームキャノンでけん制しつつ、二人に近づくと クロスが近づいた瞬間リューナはパァッと明るい表情を見せ近づいた。 「リュンちゃん、トランは……」 「あ……クロスさん!大丈夫です、トラン君は機体に乗せましたから……」 「ああ、でも君の機体も武器らしい武器は無いし危険は危険だよ。  ここは俺達に任せて戦闘行動は回避してくれる?」 「はい!でも、後々の為証拠は取りたいので……距離をとって、様子見ます!」 「ああ、お願い」 彼女とて役に立ちたい気持ちはあるのだろう。 そこは無碍にしたくもないので、彼女なりの妥協案を受け入れてやると クロスの「お願い」にリューナも嬉しそうに笑みを浮かべ、 「はい♪」 ビシッと敬礼をして、ストレーリオンは手足のテスラドライブを駆動させると 一機に戦線を離脱していった。 それを見送って、クロスとティエル、二人に対して明らかに違う対応に 思わず唖然としつつ、 「……ティエル、彼女となんかあったん?」 「いや……とくに……っ!!」 ティエルもそのそっけない態度に心なしか悲しい顔をしているのは気のせいか。 と、その瞬間ティエルの表情が真剣なものになり、クロスの前に出ると 両腕のディバインナックルで防御態勢をとり、そこへ勢い良く金色の獅子が飛び込んできた。 「余裕だな、部外者……!」 「ぐっ……!この武器は……っ!」 アンドリューがつき立てた武器を見て、ティエルが表情をゆがめる。 だが確認できた時すでに遅く、ゴルドレオンの携行武器Gインパクトステークが 鋭い衝撃をティエル機に叩き込んだ。 それによりティエルの最大の武器であり防具である手甲のひとつは討ち貫かれ、 衝撃でバランスを崩したリオン・フィンスタリヒトに止めを刺すべく、 オクスタンランチャーをリオン・フィンスタリヒトのコックピットにつきたてた。 「ティエル!」 「く……!」 「終わりだ……何っ!?」 アンドリューがトリガーを引こうとしたその瞬間、 リオン・フィンスタリヒトは瞬間的に爆発的な加速でバックステップして距離をとったかと思うと、 今度は着地の瞬間ふんばって今度はゴルドレオンに体ごと突っ込んだ。 「このっ……!!」 「ぐっ!?」 瞬間、オクスタンランチャーは中心から二つに折れ、破砕されると アンドリューは火事場のクソ力よろしく土壇場で切り札を切ってきたリオン・フィンスタリヒトと 距離をとった。 一方のティエルは機体ごと不恰好に地面に崩れ落ちると、 「ミティナっち〜……後はよろしく……」 急激な制動でGキャンセラーの威力も弱かったのか、苦しそうにそう言うとコックピットで 気を失ってしまう。 だが次の瞬間、アンドリューから見て崩れ落ちたリオン・フィンスタリヒトの陰から 低い軌道で小柄な獅子が黄金の獅子に襲い掛かった。 「ティエルに何してくれてんのよコラァッ!」 「!!」 それにはアンドリューも反応が間に合わず、右肩アーマーに文字通り噛付かれてしまう。 なんとか振り払おうとプラズマステークにエネルギーをこめるが、 ミティナはそれによる反撃を受ける前に離脱。 反転して着地すると、ティエルを守るように立ちはだかりアンドリューをにらみつける。 アンドリューもそんなミティナを警戒するように、空いた右手でGインパクトステークを持ち変えるが、 クロスから見てそれは愚かな行動だった。 ミティナもニヤリと笑みを浮かべ、 「そんなことしてる場合?」 「何……?……牙が……!」 「時間切れ、Bomb!」 アンドリューもタイニーレオの牙がはずれていること、それが自機の肩アーマーに めり込んだままだという事に気づくが時すでに遅し。 次の瞬間、ミティナの言葉と同時に右腕ごとゴルドレオンの右肩が爆散した。 「ぐぅっ……!!そうか、さっき機体を時間差で爆破したのはこれか……!」 「見誤ったな、相手を」 「!!」 アンドリューの背後にブルーノのドゥンケル・ゲシュタルトが迫る。 とっさに距離をとるが、それはブルーノのけん制。 反対側から距離を詰めていたレイチェルがアンドリューの懐へ飛び込んでいた。 「もらった!!」 「ぬ……甘い……っ!!」 だがアンドリューもさるもの、残った左腕のステークを 上体をひねりながらアサルトジャガーの右爪にからめると、 そのまま腕をひねり、切り裂く武器の為質量では劣るプラズマクローを折ってしまう。 「なっ……!」 「まだだ、これも受けろ!」 至近距離での両肩のツインビームキャノンが とっさにレイチェルも回避運動にうつったもののアサルトジャガーの左肩から先を飲み込んだ。 ワンテンポ遅れ左肩が爆発し、レイチェルは衝撃と共に吹き飛ばされると それをそっとやさしくカバーしたのは他でもない、クロスだった。 「っと……!大丈夫?ラシェル」 「クロス……あたし、マズッちゃった……」 「いや、攻撃は完璧だったさ。 腐っても隊長だっただけの腕はあったってこと。  おまけに機体もあっちが高性能……だから個別にかかっちゃちときびしい」 「でも、あたしの機体は……」 最大かつほぼ唯一といっても良い武器、プラズマクローが両方奪われてしまった。 マシンキャノンでのけん制も、なしのつぶてである事に変わりは無い。 さすがのレイチェルも意気消沈しつつある中、クロスは 口に人差し指を当てて彼女の言葉をさえぎった。 「あんな身軽な相手だ。"荷物"は、預けていくよ」 そして、肩のズィルバーシュナイダー●●●●●●●●●●●の 二本のうちを一振りと、ウェイトとなる両腕のシールドを彼女の機体の前に捨てる。 そして、ズィルバーシュナイダー一本のみ、握り締めると アンドリューの方へ向き直った。 「あんたにゃあれこれ小手先で仕掛けても効果は薄そうだし……  俺はこれ一本で勝負させてもらう」 というと、アンドリューも無言のままプラズマカッターを抜いた。 他の機体はすでにブルーノやミティナらによって撃破され、彼もまた追い詰められている。 ここでクロスを倒せば、という思いからそれを受諾すると 二人の間で緊迫した空気が流れ……そして、 「……はぁっ!」 「ぬぅっ!!」 ケーニヒスティーゲル重装改とゴルドレオンが同時に地面を蹴って飛び出す。 だが同じく重装備であるなか、攻撃が早かったのは実体剣ではないゴルドレオン。 左腕から振りぬいた光の刃はケーニヒスティーゲルのズィルバーシュナイダーを握る 右腕を切り飛ばすと、その勢いのまま首を狙ってくる。 だが、クロスには奥の手があった。 「黙って首は取らせない……っと!」 頭部の角から同じく光の刃が伸びると、頭突きの要領でプラズマカッターに当てに行く。 メインカメラの前で火花が散り、クロスも一時的に視界がふさがれる中で 一時的にゴルドレオンの動きが止まった。と、そこでクロスは声を上げる。 「ラシェル!!」 「!!」 「あぁぁっ!!」 クロスの真後ろから飛びあがったアサルトジャガーがもう一本のズィルバーシュナイダーを 振りかぶり、クロスは蹴りでアンドリューのゴルドレオンと距離をとる。 衝撃でゴルドレオンが引き剥がされると敵がバランスを崩したところへ、 雄叫び……というとまた後が怖いが、レイチェルの叫びと共に アサルトジャガーが魂の一太刀を一気に振り下ろした。 「ぐぅっ……!!!おおっ!!」 袈裟斬りに一撃…… 一瞬時が止まったようにゴルドレオンが沈黙したが、 直後爆発と共にのけぞり、倒れた。 一方で着地したアサルトジャガーはズィルバーシュナイダーを地面に突き立てると クロスのケーニヒスティーゲルを助け起こしてくれて、 二人肩を預けあうように立つと、アンドリューから通信が入った。 「ぐ……まさか、クロスが捨て駒になるとは……な」 「……信じあってるから、ね」 そう答えたのはレイチェル。 クロスも素直な彼女の一言に照れ笑いを浮かべながら、頬をかくと アンドリューははたと思い出したように笑みを浮かべ、 「……そういえば、ゲイリーを倒した時も、似たような事をしていたな」 「ああ……、ま……痛い目を見たり割を食うのはいつも男の役目ってね。  名誉の負傷ってやつさ」 と、ゴルドレオンの攻撃を止めるために右腕と頭部ビームホーン基部のダメージを かつてゲイリーを倒す為に同じくケーニヒスティーゲルの頭部と肩を犠牲にした事を 引き合いに出して笑って見せた。 それを聞いてアンドリューも、 「ふ……ふふ……あの時、奴から情報が漏れる事を恐れるあまり  始末に急ぎすぎてお前達の土壇場のコンビネーションを深く記憶にとどめていなかった。  それが俺の敗因か……」 アラートの鳴り響くコックピットの中で、アンドリューが自嘲気味に笑みを浮かべそう言うと、 「それは違うな」 と、そこへ割り込んできたのはブルーノだった。 ブルーノの言葉にアンドリューはその意味を問うように 「違う……?」 そう反復すると、ブルーノはアンドリューを見て、 それから今度はクロスとレイチェルを見てその問いに答えた。 「お前が俺たちに……いや、この二人に敗れたのは、覚悟が違うからだ」 「俺とこいつらと……違う……?」 「そうだ。 こいつらは、命を守る為の戦いをしていた。  そしてそのためには何が何でも自分が生きなければ始まらない。  ……それはただ己の身可愛さに生き長らえようとするのとは違う。  誰かを守る為の戦い……自分が生きなければ守るものも守れないということ。  その命には、大事なものの命もがかかっているのだ。  ……お前の戦いにあったものは所詮、人の欲、人の業に過ぎん。  命と言う根源、本能のレベルで戦おうとしていたクロスやレイチェルに、  お前が勝てる道理などなかったのだ」 「覚悟……か……」 ブルーノの言葉に、アンドリューは驚くほど穏やかな、 そして何もかも納得して受け入れたような声でそう答えた。 すると倒れたゴルドレオンから爆発が起こり、 通信画面のゴルドレオンの画面も激しいノイズが走り始める。 「おい!隊長!脱出しろ!」 クロスのケーニヒスティーゲルが手を差し伸べようとする。 だが、アンドリューは即座に声を荒げ、 「近づくな!」 と言うと、ノイズだらけの画面の向こうで僅かに笑みを浮かべ、 「……俺はもう、お前達の隊長じゃない。  あと……次の追っ手の事なら……心配するな。  この場所までは……本国には伝えていない」 「なぜ……!?新政府はトランを欲しがってたんじゃないの!?」 レイチェルもそんなアンドリューの答えに困惑しつつたずねる。 クロスもその真意を測りかねていたが、 不意にブルーノがその答えを……、答えとなる言葉を口にする。 「……トランだけが目的だった故、か」 「どういう……こと?」 レイチェルは今度はブルーノのほうを向いてたずねる。 ブルーノは軽くため息をつきながらアンドリューを一瞥し、クロスたちの方を向くと 「……ターゲット以外の被害は最低限……せいぜいお前達家族だけにとどめようとしたのだろう。  味方へ連絡していたら、この辺一体が戦場になっただろうからな。妙なところで律儀な奴だ」 クロスの言葉に無言のままのアンドリュー。 それは肯定の意味もふくめているのだろう。 自嘲気味な笑みを浮かべるアンドリューに、その話を聞いていたティエルが 懸念を口にする。 「でも、いずれ部隊がこの近くで消息を絶ったのがわかれば……」 「それは、我々がその業を引き継ごう」 その瞬間、その場にいない別の男の声が響き それに気づいたクロス達は顔を上げると、 上空から黄金の翼を持つ橙色のAMが降りてくる。 そして通信画面にはクロスたちの雇い主の部下でもある、 元コロニー軍人でありヴァールハイトの旗艦艦長も務める、 シェスター=S=ハインツが映り、 彼のAM、ヴァールグラオベと、やや遅れてやってきた護衛のガーリオンが ゆっくりと大地に降り立ったところで、そんな彼にミティナがいきなり噛付いた。 「ちょっと!大尉!?何を今頃のこのこと!こっちは大変だったのよ!  あの馬鹿京とかイリスとか、カズキとかもよこしなさいよ!戻ってきてるんでしょ!?」 「す、すまん。 規模からするに君たちとクロスで大丈夫だと思ったんだが……  期待通りちゃんと事が収束しているみたいだし……」 「ギリよギリ!がるる……」 タイニーレオがいまにも飛びかかって噛みつかんばかりの勢いで、後ろ足で 地面を蹴るそぶりをする。 さすがにタイニーレオの噛み付きを受けてはヴァールグラオベもひとたまりもないようで シェスターは若干おびえながら、 「すまん……なにせ京やイリスのガーリオンは擬装が外してなくてな……専用機はそろってメンテナンス中だし……  と、そんな事を話している場合じゃなかった」 ふと自分が来た本旨を思い出して、倒れるアンドリューの方を向き直った。 「……アンドリュー大尉、でしたね。  あなたの特務隊は通りがかったこの一帯で我々ヴァールハイトと遭遇し、  撃破されたものとさせていただく……それが我々の頭領の下した判断です。  そうすれば、ここに目的と関係する人、物があり、加えてそれと戦闘になった事が  表ざたになる事は無いでしょう」 「神出鬼没の傭兵集団・ヴァールハイト……宇宙海賊とも義勇の兵士団とも呼ばれる  謎の軍隊か……なるほどそれなら真実は闇に葬られるか」 「時に真実を内に秘めた命がけの願いを預かるのも、真実を冠する我らの務めです。  そしてその結果我らが狙われようとも、それが誰かを守る事につながるのであれば、  その我々の戦いには意味が存在する」 「……それが、お前達の強さか……  ……彼らとて先だっての異星人や謎の勢力との戦いで見え隠れし、そして勝ち残った  ヴァールハイトと事を構えるのは得策とは判断するまい……ぐっ」 シェスターの言葉にアンドリューが安堵のため息を漏らすと同時に、 再度ゴルドレオンから爆発が起き、機関部にも漏電のような火花が散り始めた。 「大尉!あんた……!このまま罪も償わず楽になろうってんじゃないだろうね!?」 レイチェルも甘んじて最期を受け入れようとするアンドリューを思いとどまらせようと声を上げるが、 「どの道生き延びたところで、国には戻れん……。  生きる事で後の憂いとなるのなら、俺はこの最期を受け入れ……  そしてそれはお前達の存在を闇に葬る形となるだろう。 それが俺の贖罪だ」 「っ……!」 「ラシェル……」 クロスはアンドリューが最期に見せる、人を生かす覚悟を受け入れた。 レイチェルの機体をゴルドレオンから離し、皆にも離れる事を促すと、 それを受けアンドリューは僅かに笑みを浮かべ、手元にリモコンのスイッチのようなものを手にした。 そして次の瞬間……、まばゆい光と共にゴルドレオンは自爆、爆散して アンドリューもまたその光の中に消えていった。 「ごめんなさい……!申し訳、ありませんでしたっ……!!」 腰を90度以上も曲げんばかりの勢いで、リューナはクロス、ラシェルに対し頭を下げた。 彼女だって根が悪い子なわけではない……が、いささか性根がまっすぐすぎるのだろう。 そんなまっすぐな心と、一度これと決めたら初志を貫き通す芯の強さが 今回の悲劇を招いたという意味では、彼女もまたアンドリューに唆された被害者と言ってもいい。 そう、少なくとも、子供達は彼女を責めたりなんかしてはいない。 クロスは自分達に必死に謝る彼女を心配そうに見つめ、また 事情は知らないだろうが彼女を許してあげて欲しいというような目ですら見るのだ。 そんな子供達の前で彼女の罪を糾すのは、クロスにはできなかった。 「もういいよ。君だって正しいと思うことをしようとしただけだろ?」 「それはっ……」 勿論そう、と言いたげだが、それを口にしてしまう事で自身の行動を正当化する事を 嫌ったのだろう。 クロスのかけてやる言葉が逆につらそうで、下唇を噛んだままリューナは涙を浮かべ ただただうなだれていた。 するとそんな彼女を見て、いつもの格好に戻ったラシェルが 無言で彼女を自分の胸の中に抱きしめた。 「にゃあっ……」 「トランを……それから、他の子たちも安全なところへ連れてってくれて、  守ってくれてありがとう」 「ラ、ラシェルさん……」 「……人間誰だって過ちは起こす。  問題はそれを知った時、何を信じて、何を行うか……。  あなたは自分の過ちを認め、大事なもの、信じるもののために行動した。それでいいんじゃない?」 ラシェルのかけた言葉は、クロスたちの信条でもあった。 だがそれは強制するわけじゃない。 自分の心で決めなければ、それは真に信じるものではない。 ただクロスもラシェルも、確かにあの時、リューナは 自分達と同じ思いを心に浮かべた。その確信があった。 ……すると、リューナはそのままラシェルの胸に顔をうずめたまま、 しばらく嗚咽をこぼしていた。 彼女が落ち着くころあいを見て、皆が集まってきた。 それはクロスにとっては数日振りの対面であったが ラシェルにとっては一部同窓会のようなものなのだろう、 懐かしの顔が見えると、今の穏やかなラシェルの笑みではなく、 かつてのような快活な笑顔で、同じく駆けてきたラピスとお互い抱き合った。 「ラピス!あなたも来てくれるなんてね」 「久しぶり……!こんな事でまた会うなんて思っても見なかったけれど」 と、ラピスは焼け落ちた家を見て、苦笑いを浮かべながら言うと ラシェルは気にも留めていないというように首を横に振り、 「みんな無事だったんだもの。 家はまた建てれば良いわ」 「クスッ……すっかり強いお母さんね。  ね?ブルーノさん」 振り返ってラピスが同意を求めたのは、同じくクロスとラシェルの過去を知る男ブルーノ。 ブルーノはやれやれというような笑みをこぼしながら、 「強いのは良いが……ガキどもに妙な影響を与えるんじゃないぞ。  何の為に戦争から離したんだか意味がわからなくなる」 そう苦言を呈したがそれは言葉ほどに怒った風ではない。 ラシェルもそれはたしなめられた程度だと理解しており、舌をペロッと出して笑うと 「ま……ね。でもそれはお互い様。クロスだって私に黙って傭兵の仕事してたんだから。  ラピスが時々くれる手紙で教えてくれなかったら今頃、  すっかり旦那にだまされる日々を送っていたわ」 「なっ!じゃあラピスか!筒抜けにしてたのは!」 正直傭兵としての活動は細心の注意を払って家には伝わらないようにしていた。 勿論愛機ケーニヒスティーゲルを駆っての活動はあったが、 きちんとそれが表ざたになりそうなときのアリバイも用意したり、 まあ、確かに今回ラシェルにばれたのは確実にクロス自身のうっかりでもあったが、 内通者がいたのであればそれは情報の防ぎようもない。 「ごめんなさい。 だって、アサルトジャガーの整備もあったし……って、あ……」 「バカ、ラピスっ、それは秘密だって……」 ラシェルはラピスの口をおさえたが、すでにクロスの耳には入っている。 クロスはもはや声を荒げる気力も無く、そもそもよく考えれば この4年稼動していなかったPTがまるでついさっきまで動いていたかのような 自然な動作をしていた事から、何らかの整備がされていたのは確実なのだ。 そしてラシェルにはそんな技能も、また子供達の相手もしながら整備するという時間もないはずだ。 となればあとは答えは限られてくる。 「……整備は、俺がヨーロッパ戦線に流れてきた頃使っていた工房で行った。  お前の重装改と同じく各部パーツは今の新造パーツとほぼ総入れ替えをしているからな。  今の量産型相手に引けをとらなかったろう?」 ブルーノもここぞとばかりにしてやったりといわんばかりの表情。 クロスは思いっきり落胆した。 「ずっこい……ずっこいよ、ラシェル……」 「あはは……ま、お互い様ってことで……」 と、クロスとラシェルがお互い苦笑いを……いや、苦笑いを浮かべて ごまかそうとしていたのはラシェルでもっぱらクロスはがっかりするばかりだったが、 ふとそのとき、そんな様子を外野から見守っていた新しい仲間達が視界に入り、 「ああ、三人もそんな外野で見てないで……紹介するよ」 というと、シェスター、ミティナ、ティエルが ブルーノとラピスの間を割って二人の前に来る。 過去の因縁との戦い……そんな戦いに掛け値なしに加勢してくれた仲間にクロスは、 「うちの嫁、ラシェルだ」 と紹介すると、組織の序列からシェスターが会釈をして 「シェスター=S=ハインツ、ヴァールハイト旗艦艦長を務めています。  ご主人にはいつも力になっていただいています。  今回焼けた家については、我々も再建に協力させていただきたいと思っています」 そう協力を申し出てくれた。 クロスもそれはありがたいとは思ったが、それを甘んじて受けるラシェルでないこともわかる。 ラシェルは少し驚いた様子で、ただ申し訳ないように首を横に振ると 「そんな……あ、ラシェル=ヴァインニヒツ、クロスの妻です。  そんな、これは私達の過去が招いた事です。 その後始末に協力をいただくわけには……」 そう言ったが、シェスターはさらに首を横に振り 「その過去の清算のために、子供達を巻き込む事はありません。  この支援は、あなた達二人にではなく……あの子らの、  やがてはこの世界の未来へつなげる為の協力だと思っていただきたい」 そういわれてしまうと、もうラシェルに断る言葉は見つける事が出来なかった。 深々とシェスターに頭を下げて、それを受け入れた。 するとそんな彼女の目の前に、すっと差し出される別の手。 ラシェルが顔を上げると、ミティナが握手を求めていた。 ミティナはすぐにさっきのアサルトジャガーのパイロットが彼女であると見抜き、 戦いのスタイルも似ている彼女に、笑みを浮かべて握手を求めたのだ。 「よろしく、ミティナ=クルーラルよ。  あなたの戦い方、私好きかも」 「フフ……ありがとう。……あれ?クルーラルって……」 ラシェルも、さっきの戦闘中のどさくさで邂逅した二人のクルーラルの姓の娘、 ふと今改めてそれに気づくと、ミティナも思い出したように リューナを見渡して、子供の輪の中にいるのを見つけると声を上げた。 「ちょっとリューナ!」 姉であるところのミティナの呼びかけに、リューナは あまり気乗りしないような雰囲気をみせつつ召喚に応じると、 二人並ぶとほとんど歳は同じに見えて、体躯は……というと、 どちらかといえばリューナのほうが出るとこ出ているように見える…… 「ちょっと、どこ見くらべてんのよ」 ライオンに噛み付かれそうになる。危ない。 そんなクルーラル姉妹が並ぶと、 姉ミティナがリューナの胸元に指を突きつけ、目をカッと見開いて 「あんた、またそんなまっ金色に髪染めて!  だいたい私にだまっていつのまにあんな……ていうか、何なのよあのバレガーリオンはっ」 「あ、あれ?えっと、軍の払い下げでゲットしたバレリオンとガーリオンを改造して……  バレリオンのビッグヘッドレールガンは超望遠カメラに、コックピットや後方スラスターは  おもいきってとっちゃって、そこにガーリオンのマウントポイントをつけて  ガーリオンがバレリオン部分のコックピット兼スラスターユニットになるようにして……  装備も武器はほとんど無くて、取材用に携行のガンカメラとか 通信用にレドーム、  バレリオンのバックラッチには居住コンテナ付けて……  ね、素敵でしょ?私のストレーリオン」 「きままなにゃんこちゃんの野良ライオンってか……」 「言ってる場合かっ!」 クロスのつぶやきにミティナのツッコミがすかさず飛んでくる。 ミティナは畳み掛けるようにリューナの襟首を掴むと 「聞けばあんた、悪い奴の口車にまんまと乗せられて子供達を危険にさらしたって言うじゃない。  あんた昔っからそう!すぐに人の言う事信じちゃうんだから」 「うぅ……でも、もうそれは悪い事だってわかったし……」 ミティナとは視線を合わせられず、さすがに反省もしているのだろう それ以上の反論はせずしょんぼりとするリューナ。 するとそんな彼女の頭にぽん、とその大きな手を乗せて 軽く撫でてやりながらミティナに声をかけたのは意外にもブルーノだった。 「……その辺にしておいてやるんだな。実際、その娘がいないでも  アンドリューは二人を探り出していただろう。 そしてもっと容赦のない人間を送り込んでいたら、  今頃ガキどももクロスたちの命もなかったかもしれん。  ……むしろ、ここにいたのがリューナ=クルーラル、この娘であった事を幸運に思うんだな」 思わぬ人物からの弁護に、それがよりにもよって身内の弁護であったのだから ミティナはたまらず声を荒げ、 「あ、甘やかさないでよ眼帯ゴーレム!」 「ちょっと!お姉ちゃん!?ブルーノ様に失礼な口利かないで!」 すかさず反応するリューナ。 どうやらクロスの昔話で完全にリューナの中でブルーノは神格化されているらしい。 そんな事は露知らずミティナは鳥肌を浮かべながら 「ぞぞっ……ブルーノ、さまぁ?何なのよそれさっきから!きもい!」 「きもくない!ブルーノ様はねぇ……ブルーノ様は……!」 と、そこで恋する乙女のような眼差しで天を仰いでいた。 その対象は、斜め後ろを見れば思い切り"生"で拝めるのに。 するとそんなノリの彼女を見て、ティエルは思わずクスッと笑みをこぼしながら、 「おもしろい娘だね。ミティナっち。いい子そうだし」 「えぇ?面白い?そっかなぁ……」 そんなティエルの言葉にミティナは納得していないながらも 褒められているのは悪い気がしないのか、やぶさかではないというように 頭をかいて照れ隠しをすると、不意にリューナはじろっとティエルをにらみつけ それまでクロスやブルーノに向けた事のないさめた眼差しで 「あのー……そんな風に上から言われても……  おにーさんさっきやられてた人ですよね?お姉ちゃんとも馴れ馴れしそうで……  お姉ちゃんのなんなんですか?」 「うあ、何って……ねぇ?」 これまでのクロス、ブルーノに対するリスペクトに満ち満ちた態度はどこへやら、 思わずティエルも声が上ずってミティナに助けを求めると ミティナはうんざりした様子で頭を抑えて、 「……そういえば、昔っからあたしとリューナの趣味や好みって真逆だったのよね。  ……よくよく考えれば、多分リューナの好みの箸にも棒にもかからないわ、あんたって」 「あはは……」 男としてはいささか寂しい評価でもある。 そんなミティナの言葉にティエルが苦笑いを浮かべると、ふとその言葉のもう一つの意味に気が付いて、 「あれ?ってことはミティナっちの好みは……」 「かっ……勘違いしないでよね!別に私はあんたが好みのジャストミートだとか、  そういうんじゃなくて、あんたがあんまり言うからしょうがなく……」 ミティナの見事なツンデレ具合にクロスも噴出しそうになってしまう。 とはいえ特大の釣り糸をたらしたのはミティナの方なので フォローするよりも見てる方が面白く、 「まあ、夫婦喧嘩は虎も食わないっていうことで、ご両人はあっちでごゆっくりどうぞ」 ここでまた騒ぎ出されても収拾が付かないので、クロスが退場願うと まだミティナは顔を真っ赤にしながらぎゃーぎゃー言っていたが、シェスターにつれられて 機体の方へと戻っていった。 「お姉ちゃん、昔から趣味悪いんですよね。子供っぽい人って言うか、年下好みなところあるし」 ティエルとミティナは一応同い年だったはずだが。 まあそこを突き詰めて言っても不毛なのであえてスルーをすると、 ブルーノがストレーリオンの足元にいる子供らを見渡してクロスに言う。 「それで、どうするんだ?家は焼けてしまったわけだが……」 「そう、なんだよね。どうしよっか。ラシェル」 クロスは投げられたボールをそのままラシェルに投げ返すと ラシェルは焼け落ちた家の方を見ながら、 「耐火金庫に今回のクロスの儲けは入れたけど……  でもそれが無事でもやっぱりちょっと厳しいわね」 いくら傭兵の危険手当・世界を救った手当てが付いていても 家を建て直す費用と当面の生活費は捻出できない。 ラシェルも困っていると、不意にリューナが腰のバッグをあさり始め、 おもむろに二人の目の前に分厚い紙の封筒を差し出した。 「こ……これっ……!受け取ってください!」 「これ……ひょっとしてお金?  ちょ、ちょっとまちなよ。何で君がお金出す?」 責任感じてというのならさすがにやりすぎだ。 そういうつもりでクロスが言うと、 リューナはお金を差し出して頭を下げたまま 「これ、さっきの人からの今回の潜入の報酬です!  でも結局あの人が言ってた事は嘘で、子供さらいで悪いのは本当はクロスさんたちじゃなく、  本当はあの人たちで……だったらこのお金は、私のところにあったら嘘なんです」 「リューナちゃん……でも、あなたが困るでしょ……?」 「……私、報酬は、ちゃんと頂きました……!」 と、言いながら札束の入った封筒をラシェルとクロスの手をとって押し付けると、 顔を上げたリューナのその表情はとても晴れやかなもので、 「ここでの数日間、ラシェルさんにはよくしてもらったり、  あの子たちと一緒に遊んだりお昼寝したり、  そしてクロスさんのお話を聞かせてもらって感動したり……  おまけに命を救ってもらったばかりか、  人攫いの手伝いなんて、危うく人の道を外してしまうところを助けてもらいました。  私今回の報酬はそれなんだなって、そう思ってます。   だから、私にはこれは不要なものなんです」 と、改めてお金を押し付けられる。 そうまで言われてしまうと、ここでつき返すのは かえって彼女の男気……もとい、女気を無碍にしてしまうものだ。 クロスはラシェルと顔を見合わせ、 「……じゃあ……」 ……クロスの稼ぎやリューナの報酬、ヴァールハイトからの支援もまとまり 家を建て直す算段もそうそうについた事件から数日後の夜、 近所の知人が所有する空き家に、ひとまず移り住む事となったクロス一家。 そこには、もう一人の家族の姿があった。 「もーっ!もう晩御飯だから中入りなさいってばー!」 家の入り口近くで薄暗くなってきた庭に向かって声を上げるのは 誰あろう、リューナだった。 今日もまた子供達の遊び相手となり、そして面倒を買って見てくれる彼女は、 子供達を洗面所へ誘導し手を洗う様指示すると、 一足早くふらつきながら食卓にやってきた。 「ふにゃあ〜……ぢかれだ……」 「お疲れさん、リュン。  ここんとこ張り切りすぎじゃないか?」 あれ以来、リューナはクロスたちの所にとどまっていた。 施設再建へは、ヴァールハイトの出資元への申し掛けで 社会福祉・貢献という観点から資産家からも協力を得る事が出来そうだという シェスターからの報告と、当面の生活費はクロスのこれまでの稼ぎで どうにかなりそうだという目処が付いた。 なので、形だけはリューナのお金は受け取ってはいたものの、 折を見て返そうとクロスとラシェルは考えていた。 それとは別に、ひとまずそれを預かる代わりに、 放浪を続ける彼女に、しばらくこの家にとどまり、この家族の一員にならないかと言った。 勿論"客"ではないので至れり尽くせりな歓迎は出来ないが その代わり彼女が慕った、そして彼女を慕った子供らとの絆が強くなる。 そしてまた旅に出ても、いつでもこの場に戻ってきてもいい、 それがクロスとラシェルが彼女に持ちかけた提案だ。 リューナはその話を聞いて、一も二も無く飛びついた。 「いやー……このうちにまだいさせてくれるってだけでうれしくて……」 「でも、こっちから持ちかけた話だけど……  私たちに負い目を感じてるなら気にしなくて良いのよ」 料理をテーブルに並べながらラシェルが彼女を気遣う。 するとリューナはにっこりと笑みを浮かべ首を横に振るうと 「全然、そういうのじゃないですっ。 私こういう生活憧れてて……  私妹で下の子いないから、弟とか妹とか出来たみたいですっごく楽しいです!  それに……」 「それに?」 含みを持たせるリューナに、クロスとラシェルは顔を見合わせてその言葉の続きを促す。 「まだ、お二人の本当のお子さんに会ってませんから♪  不肖リューナ=クルーラル、無論直接のお手伝いは出来ませんが  お二人が注力できる環境を作れるよう助力にはなりたいと!」 ずいっと乗り出して何を言うのかこの子は。 普段クロス相手であればきつい突っ込みをいれるラシェルも さすがにその彼女の勢いには飲まれて言葉を失う。 対して鼻息荒く目をらんらんと輝かせるリューナ。マジな目をしている。 「じゃ……じゃあ、まあそれは前向きに善処するとして……  そ、そうだ。ラシェル、そういえばあの約束だけど……」 「や、約束?なんだっけ?」 「あ、いや、ほら……次戦ったら針千本飲ますって約束。  あれ、お前も戦ったからノーカン、だよな?」 話をごまかそうとそのネタを振ると、 ラシェルはおもむろに台所に消えて、今晩の夕食の準備だと 出来上がった料理をダイニングに運んできて、そのうち一つの皿から 一つまみ料理を掴んでつまみ食いした。 「あら……そんな気はなくてよ?ん、美味しく揚がった♪」 こんがり狐色に揚がった、鳥か、もしくは"なんらかの魚"のから揚げだろうか、 それを珍しくつまみ食い……試食しつつ意外な言葉がラシェルから返る。 まさか実際針千本飲むはずもない。 約束自体が無理な条件のもとに行われた事だが、ラシェルはそれを履行すると言うのだ。 「おいおい。まさか俺の晩飯は針千本とか言わないよな」 「え、よくわかったわね。召し上がってもらうつもりよ。はりせんぼん」 「ちょ……ま、お前も戦ったろ?アサルトジャガーまで隠して……」 「そうよ。だから……私はちゃんと約束守ったよ」 もぐもぐごくんと食べかけのから揚げを飲み込んで、なんとも理解に苦しむ回答を すると、クロスの横でふとリューナが何かに気づいたように、ふきだしたのに気づく。 「え?」 要領を得ない。 そんなクロスを横目にラシェルとリューナは二人でにやにやして、 そんなこんなで夕食の準備が整うと子供達も集まり、 仮の借家ではあるが、平穏を取り戻したヴァインニヒツ家の団欒の時間が訪れ、 クロスをはじめ一家は、ヴァールハイト食料部から差し入れされたという 河豚に似た淡白な白身の魚のから揚げをおかずに、団欒の一時を迎えた……。 〜Fin〜