Volume.3 Each road and my road
Volume.3 Each road and my road







それから5日後、月の鳴海エンジニア秘密工場にて

スレイプニールの大幅な改修が終わりを向かえ、

背部大型スラスターの増設、演算ユニット、通信ユニットの大幅なアップデート

ロングレンジライフル「グングニール」の装備、

量子通信による遠隔操作ユニット「ヴァルキュリア」の装備など、

エルズでは全実装が困難だった装備を初期構想どおりに盛り込み、

装いも新たに白を基調に染め上げられたスレイプニール・ネオが完成した。

エルズは疲労に包まれながらも、自身の夢の完成を目の前に充実感を感じて

その堂々たる姿を眺めていた。

そして、その夢の形であるスレイプニールは今日からは相棒は親友の愛馬となる。

これまで不甲斐ない主だったことの申し訳なさと、

ようやく本来仕えるべき主へ手渡す事が出来る、その思いで

エルズの胸には万感の思いがこみ上げていた。

その傍らにはこの五日間、殆ど休まず尽力してくれたレベッカが穏やかな寝息を立てている。

ドックでスレイプニール・ネオとレベッカの寝顔を何度か見ながら、

エルズはコックピットからの通信が入ってきたのに気づき通信回線を開く。

そこにはパイロットスーツに身を包んだ一樹の姿があった。

「統合軍に動きがあった例の大規模作戦…ヴァールハイトも宇宙にあがるみたいだ」

「ああ、だが当然妨害があるだろう。狙われやすいのは、打ち上げ時だろうな」

「ヴァールハイトの主力は統合軍本隊にぶつけたい…

 これからそのための支援に向かうよ」

「ああ、神馬スレイプニールは勿論、戦女神ワルキューレ神槍グングニルも全部、主であるお前オーディンの思うがままだ。

 下手なシャトルよりもよっぽど早く地球に着ける」

「ありがとう、それからごめん無茶をさせて…」

一樹の視線がエルズからレベッカに移る。

だがそれには及ばないと、エルズは首を横にふり、

「こいつに謝るのは無茶を通した俺の役目だ。

 気にせずさっさと行け、せっかく夜を徹して仕上げたんだ。

 決戦ラグナロクに遅れたら承知しないぞ」

そう告げてやると、一樹も頷き

上部ゲートが開くのをこちらと向こうで確認すると、

装備を固めたスレイプニール・ネオは、グッと足を屈めた後勢い良くスラスターの噴射と共に

ドックから飛び出していった。

別のモニタに視線を移し、一条の光となって月から離れていくスレイプニール・ネオの姿を眺めて

ようやく任務を果たせたとエルズもホッとして、そのまま気を失うように

レベッカと肩を預けあうようにして意識を混濁の中へと沈めていった。

次に意識が戻った時には、すぐ近くに人の気配があった。

肩にはレベッカとまたぐように毛布がかけられ、丁度それをかけたところの雀と目が合ったのだ。

「あら、起こしてしまいました?」

「あ、ああ、すいません…こんな所で俺…」

「状況はわかっているのですよ。先ずは無事で何よりです♪」

懐の深さを表すような、穏やかな笑みで雀が言うと

エルズはマリアの事を思い出して、再び顔を上げた。

「そうだ、一樹も無事なんです。

 ただ、上層部の事とか決戦に間に合うように合流する為今まで連絡できず…」

「ええ、エルザム少佐を通して事情は私にも。

 ただ丁度月に到着しようとしていた私達のペレグリンからも、スレイプニールが見えて

 事が成ったとわかったのでマリアちゃんには私から伝えておいたのですよ」

すべてお見通し。

よくよく底の深い人だと感心しながら、エルズは頷き

そして不意に圧し掛かる重みを思い出して左肩の方を向く。

雀も同時に彼女の方を見て、クスリと笑って

「ペアルックの眼鏡、お似合いなのですよ」

「…それはこいつが…それに、そういうあれじゃ…」

「でも、あのスレイプニールからはエルズさんの想いだけでも、

 レベッカちゃんの想いだけでもない、二人の想いが込められているように

 見受けられたのですよ。
 
 彼女のがんばり、認めてあげてるんでしょう?」

見透かすような雀の笑み。だがそれ以上は野暮だというのか

こっちが返す言葉を、とりあえず何か出そうと口を開こうとすると

スッと指を口元に当てられ、

「結果は確かに存在します。

 言うべき言葉はちゃんと、彼女の目を見て伝えてあげてほしいのですよ」

とだけ言って、笑顔で手を振りながら雀は

その場を去っていった。

「…かなわないな、あの人には」

絶やさぬ笑顔と軽妙な口調でつかみ所のない雀を

エルズは苦笑いを浮かべて見送る。

そしてそのまま視線を寝息を立てるレベッカに落とし、

ふとその前髪がぱさっと片目を隠すように傾いている事に気づいて

預かっていた桜のピンを胸のポケットから取り出し、そうっと前髪に挟んでやった。

「俺達の想い、か…」

むずかゆくも、どこか心に響く言葉を

言葉と胸の中で反復しながら、エルズはこみ上げる眠気に我慢できず大きなあくびをかき、

再びまどろみの中へと意識を沈めていった。











それから一樹がヴァールハイトに合流したと聞いた後、

エルズはそのままヴァールハイトの支援部隊、雀の元に居残り

改めてクロガネ、シロガネ、ハガネとの補給合流のため準備を始めた頃、

そこで自分と一樹を撃墜した金色の不死鳥と再会した。

再会したといっても監視カメラのモニターごしだったが、

そのパイロット、エルダ=フレイアと名乗るブロンドの女性は

声のトーンこそ戦場で聞こえた低音ではなかったが、間違いなく通信を通じて

聞こえたあのパイロットの声。

休憩に舐めてた甘いはずの飴は、気づけば苦みばしった風に感じていた。

一方でモニタの向こう、直接対峙していない雀はかまわず営業スマイルで応対しており、

その様子をモニターごしにエルズは眺めつつ、雀の動きをうかがっていた。

『それは…敵として、なのですか?』

『あの子は…私の信念をついでくれていると思っていた…。

 私がいなくなっても弱き宇宙の民の為にその力を正しい方向に使うと…

 でも…彼は裏切った。私を、軍を、国を…。だから私は…』

勝手な思い込みだ。それで撃たれたシェスターはたまったものじゃない。

自分の正義を相手に押し付けている、そんな相手パイロットに対して

エルズはふと苛立ちを覚えた。


『彼を…撃ったのですか?』 雀がたずねる。 雀はその"彼"というのがシェスターの事だとわかっているはずだが 見た目からは、彼女の心の迷いを察してやっているようにしか見えない。 もっとも雀の事だ。知っていた所で表情を変えたり、 迷いを見せた彼女を前にそれを糾したりはしないだろう。 ひとまず雀のやりとりに任せようと、そのまま耳を傾けてると ふと気配を感じてエルズは横を向いた。 「やっぱり、エルズさんたちを撃った人ッスか?」 「…ああ」 この機体が搬入されてきた時に、事のあらましをレベッカにも話していた。 レベッカも彼女の仕業によってひどい有様となったスレイプニールと ミシェリオンを見ていた為か、重たい表情を見せていた。 するとモニターの向こうで、不死鳥のパイロットは言葉強めに独白を続ける。 『あれは完全な私闘だった…。信念を掲げていても私にはあの時大儀はなかった。  だけど…許せなかった…!  …でも、彼の愕然とした顔が瞼に焼き付いて、  あれからずっと心が痛い…。願わくば、生きていてほしいと思ってる自分が、  あの時彼を殺そうとした自分とは別のもう一人の自分が、痛いと言ってるみたいな、  そんな感じがずっとして…』 「…迷っているなら、撃たなければいい。  撃ったならそれこそ信念を貫いて凛としているべきだ。  でなければ、撃たれた相手が浮かばれないだろうに」 エルズは相手には聞こえないが、自身の考えをモニタの向こうの彼女にぶつけた。 今の統合軍が正しい道から外れてきている事、本来守るべき信念の為に、シェスターが離反した事も 本心では彼女も感じているはず。…にもかかわらず撃った。 それは気の毒なほどに愚直、いや、引っ込みがつかなくなったとでも言うべきか。 個人的に彼女の言っている事は都合の良い言い訳に聞こえる。 だがエルズがそう思う傍らで、不意にレベッカが言葉をこぼした。 「…なんだか可哀想な人ッス…」 「…可哀想?」 「なんていうか…きっと心に決めた強いものがあると思うんス…  だから、きっとあの人は強い…でも、それが強すぎるから、  いま自分の気持ちの中で揺れ動く気持ちがあってもそれが抑えてしまってるような…」 「っ…」 ふと、その言葉にエルズは最近も似た思いを浮かべた事を思い出す。 それは一樹が任務の為、守らなければいけないもののため、もう一つのかけがえの無いものを 犠牲にとまでは言わないが一時感情を捨て置いた事。 考えすぎだとも思ったが、決して譲らなかった。 それを思い出してエルズは、ふと言葉を返した。 「…だが、こうと決めたらそれを守り抜く……。…一樹や大尉と人種は近いのかもな」 エルズの言葉にレベッカも頷く。 するとモニターの向こうで雀はエルダに慰めの言葉をかけていた。 『私思います。きっとあなたのその思いは、彼に伝わってる事と…』 『そう…なのかしら…でも…』 『けど、あなたのその真っ直ぐさを受け継いだ方なら…  もし生きていたらきっとまた彼自身の信じた道を行くと思うのですよ。  あなたがそれでもまた、この黄金の翼で飛ぼうとするように』 やはり、というか当然雀はエルダの信じるものがシェスターの信じる大事な心と 通じる、同じものであるという事は察しがついていたのだろう。 依頼主と技術者にしては踏み込んだ慰めの言葉だが、 それはエルダの心にも届いているようで、彼女も言葉無くただ雀の言葉に耳を傾けていた。 『けど、彼はきっと自分を撃ったエルダさんの事を恨んではいないでしょう。  あなたもあなた自身の信念を貫いていた事を、きっと知っていたでしょうから。  ただ、やっぱり殿方がそれほどの意地を通したという事は、  時間も経っていたということですし…きっと今そうしている事が  自分の目指したものの為になる、そう信じて戦ってたと思います』 「…」 『きっとあなたと同じくらい悩んで、後悔したり、辛かったり…  …すみません、差し出がましい事でしたね。  申し訳ありません、お客様に向かってこんな事を』 エルズとレベッカ、そしてモニタの向こうでエルダも黙って雀の言葉を聞いていた。 だが、一番最初に雀がふと気づいて頭を下げると エルダもハッとして首を横に振った。 『いや、そんな事は…。  …そうね、あの子が心から信じるだけのものが今の居場所にあるのなら、  私がそれをとやかく言うのは違うわね…』 『きっと彼なりに悩んで、それが良いと思ったからそこにいるのですよ』 『…統合軍を抜けてまで敵になる理由…、  いえ、敵になってまで統合軍を抜けなければいけない理由…か。  ありがとう、ナルミさん…少し、気持ちが落ち着いたわ』 そう答えるエルダの顔からは、ここに来る時あった悩みの色は薄れていた。 お互いに笑顔を交わす雀とエルダ、その二人のやりとりを尻目に エルズはモニタールームをあとにする。 「あ、エルズさんっ」 レベッカも慌てて後ろをついてくる。 エルズはそのままスタッフ用通路をさっきの部屋の前まで歩き、 おもむろにさっきのやりとりを思い出していた。 「…あのパイロットは、自分のした事を悔いていた。  二つの信念の狭間で思いが揺れていた…    きっと正しいものなんてどこにもないんだろう。    俺が判断できるものでもない…  唯一ついえるのは、不器用なんだろうな。 あの女も、シェスター大尉も、一樹の奴も」 「…でもきっと、悪い人じゃないッス…」 エルズの独り言ともいえるつぶやきに、レベッカがしゅんとした顔でつぶやく。 それにはエルズも少なからず同感だと頷き、 「俺も顔も知ったし想いも知った…できる事なら戦いたくはない」 そう言った上で、不意に立ち止まり天井を仰ぎつつ言葉を続けた。 「でも、想いが強すぎるだけ、それだけ長く強くあのパイロットは想いにとらわれる…。  彼女に必要なのは、冷静に、客観的に論じてくれる友人や恋人だ。  もしそれがあれば、本当に守るべきもの、本当に果たすべき何かが見えるはずだ。  それがわかった上で、ああいうやりとりをしてみせる…雀さんは怖いな」 そう苦笑いを浮かべ、扉が開き雀が出てくるのを出迎えた。 レベッカが思い切りお辞儀をして、エルズも軽く会釈をすると、 「わかってたんですよね」 エルダ…いや、本名がなんと言うかはわからないが、シェスターの確執を 演じた彼女の事、あの口ぶりなら当然気づいていただろう事をそうたずねると 雀も頷いて答えた。 「ええ…途中から」 そうニコッと笑って彼の横を通り過ぎると、エルズも腕を頭の後ろで組んだまま 雀の横を歩く。レベッカはその後ろについた。 「雀さんが良いなら、良いんですけどね…。  ここがヴァールハイトの隠れ蓑って知ったらどうなる事やら」 「でも、あの人自身はとても良い人なのですよ」 それは直で話した雀だからこその説得力。 彼女の人物像についてはエルズもそれは同じものを感じ取れた。 だが、そうであった上で尚危険なのは、真っ直ぐすぎる事。 この時間軸での自分の死から、来るべき未来を夢想して かつての部下であったシェスターに過度な期待をかけすぎた事。 それらはエルダと名乗った彼女の不幸でもあり罪でもある。 人の命を左右する引き金を持つ人間としては、相対して恐ろしい部類だと 警戒を緩める事はしない、そういう代わりにエルズは皮肉交じりに答える。 「…見た感じではね。  だけどあの戦闘機に一樹のミシェリオンも大尉のガイストもやられて  スレイプニールも…まあおかげで一樹の元に行く事になって結果オーライだけど…」 「あの人も、そして彼女もやっぱり信念の人なのですよ。  自分の魂に嘘がつけない似たもの同士…」 「けど、それは皮肉にもぶつかり合う…か。鳴海主任はそれでも?」 エルズは雀がシェスターの為に新たな力をくみ上げているのを知っている。 それでもなお、彼女に今一度の対話…つまりは、戦いもやむなしといった態度をとってみせた。 それでもいいのかというエルズの問いに、雀は目をつぶったまま頷き、 「出来る事なら…彼女に今の統合政府の状態を理解してもらいたい…。  私がそう願うのはヴァールハイト側だからでしょうね」 おそらくはミティナのようにはいかないだろう。 ミティナは信念はあってもそれは思想に準じていた。 だが、あの不死鳥の信念はあくまで宇宙に住む人のためにある。 恐らくはそうやすやすと揺らぐものじゃないだろう。 「まあ…理想ですね」 天井を仰ぎながらエルズは言う。 雀もそんな皮肉もわかって言っているので前を向いたまま、 「…決戦は近いそうなのですよ。だからもしそこまでに決着がつかなくて、  この地球圏での戦いに終わりが見えれば…  銃を置いて話が出来るかもしれないです」 「それもまた理想…」 だとおもう、が、そうやってヴァールハイトは戦ってきたんだろう、と言おうとすると 立ち止まった雀は天井を仰ぎながら言葉を割り込ませた。 「理想でも…それが遠い希望でも、やっぱり人が何かをしようとするためには必要なのですよ  そう思いますよね。エルスタッド君も」 「それが信念の人ならなおさら、ということですか」 「そういうことなのですよ」 苦笑い気味にため息をついて呟くエルズに、再度雀は笑みを浮かべて頷き、 そこでエルズはふと二人の会話を見てて思った事を口にした。 「雀さんなら、彼女を止められたと思うんですけどね」 「…仮に出来たとしても、信念は横槍から曲げるべきものではないのですよ。  私と彼女の信念は違うのですから。  …でも、もし彼女と同じ想いを胸に持った人になら、それは叶うのかも。  …話してて思ったんです。  彼女があれほど悩みながらそれでも尚守る想いがある…  それはきっと、彼女もまた誰かの想いに共感して、自身もまたそれに生きようと  強く思ったからなんじゃないかって」 「…」 エルズは素直に驚く。 あれだけの会話で、それがわかったのか。 すると雀はクスリと笑みを浮かべつつ、 「だって、シェスターさんと同じ眼をしてるんですもの。  彼も、あの人の想いを継いだ人…私にはわかるのですよ。  あ、あときっとエルダさんが思いを共感させた人は年上の男の人なのですよ。   多分ぐいぐい引っ張ってくタイプ」 ニコニコ笑いながらプロファイリングの成果を話す雀。 無論確かめる術は無いが、妙な説得力はある。 シェスターが変われたのは、彼にとっての師があの不死鳥のパイロットの他に エルザムというこれもまたカリスマのある男の存在があったから。 理想を持ち、その上で義を重んじる。 大局に囚われない見地はまさしくそこから学んだのだろう。 不死鳥のパイロットにはそれがない。 そこでまた同情に似た気持ちが浮かんだ。 「彼女を変えられるのは、その人か、シェスター大尉、ってことですか」 「そういうこと、なのですよ」 「でも、大尉の言葉は彼女に届きますか?」 「…でも、投げかけなければ届く思いも届かない。ぶつからなければわかる気持ちもわからない。  ちゃんと伝える事で変わる何かもあるんじゃないかって、そうは思いません?    …ううん、変わるものなんて初めからないのかも…なぜなら、    大尉もあの人も、根底に抱く気持ちは同じなのだから、要はそれさえ確かめ合えれば」 「…、」 いくら気持ちが揺らぎつつあるとはいえ、再び思いはすれ違うかもしれない。 それはシェスターにとっても苦難の道だろう。だがそれでもお互い確かめるべき。 そしてそれはきっと二人は成しえるはず、信頼しているといった笑顔を浮かべ、 雀はその場を去っていった。 エルズとレベッカはそれを見送りながら 「…雀さんってすごい人だな」 「すごく色々考えてて、仕事もできて、おまけにテストパイロットも出来るほんとすごい人ッス  私とは真逆ッス…」 苦笑いを浮かべ、自分で言いながらしょんぼりするレベッカ。 だが、エルズはそうじゃない。そういうように首を横に振って ぽん、と彼女の頭を撫でてやる。 「お前はお前の本分で、しっかり仕事をしてるだろ。  自信を持てよ。俺はお前を信頼してるんだから」 「は、はう…褒め殺しはやめて欲しいッス」 小動物のような反応を見せ、真っ赤になってレベッカはうつむく。 改めてこの反応、やはり彼女の気持ちもそうなのだろうか。 当事者としてみると眼が曇りがちだとは理解も出来るが、 先日雀に言われて、ようやく自分の中でもそれがわかってきた。 我ながら鈍い所があるものだと、自嘲気味に笑い、 そして彼女の好意に甘んじて、こちらからは何も言ってやってなかった、 そんな己自身のずるい所に苦い顔を浮かべる。 するとまた、レベッカはそんなエルズの表情を察してこんな事を言うのだ。 「す、すいません。あ…あたし、なんか変な事言ったッスか?」 捨てられた子犬のような眼差し。 心なしか後頭部の両側で縛った髪も元気がないように見える。 そんなレベッカへの自分の思い…エルズは、卑怯な自分と別れを告げるべく、 だまって、おもむろに三歩前に出て振り返り、まっすぐにレベッカを見つめた。 「エルズさん…?」 改まった雰囲気にきょとんとした顔をしてたずねてきた。 向こうはちょっと緊張した様子だったが、こっちは珍しく彼女以上に緊張している。 だが、レベッカの好意に甘えているのは卑怯だと思うし、 自分としても、この気持ちには嘘は無い、そう思っている。 何よりさっきの雀の言葉、投げかけなければ届く思いも届かない。 そして、きっと変わらないものは変わらず、思いが同じであればそれはより強くなる…。 レベッカからは、不器用だったがいくつも想いを受け取った。 であれば、伝えるべき…そう思い、エルズは言葉をかける。 「…レベッカ、そういえば俺…お前に言い忘れていた事がある」 「な、なんッスか?改まって…」 「…スレイプニール…あれが完成できたのはお前のおかげだ」 「そんな…あたしは何にもしてないッス。  ただエルズさんの言うとおりにしてただけで…」 「いや、あの時お前が、俺や一樹の無茶を聞いてくれて、  それに懲戒覚悟で最新の、最高のパーツをそっちの補修に回してくれたおかげだ。  お前がいてくれたから、俺は夢を夢以上の形に出来た。  …ありがとう」 そう、最後に吐いた言葉と共に 彼女をぎゅっと抱きしめる。 「え、あ、ええぇっ…?な、なんで…?」 「すまん…こうされるの…嫌か…?」 「い、嫌だなんてそんなっ…そんな事無いッス…」 突然抱きしめられた事による当惑、それ以外無いというと レベッカはおずおずと、こちらの背にも手を回してきた。 それを確認して、エルズは頭一つ身長の低いレベッカを自身の胸に抱くように、 そして抱いたその手で彼女の髪を撫でてやった。 「は、はう…」 互いの鼓動が感じる。 自分の鼓動とレベッカの鼓動、どちらも高まっている。 その速度は、徐々に上がってすら感じる。 それもそのはず、肝心な言葉はこれから言うのだから。 「…もう一つ、伝える事があるんだ」 「……」 顔も上げず、ただ無言でエルズの胸に顔をうずめるだけ。 だが、沈黙を話を聞く、肯定とうけとると、 エルズは一度深呼吸をして、もう一度抱きしめながらそっと耳元で、 「…月並みかも知れないが……  お前と一緒にいると、気持ちが落ち着く…。  どんな困難の中でも、生きようという気力が生まれる。  …だから、これからも一緒にいてくれるか…?」 互いに目は見えない。 だが、この告白は体を通して、心拍数となってそのお互いの感情の変化は お互いに伝わっていった。 そして、数秒の空白の後、 「…私は逆ッス…」 「逆…?」 エルズはその言葉の意味を図りかねて、一度体を離す。 すると、レベッカは顔を真っ赤にしながらゆっくりと顔を上げて、 僅かに潤んだ眼差しを向けながら、その意味を口にする。それは… 「あたしは、エルズさんといるといっつも胸がドキドキしっぱなしッス…  でも、それが病み付きなんッス。 ずっとドキドキしてたいって思うんス  あたし…、エルズさんの傍にいたいッス…」 それは、肯定の言葉。 エルズはホッとして、抱きしめなおしたい気持ちでいっぱいだったが、 不意に思いのほかレベッカの顔が近かったのに気づいて、 黙ってレベッカの伊達眼鏡を外す。 「えっ…?なんで、眼鏡…」 「俺のを取ってくれ。…邪魔だろ?」 「っ…え、ええっ…」 察してくれたか。 だがわかってしまうと余計手が動かなくなってしまうようだ。 とはいえここは単なる通路。人が来なくなって久しいが、人が通らない場所でもない。 我ながらくさい提案をしてしまったこともあるが、自分も少し恥ずかしくなってきて、 「…早くしろ。人が来ないうちに」 と、そんなムードの無い事を言うと、レベッカも慌ててエルズの眼鏡に手を伸ばした。 「は、はいっ…失礼しますっ…」 レベッカの手により外される眼鏡。 一瞬視界がぼんやりとするが、すぐに目の前のレベッカに焦点があうと 両手をお互いの眼鏡でふさがれたままで、二人共に瞼を閉じて顔を近づけた。 そして… 二人は、互いの口を離した。 通路…警報とアラートランプで赤く染まる世界の中、 エルズの緊急出撃を見送るレベッカに、数ヶ月ぶりに パイロットスーツに身を包んだエルズは、そのまま彼女を抱きしめて、 その耳元へそっとつぶやいた。 「…行ってくる。怖いかもしれないが信じて待っててくれ」 その言葉に、しばらく硬直していたレベッカだったが、 そして静かに、レベッカは震える声でエルズの耳元に言葉を返す。 「…はい。勿論ッス」 「…」 ありがとう、そう言う代わりに、ぽんぽんと レベッカの背と頭に回した手で撫でるようにして、 ピッとその髪を止めていた髪留めを取ると、スッと自分の髪にさした。 「また、お守り、借りてくぞ」 それだけ言って体を離し、ケージへの扉を開いた。 そして彼女の見守る中、エルズはテストパイロット用スーツを身にまとい オレンジの機体、ヴァールグラオベのコックピットへと飛び込む。 かつて不死鳥エルフレア=エメル=シェフィールドの駆るAMイグザリオンにより 大破させられたミシェリオン、それをエルズは来たるべき戦いの為に修理と改良を加え、 そこにさらに、雀がかつて修理したイグザリオン、そのデータをもとに ルシフェリオン・ミシェリオン共通の強化ユニット「インパルス」ユニットの バリエーションとして、そしてそれ自身でもかつての姿同様に戦闘機としての 能力を持つ機体、「Gインパルスフェニックス」通称「イグザリオンΩ」を建造、 自身もその最終調整に携わったガーリオングラオベがウルスでの戦いの中で 大破してから数ヶ月、いつか近いうちに戦いが起こる… 根拠は無いがそんな予感がしていたエルズが、戦場に立っていたみんなに余計な心配を かけまいと、月の鳴海エンジニアリング内で秘密裏に建造していた。 当たらなければそれはそれでいい。また一つ、すばらしい機体を生み出せたと思えば良い。 そう思っていたが、その予感は不幸にも当たってしまう事となる。 今より半日前、地球との通信に奇妙なノイズが走るようになり、 通信が出来なくなった事が、半年前の地球が消えた事件を想像させ、 エルズは雀とレベッカと共に、完成したその機体をヴァールハイト本隊に届けるべく月を出発… 無事大気圏は突破したものの、レーダーも動作に支障をきたすようになり、 降下ポイントは予定より100km以上も離れた洋上になってしまった。 と、そこで空間から染み出すようにして現れたガーリオン、リオンの大群からの 襲撃を受ける事となってしまった。 急ぎ無人機ドローンで迎撃にあたらせるが、時間の問題… となれば、もはや手は一つしかない。 エルズは乗り込んだヴァールグラオベのコックピットで、 雀と、エルズとレベッカと、多くのスタッフの心血の注がれたその機体… その宿った魂を確かめるように、コンソールを一撫でして 起動スイッチをゆっくりと押し込む。 すると緩やかな駆動音と共に、ヴァールグラオベに火が入り、 同時にヴァールグラオベの隣に鎮座するイグザリオンにそっくりのAMから通信が入る。 「急ぎのやっつけじゃなくて、ちゃんとキスする時間ぐらいはあったのですよ?」 「…見てたんですか」 「あら♪ホントにしてたんですね」 嵌められた。 「……緊張感をほぐしてくれてアリガトウゴザイマス」 「どういたしまして、なのですよ」
今更レベッカとの関係を隠すつもりもないが…食えない人だ。 おまけに笑ってる。相変わらず緊張感が無い人だ。 だが、変に慌てふためいているよりそちらの方がいくらか気分が救われる。 逆にこちらはリラックスでき、丁度良い緊張感で久しぶりの実戦に望める気がした。 「出撃と同時にドッキング、最大戦速、最大火力で周囲の敵機を駆逐します。  そちらは大丈夫ですか?」 「イグザリオンΩに搭載した新型のGキャンセラーを試す良い機会ですし♪  それに、どの道あの人のサポートで私は乗るつもりでしたから。  それよりエルズさんのグラオベの方が負荷が高いのですよ。    私は昨日もシミュレーションしましたけど、エルズさん実戦は久しぶりでしょう?」 「かまいません。護衛のドローンも時間の問題でしょうし。  この局面を打開できるのはヴァールグラオベ、そう言ったのは雀さんですよ」 「いざとなれば私がそちらに乗って、イグザリオンはオートでやるつもりでしたが…」 頬に手を…と言っても、ヘルメットはかぶっているのでその上からだが、 あらあらとでも言うような仕草でそう言う雀。 だが彼女の中でいざと言う時エルズがこのコックピットに座るのは織り込み済みだったのだろう。 「でも火器管制がオートだと融通が利かない。  そう言ったのも雀さん、あなたですよ。  じゃじゃ馬はスレイプニールで慣れてるつもりですし、  それに、俺はここで戦う理由がある」 と、視線を待機ルームからこちらを真っ直ぐ見るレベッカに向ける。 それをみてか、雀も微笑みながら頷いた。 「…わかったのですよ。じゃあ、行きましょう」 「…船には指一本触れさせない…!ヴァールグラオベ、発進します!」 「イグザリオンΩ、発進…!」 輸送船のハッチが開き、イグザリオンΩと仰向けのヴァールグラオベが アームの開放と同時に重力にしたがってに放り出される。 それと同時に雀はイグザリオンΩのコックピット内にある回転式のレバーに手を伸ばし、 モードを巡航から合体へと切り替え、エルズは機体のスラスターを吹かして その落下コースにて待ち受けた。そして… 「合体!」 その言葉が合図になって、イグザリオンΩは首の根元に当たる部分から真後ろに折れて、 そこに出現したコネクタがヴァールグラオベの背中にドッキング、 ヴァールグラオベにはイグザリオンのスラスター情報や各火器残弾情報が映し出される。 瞬間、両機のスラスターが火を噴いてヴァールグラオベは海面に立つようにして浮遊、 左手のバックラー、右手の打撃用手甲ガイストナックルの感触を確かめるように両腕を伸ばし、 続いてシャトルから放り出される携行火器バーストレールガン二丁を手に取ると エルズはレーダーを確認した。 「…ドローン全滅、敵機はリオン40機、ガーリオン24機、バレリオン8機、  シーリオンはいないようですね。母艦の影も無い」 「あら、それはよかった。サルベージ困難なら  この機体が撃墜されても鹵獲されないで済むのですよ」 縁起でもない。 というより、一つもその気も無いくせに。 エルズは相手にするよりため息をついて、 「向こうにその気があるとは思えませんけどね。  …この動き、人でもないがマシンでもない…  …いやな気配だな。幽霊みたいな…」 マシンのように統率がきいているわけでもないが、生きた人間のような動きがあるわけでもない ドローンを倒し終わって、生きの良い獲物を探しているようなそんなそぶりを見せる。 エルズが様子を見ていると、雀が何かを見つけた様子で話を切り出した。 「降下して少し通信が回復したのですよ。  どうやら、世界各地のハガネ、クロガネ、シロガネの部隊それぞれが  倒したはずの敵と戦っているようなのですよ。 通信ビーコンも無し」 「本当に亡霊ってやつか…。じゃあ、遠慮はいらないな」 「リオンシリーズ一個中隊…対してこちらはヴァールグラオベ一機のみ。  近くに友軍はいませんねぇ」 言葉ほど悲観した様子は無い。 「・・・それにしても雀さん、落ち着いてますね。  無勢に多勢、もしかして慣れてます?」 「まあ、数万数億天文単位の敵がいるわけじゃありませんしね」 確かにその通りだが例えが突飛だ。 だが落ち着いているのはこちらも同様。  「エルズさんはいかが?多勢に無勢に加え  こっちは輸送艦防衛というウィークポイントもあり。いけます?」 シャトルへ敵を行かせない理由もあれば、押し通して行けない理由も無い。 「いかせませんよ。シャトルの所へは。  それに、こいつを本来の主の元へ届けてやらないと。  悩む抜いた末、共に飛ぶ事を選んだあの不死鳥が浮かばれないでしょう」 「じゃあ、さっさと片付けるとしちゃいましょうか♪」 「了解…ッ!」 ふわっと、体が浮き上がる感覚と共に、 洋上に立っていたヴァールグラオベは、一瞬で最大加速に移行する。 瞬間、すさまじいGが体を襲うが、今の自分には守りたいもの、平和への想いもある。 スロットルレバーを握る手に緩みはなかった。 周囲を取り囲むようにしていたガーリオン、リオン、バレリオンの編隊の 一翼に飛び込むと、周囲の敵めがけ両手に持ったバーストレールガンを乱射する。 「落ちろッ…!!」 敵陣中での両手火器での斉射、スレイプニールでも得意戦術だったそれで まず4機のガーリオンと6機のリオンを倒し、2機のバレリオンの装甲に穴を開けると 二挺のバーストレールガンを腰にマウント、装甲の厚い敵を前に 打撃用モーションをロードし、敵を見据えると頭上から飛び掛った。 「はぁっ!!!」 マニピュレータとしての操作性を維持しつつ、その剛性を打撃に耐えうるまで厚くし、 テスラドライブの持つブレイクフィールドを利用したピンポイントフィールドによる 二重装甲拳ガイストナックルがバレリオンの胴体を真っ二つにするように叩き折ると 爆発寸前の二分された胴体を、眼下のリオンとガーリオンめがけ蹴り飛ばす。 その反動で、もう一機ダメージを受けたバレリオンにむかって 今度は真っ直ぐの拳を突き立て、動きが止まった所で引き抜き距離をとる。 次の瞬間、先ほど残骸を蹴り飛ばしたガーリオン、リオン、そして今拳で貫いた バレリオンが同時に爆発した。 「これで12機!」 初撃で敵全体の1/6。悪くない。 周囲の敵が今の攻撃で狙いを定めてくると、ヴァールグラオベはそれを引き離す加速で 距離をとり、振り向きざまにバーストレールガンを連射。 追ってくるガーリオンを先頭としたリオン小隊は相対速度も手伝い、回避も出来ずに 銃弾の雨をその身に受けた。 「16機!」 カウントを上げさらに撃破を狙おうとしたその時、雀の声が響く。 「7時の方向!熱源!」 「!」 とっさに振り返り、左手のバックラーを構える。 すると二重構造だったバックラーは展開し、体の半分ぐらいを守る大きさのシールドへ変わると そこへ次々とバレリオンの放ったミサイルが着弾した。 激しい爆煙が巻き起こり、やがてミサイルの雨がやむ。 その次の瞬間、煙を貫き払うように二筋のビーム、ツインバスターランチャー火を吐いてバレリオンを貫いた。 敵からすれば煙の中から突然現れた光の槍に反応などできるわけもなく、 バレリオンが爆発するのを見て、さらにその煙の中に身を隠すように飛び込んだ。 「よし…追って来い!」 二機のガーリオンが追撃してくる。 煙で視界が悪い中、広報からバーストレールガンの射撃が襲ってくるが、 そこは狙い通り、 「雀さん!」 「ばっちり、ロックオンしてるのですよ♪」 ドッキング時、イグザリオンΩの首は真後ろを向く。 それはつまり機首に備え付けの荷電粒子砲が背面を向いているという事だ。 エルズがなるべく進行軸をずらさぬよう、敵を真後ろに誘導していた為、 しっかり射角に敵機は納まっている。 それを確認し、エルズは後ろも見ずにトリガーを引き、 発射された粒子の渦はガーリオン二機の半身をえぐり、ワンテンポ遅れて爆散させた。 「これで17!」 「上空からリオン8機!ミサイルコンテナ準備よし、なのですよ」 こちらの要求を求める前に出してくれる。 一流の秘書か執事を得たような感覚をエルズは覚えながら、頷き そして頭上のエリアに向かって広域攻撃をしかけた。 「攻撃後すぐに反対方面の敵を引きつけます!敵にロックされている!」 発射と同時にそう叫ぶと、スラスターがうなりを上げ、 エルズが機体の向きを変えると同時に最大加速でその場を離脱。 背後で大きな爆発が起こりリオンの反応がすべて消えると、 シャトルのすぐ横を通り抜けてシャトルに狙いをつけ発射された ビッグヘッドレールガンの砲弾を右腕のガイストナックルで弾き飛ばし、 同じく狙ってアサルトブレードを振り下ろそうとしていたガーリオンの首から上を 蹴り飛ばし沈黙させる。 「やらせん…!」 そのままガーリオンの腕からアサルトブレードを奪い、狙ってきたバレリオンの砲口目掛け投擲、 激しく回転しながらそれはバレリオンの砲口に突き刺さると、内部から爆発が起こりバレリオンは墜落。 またその倒したガーリオンが右手に持っていたバーストレールガンで 遅れて襲い掛かってきたもう一機のガーリオンの胸部に突き立てると、 0距離でトリガーを引き、それもまた沈黙させた。 「30…!  次は下からか…!」 接近警報が再び鳴り響く。 反応の数は2、狙いの定まりにくいよう交差蛇行しながら飛来するそれを見て、 エルズはウェポンリストを確認する。 すると、通信画面の雀が 「あの手合いを狙い撃つのは面倒です。 いっそ体当たりなんてのも悪くないのですよ」 「殴れと…ああ、いや、もっと良い手がありましたね」 エルズも、ふとその機体に装備されたもう一つの武器を思い出すと、 接近する2機のリオンがちょうど左右に分かれる瞬間を狙って飛び出す。 そして綺麗にその間を抜けると、 すれ違った2機のリオンはいつの間にか空中で3つずつに分れて、爆散した。 ヴァールグラオベのバックパックから伸びる4枚の翼に光るライン。 片翼2つのビームの刃がすれ違いざまに二機のリオンを切り捨てたのだ。 すると、少し離れた隙に敵の反応が自分とは違う方に行くのに気づく。 「シャトルに敵が向かってるのですよ、左右から7機ずつ!」 「分離して確固撃破を!」 「了解♪」 即座の判断で分離と決めると、イグザリオンΩが背部からはずれ、 再び戦闘機の形態となると急加速で敵機の方へと向かっていく。 それを見送り、自身でも今度はミシェリオンの携行武器だったビームウィップを抜き、 リオン4機、ガーリオン3機の部隊めがけ飛び掛った。 本体のみでもテスラドライブを内蔵する為、高速移動はさっきには劣るものの ガーリオンクラスであればおくれをとることはない。 踊るようにすれ違うと、振りぬいた二本のビームウィップによりリオンとガーリオンを真っ二つに。 そのまま緊急制動でビームの収束性を高めると、 ビームソードとなったそれを今度は振り向きざまにガーリオンめがけ放り投げ、 駄目押しにバックラーの裏拳で殴り飛ばした。 あと四機、それに対してはバーストレールガンで牽制を加えると、一旦それを中空へ放り投げ、 相手の動きが止まった所へガイストナックルの2連撃、 たちまちのこりを2機とすると放り投げたバーストレールガンをキャッチして 零距離まで突っ込んでその胸部から頭部に抜けるような角度で連射した。 その動きは、まるで神風のごとく、 敵に関してはまともなリアクションがほぼ取れず、撃破された。だが… 「よし、これで…ッ!ごほっ…!!」 不意にこみ上げる感覚。こらえ切れずに吐き出すと 抑えた手には血がついていた。 激しいGが予想以上に体への負担が大きいのだろう。 そもそも、一番最初にスレイプニールを未完成の形でロールアウトさせたのも、 真のスレイプニール構想では自身の体が耐えられないだろうと思ったからで、 今のように、訓練しているシェスター向けに建造されたこの機体で 最高速の空間機動は自分には無理だと言うのはわかっていた。 だが今はそんな事は言ってられない。 口の端についた血を袖でぬぐい、顔を上げると 通信機からレベッカの声がヴァールグラオベのコックピットに響き渡った。 「上ッス!!エルズさんっっ!!」 「くっ…!」 上からアサルトブレードをつきたててくるガーリオン。 幸い紙一重でよけるが、反撃をしようにも一瞬胸が詰まってタイミングを逸する。 「くそ…!性能がよくてもパイロットがこれじゃあな…!」 本来敵に吐くような言葉を自嘲気味に自分に向かって吐くと、 目の前のガーリオンはそんなエルズをあざ笑うかのように バーストレールガンをヴァールグラオベに向けた…と、その次の瞬間、 金色の影が目の前を通り過ぎたかと思うと、ガーリオンは三分割に断ち切られ、 直後爆発する。 エルズが何が起こったのか、それに気づいた時には 背部にイグザリオンΩ、Gインパルスフェニックスがドッキングしたあとだった。 「あぶないところだったのですよ」 「…すみません、助かりました」 「いえいえ。 それに最初にピンチを救ってくれたのはあの娘ですし♪  さて…敵さん全部こっちに狙いを定めたみたいなのですよ」 「上等…!それならまとめて掃除するまで!」 警報が鳴り響く。 エルズは前方レーダーを表示すると、そこに現れる映る反応全てにロックしていく。 無論イグザリオンΩ側の演算能力もプラスされているので、 最終的には合計26機もの反応が、ヴァールグラオベ到達前にロックされ、そして… 「ツインバスターランチャー、出力最大…トリガーをどうぞっ」 「アイハブコントロール…敵を焼き尽くすっ!!」 エルズがトリガーを引いた次の瞬間、あたりは閃光に包まれた。 そして… 「無茶しすぎッス!はわあああ、口から血がぁっ…」 エルズの最後の攻撃で敵は全滅。 その後現れる事も無かった為、エネルギーの補給はクロガネに到着してから 簡易に済ませる事としてエルズと雀はそのままシェスターの元へと向かった。 その後、機体は迅速な補給と共にシェスターに受け渡され、ソーディアンでの決戦に終止符が打たれると 戦闘終了後のクロガネにてエルズと、その後追いかけてきたレベッカは再会を果たす。 レベッカはエルズに突進ともいえるような勢いで抱きついてくると、 その胸に飛び込んできて早々に襟についた血を見てぼろぼろ泣きながら、 「駄目じゃないッスか!無理しちゃあっ!!」 「いや…その…」
今度は怒り出した。 任務を果たしたエルズを待っていたのは感謝・賞賛ではなく叱責。 辺りでは祝勝ムードが漂う中、互いに眉をハの字にしている面子はそうそうないだろう。 と、そこへ一樹、京、ティエルがやってくる。 「…やあ、エルズ」 「…」 また絶妙なタイミングで現れるものだ。 いや、京のにやついた表情を見る限り狙ってきたのだろう。 泣きじゃくる女の子を抱えたままでは何を言ってもネタにされるのがオチだ。 「…何か、用か」 とりあえず無愛想にたずねると一樹は苦笑いを浮かべて言った。 「あんまり…彼女悲しませちゃ駄目だよ」 「それはお前が…」 「言う事かっ!」 すかさずエルズ、そして京の拳骨付きのツッコミが一樹に畳み掛けられる。 言った瞬間こうなるとわかったのだろう、藪をつついたというような表情で甘んじてそれを受けると、 それを横目にティエルが輪に首を突っ込んで 「いやあ、それにしてもいつの間に…カズッちゃんと京やん知ってたの?」 「俺は知らん。こいつは知ってたみたいだけど」 ティエルの質問に京はクイッと親指を一樹に向け、 一樹は少しだけ答えに困った様子で頭をかいて答えた。 「戦後の各地の紛争を抑える為にここの所忙しかったから、  なかなか月のエルズたちともコンタクト取れなかったし…  本人達のいない前で色々いうのもアレだしさ」 「バッカ、ある事無い事言えよ。そう言うときは」 「無い事言っちゃ駄目だろ…でも、マリアからは結構お似合いって聞いて…」 すかさず京もツッコミを入れ、一樹もそれに答える。 こういうやりとりをみるのも久しぶりだが、 今はとにかく何処かに行けと、空気を読めというオーラ全開で見ていると そこはティエルが気がついて、一瞬ギョッとした様子でこちらを見て二人の方を向いた。 「ふ、二人とも。 お、お邪魔みたいだし席外さない?  …エルズの目が怖いよ」 「う…ご、ごめん」 「クールな奴ほどキレたら怖いぞっと…」 一樹と、珍しく京も気まずそうな表情を浮かべ、踵を返す。 だが、そんな去り際の三人がもう一度だけ振り返り、 「でも、エルズがあの機体…ヴァールグラオベを持ってきてくれて助かったよ」 「最後のおいしい所は大尉と雀さんに持ってかれちまったけどな」 「でも、エルズの登場シーンも相当おいしかったよ。  も少ししゃべっても良かったかもしれないけどさ」 そう、笑みを浮かべて言うと エルズも少し表情を和らげ、 「そう言う余裕のある場でもなかっただろ  またあとで顔を出すよ」 軽く手を振ってそう答え、三人も去っていった。 「相変わらずだな…あいつらも。  …って、どうした?」 顔を胸にうずめたまま、ずっと動かないレベッカ。 良く見ると肩もぶるぶる震えてるようで、 やはり身体的限界を超えてまで戦った事で不安を与えてしまったのだろうか、 気休めでもないだろうが、安心させようと肩を掴んで 「まあ…何はともかくこれでホントに戦いは終わりだ。  細かな紛争はまだ続くかもしれないが…さすがにもう、俺までが出張る程の事は起きないだろ。  もうこんな無茶はしないで済む…だからもうおびえなくても…」 と、そこまで言いかけたところで、バッと顔を上げたレベッカのその頬は 泣いていたというよりもただ照れて赤くなったようで、その口から出た言葉が 「お…お似合いって、神道班長が言ってたッスか…?」 …これだ。 思いのほかの暢気さに一瞬気が遠くなりかけるが、そこで思わず 作業着は業務上おそろいなのはともかく、眼鏡は同型のを使っているからだろう、 等という、デリカシーのないツッコミを言わないよう自制して、 「みたい、だな」 と、あくまで客観的にそういってやると、 どうやら照れて震えていただけのレベッカの頭を、軽く撫でてホッとしながら顔を上げた。 「じゃあ…みんなの機体の修理、手伝うか」 本来の仕事に戻ろう。そう言う風に言うと、 レベッカも笑顔で頷き…かけて、急に首を横に振る。 「はいっ…って、エルズさんは駄目ッス!休むッス!怪我人ッス!」 「口から血ぐらい…ほら、リンゴを噛んだらみたいなもんだよ」 「んなわけないッス!口も洗うッス!歯磨くッス!宿題するッス!!」 「途中からドリフになってるぞ…。まあ、お前の言う通りかもな…。  こんな口じゃキスもできないか」 「き、キッ…」 「冗談、だ」 「〜〜っ!!」 照れから怒りへ、顔を真っ赤にしたレベッカが言葉にならない声を上げてエルズの胸を叩く。 それも、生きているからこその痛み。 絆に命を救われ戦いを生き抜いて、こうして全てが終わったからこそ感じれる感触だ。 友情とは違う、レベッカと出会うまで持たなかった感情。 ギリギリの瀬戸際で、力を与えてくれる絆の力。 成る程これが久しぶりに会った一樹や、ヴァールハイトで出会った シェスター、京、ティエルの火事場のくそ力の源か。 いや…それだけじゃない。 スレイプニールを完成させた時、自分が学生時代からこれまでモチベーションの一つとしていた 最高の機体の完成は遂げてしまった。 実際一樹は自分を遥かに超えるポテンシャルで真のスレイプニールを乗りこなし、 自分の考える最高のマシンは最高の機動を見せてくれた。 その後ヴァールグラオベ等を作る機会はあったが、あくまで自分の技術官としての目的は スレイプニールを一樹に乗りこなしてもらう事のほかには無かった。 そんな中でレベッカという存在と出会った事で、新たな目的が見つかった。 それは頑なに己の仕事を貫き、仲間の命を預かる機体の整備修理に想いを注ぐ事を今一度認識させられた事。 そしてもう一つ、たった一人の守るべき人を得た事。 そのおかげか戦いの最後は自分らしくも無い、感情をむき出しにした戦いを していたものだと自嘲すると共に、久しぶりの実戦ながら、 これまでで最高の戦いをする事が出来た、その理由をくれた彼女に エルズはふと思いついたように、中空を仰ぎながら 「…ありがとうな」 ぽそっとつぶやいた。 レベッカは突然の礼の言葉に驚いて 「はふぁっ?な、なんスか!?突然…」 「え?ああ、いや、なんとなく」 「り、理由を聞かせてもらえないと、どういたしましても言えないッス!」 「本当になんとなくだよ」 正規軍にいた頃は、自身も目的の為、また戦時の緊張感もあり努めてクールに振舞っていたが 戦いも終えた今となってはこのぐだぐだなやりとりも心地良い。 レベッカの頭にぽんと手を置いて撫でてやると、レベッカもそれ以上の答えを 期待できないとわかって、しょんぼりした様子をみせた。 「に、煮え切らないッス…」 「さ、おしゃべりも終わりだ。  俺達メカニックの仕事に戻るぞ。サクラ」 「ひ、人のいる前でその名前は恥ずかしいッスっ!  ていうか、治療!」 「もう治った。ぼやぼやしてると置いていくぞ。サクラ」 半ば無視気味に先を歩くと レベッカもぎゃいのぎゃいの言いながらも、じきに観念してついてくる。 文句も言うが言葉ほどでもなく何処か笑顔を見せながら。 こんなやりとりを続けて半年、これからもきっと続けていくだろう。 不器用な連中に囲まれて、自分もすこし感化されてしまった気がするが ここの空気には、理屈だけじゃない人を惹きつける何か、 任務という括りだけにとらわれない信念がある。 それを肌身で感じた事で、軍を抜けヴァールハイトに来た事に後悔はなかった。 また、技術の進歩と共に見え始めたあらたな構想もある。 それが願わくば戦争の為に使われない事を、そして その時はまた、レベッカや一樹、雀や京、ティエル達仲間と共にあらんことを。 そんな事を考えながらエルズは、傍らのレベッカと歩き出した。
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