クロッシング・ワールド 第二話 若修羅の進撃

第二話 若修羅の進撃

戦闘エリアに接近する軍勢、それにいち早く気づいたのはシェイルフィードで 広域警戒をしていたイーリスだった。 「あれは・・・?」 地上、高台から戦場を見下ろす複数の影に気づきカメラを拡大する。 それが機動兵器の影だとわかったのは拡大したカメラ映像にデータベースが 既知の対象物だと反応したからだ。 「このデータ・・・修羅!?  ライトニング4からナイチンゲール、何かの冗談だと思いたいんだけど、  戦闘エリアに思いも寄らないお客さんだよ!」 「イーリス!?一体何!?」 「データは送ってる、フロレンツに裏取らせて!」 通信に出たアカリにそう告げると、アカリは横目でフロレンツから送られてくるデータを確認する。 そして瞳孔が開くのがこちら側からでもわかるほど、動揺を見せたアカリにイーリスは言葉を続けた。 「さっきまで居なかったんだけど、どういう手品か急に現れた。  っ・・・動くよ!牽制する!」 「ダメ!今のシェイルフィードにはまともな武装は無いでしょうが!」 「っ・・・く・・・そうだった・・・」 元々今回地上戦・基地戦闘を想定しており、今回が慣らしのシェイルフィードにおいては哨戒・警戒目的の装備のため ウェポンラックには牽制用装備すらない。 イーリスは多少不慣れでもなんとかなる自信はあったが、隊長命令でもあったため今回はその指示を呑んだ。 それが裏目に出て悔やむと、その知らせを受けてユウイチロウが割り込んできた。 「セレイル中尉、DCは片付いたが、修羅だと?」 「ああ、あと30秒もすればそっちのレーダー圏に入る!  数は6、カメレオン3とバッファローが2、それからホースヘッド1!」 舌が長く、先に鉄球の付いたそれを振り回す攻撃を得意とする烈級修羅神ボフリィ、通称カメレオン 大きな角と体躯で見た目通り突撃戦法を得意とする烈級修羅神フラウス、通称バッファロー そして修羅の乱でも各地の戦場に現れ、分身や目にも留まらぬ拳の連打など高速戦闘を得意とする修羅神・・・ 「ホースヘッドだと?それってたしか先の乱でも現れた指揮官機じゃないか!」  ・・・キサラギ中尉、周辺の部隊に連絡、救援要請を!相手が修羅で数での不利もなど痛すぎる!」 その名を聞いてナハティガル艦長にして部隊司令リュカが周辺の部隊への参集要請をかけるよう命じる。 アカリもそれは必要と考えたのだろう、すぐに回線を開こうと通信コンソールへ手を伸ばすが、 「了解、けど、インジリスク基地の他の部隊の対修羅戦績・・・あんまり見たくないレベルでしたけど」 「いずれにせよ当面は我々で当たるほかはない。 腕の立つ味方が近くに居ればいいがな・・・。  セレイル中尉は一旦ナハティガルに戻り、戦術支援装備を。  だが接近しすぎるな。その機体のウェポンアームは高速機動に影響しやすい」 「わかってる、慣らしで無茶はしないよ」 イーリスは敬礼をつけくわえてその命令を受けると、舵をナハティガルへと向ける。 眼下に、味方にまっすぐむかっていく敵を見下ろしながら 「・・・そっちこそ無茶するんじゃないよ、みんな・・・」 そう苦みばしった表情で呟き、一時着艦シーケンスへと移った。 その頃地上では・・・ 「これで全員・・・かな。  ユウ大尉!DC兵はこれで全員・・・ユウ大尉・・・?」 投降し地上に出てきたDC残党兵を確認していたスフィールは 南東の方を向いたままの量産型ゲシュペンストMk-II改タイプNに不穏な空気を感じる。 そしてその直後、ユウイチロウからヴィクトールとスフィールの機体へ通信が入る。 モニターにはアカリの顔も映ったナハティガルとの同時通信だった。 「一体何が・・・!レーダーに反応!?」 スフィールが深刻な表情のユウイチロウに状況を確認しようとした まさにその時、機体のもつミドルレンジレーダーに6つの反応が、 そしてそれが既知の存在でかつ友軍でないという情報が画面に映し出される。 「敵だ・・・!恐らくな」 「会敵、各機、警戒して!」 アカリが警告を発し、その敵は戦場へと現れる。 レーダーに映る敵勢力を示す情報に映る文字は・・・修羅。 つい先日ハガネとヒリュウ改がその首魁を倒し、修羅は戦闘をやめこの世界を離れたと聞いたはずの その修羅が、再び現れて戦闘行動を開始したというのだろうか。 戦慄の表情でスフィールがその方角を見ると、 小高い丘の上に逆光で6つの影がこちらを見下ろしているのに気づく。 その先頭にいるのは他の量産型とは違う、タテガミを翻し、甲冑のようなもので各部位を覆う 他より一つ上級の修羅神だとすぐにわかる。 「あれって・・・ライブラリで見た・・・」 「ああ・・・だが、細部が異なる。恐らく別個体・・・別の修羅だろう。警戒しろ二人とも。  DC兵も一度地下に退避させろ!」 「了解!・・・?あれ・・・ヴィっ君・・・?」 修羅の出現、そう聞いてから一言も彼の声を聞いていない。 不穏な空気を感じ彼のガーダイド・ナイトの方を振り返り通信画面を見ると、 ヴィクトールは突然の襲来をした修羅の方を向いたまま、小刻みに震えていた。 「・・・大・・・丈夫・・・?」 「ロンネフェルト少尉・・・!いかん、冷静になれ!」 「えっ?」 ユウイチロウがしまったというような表情になる。 その意味がわからずスフィールが聞き返そうとすると、画面の向こうからようやくヴィクトールの声が聞こえてきた。 「修羅・・・・・・っ!」 「よせ!ヴィクトール!」 とっさにファーストネームで制しようとするもむなしく、 その瞬間ヴィクトールのガーダイド・ナイトはブースト全開で飛び出していた。 「このぉっ!」 「えっ!?ちょっとっ!」 「くっ!」 一人で飛び出すのはまずい。とっさにスフィールとユウイチロウも続き、戦闘は開始された。 最大加速で飛び出したガーダイド・ナイト。元々機動性の高いガーリオンをベースにしている事もあり、 テスラ・ドライブとの融和性も高く最大加速時のスピードはゲシュペンストやヒュッケバインよりも速い。 反応は遅くなかったはずだがスフィールよりも確実に早く相手の懐へ飛び込もうとしていた。 「落ちろぉっ!!」 最大速度のリボルビングランスが、先頭のホースヘッドを捉えた・・・はずだった。 だが貫いたと思われた槍はそのままその場を通り抜け、その後ろにいたフラウスの角を抉り ガーダイド・ナイトは修羅の一団の反対側へと通り抜ける。 「すり抜けた!?」 「いや、見ろ、既に移動している。残像か、あるいは術のたぐいか・・・  キーヴェイル少尉!距離をとって戦い相手を分断しろ。相手からの直撃に気をつけろ」 「は、はい。ユウ大尉は!?」 「ロンネフェルト少尉の援護に回る!」 「りょ、了解!」 スフィールはアイスフォーゲルの両腰にマウントしたニュートロンビームガンを装備し、 パワータイプ、そして鉄球攻撃というなんともアナクロな武器を使ってくる修羅に対して、 近づけさせず、距離を一定に保った戦法をとる。 なるほどバッファローのような機体はともかく相手を突き飛ばす、近接格闘に持ち込むのが専らのようで こちらが方位を変えつつ攻撃するとなかなか反撃の姿勢も取りづらく見える。 これなら、と別の修羅にも狙いをつけようとしたその瞬間、 「っ!!」 不意にメインカメラの正面に、ホースヘッドがアップで映る。 『はっ!』 そして通信からその声が聞こえた次の瞬間、鋭い衝撃がアイスフォーゲルを襲った。 「うわああっ!!」 両手をこちらに向かって押し出すような形・・・発勁のような衝撃を放ったホースヘッド。 スフィールは追撃を逃れるため、倒れ転がったところからすぐさま体勢を立て直し、 両手のニュートロンビームガンを連射モードに切り替えてトリガーを引く。 サブマシンガンのようにビームバレットが相手を襲うが、 弾道を見切るかのごとく、左右に身をかわし再び距離をつめてきた。 修羅は人機一体と聞くが、まさにその通りこちらの想定以上の反応速度で迫ってくる。 とっさに武器をビームカタールソードに持ち帰り、突き出してくる相手の拳を 迎え撃つようにスフィールは刃を振り抜いた。 「くっ・・・のぉっ!!」 ギィッ!という鈍い音が響くと同時に火花が散る。 だがそれは相手の拳を切った音ではなく、剣の腹が何かにこすれた音。 そしてその何か・・・いや、相手の拳はそのまま刃の横を抜けてアイスフォーゲルの肩を打ち抜いた。 「あっ・・・く・・・!!」 慌てて再び距離を取る。 その間相手は立ち止まっていたが、見るとまるで刃につらぬかれたかのように、肩アーマーが鋭くえぐれる。 また敵を見ると見るとその手は手刀といえばいいのか、いわゆる抜き手の状態で振り抜かれている。 「強い・・・!ええと、修羅神アガレス・・・パイロットはアリオンって名乗ってるんだっけ・・・」 スフィールは呼吸を整えつつ独り言のように呟くと、 通信はつながっていたのか、相手の声がスピーカーから聞こえてきた。 『アガレス・・・?アリオン?・・・この世界の修羅の名か?  ・・・名乗るのが遅れていた・・・久方ぶりの闘争で礼を失した』 というと、声が外部音声に切り替わった。そしてそれは機体を通じてナハティガルにも届く。 『我が名は修羅 アルフィン!そして我が修羅神サレオス!  この地の戦士よ、修羅の掟に従い、いざ尋常に勝負!!』 アルフィン、そう若き修羅が己の名と修羅神の名を告げると、オーラとでも言えばいいのか 修羅神サレオスから赤い波動が巻き起こり大気を揺らした。 踏みしめた足下はその波動により抉れ、熱源レーダーでも明らかにその機体の周囲の温度が急上昇している。 「すごいエネルギー・・・・・・!」 実際に戦うのは初めてだったスフィールはゆっくりと構えに映るサレオスを前に ビームカタールソードで迎え撃つ姿勢をすぐさま取る。 対してまだモーションの途中だったサレオスは、ようやく半身をこちらに向けるような体勢で止まると 次の瞬間アイスフォーゲルのカメラいっぱいに映ったのはサレオスの放った拳だった。 「っ!?」 緩慢な動きからの高速機動。 虚を突かれたスフィールだったが、両腕を前に構えてたおかげもあり とっさに両腕を上げてサレオスの拳をビームカタールソード2枚がけで防御する。 だが、それは向こうも予測していたのだろう、ガードが上がった懐を サレオスの馬のようにしなやかで強い脚が蹴り上げる。 「くぅっ!!」 浮き上がる機体。するとそこへすかさずの追撃が入る。 「すぅ・・・魔朧・・・烈火百裂拳!」 両の拳を腰に引き、赤いオーラを集めたそれを一気に解き放つ。 無数の拳の残像が赤い軌跡を描き、炎の拳が浮き上がったアイスフォーゲルを迎え撃った。 「じ、Gウォールっ!!」 だがスフィールもそれはまともに受けてはまずいと直感で理解。 蹴り上げられた衝撃で動きが制限される中なんとか重力斥力場防御装置のスイッチを入れ、 サレオスとの間に力場による防御壁を形成する。 「そんなもの打ち抜いて・・・何っ!?」 それにはアルフィンも正面から応え、よりいっそう力を込めて振りかぶろうとしたその瞬間、 真横からバッファロー型の修羅神フラウスがサレオスの元まで吹っ飛ばされる。 アルフィンは回避に成功するが、直後フラウスの影から飛び出したユウイチロウのゲシュペンストが 左腕プラズマバックラーで死角から襲いかかる。 「受けろジェットマグナムっ!!!」 「ぐっ・・・!うわっ!!」 奇襲をぎりぎりガードされるも、動きの止まったサレオスの懐にもぐりこんだゲシュペンストが 右手で腹部の装甲の隙間をつかみあげ、直後左腕で思い切りサレオスを引くと背負い投げのようにして地面に叩き付けていた。 「くっ・・・やるな・・・だがっ・・・!」 「む・・・!」 敵もそれでやられるわけでもなく、ユウイチロウのゲシュペンストを振り払いながらジャンプして距離をとる。 ユウイチロウの攻撃で救われ、そのやり取りを見ていたスフィールも 隊長機のサイドに立つと再び武器を構えてサレオスを睨みつけた。 「大丈夫か。キーヴェイル少尉」 「あ、ありがとうございます、ユウ大尉。  ・・・っ、ヴィ・・・ヴィクター君」 気づけば、ヴィクトールのガーダイド・ナイトもユウイチロウのゲシュペンストの隣に立っていた。 スフィールが彼の名前を呼ぶのを言いよどんだのは、修羅を目にしてからの彼の様子がおかしかった事。 通信を開いても、普段の彼の得意げな笑みを浮かべる表情ではなく、重く冷たい感情を押し殺したような 暗い表情を見せるだけ。 ユウイチロウもそんな彼に、 「ロンネフェルト少尉、落ち着け。  激高しては勝てる相手にも隙を見せる事になるぞ」 「・・・大尉・・・でも俺は、奴らを許す訳にはいかないんです・・・!  おい!修羅!!名前なんかどうでもいい!俺は貴様らを許さない・・・!仲間の命を奪ったお前達を・・・決して許さない!」 すると、サレオスのアルフィンもそれに応えるように 「・・・死んだのは弱いからだ。 敗北はすなわち死・・・それこそが修羅の掟だ」 と返すと、それはヴィクトールの琴線を刺激した。 ユウイチロウの量産型ゲシュペンストMk-II改タイプNを押しよけて ガーダイド・ナイトが前に出ると、ヴィクトールはリボルビングランスの切っ先をサレオスに向けた。 「貴様らの勝手な理屈を押し付けるな!戦いたいだけの蛮族が・・・!」 「戦いの先にしか得られぬものがある!戦いが俺たちをより高みにいざなうのだ」 「結局その果ても戦いだろうが!戦いは手段だ!目的なんかにするんじゃないっ!!  もういい・・・貴様らに問答しようとしたのがそもそもの間違いだ・・・!  仲間の仇・・・お前はここでその掟とやらに殉じてろ!」 ドンッ!!と一気にスラスターが噴射してガーダイド・ナイトがリボルビングランスで突撃する。 一瞬でサレオスとの距離を詰め、その胴に突き刺さる・・・それを見ていたスフィールもそう思った瞬間、 サレオスが二体に分身してガーダイド・ナイトはその間をすり抜けていた。 「なっ!?」 「魔朧双破輪転・・・はぁぁっ!!」 サレオスの一機がガーダイドナイトの脚をつかみ、慣性による勢いのついていたガーダイド・ナイトは ガクンッと急速なブレーキをかけられ地面に叩き付けられる。すると今度はもう一機が上昇して 地面に突っ伏するガーダイド・ナイトの背中に落下膝蹴りを炸裂させる。 「ぐあっ・・・!な・・・分身・・・だと?」 超高速の残像ではない。2つのサレオスは明らかに異なる動き、機動をしている。 倒れるガーダイド・ナイトを横目にサレオスが再び一つにもどると、アルフィンと共に現れた修羅のうち、 ユウイチロウとヴィクトールに撃墜されなかった残りの2体のボフリィが ガーダイド・ナイトにとどめを刺すべく詰め寄っていく。 「っ!!やらせないっ!」 「む・・・!」 このままではヴィクトールが殺される。 スフィールとユウイチロウの機体が救助するべく飛び出すが、仁王立ちして立ちふさがるのはやはりアルフィンのサレオス。 呼吸を整え気合いを込めたかとおもうと、 「破っ!!!!」 その発声とともに巻き起こる熱風を伴った覇気の壁が二人の突撃を阻む。 「くぅっ・・・!」 「はぁ・・・はぁ・・・諦めろ・・・これも修羅のさだめだ・・・」 さすがに今の一撃は体力を消費したのだろうか、少し呼吸を乱しながらアルフィンが言い、 とどめを刺す、そう指示するべく振り返った・・・その瞬間だった。 「みんな!水中に機体反応だよ!気をつけて!!」 突如イーリスの声が響く。 「反応・・・水中から!?」 「えっ!?」 イーリスのシェイルフィードが検知したさらなる乱入者の知らせにユウイチロウ、スフィールも顔を上げる。 すると、スフィールらからは丁度反対側、岸壁の向こうの黒海から突如水しぶきを上げて何かが飛び出すと、 両腕に何か大きな円状のものをとりつけたPTの影が、ボフリィに襲いかかった。 現れたのは・・・ 「機影からデータ照合・・・量産型ヒュッケバインMk-IIタイプ!」 フロレンツがすぐさま乱入者の機体種別を明らかにする。 そして響く何者かの声。 「サンダースピンエーーッジッッ!」 落雷のような轟音を響かせ、放電をしながら高速回転する腕部のそれはまさかの鋸状延ブレード。 類するとすればビルトシュバインのサークルザンバーの亜種にも見えるが、それよりも特機の色が強いそれが ボフリィの一体を文字通りまっぷたつにすると、しゃがみ込んでガーダイド・ナイトの腕を取って引き起こす。 よく見るとそれは、腕部こそ見た事の無い武装を装備していたが、量産型ヒュッケバインMk-IIのカスタム機で 「味方・・・なのか」 ユウイチロウが状況を判断しかねてそう呟くと その機体からSOUND ONLYで通信が入った。 「先ほどの支援要請は皆さんですね。援護します」 若い女性の声だ。先ほどの攻撃の時の声からは大分落ち着いた印象を受けるが、間違いなく同一人物の声。 すると新たな機体の出現に闘争本能を刺激されたか、アルフィンの修羅神サレオスが襲いかかった。 「危ない!!」 ガーダイド・ナイトを助け起こして隙ができている。 そんな隙を狙われてはひとたまりも無い。スフィールが声を上げるが しかしほぼ同時に、何発もの銃弾が飛び出しかけたアルフィンの修羅神の足下に穴をあけた。 「っ!!」 出足をくじかれアルフィンは立ち止まる。 よく見ると、それは謎の量産型ヒュッケバインMk-IIの背部から射出された有線式ガンポッドとでもいえばいいのか、 有線制御で遠隔操作する砲台が腕の塞がっている本体の代わりに攻撃していた。 「敵を目の前に銃を手放す愚は犯してません。手は塞がってますけどね」 その機体の女性パイロットの声が淡々とアルフィンに対し言い放つ。 すると、 「く・・・うっ・・・!ぐ・・・!!」 突然アルフィンの様子が急に変わったことにその場の誰もが気がついた。 修羅神サレオスも身をこわばらせるような仕草を見せ、通信画面の向こうの若い修羅アルフィンも苦悶の表情を浮かべる。 「く・・・っ・・・時間か・・・」 アルフィンはそう呟くと、それに気づいた様子の残る一機のボフリィが修羅神サレオスの背に手を回す。 そしてまるでカメレオンが保護色を使うように、ボフリィ、そしてサレオスもが景色にとけ込むようにして見えなくなっていった。 「っ・・・!消える・・・!?」 「レーダーからも・・・!」 「そうか、現れた時もこうやって・・・っ!!」 ユウイチロウはそう呟くと、姿が消えた直後の敵の居た場所をめがけマシンガンを撃ち放つ。 だが連射された銃弾はむなしく地面に穴をあけるだけ。 レーダーからも、そして視界からも完全に反応は消失してしまった。 そして訪れる静寂・・・安全が訪れたと判断したのか、謎のヒュッケバインはそっとガーダイド・ナイトを地面へ戻すと踵を返し、 「・・・敵はすべて去ったみたいですね・・・それでは、失礼します」 と去ろうとする。 するとユウイチロウは、 「待ってくれ。官姓名を教えてくれないか」 と呼び止めるが、その相手は一瞬反応するもスラスターの出力を全開にし、飛び立っていった。 「っ・・・セレイル中尉」 「ダメ、すぐにレーダーから消えた。ASRS積んでるみたいだね。  水中に潜んでたのも動いてくれりゃ動体センサーに引っかかったもんだけど・・・。さてはずっと監視されてたか。  でもASRSってことはあれもDC残党・・・?」 ASRS・・・Anti Sensor and Rader Suffia Fieldの略で対感知装置球状フィールド装置を意味する。 要はレーダーに機体を映らなくするステルス装置だが、インスペクター事件の折にノイエDC・シャドウミラーが実戦投入し、 連邦のレーダー網をことごとくかいくぐるなどの成果をあげた。 戦後連邦でも解析が進められていたが、イスルギのテスラドライブ、リオンシリーズ製造ラインのように 連邦に制式に技術提供されたものでもないため、実際に採用したという部隊は聞いた事が無い。 「・・・わからん・・・が、あの武装は気になるな。 見た事は無いが、  それなりに整った研究・開発設備がないと作れそうなものではない」 「ベースがヒュッケバインってことは・・・連邦関係の研究施設?もしかしてテスラ研?」 「問い合わせてみる価値はありそうだが・・・とにかく一度帰投する。  捕虜は今の騒ぎで地下に戻ったが・・・今度は素直に投降に応じてくれると良いが」 イーリスの疑問にユウイチロウはそう答え、足下に視線を落とす。 ・・・その後、ユウイチロウの懸念もよそにDC兵は投降・・・。一度拘束した彼らを人命優先で 彼らの足で一旦逃げる事をさせたことに義理を感じたのだろうか。 以後は極めて殊勝に連行に応じる部隊を連れ、ナハティガルはインジリスク基地へと帰投した・・・。 ーーチベット奥地、魔龍の塔ーー 「っ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」 修羅神の鎮座する堂・・・その一角に膝を折る修羅神サレオスの足下に アルフィンは何とか降り立つ。 だがすぐに柱にもたれかかると、 「アルフィン様!」 「アルフィン様!!」 アルフィンが相当の消耗をして帰ってきた事に心配してか他の修羅達が近づいてくるが、 「良い・・・一時的なものだ・・・っ。  これも・・・俺の力が不足しているせい・・・修羅神に覇気を吸われすぎたためだ」 そう言って助けを振り払う。 すると、前の方から人垣をわけて、師・・・アレイグ・ガクルクスが姿を見せた。 一斉にひれ伏す修羅兵達。 アルフィンも跪こうと膝立ちしようとするが、おろした足とは反対側の足に力が入らず そのままバランスを崩して倒れそうになった。 「っ・・・あ・・・」 「フッ・・・大分消耗したな。 アルフィン」 いつの間にか懐まで入り込んでいた師・アレイグがアルフィンの体を片手で支えていた。 「す・・・すみません、お師匠様・・・すぐに・・・」 無様な姿を見せてしまっている。 それどころか他の修羅にまで 師の一番弟子にあるまじき弱い姿を見せてしまっている事で、アルフィンは すぐ自身の覇気、精神力を見せようと足に力を込めようとする。 だが、それを制したのはアレイグだった。 「無理をするな。 貴様の修羅神サレオスは、貴様の父が扱っていたもの・・・。  神化へは至らなかったとはいえ、その力は我が修羅神ウァサゴが神化する以前にほぼ同等だったほどだ。  うまく制御できねばお前の覇気ではそうなるのは自明の理。  だが、貴様程の覇気でもなければサレオスを歩かせる事すらできまい。  今は休むが良い・・・。だれか、アルフィンを部屋へ運んでやれ」 普段は冷酷であり厳しい師ではあるが、認めるべきところは認める。 それがアルフィンにとっても誇りであり喜びでもあった。 師の賞賛。それに安堵してアルフィンの緊張の糸が一気にほぐれていく。 「すみま・・・せん・・・」 アルフィンはそう言い、意識を混濁の底へと沈めていった。 「・・・よし、部屋へ運び私が調合した香を炊いてやれ。 せめても安らぎになろう」 「ハッ!」 板で作った担架にアルフィンをのせた修羅兵達を見送りそう指示を出すアレイグ。 そして跪くそれ以外の修羅達には 「他の者は修練を続けよ」 と指示を出しその場から散らせた。 再び訪れる沈黙・・・誰もいなくなった修羅神の間で、アレイグはサレオスを見上げしばし黙考をする。 だれも何も言わない空間、薄暗闇の中でぼんやりとサレオスの馬面がアレイグを見下ろすその状況で アレイグはおもむろに口の端に笑みを浮かべると 「フフ・・・アルフィンが大事か?そう睨むな・・・あの程度の闘争ではアルフィンは死にはせんよ。  それに私にとっても可愛い弟子だからな・・・。    もし心配だというのなら、お前が折れれば良い・・・。その時は・・・どうなるかはわかっていようがな」 そう言葉をかけ、低い笑みを浮かべつつ踵を返した。 ーー黒海上空、ナハティガルブリッジーー 「お疲れ」 一言そう言いながらイーリスがブリッジに入ってくる。 そしてその後ろをとてとてとフロレンツもブリッジインし、自らの指定席ではなく オペレーター席の一つに腰を下ろした。 「お疲れイーリス、フーロン。 ヴィクトールの具合はどう?」 アカリは先の戦闘でダメージを負ったヴィクトールの介抱を行った二人に状況を聞く。 イーリスは看護の心得もあり、こういうときに頼もしい。 加えてフロレンツにも補助機能として看護師レベルの知識データと看護助手として必要な技術が 覚え込ませてある。 とはいえ、今頭の上に乗っかっている看護帽は機能のON/OFFには無関係のはずだが。 「軽い脳しんとうってところさね。 少しの間安静にしてれば良くなるよ」 「外傷も無いですし、機体が守ってくれた感じです。  でもガーダイド・ナイトはリボルビングランスの軸に損傷が出ているので主軸の交換作業が必要でした。  機体の方も外装に大きな損傷はなかったんですけど、一応オーレンさんがチェックするって・・・」 「あの槍元々試作品だしね。 いきなりガチンコのインファイトは条件が過酷だったんでしょ」 ましてや相手は修羅。 すべてがそうというわけではないが、格闘を中心とした近接戦闘を得意とする相手が多い。 対してガーリオンは汎用機と呼ばれるカテゴリの中でもとりわけ高機動戦、中遠距離での使い方を得意とする パイロットも少なくない。 中にはシシオウ・ブレードを装備したガーリオンカスタムの姿も報告されているが、 基本的には銃火器による攻撃がスタンダードといえるだろう。 「でもあの坊やにはインファイト適性があるんだろ?」 「どっちかというとそっちってイメージね。ガーダイドはゲシュより汎用よりだけど」 アカリも詳しい事情はしらない。 フロレンツの方を向いても、当然知るわけないと首を横に振り 振り返っても今はナハティガル艦長、リュカは自室に戻って報告書作成任務にいそしんでいる頃。 誰もこの疑問には答えてくれないかと諦めかけた時、不意にブリッジの扉が開いて入ってきたのはオーレンだった。 「ああ、フーちゃん。ここにいたんだ。  なにそれ。ナースの格好?可ー愛い」 「あっ、オーレンさん。 機体チェックおつかれさまですっ。  白衣の天使です!」 ぴょんっと小さくジャンプをしてオーレンを出迎えると、オーレンも顔の前で手を広げ笑顔でハイタッチをかわす。 ちなみに白衣は着てはいない。帽子だけだが誰もツッコまない 「うん、おつかれさま。 やっぱり関節部とか電算区画は損傷らしい損傷はなかったね。  右脚部第3、8、9装甲板、右上腕外側、頭部・・・はもともとこれは追加のヘッドギアだから壊れてなんぼだけど、  ここも割れてるね。 この辺りの交換できれいになりそうだ。 じゃあ・・・お願いできるかな」 オーレンはそう言いポケットからメモリーディスクを取り出してフロレンツに手渡した。 フロレンツもナースキャップを取り、それを恭しく両手で受け取ると、 「わかりましたっ。じゃああとは私が!」 「ありがとう。フーちゃんはがんばり屋さんだね」 「はいっ!がんばりますっ♪」 お互い笑顔で・・・フロレンツは前頭部のアンテナがぴょこぴょこ動いて、喜びの表現を見せながら 再度ハイタッチをかわし、フロレンツはブリッジ内の指定席にメモリーディスクをもったまま収まった。 これで何が始まるかというと、艦のメインシステムに直結できるフロレンツが、今のデータを元に 格納庫のガーダイド・ナイトのメンテナンス計画を作成、実行しようというのだ。 ナハティガルでは戦闘終了後着艦した機体はすべてフロレンツの管理するメンテナンススキャナーでチェックされる。 その後、コンピュータでは見抜ききれない、人の目で観察された細かい点のデータで補い、 最終的に庫内に配備された多数のメンテナンス用アームが適切な修理を行なわれる。 そしてその結果はやはり職人たる人間の目で確認されるという仕組みだ。 勿論追加の整備や人が直接触れるコックピット内の調整などはメカニック、人の仕事であり、 機械と人、それぞれの上手な折半ができるよう考えられたメンテナンスシステムとなっている。 特にここで言う機械であるところのフロレンツに人並みの信頼、愛着を寄せているオーレンは、 フロレンツ共々この状況に見事にアジャストしていると思える。 と、そんなフロレンツの仕事開始を見届けてオーレンは、 「さて、じゃあフーちゃんが仕事に入ったし、お邪魔しちゃ悪いから俺格納庫に整備の様子見に行ってきますよっと」 そう言いブリッジを去ろうとした。 そういえばヴィクトールとは以前からの友人だと言うオーレンなら、彼がガーリオンに乗る理由を知っているかもしれない。 そうかんがえてアカリは、 「あ、オーレン。そういえばヴィクトールってなんでガーダイド・・・ガーリオン乗ってるんだっけ。知ってる?」 「え?」 薮から棒に。というように立ち止まり振り返るオーレン。 するとイーリスも 「坊やの戦い方なら、ゲシュペンストやヒュッケバインのほうが合ってるような気がするんだけどね。  ガーリオンも突撃力に関して言えば悪くはないんだけどさ。  今は大尉のみたいな性能のいいゲシュペンストもあるわけだし決してガーリオンに負けてないと思うんだけど」 と、疑問を補足してくれた。 それを聞いてオーレンは去りかけた足をとめ、振り返った。 「ああ見えてヴィクター、インファイトもガンファイトも標準以上だからね  頭に血が上りやすいからインファイトになりがちだけど、本来大尉みたいなオールラウンダーな  戦い方ができるはず」 昔を知る友は苦笑い気味にそう言う。 そしてさらに他に誰もいる訳でもないのだが、わざわざ周囲を見渡すような仕草をして、 「あと、本人はあまり言いたがらないけど、  今のチーム構成はヴィクターを除くとコマンダー1、戦術支援1、近接戦闘1で、  で、その近接戦闘要員は修羅の乱で急遽動員されたスフィールで、スキルは高いけど  経験が浅いってのもあるからそこは一応先輩としてサポートしてやらないとなって  それでヴィクターも前衛志願して今のフォーメーションになったって話」 「マジで?なにそれ、男前じゃない」 アカリは思わぬヴィクトールの一面に少しだけ茶化しながらも感嘆の声を上げる。 それを見てイーリスはにやけ気味に 「なんさね。 アカリはああいうのがいいの?」 といじってくるのでそこはすかさず手をぶんぶんと振っての否定を返す。 「ああいや、異性としてはパス。 理屈っぽいのはちょーっとね」 「持ち上げて落とすなぁ・・・」 即反論にオーレンは苦笑する。 そしてオーレンはさらにガーダイドが彼に向いている理由を話そうと ブリッジの情報端末を操作していくつかの資料を開いてみせる。 「あと、ガーダイド・ナイト・・・ベースになっているガーダイドは  ガーリオンに拡張性をもたせたカスタム機だから、今回みたいな試作武装を運用させるには  マッチングがしやすいってのもメリットなんだ。  ダニエル・インストゥルメンツから連邦に提供されたロットは数が少なかったんだけど  なんだか不思議な政治の力で回されてきたみたい」 「あー・・・それってもしかして、ヴィクトールのパパが軍のお偉いさんとか?」 「多分ね。 まあ他の特殊部隊にも同じダニエル・インストゥルメンツのゲシュペンスト・シュテルベンが  回されているところがあるっていうし。  実際のところヴィクターはこの部隊結成にあたっては  それまでの基地防衛のチームで使っていた量産型ヒュッケバインmk−IIをそのまま使うって  話もあったぐらいだし LFXチームにガーダイドを、あと他のカスタム機を回してくれたのもムスタファ司令だからね。  あの人そういうコネとか分不相応なのとか嫌いだし。  大尉は配属の際にすでに量産型ゲシュペンストMk-II・改を受領してたのもあるから  適性だけ見てもヴィクターに割り当てられるのは結果変わらなかったと思うよ」 「ま、このチームメンバーではインジリスク基地の一番の古株は坊やだからね。  それなりに運用するに足る理由と実績はあるってことかね」 イーリスがいうと、オーレンもそういうこと、というようにうなずいた。 と、そこで外部からの通信が入る。 アカリは送られてきたメッセージと外部カメラの映像を見ると、 ノイエDC残党の基地の接収、兵士の搬送準備が整ったと、後続の部隊からの報告を確認する。 レイディバードタイプの輸送艦が2機飛び立つのを見送り、アカリはようやく背伸びをして肩と背中の張りをほぐした。 「んーっ・・・ひとまず事後処理も完了、艦長に報告あげないと」 「じゃああたしは機体のところにいくよ。今回は様子見運転だったからね。  次はちゃんと支援できるようにしないとさ」 「じゃあ手伝いますよ。 どうせ俺もドックブロック行くから」 「ああ。じゃあ頼むよ」 イーリスはそう言ってポンっとオーレンの肩を叩き、ドック区画へと向かった。 アカリはそれを見送り、ふと視線を映すとメンテナンスモードに移行したフロレンツ以外誰もいなくなったブリッジで あとは送るだけだったメールの送信キーをたんっと叩く。 するとほどなくして足音がきこえてきたかと思うと、ブリッジの扉が開き現れたのは 他でもない、艦長のリュカだった。 「・・・早いですね。もう報告書読んでくれたんですか?」 「え?ああいや、それよりみんなは?」 「オーレンとイーリスは整備にドックブロックへ、フロレンツはご覧の通り機体メンテモードで  ヴィクトールは静養中。 大尉とフィーは自室じゃないですか?」 「む・・・先の戦闘記録を分析して気づいた事があったからミーティングをと思ったんだが」 「集めましょうか」 「そうしてくれるかな。あ、オーレンとフロレンツは作業優先させていいから。  ヴィクトールもとりあえず寝かせておいていい」 「了解」 タブレット端末を片手に息を整えるリュカを横目に、アカリは先ほどドックに向かったばかりのイーリスと ユウイチロウ、スフィールを艦内放送で呼び出した。 ・・・ほどなくして、三人がブリッジに集まる。 その間に端末をメインモニターに接続していたリュカは、画面に先の戦闘で現れた修羅神3種を表示させる。 それはユウイチロウ、スフィールは特に間近で見たもので、とりわけスフィールはさっきの緊張感が思い出されたか 表情にも緊張が走ったのがアカリにもわかった。 「それで艦長、気づいた事とは?」 ユウイチロウがこの場に人を集めた理由を問う。 もともとリュカは戦闘データの解析、分析については得意としており、ユウイチロウが戦闘の終わりとともに 彼に依頼をかけた形だった。 リュカも得手としている分それを快諾し、ものの数時間で気づいた事をまとめあげた。 リュカはまず三種類の修羅神それぞれの拡大画像を画面上部に三つ並べ、 今度は連邦軍のデータベースから同一機と思われた修羅神の画像を今度は画面下部に並べた。 「結論から言うと、今回現れた修羅神は先だっての修羅の乱で現れた修羅とは異なる・・・  もっと言ってしまえば別の勢力である可能性が高いという事だ」 「え?でも機体データベースにあったんですよね?」 スフィールが認識コードが戦闘中割り当てられた事を指摘する。 リュカはうなずき、 「うむ。外観はほぼ同一で戦闘方法も似通っている事から、データベースは最も近いサンプルを当てはめたんだ。  幸いにも先も行った通り機体特性は似通っているからそのサンプルデータを参考にたたかっても  大きな問題はないのだが、ここ・・・それからここ、あとここも、見てほしい」 「・・・装甲のパターンがちょっと違うように見えるね?」 イーリスは咥えていた禁煙パイポを指の間にはさんで、指揮棒がわりに画面をつついて言う。 「そう。もちろん我々のゲシュペンストやリオン、ヒュッケバインなどの量産機でも現地改修などで  装備や装甲が変わる事はあるからその辺の誤差はあるとしても、今回現れた同一個体らは同様の装甲パターンだし  何よりカラーリングパターンが、カメレオンは緑基調だったのが赤茶、  バッファローはオレンジ基調だったのが黒紫、そしてホースヘッドは青灰基調だったのが、赤銀と  大分対照的な色合いになっている。 この点においては先の修羅の乱ではこういったパターン違いというのは現れてない」 「・・・たしかに、今回のカラーリングは初めてだとは思ったが」 ユウイチロウはそれは戦闘中にも気づいていたと言う。 しかしそれであればわざわざ分析は必要は無い。 リュカもユウイチロウの言いたい事はわかっていて、画像を特殊なフィルタを挟んだような画像に差し替える。 「もうひとつ、彼らの装甲に残留していた粒子反応だ。  修羅の乱終結の折、彼らの対話派と接触したハガネ・ヒリュウ改から齎された情報によると  修羅の乱の時の修羅は、ソーディアン・・・転空魔城と彼らは言っていたらしいんだが、  そのソーディアンの転移システムを使って地球各地に戦力を送り込んで世界を混乱に陥れていた事は記憶に新しいと思う。  彼らはその転移システムを越えてくる際、ソーディアン固有の波長パターンが多少機体に帯びるようなんだ。  それが今回の連中には無かった」 「けど、突然現れた点については?奴らは突然広域レーダーのレンジ内に現れたよ」 一番最初に気づいたイーリスが、その点について指摘すると、 「それはなんてことはないただカメレオン型の光学迷彩能力・・・  もっとも、機動兵器サイズでそれを実装している点でも呆れるのに  本体以外に付与できるなんてその時点ですでにトンデモだが、とにかく  転移ではなく姿を消してあの一帯に接近してきたんだろうね。  撤退した時も賊はあのカメレオン型に寄り添う形で姿を消している。転移というよりは景色に消えるように」 リュカは敵撤退の様子をスロー映像にしながら言った。 確かにゆっくり再生する事で景色に同化していく様がはっきりとわかるようになる。 すると今度はスフィールが挙手をしつつ質問をぶつけた。 「えっと、でもそのソーディアンの転移方法をただ使わなかっただけじゃ?」 「いや・・・ソーディアンは先日ハガネ・ヒリュウ改部隊と修羅の決戦の後この世界から姿を消している。  ・・・それに尉官レベルにはあまり広がっていない話だが、修羅の新しい頭領とは和議が結ばれたとも聞いている」 「ユウさん、どうしてアンタがそんな事を?」 イーリスは、あんただって一尉官だろうに、そういうような笑みを浮かべて言う。 それにはユウイチロウは頬の傷をすこし掻きながら 「南極の時の借りでな・・・司令部に少し伝手がある。  ともかく、その和議は新たな修羅の王が修羅全体を通じて行った事で、これが真であれば  やつらはそれに反する勢力、あるいはそれを知らない独立勢力であると言える」 「決定的だったのは皆の機体のレコーダに残されていた敵の声、言葉だ。  先の戦乱で現れた馬面の修羅神・アガレス・・・これはハガネ・ヒリュウ改の部隊がその修羅神のパイロットであるところの  アリオン・ルカダとの接触で直接その名を聞いたから正しい名前だろう。  これを今回の相手はまるで知らない様子だった。 ま・・・しらばっくれてる可能性も否定できないけどね」 そう締めくくってリュカはメインモニターの資料を閉じる。 と、そこへ外部からの通信が入りブリッジにアラームが響くと、アカリはすかさずその発信元を確認して リュカとユウイチロウの方を振り返った。 「インジリスク基地からです」 「映してくれ」 「了解」 すぐにさっきまで敵の映像が映っていた画面に、自分たちの上司でありインジリスク基地司令であるムスタファが映った。 ブリッジにいたユウイチロウ、リュカ、イーリス、アカリ、スフィールは敬礼をし、 ムスタファもゆっくりと敬礼を返すと、楽にせよと手で抑えるような仕草を見せる。 「任務ご苦労だった。思わぬ乱入者もあったとのことだが・・・全員無事でなによりだ。」 「ハッ、恐縮です」 リュカがチームを代表し返事を返す。 ムスタファもうなずき、そのままリュカの方を向くと 「デュラン大尉のレポートは読ませてもらった。 確かに修羅の一団に相違なさそうだな」 「まだ一度の接触なので断定はしかねますが、状況から別の修羅勢力であるという可能性もあります」 「うむ・・・この件については教導隊のカイ・キタムラ少佐にも照会してみたが  少なくとも先日まで地球上で戦闘行為を繰り返していた修羅達はすべて、新しい修羅王のもと、  地球との戦闘行為をすべて止め地球圏を離れたと言っていた。  非公式とはいえ既に和議を結んだ修羅との再度の開戦は、先の戦争で消耗した連邦軍にとっても避けたいところではあるが  そもそも別の勢力であればまたそれは個別に対応をしていかねばあるまい。  そこで諸君らには新しい任務を与える」 ムスタファのその言葉に、ブリッジに緊張が走る。 その様子を見て基地司令の口から出た命令、それは・・・ 「LFXチームはこのまま新たに出現した修羅勢力の調査任務についてくれたまえ。  キタムラ少佐の伝手もありアジア方面軍への渡りはつけておいたので、まずはそちら方面から調査をしてもらいたい  追ってヨーロッパ方面軍、アフリカ方面軍とも遠からず連絡をつけるが  まずはこの近隣からアジア方面への調査ということになる」 「ハッ、了解いたしました」 この場の皆が半ば想像していたであろう継続調査の命令。 いよいよ本格的に任務が始まる・・・。その緊張感が張りつめた空気を通してアカリも感じていた。 「暫くは単独行動となるが、ナハティガルは今回のような状況も想定して設計されている。  予備の資材については今そちらに輸送機を向かわせたので受け取ってくれたまえ。  あと、念のためキタムラ少佐から受領した最新の修羅のデータを送らせた。  話を聞くだに参考程度にしかならんとおもうが」 「いえ、多大なるご支援ご配慮痛み入ります。  不肖リュカ・デュラン以下LFXチーム、司令のご期待に添えるよう全力で任務に当たります」 多少慇懃が過ぎる気がしなくもないが、リュカのその受け答えに満足したのか ムスタファはその細い目を満足げにもっと細めると、敬礼して通信を切った。 そしてブリッジは提示された任務に新たな緊張感で満たされる。 次の瞬間、ムスタファの期待を煽りまくったリュカが 不適な笑みを浮かべてクルーの方を向く。 「フッフッフ・・・ど・・・どうしよう」 まさかの言葉にイーリスはがくっと膝の力が抜けたように、とっさに近くのシートにしがみつくと 「って、さっきはえらく自信満々だったじゃないのさ艦長。司令の前だからってカッコつけかい?」 「でもさっきはすごい細部まで分析してたし、いけそうな・・・いけますよ。艦長さん」 スフィールも自信無さげにフォローする。それにはリュカはがくっと肩を落としながら 「そりゃ期待されてるって言われたらあれくらい言わないと・・・  それに事態が事態なら基地もきっと増援を出してくれると思ったのに・・・」 まさか単艦での任務となるとは思っても居なかったのだと、項垂れた。 「・・・だが、この艦、この部隊はインジリスク基地でも一番装備が整っている。  加えて補給物資も届けられたばかりだし、司令の言う通りこの艦は高い継戦能力をもつよう設計されている。  この流れは当然と言えるし、それができるだけのクルーがそろっている。  ちがうか?艦長」 「それは・・・そうだが・・・。・・・うん、そうだな・・・。  よし・・・やってみるか!みんな!」 「艦長、そこはもう少し男らしく」 アカリが苦笑いを浮かべツッコミを入れる。 リュカもそれには少し照れながら、 「よ・・・よし・・・!ではこれより本艦は修羅捜索および追撃の任務へと移る!  機体整備を怠るな!これは演習ではない、実戦である!諸君らの奮起に期待する!」 多少芝居がかってはいるが、及第点だろう。 メンバーも彼が言葉の最後に行った敬礼に、同じく敬礼で返して 始まった本格的な単独任務に各々の持ち場へと戻っていった。     ―――黒海沿岸都市――― トルコ地区の丁度対岸に位置する都市で、旧世紀にはリゾート都市として開発されたほか ウィンタースポーツ等にも利用されるなど観光・保養地として今も利用されている。 地元の人間以外も多く出入りするこの地区では北欧系以外の人間を見るのも珍しくない。 そう、彼女のような黒髪のアジア系の人間も・・・。 「じゃあ、お願いします」 厳重に施錠された大型トレーラーを倉庫番に預け、街に繰り出す。 向こうも倉庫番の格好はしていたがその目はプロの目で、彼女の素性も任務も知った様子で 封筒を手渡した。 歩きながらその封筒を開き、中に入っていたデータカードをデジタルカメラにセット、 外部接続端子には専用のメモリーキーを刺した。 これでデータカードの中身をチェックできるようになり、 カメラの小さな液晶の動画再生モードであたかも撮影した動画をチェックするようなそぶりで内容を確認する。 イヤフォンを耳にはめて端末の再生ボタンをタップし、すると耳元で聞こえてくるのは声高な老人の声・・・。 『聞こえておるでの?ナナミくん。先のデータ取り、  なかなか興味深いデータで君をやった甲斐があったってものでの。  まさかまた修羅が現れるとは・・・しかもあれは恐らくこの間まで現れていた修羅とは  別の連中である可能性が高い・・・引き続き情報収集を頼むの。  ・・・それと、インジリスク基地のLFXチーム・・・ラングレーのATX、極東のSRX、  それにアビアノのFDXと張り合うつもりじゃろうがまだまだ荒削りだの。  とはいえなかなか面白いチームじゃから、おぬしに預けたケルベロスストライカーの武装試験につきあってもらって  またこれのデータも送ってほしいでの。  補給物資は送った地図の街の貸し倉庫にとどけさせるから、コンテナに入れて預けて  補給をうけるとよいでの。・・・ちゃんと聞いたかの。ではこのメッセージは自動的に消滅・・・  は、しないので、わからなくなったらまた聞くと良いでの。 どうせメモリーキーで暗号化されとるしの』 最後は・・・いや、最初から多少ふざけたようなメッセージが再生されたが、 まぎれも無くこれはナナミに指示を出す上官・・・というよりは、技術者・・・それもとびきりの 科学者で、ナナミは彼の指示で単独任務を行っていた。 『・・・そうそう、忘れておったがこの封筒に小遣いもいれておいたでの。  補給整備の間、しばしの休憩とするとよいの』 と、付け加え本当に録音された音声が切れた。 それを聞いて封筒を覗くと共通電子マネーカードが入っており、飲み物を買うついでに 道ばたの自動販売機で飲み物を買おうとカードをかざした。 「お・・・結構入ってる」 ナナミは丸のいっぱいついた残額に少し笑みを浮かべ、街を見渡した。 「危険手当込みって感じなのかな・・・」 時間はたっぷりある。 加えて先日は修羅との交戦でひりつくような緊張感を味わったばかりだ。 今日という日は気分転換に使おう。 そう決めてナナミは街の雑踏に繰り出した。 そんな中ふと思い出す、ある敵の事・・・ 「・・・そういえばこの辺だったっけ・・・あのツギハギと最初に交戦したのって」 ツギハギ、というのは勿論正式な名前ではない。 見た目がそうだからそう呼称しているだけのパーソナルトルーパー・・・いや、情報ファイル『シャドウミラー』によれば アサルトドラグーンと類される人型機動兵器『アシュセイヴァー』の現地改修とおぼしき機体。 かつてナナミが戦った事のあるその機体と戦ったのは、丁度こんな薄曇った北国の空の下だった・・・。 ――かつて自分が共に戦った仲間を失ったのは、丁度こんな薄曇った北国の空の下だった。 「・・・」 そんな自分の知っている空の下とは違う街で、男は一人歩いていた。 黒のコートを身にまとい、一房の銀色の前髪を揺らして男はショーウィンドウに映る自分の顔に漂う 苦労を重ねた空気に軽くため息をつき、 「・・・この空は嫌いだ・・・。あの日を思い出す」 そう呟き曇った窓ガラスに手をつき、ぼんやりと反射する自身に問いかけた。 「・・・まだ、未練を抱いているのか?アレクセイ」 そう、それは彼、アレクセイ・ノーヴァがまだ、”この世界”に来る前の事・・・。 ――北米、テスラ・ライヒ研究所―― テスラ研のテストパイロットであったアレクセイは、シャドウミラーの台頭とともに その理想に共感し彼らに賛同、テスラ研制圧の手引きをするとそのまま一軍として行動を共にしていた。 そんな中、連邦軍特殊鎮圧部隊ベーオウルブズの思わぬ猛攻により、シャドウミラーは 極秘計画「プラン・EF」を実行にうつし、極めて近く限りなく遠い世界への旅立ちを余儀なくされた。 その準備が進んでいたころ、アレクセイはシャドウミラーの旗艦であるトライロバイト級万能戦闘母艦に 各種兵装、実験兵器等の積み込みを終え、研究所中央制御室に報告にきていたところだった。 「ネバーランド、ギャンランド、ワンダーランド、それぞれ予定の物資を積み込みました」 「ありがと。少し休んでていいわよ」 現場の責任者であるその女性はそう言うと、他に気がかりな事があるのだろう 別の通信兵を捕まえると、 「あの人のソウルゲインは?・・・そう。・・・もう、間に合わないわよ・・・?」 兵士の報告を受け嘆息するのは紫の髪と衣服のどこか妖艶な雰囲気を漂わせる女性。 彼女こそシャドウミラーの中心人物の一人、レモン・ブロウニング。 味方部隊の援護に回った同じく中心人物の一人、アクセル・アルマーの帰還を待っての発言だった。 そう言う意味ではアレクセイも気になっている事はある。 「・・・アッシュ小隊は戻ってないのか?」 通信兵に訪ねるが、首を横に振るばかり。 それも今日これが初めてではない。すでに4回目の質問だった。 そんな様子をみて、レモンが 「私も人の事言えないけど・・・少しは落ち着きなさいな。 あの子、腕はいいんでしょう?」 と言い気遣いの表情を見せる。 アレクセイも自身にとって指導者であるところのレモンにそう言う気遣いをさせてしまった事に 申し訳なく思いながら言葉を返した。 「すみません。 アクセル隊長が戻られていないのに・・・」 そんなアレクセイの言葉に、お互い似たような身の上だとレモンも首を横に振ると 「お互い苦労するわね」 そう肩をすくめ笑った。 彼女も彼女なりに立場もあり気丈に振る舞っているのだろう。 だが、前で組んだ腕をつかむ指は小刻みにリズムを叩いており心配という感情は隠しきれていない。 それもそのはず、アクセル・アルマーはシャドウミラーで現状最もベーオウルブズ隊長機に対し 対等に渡り合えているパイロットであり、シャドウミラーの戦力の中では欠かす事のできない存在。 加えてさらにレモン・ブロウニングとは浅からぬ仲との話もある。 それが今、シャドウミラーに最大の危機を齎す存在であるベーオウルブズの出現報告もある地帯に出向いている。 アクセル・アルマーの腕は誰もが信じるところだが、それ以上に昨今得体の知れない力を見せる ベーオウルブズ隊長機の不気味さはそれを揺らがせる何かがある。 そんな不安の中の彼女を鼓舞する訳でもないが、 「アクセル隊長は、あいつが・・・ナナセ中尉らが、必ずここまでの道を開き、ここに戻ってきます」 自身が心配・・・そして同時に信頼する者達の名前を呼び、レモンにそう告げた。 その言葉にレモンも笑みを浮かべ、謝意の言葉を口にしかけた・・・その時だった。 「ソウルゲインより入電!」 通信兵の声が制御室に響き渡った。 レモン、アレクセイ、そして数名の兵士がモニター前に駆け寄る。 ・・・そして、そこに映っていた接近するレーダーの反応は、ソウルゲインのたった一つのみだった。 ――結局、アクセルを援護するために出撃したチームは 特殊鎮圧部隊ベーオウルブズのその牙により全員が帰らぬ人となり、 それから間もなくシャドウミラーは平行世界への転移を実行に移した。 ・・・その後、こちらの世界へとやってきたシャドウミラーは、インスペクター戦役の中 こちら側の世界の特記戦力、ハガネ・ヒリュウ改部隊により首魁ヴィンデル・マウザー、レモン・ブロウニングは戦死・・・ わずかに地上に残された残存兵を残し、シャドウミラーは壊滅した。 すべてが終わったかに思えた。管理された戦争、闘争が日常となる世界・・・ それは幻、泡沫の存在かと思われた。 ・・・だが、そうではなかった。 闘争を世界の理とする修羅の出現、そして風の噂に聞こえてきたアクセル・アルマー、ソウルゲインの生存。 まだ戦いは終わっていない。いや、むしろヴィンデル・マウザーが望んだ絶える事の無い闘争は 今も尚続いている。 アレクセイはそれを確信した。 そして今日も、自身の機体・・・シャドウミラー本隊がまだ健在だったころ、 受領した量産型アシュセイヴァーをその後さまざまな予備パーツで改修した、ある意味ラピエサージュつぎはぎともいえる愛機『プリーズラク』。 ロシア語で亡霊、ゲシュペンストと同じ言葉を選んだのは自らをシャドウミラーの亡霊とする皮肉を込めて。 だが、ゲシュペンストもヒュッケバインやリオンシリーズの台頭で一時はその役目を終えるかと思っていたが、 こちらの世界ではいまだに姿を変え、力を変え、生き残っている。 アレクセイが愛機にそのような名前を付けたのも、そういった縁起をかついだ・・・当時の自分はそう思ったのかもしれない。 そしていまだに回収を続けるプリーズラクに先日大型の携行武装を採用した。 それの制御に必要な電子部品の調達に街にきた。 今後も続く、果て無き闘争のために。 (・・・修羅が再び現れた・・・やはりこの世界は闘争を欲している) 灰色の空を見上げ立ち止まり、アレクセイは一人心の中で呟いた。 その時だった。 「わっ!」 「ん?」 ドンッと誰かが胸に当たる衝撃に、アレクセイははたと我に返った。 「あっ・・・すみません、エクスキューズミー」 「ああ・・・」 ただ通行人がぶつかっただけ。なんてことはないことにアレクセイは再び歩き出そうとして ふとアレクセイは直前に目に映ったものが自分にとって信じられないものだったことにやっと気づいて振り返った。 「なっ・・・待っ・・・」 言いかけて言葉を止める。 アレクセイは長い潜伏生活の甲斐あってかかつて自分が居た世界とこの世界が 似て非なる世界だと言う理解は自身の仲間の中でも誰よりしているという自負があった。 だがそれでも2文字目まで言いかけてしまったのは、そこに居たのが ついさっき思い返していた向こう側の世界の思い出の中で、ついぞ再会が叶わなかった相手だったのは 無関係ではないだろう。 それでもまともな言葉には聞こえていないはずなので、ただ驚いたような言葉になってしまったそれに対し、 ぶつかってきた相手はそんなアレクセイの呻きにも気づかず、呼び止められたことに とがめられたのだと思ったのだろう、その長い髪を揺らし再度謝った。 「えっと・・・すみません、地図ばっかりみてて前見てなくて・・・。イズヴィニーチェ?」 声を聞いてまた動揺する。それは自分が知っている女性とまたそっくりだったのだ。 元地球連邦軍兵器試験部隊所属、最終所属はシャドウミラー護衛隊・・・通称アッシュ小隊所属カズミ・ナナセに。 怪訝な顔をしてこちらの様子を伺う彼女に、とりあえず何か返さねばと アレクセイも混乱する頭を働かせて言葉を選ぶ。 「いや・・・言葉がわからない訳じゃない・・・共通語で通じる。  別になんともない。ちょっと驚いただけだ」 「よかった、どうもすみませんでした。それじゃあ・・・」 「っ・・・待った・・・!」 その言葉は頭が働いた結果ではなかった。 言った瞬間誰よりも耳を疑ったのは自分自身だ。 カズミ・ナナセは死んだ。 それも向こうの世界での話だ。 今自分の目の前に居る女性は彼女ではない。 見たところ観光目的のただの日本人だ。カメラも持ってる。 それを呼び止めてどうする?アレクセイはその次の言葉が見つからず焦る。 「・・・はい・・・?」 向こうもぶつかった相手の高身長のロシア系の男に呼び止められて ばつの悪そうにこちらの顔色をうかがっている。 大方いちゃもんをつけられるのではと思っているのではないか。 無論そういったつもりで呼び止めた訳ではないというのは伝えておいた方が良い。というところまでは頭が働いた。 「あ・・・いや、その・・・君は、旅行者?」 「え?」 「カメラもって地図広げて・・・何か探しているのかと思って」 「あ・・・えっと、まあ、そんな感じです」 急に話を広げられて戸惑っているのだろう。  アレクセイも続きの言葉が出てこず戸惑っていると、微妙な沈黙が二人の間に続いた。 「えー・・・その・・・いや・・・」 「・・・?」 「・・・変な事を聞くようだが・・・君に研究畑の知り合いはいないか?  その・・・以前、君によく似た人を・・・俺が知っていて」 テスラ研のテストパイロットだった自分のことだが、研究畑というのもあながち嘘ではない。 しかしそもそもこんな質問に何の意味もないことはアレクセイにも充分承知だった。 仮にこの世界の自分が目の前の彼女と知り合いだったとして、それは自分の事ではない。 それにもし知り合いだったとしたらよけいにつじつまが合わなくなるのも道理だ。 だが、目の前の彼女から帰ってきたのは思いもよらぬ返事だった。 「あの・・・ひょっとしてナンパとかですか?」 「は!?」 心外な一言だった。いや、たしかに知り合いに似ているなんて言うのはありがちな文句だ。 それを言ってしまった事については否定しない。 だが、それを自分がよく知る人と同じ顔をする女性に言われた事が些かショックで一瞬固まってしまうと 向こうがこちらを見る視線は先ほどとは違うものになっていた。 「あの・・・ぶつかった事はすみません。けど、私・・・急いでますんで・・・」 「ちょっ・・・と待て!そういうんじゃ、そういうつもりで言ったんじゃない」 このままではただの不審人物だ。 気づけば多少の人目も引いている。 信じさせるためには・・・こちらも真実を語るしか無い。 アレクセイは呼吸を落ち着かせると、ため息まじりに言葉を続けた。 「・・・去年の今頃ぐらい、君にそっくりな友人を亡くしていて・・・  亡くなったって言っても戦争で行方不明になったんだが・・・状況が状況なだけに絶望的で、  それであまりにそっくりな君が現れたから・・・少し取り乱してしまったんだ」 嘘は言っていない。 だからこその真実味で信じてもらえるという期待。 勿論これもありがちな文句だったが、そういうアレクセイの言葉の中に幾ばくかの悲壮感を感じ取ったのだろう。 カズミによく似た女性はさっきまでの警戒心を少し解くと、体をこっちに向き直し、 「そう・・・だったんですか。 ・・・すいません、その・・・ナンパとか茶化して」 「いや、冷静に考えればどう見ても俺のやっている事は不審だった。すまない。  ・・・お詫びというわけじゃないが、コーヒーの一つでもおごらせてくれないか。  寒空の下で立ち止まらせてしまったから。・・・これじゃナンパか」 はたと途中で気づきそう苦笑すると、目の前の女性は初めて笑った。 「そうですね。・・・じゃあごちそうになります。えっと・・・?」 「アレク・・・アレックス・ハルトマン。植物の研究をしている見ての通りつまらない男だ」 「あ、先生だったんですね。意外・・・って言うとおこられるかしら」 「仲間にも言われるよ、らしくないって。・・・君の名もよければ教えてくれるかい」 「ナナミ・ナナセ・・・これで仕事してます」 そう言ってナナミと名乗った彼女はカメラを見せた。 だがそれよりナナセという姓が、またアレクセイに驚きを与えたが、 ここは別の世界、そして彼女は自分が知るカズミではないと改めて自身に言い聞かせると、 彼女の指したカメラを使った仕事というところに思案をこらす。 大方ジャーナリストといったところだろうか。 お茶を濁した回答なのも、恐らく戦争に絡んだような多少危ない事もしている事の裏返しか それ以上の詮索は無粋と判断し、なるほど、と肩をすくめるだけにした。 「じゃあ行こうか。 そこのカフェは良い豆をそろえているんだ」 「へえ、楽しみ。ごちそうになります」 アレクセイはそう言うと、街で出会ったナナミと 少し遅めのコーヒーブレイクタイムをとることにした。
第三話