クロッシング・ワールド 第三話 戦火の記憶

第三話 戦火の記憶

――チベット奥地、魔龍の塔―― ・・・アルフィンはまどろみの中に居た。 戦いの疲れからか気を失ってしまったアルフィンが見ていたのは遠い日の夢・・・。 8年前、修羅界・・・ 強き者が生き弱き者が死ぬ修羅界では 強い生存本能を持つものが生き残り、その血をさらに濃くしより強い世代を生む。 そんな中でまだ幼い命が戦乱の渦に巻き込まれ命を落とす事が少なくない。 幼い頃のアルフィンもまた、その渦中にあった。 「はぁっ・・・はぁっ・・・く・・・っ・・・!父上・・・」 アルフィンの父もまた強い修羅だった。 そのために彼を倒し名声を上げよう、修羅として高みに登ろうとする者が後を絶たず それでもどの戦いでも勝ち続け、生き延びてきた。 するとやがて一門を持つに至り、多くの修羅が父の元へその武を学ぼうと、彼のようになろうと集まった。 この世界ではたびたびそうして国になるコミュニティが多く、 両親、姉、そしてアルフィンの一家に彼らを慕う一門、一族は安泰と思われていた。 だが・・・それはその日、打ち砕かれる事となる・・・。 燃え上がる屋敷を背景に、幼いアルフィンと姉、メイアはあと少しで脱出というところまで 火の手・・・そしてアルフィンの家族を襲った賊から逃げていた。 「姉上、父上は・・・母上は・・・!?」 手を引かれながら姉にアルフィンは訪ねる。 肩越しの姉の顔はちゃんとは見えなかったが、こちらを向く事なく ただ黙ってアルフィンの手を引いていた。 「姉上・・・っ・・・」 「今は走って!ここから逃げるの・・・っ・・・!!」 そこまで言いかけて、メイアの足がとまる。 思わずアルフィンもその腰にぶつかりそうになったが、 なんとか立ち止まり姉を再度見上げた。 「姉う・・・」 「伏せて!!」 メイアがとっさに覆い被さり、アルフィンはなにがなんだかわからずに身をこわばらせると 次の瞬間二人の十数m先に巨大な物体が倒れ込んできた。 「っ!!!」 「サ・・・レオス・・・っ・・・父上!!」 サレオス、姉が不意に呟いたのは一家の守り神であり、父が操る馬龍型の轟級修羅神の名。 風よりも早く相手を打ち倒すその姿は何度も見てきているが、炎の前に倒れ込む姿は初めて見る。 ピクリとも動かない修羅神サレオスにしばし視線を取られていると、地響きとともに 現れた炎の壁の向こうからもう一つの巨大な影が、暗闇に浮かぶ眩い光の目でこちらを見ているのに気づいた。 「う・・・あ・・・」 「父上・・・。・・・っ!!この覇気は・・・っ・・・  アルフィン!逃げて!!!」 メイアは途中で何かに気づいた様子で、臨戦態勢を取る。 胸を押され突き飛ばされる形で姉と距離をとったアルフィンが、よろけながら 体勢を立て直して顔を上げたとき、姉の体は地面から数十cm浮いたところで止まっていた。 炎を背景にシルエットだけがアルフィンの目に映る。 映し出されていたのは力なく両手足をぶら下げ、その胸を手刀で貫く男の影・・・ 「か・・・ふっ・・・・・・・・・・よく・・・も・・・うあ゛っ・・・!!」 湿った音を立てて男の腕が引き抜かれる。 支えを失って姉の体は地面に崩れ落ち、サレオスと同じく身動き一つとれなくなると、 姉を貫いた男はゆっくりと今度はこちらに足を向け、一歩、また一歩と近づいてきた。 「あ・・・姉・・・うっ!!」 襟をつかまれ、簡単にアルフィンの体が宙に浮く。 『殺される』 アルフィンは本能でそう感じた。 そして顔はよく見えないが男は貫手のようにした手をアルフィンに向け構えた。 『殺される・・・殺される・・・殺される・・・』 恐怖が心を支配する。そして心に浮かんだもう一つの言葉が無我の中で響き渡った。 『死にたくない!』 その言葉が出たのと、男が貫手を繰り出したのはほぼ同時だっただろうか、 人の体を容易く突き破る貫手が突き上げ気味にアルフィンの胸につきたてられた瞬間、 地響きが男の手元を狂わせた。 「!!!」 鮮血が眼前を舞い、意識がもうろうとする。 そんな中男の声が聞こえた気がした。 「馬鹿な・・・彼奴は死んだはず・・・覇気の途絶えは確かに感じた。  ・・・まさか、この小僧が・・・?」 「う・・・」 アルフィンはそのまま意識を失った。 ・・・この夢はいつもここで終わっていた。 過去の記憶だから当然の事だが、気づけばアルフィンは父の盟友であるアレイグ・ガクルクスに救い出されていた。 家族の仇、アルフィンの胸に傷を負わせた賊はアレイグが討ち滅ぼしたと言い、 アレイグも自身に何かあったらアルフィンを頼むと言われていた父との約束を守り、 その後父親代わりとして・・・そして魔朧拳の師としてアルフィンを育ててくれただけでなく、 形見である修羅神サレオスの操者としても、いつか父が至らなかったという神化への道を目指し修行をしてくれてきた。 重たく閉じていたまぶたをゆっくり開き、アルフィンはおもむろに自身の胸をさする。 そこには賊の貫手がかすめた跡が古傷となって遺り、あの夜の惨劇が現実におきたことだとその度にアルフィンに知らしめる。 そのときいつも強く思うのは、もっと強くなりたい・・・偉大だった父より、強く優しかった母や姉よりも。 そしていつか守るべき者が出来たとき、同じ悲しみを二度と繰り返さないために・・・。 ・・・最後の誓いは、自身の心の中だけにとどめておく誓いだ。 修羅が強さを求めるのは、より自分を高みに登らせるため。 他者を超え、師を超え、王を超え、やがて神をも超える高みを目指す。 それが修羅の本懐であり、生きる意味。 アルフィンもそれに疑問を抱いた事はない。 だが、それ以外にも戦う理由はあるはずだと信じていた。 父や母、姉は自身を守るためにその力を振るってくれた。 サレオスもそんな自分に力を貸してくれる。それは亡き父がそんな生き様を認めてくれていると、そう感じていた。 そんなことを一人、寝所で物思いに耽っていると不意に部屋の扉を叩く音に我に返って 「どうぞ」 と応じると扉が開いてアルフィンより背の低い小柄な修羅の少女が一人、手ぬぐいを持って入ってきた。 「失礼・・・します。大丈夫ですか?アルフィン」 見知った顔にアルフィンもさっきまで見ていた夢の感覚を一旦心の奥にしまい、笑みを浮かべると 「おはよう、フェルナ・・・。また倒れたみたいだ。僕もまだまだ・・・だな」 「でも、あの修羅神・・・サレオスは超級に届く存在だとアレイグ様も言ってますし・・・。  汗・・・ひどいです。これで拭いてください」 と、赤い髪に青と白のジャケットを羽織った彼女・・・フェルナは手ぬぐいを渡してくれる。 「・・・また、あの夢ですか・・・?」 フェルナもアルフィンの過去は知っている。 フェルナだけではない。アレイグの一門はかつては浪国でアルフィンの父の一門と比肩する武門で 『千拳のアレイグ』という異名には千もの拳を放つ者という意味と、千の拳豪が彼を慕って集うの 二つの意味が持たれていた程彼は自らを慕うものに、また戦乱の中親を亡くした子供達自身の元に 修羅の中でも珍しく慈愛の心を見せ、自らの元へ集う事をよしとした。 その一方で一門の敵たりうる者へは無慈悲な程の苛烈な戦いを見せ、恐れられもする。 そんなところから誤解を受けることもあるが、先の理由もあり一門の者には皆一様に敬愛されており、 このフェルナも、そしてアルフィンも勿論彼の事を師として、父代わりとして、武人として尊敬していた。 「・・・アレイグ様がアルフィンを助けたあの夜・・・  サレオスで戦うと決まってあの夜の夢を見るんですね」 「・・・ああ」 フェルナの言う通りで、アルフィンもそれは隠すつもりもなくうなずく。 「同じ頃、私もアレイグ様に救われて・・・でも私はアルフィンみたいに辛い思いはほとんど  してなかったから・・・。でも、こういう言い方したら気に障るかもしれないけど・・・」 「・・・いいよ」 「・・・アルフィンは、時々すごい優しく・・・悲しい目をして戦う事がある。  それはきっと、誰よりも辛い思いをしてるから、失う気持ちを誰よりも知ってるからで・・・  ・・・それが修羅としてはダメだって言う人も居るけど・・・  私は・・・そのままのアルフィンが・・・・・・、・・・その・・・っ・・・」 そこまで言ってフェルナは俯いて黙ってしまう。 場を沈黙が支配し、アルフィンも返す言葉に困り果てると、 ふと手元に先ほど渡された手ぬぐいがある事を思い出し、 「・・・手ぬぐい、ありがとう。丁度汗かいてて・・・」 「あ・・・うん、風邪ひくといけないから・・・汗拭いて」 軽く着物をはだけさせ首もとの汗を拭いていると なんだか扉の向こう、廊下の外が騒がしい。 フェルナも困った顔でそわそわしていると、ややあって扉が勢いよく開き 数人の修羅が部屋になだれ込んできた。 どれも見知った顔で、戦闘の短髪緑髪で 毛付きの赤いケープを羽織った同世代の少年修羅が、フェルナの頭を勢いよく殴った。 「痛い!」 「馬鹿かお前!黙ってないで何か言えよせっかく二人きりなんだから!」 「ていうか〜、アルフィンも大概朴念仁だしねぇ。  でもいきなり女の子の前ではだけるなんて大胆というか無神経というか」 続いて入ってきた黒髪を後ろで縛った体躯の良い女性修羅が笑ってアルフィンの額を人差し指でつつく。 すると今度は紫髪でやはり長い髪を後ろで縛った、落ち着いた様子の笑顔の男性が 「こらこら・・・戦いで疲れているんだから、ネイルもマキももっと静かに。  アルフィンさん。加減はどうです?」 「ありがとう・・・ラジムさん。それに皆も。大丈夫・・・戦いの疲れはもうとれたよ」 「それは重畳。覇気がだいぶサレオスに吸われていましたからね。 文字通りあの修羅神は暴れ馬だ。  あなたを運んだ彼・・・アルギースも心配して、ほら」 と、半身よけて部屋の入り口を見せると、半分開いた扉の向こうに 部屋の入り口に背を預けたたずむ黒い鎧に、頭髪を剃り上げた男がいた。 少ししか姿は見えなかったがそんなたたずまいの修羅はこの塔に一人しか居ない。 いや、彼だけでなくここに居るアルフィン以外の四人と、扉の向こうのアルギースは 魔龍の塔・・・アレイグ一門に置いて群を抜いた存在であった。 そしてアレイグの継承者であるアルフィンの同門生であり、 彼らとの付き合いも、あの夜の後、アレイグがアルフィンを救い出してくれた後からずっと 8年のあいだ共に腕を磨きあったライバルであり寝食を共にする仲間でもある。 いつか修羅の掟に従い命をぶつけ合うそんな間柄かもしれないが、 家族を失ったアルフィンにとってはアレイグと同じく、家族同様の存在だった。 「ごめん・・・ね、アルフィン・・・。うるさくしちゃって」 「あ、いや、こちらこそごめん・・・というか、ネイル。変な事言うから・・・」 「こいつが修羅のくせして押しが弱いからだよ。 戦いのときみたいにやればいいのに」 「ていうか、アルフィン的にはどうなん?最近フェルナ、出るとこ出てきたと思わない?」 「ママママママキ!?何言って・・・」 「やれやれ・・・騒がしくするなと言ったばかりだというのに。  ・・・おや、アルギース。あなたも加わりますか?」 年代の近いアルフィン、ネイル、フェルナ、そして少し年上のマキが騒ぐのを諌めたラジムが 部屋に入ってきたアルギースにおもいきり矛盾した誘いをすると、 アルギースは静かに重たく、端的に 「起きたら昇龍殿へ上がるように・・・と、アレイグ様からの言づてだ」 そう言うと、再び部屋の外へ出て行った。 ぶっきらぼうなようだが、これが普段の彼だという事はこの場の誰もが知っていた。 昇龍殿というのは所謂修行場で、普段生身での鍛錬を行う修練場だ。 アルフィンはアルギースの言葉に、 「了解・・・すぐに向かいます」 と告げると、寝所からおりて身支度を始めた。 身支度を整えたアルフィンが修行場、昇龍殿へと到着すると、 中央の武舞台を囲むように門徒が正座しアルフィンを出迎えた。 そこには筆頭である五魔将も並び、奥の玉座には師・アレイグ・ガクルクスが鎮座し アルフィンは殿の中央に座して師に深々と礼をした。 「アルフィン・リギルケント、参りました」 「うむ・・・。体の具合はどうか?」 二言目に労いの言葉をかけてくれる。 師のそんな優しさにアルフィンは嬉しく思いながら再度礼し、 「ハッ、もうなんともありません。  すぐにも戦いの舞台に戻る事ができます」 と心体万全であると強調した。 すると師は軽く笑みを浮かべ、 「無理せずとも良い。 心身ともに健康であろうが、覇気の消耗はいかんともしがたい。  今はしばし休みを取る事だ。 それも修行の一つと思え」 「は・・・ハッ」 「フ・・・お前達・・・此れへ」 素直に従うアルフィンに笑みを浮かべたアレイグが指し示したのは五魔将。 その言葉に対し、瞬時に元居た場所からアルフィンの後ろに五人畏まると アレイグは一人一人に呼びかける。 「豪魔・フェルナ」 「はい!」 「凍魔・ネイル」 「ハッ!!」 「叡魔・ラジム」 「ハッ」 「重魔・マキ」 「はぁい」 「王魔・アルギース」 「ハッ・・・」 「次はお前達が、この地の戦乱・・・この地の修羅との饗宴を愉しめ。  しばらく待たせてすまなかったな。腕は鈍っていないか・・・?」 そう愉しそうな笑いを浮かべて言うと、 5人共に不適な笑みをうかべそんな事は無いと、闘気・・・覇気をみなぎらせた。 そんな5人の気に当てられたアルフィンは、 休養を命じられてはいたが、修羅としての気骨を揺さぶられた気がして 一歩前に出ると 「お師匠様・・・!此度の戦・・・私も同行してよいでしょうか。  皆の戦いを観て、勉強したく存じます」 戦いには参加しない。 それなら師の指示にも逆らいはしないだろう・・・ そしてあわよくば戦いも・・・アルフィンはそう思っていると、アレイグの口からは 「ならぬ」 とそれを見透かしたような言葉。 アルフィンもやはりだめかと肩を落としかけるが アレイグは不意に口の端をつり上げ、 「・・・といっても、今度は逆に休養に身が入らんだろうな。困った奴よ」 「っ・・・では・・・」 「行くが良い。 だが言った通りまだお前の力は完全に回復した訳ではない。  戦わずともサレオス程の修羅神、操ればそれなりに覇気を消耗するだろう。  異変を感じたらすぐに従者に身を任せ戻ってこい。  ・・・お前達も、アルフィンに気をもませるような戦はするでないぞ。  修羅としての矜持を、この私と我が弟子に見せてみよ」 「ハハッ!!」 一層気合いのこもった返事が殿に響き渡った。 ―――ロシア、黒海沿岸都市――― アレックスと名乗る植物学者の男と出会ったナナミは、 彼の誘いに乗りコーヒーを馳走になると、 コーヒーの飲み終わる頃にはもう少しだけ話をしてもいいかなと思い始めていた。 アレックスもまた、ナナミが深く仕事の事を話さない代わりに 趣味のゲームの話だったりしたことに乗ってきたりなど、 最初の印象とはお互い変わった認識を持って、もう一度、 今度は夕食でもという事になった。 フレンチが良いというナナミのリクエストに、 「それじゃあ、今夜18時、3番通りのビストロで」 とアレックスはすぐに好みそうな店をチョイスして ナナミもそれを快諾すると二人は一旦別行動とした。 手持ちの地図に店の場所をメモし、再びカメラ片手に観光客のふり・・・いや、 実際オフであることから観光気分だが、 黒海沿いの港エリアまで足を運んでみるとそこであるものに気がついた。 「あれは・・・」 手持ちのカメラに望遠レンズを装着し、視線の先・・・港に停泊する 一隻の珍しい形の輸送艦にズームする。 「・・・あれは、確かコード・ナハティガル・・・  インジリスク基地の特殊部隊の船がこの港に・・・?」 資料で見た・・・いや、何より先の戦闘で戦闘空域に現れた実物をカメラ越しだが見ている。 間違いない。あのとき上空から地上の戦闘部隊を指揮支援していただろう輸送艦だ。 「・・・追跡された・・・?・・・いえ、考えにくい・・・ASRSを使ってるし、  念には念を入れてこの街へはトレーラーで入った・・・。ダミーのトレーラーも  別の方面に走らせてもらったし・・・  ・・・今私の機体が表に出るのはまずいなぁ・・・。親プロジェクトがプロジェクトなだけに、  少なくとも連邦軍にはUNKNOWN扱いで適当に見切れ程度で済まさないとだし・・・」 そう誰に言う訳でもなくブツブツと呟きながらどうしようか迷っていると、 不意に機体を預けていた倉庫番から端末へのショートメッセージが届く音に吃驚させられる。 「っ・・・な、なんだ・・・メッセージ1件・・・」 メッセージを開くとそこには補給完了1時間前の旨が書かれていた。 そのメッセージと腕の時計を交互に見る。 午後7時・・・丁度それはアレックスとの約束の時間だった。 日が落ちて、それより遅くなると街を出る車は少なくなる。 早く自然にこの場所を離れるにはタイミングが限られていた。 「・・・アレックス・・・いやいや、でもここで私が万が一彼らに見つかったら  トーチカ1の方でもフォローきつい・・・よねぇ・・・」 頭の中で様々な考え、パターンがよぎる。 「・・・フレンチ・・・うぅ・・・」 よくよくガイドブックを見れば、それなりに評価の高い店でもあった。 実は結構楽しみになっていた事も手伝いナナミの中で葛藤材料にもなった。 できればあの艦の寄港理由を知りたいところだが、残念ながら今のナナミにそれを知る術は無い。 ナナミの上司にも、ナナミの単独作戦目的が試験中兵装の秘密実験であること・・・ それ即ち表立った後ろ盾が無い事を意味する。 万一テロリスト等に捕まった場合も、 機体を爆破破棄することが求められているほか、本来友軍である連邦軍ですら その情報を知らされていない以上はこちらを不審な機体として認識してくる。 それすらも相手にして装備やシステムのテストをしてみろという無茶な要求なのだ。 最もそれぐらいしないと有用なデータを得る事はできないというのが上司の弁だが、 それ以上に彼がこの件で技術協力している大元のプロジェクトというのが 死にかけた特殊部隊隊員を引き取ったり、アインストの改造を企てたり、 シャドウミラーの機体の残骸を色々集め回ったりしていたり、 テロリストとしてインジリスクで逮捕されたドナ・ギャラガーがかつて出入りしていたなど、 うさん臭い噂がいくつもある。 どれも確固たる証拠は見つかってないが、火のないところに噂はたたないというし 何よりナナミの上司もそれを否定するそぶりはみせない。肯定もしないが。 「・・・日陰者ってつらい」 大きなため息をついてナナミは先ほど聞いたアレックスの電話番号を呼び出す。 数回のコールの後、聞き覚えのある声が電話口に出た。 『アレックスだ』 「もしもし?ナナミだけど・・・ごめんなさい、急用ができてしまって・・・」 『そうか・・・じゃあ、今夜の予定はキャンセルかな』 「ごめん・・・楽しみにしてたんだけど、外せない用事ですぐに発たないと」 そこは素直な感情で答えた。するとそれはアレックスにも伝わったのか、 フッ、と電話越しだったが笑みを浮かべたのがわかった。 『いいよ、仕事なんだろう?忙しくて世界中を飛び回ってるっていうのは聞いてた。  ・・・また会えるかな』 「ええ、次の仕事が終わったらメールする。・・・近くに居たら、また」 『хорошо、また会えるのを楽しみにしてる』 「私も。じゃあ、また」 再会を約束できた事にアレックスも気を良くしてくれたのか、明るく別れを告げると ナナミも次の機会をと言って電話を切った。 電話が切れた事を確認してポケットにしまうとひと際大きなため息をついて近くの木によりかかった。 「・・・今日の夕飯もドライブスルーかぁ・・・」 ロードサイドのチェーン店は大概食べ飽きたのだが、どうやら今晩もそれになりそうだ。 がっくりとうなだれながらナナミは街を脱出するべくトレーラーを預けてある倉庫街へ足を向けた。 港――ナハティガル格納庫 アカリとスフィール、ユウイチロウが半舷休息で艦外へ出かけ 特に出たい用事もなかったイーリスが留守番を買って出、艦内を歩いていると イーリスは格納庫にヴィクトールの背中を見つけた。 丁度ガーダイド・ナイトの最後の装甲取り付けが終わるところで、 メカニックであるオーレンのオーダーで、この船のメインシステムであるフロレンツが操作するアームが 正確に仕事を行い、先の戦いで損傷したガーダイド・ナイトは元どおりに修復され横たわっていた。 その様子をヴィクトールが手すりに寄っかかりながら眺めていると、 「ヴィクター」 「中尉」 イーリスが名を呼び少し驚いた様子でヴィクトールが振り返る。 そこでイーリスは今しがた買ったばかりの手に持っていたコーヒーのドリンクパックを二つ見せ、 「無糖?加糖?」 と訪ねた。 ヴィクトールはそれに少し考えた様子で 「・・・加糖で」 と答えるとイーリスは笑みを浮かべそちらを放り投げ、キャッチしたヴィクトールは軽く会釈を返した。 「ありがとうございます。中尉」 「他人行儀はおよしよ。チームの仲間なんだからもっとざっくばらんにさ。  それとも前回の戦いの事気にしてる?」 横に並んで一緒に整備の様子を見ながらイーリスが言う。 するとヴィクトールは図星と言った様子で少し不機嫌になりながら、 怒りをためた表情で答える。 「・・・敵前で気絶なんて醜態をさらして・・・俺は、あいつらを全滅させるって誓ったのに・・・」 「・・・それで死んだら元も子もないだろ?命があっただけもうけもんじゃないさ」 「もうけもんって・・・」 「矜持や誇りってのも大事だと思うけどね。 死んだら何にもなんないよ。  待ってる人にとっちゃ泥水すすってもぼろを着ても、どんだけ惨めな思いしても生きて帰ってきてくれさえすれば  それ以外望むべくも無いものさ」 笑みを浮かべ、手すりに寄りかかるヴィクトールの頭にぽん、と軽く手を置いてやる。 ヴィクトールは少し考えた後、それを振り払い気味に背筋を伸ばして 「・・・そう簡単にわりきれるもんでもないですけど・・・わからないでも、ないです」 と、その視線は下で作業をみまもるオーレンに向いていた。 ヴィクトールの新人時代からの友人で、南極事件で九死に一生を得たオーレン。 事件を聞いた時の事を思い出したのかことの外素直にヴィクトールが意見を受け入れて イーリスは今度はガッとヴィクトールの首に腕を回して小脇にかかえると、 「よしっ。じゃあ今夜は快気祝いに飲みにいくか!同じ班分けの艦長とオーレンも連れてさ」 「の、飲み!?半舷休息っていっても作戦行動中ですよ俺ら!」 「ちょっとぐらい黙っとけばわかんないって」 「艦長巻き込んで誰に黙れって!!」 いつもの調子が戻ってきた様子でツッコミを入れるヴィクトール。 イーリスも少しほっとすると、酒は酒でやぶさかじゃなかったので残念そうに 「なんだい、つまらないねぇ。 坊ちゃんにはお酒は早かったかな?」 わざとらしく釣り糸を垂らすと、案の定魚は食いついた。 「ぼっ・・・中尉・・・言っておきますけど、うちの実家は貴族ですよ。  中尉が飲んだ事無いようなビンテージもののワインなんか飽きる程飲んでますが」 「そうかい、それは失礼した。  あたしはワインなんてのは些か浅識なものでねぇ。ドイツビールは好きでよく飲むけどさ。  ・・・じゃあ先生にご指南いただきながら勉強させてもらおうかね」 「い、いいですよ。」 売り言葉に買い言葉、引っ込みが聞かなくなった魚をしっかり網に捉えてイーリスは笑った。 と、二人がそんな雑談をしていると後ろから 「愉しそうだね」 そう声をかけてきたのはリュカだった。 艦長用の制帽を下し、指揮官用軍服の前をあけて気分はオフモードといったところだろうか。 補給と就航間もない艦の足回りの点検に立ち寄ったこの地では20時間程は拘束を余儀なくされる。 それもあって6時間ずつの半舷休息を取る事にしたのだが、残るメンバーも ここは連邦軍施設であるという事もあり警戒態勢をとらずともいいという状況で リュカも初の遠征任務で気分のスイッチオフオンをしっかりしておきたいのだろう。 その表情に普段の気負いはない。 「ちょっと先生にワインの講釈を賜ろうかとね」 ヴィクトールを指しながらイーリスは上官、しいては部隊指揮官であるところのリュカにも臆面も無く酒の話だというと、 「ワインか、良いね」 と存外好きな反応が返ってきた。 「じゃあ艦長、次の休憩時間に飲みにいかないかい?」 「ちょ・・・中尉」 「うーん・・・お誘いはありがたいけど・・・仕上げなきゃいけないレポートがあるから今回は遠慮するよ。  あと1時間で交代だし・・・二人で行ってきたら?」 「艦長!?」 「さっすが、話がわかる♪」 艦長からのお許しにイーリスはパチンとならして喜んだ。 「か、艦長・・・いいんですか?なんか、いつものイメージと違う反応ですけど・・・」 「四六時中緊張してちゃ身がもたないからね。 ・・・おほん、  ロンネフェルト少尉も休息はしっかりとりたまえ。・・・な?休まらないだろう?」 「そういうもんですかね・・・」 「そういうものだよ。 こっちへのお気遣いは無用だ。ご覧の通りそれなりにリラックスしているから」 そう言うとリュカは愛用の扇子をバッと広げあおいでみせた。 普段の漢字が書いてあるのとは別の、 青色で水辺をイメージしたような涼しげな模様で、所謂オフ用なのだろうか。 リュカは整備の様子も一通り眺めると、自室へと戻っていった。 イーリスはそれを見送りながらふと、 「・・・意外と大した人物かもね。普段は頼りないけどさ」 「その普段頼れないと中々厳しいんですが・・・」 ヴィクトールも気が抜けたのだろう。さらりと鋭いツッコミをするが それはともかくなにはともあれ、 「ま!お許しが出たんだ。今夜は飲むよ!」 「はぁ・・・お手柔らかに・・・っていうか、オーレン忘れて・・・」 普段の休息とは違い、観光地での休息はご褒美に近い。 のこり2時間の待機時間経過が待ち遠しい。そう思いながらヴィクトールの背中をバンバンと叩いてイーリスは笑った・・・ ・・・その次の瞬間だった。 「接近警報!広域レーダーにこの街に接近する反応あり!」 「!!」 警戒態勢を知らせるフロレンツの声が艦内に響き渡った。 同時刻・・・ 街を離れる大型トレーラー。 物資運搬にも使われる幅広の幹線道路を目一杯に使ってPTキャリアを 牽引して走るその運転席にナナミは居た。 「追っ手はなし・・・やっぱりナハティガルはたまたまか・・・。  残ってても良かったかなぁ・・・うう、フルコース・・・」 あるはずだったディナーの代わりに今ナナミの手にあるのは ベーコンとレタス、トマトとアボカドを挟んで軽くトーストしたパンに挟んだ簡単な夕食。 項垂れながらそれを口に運ぶと、薄暗くなりかけた道の先に 突然巨大な影が降り立ちとっさにナナミはブレーキを踏む。 「!!!」 ガクガクと車体が揺れ、後ろの荷物の重さも手伝って中々止まらない。 咥えていたサンドイッチは足下に落ちたがそれどころじゃないナナミは力一杯ブレーキを踏む。 そしてやっとのことで速度が落ちると、フロントガラスの前方数mのところまで目標に 接近したところで車は停止した。 「っ・・・はぁー・・・」 安堵のため息をつく。だがすぐに別の理由で緊張感を取り戻すと、窓から上を見上げた。 するとそこには頭に大きな2本の角を持つ人型兵器の姿。 PTではない。AMでもない。少なくともナナミは初めて見るその機種に、とっさに 助手席に置いていたカメラで写真を撮ると向こうも気づいたのか 人型兵器がこちらを見下ろした。 「っ・・・まずい!」 扉に手をかけ、脱出できるよう身構えると 暫くこちらを見ていたその機体は再び前を向くとドンッ!と地面を蹴って 街の方へ向かって走り出した。相手にするまでもないと判断したのだろうか。 そして今気づいたが他にも4体同型機・・・そして、カメレオン型の修羅神と上空には蝙蝠型の修羅神が それに追従して街の方へと向かっていった。 そこでようやく先ほどの未確認機体が修羅である事にナナミは気づく。 「修羅が・・・街に!!」 何も知らず休暇を楽しむ人々がそこにいる。 そして、アレックスも。 脳裏に映るは数時間後・・・いや、数分後、戦火に飲まれる街の景色。 本来ナナミの任務に平和維持活動は含まれていない。 あくまで機体装備の試験が目的。 それも本来友軍であるはずの連邦軍にもその素性を知られないよう努めなければならない。 だが・・・ 「・・・未確認の新型機・・・に、どれだけ通用するか・・・試してみる必要はある・・・!」 詭弁だろうがそう言えば命令違反にもならないとして、 ナナミはトレーラーを道路脇の平地へ寄せ、車両後部のPTキャリア・・・量産型ヒュッケバインMk-II改の元へと急いだ。 修羅襲撃の知らせに、イーリスのシェイルフィード、ヴィクトールのガーダイド・ナイトが先行して出撃した。 指揮はナハティガルからリュカが行い、シェイルフィードにはメガビームライフルとプラズマカッターが装備され、 ガーダイド・ナイトもリボルビングランスに加え、バーストレールガンとアサルトブレード、スラッシュリッパーを装備した。 「駐留の連邦軍も出てる!ユウ大尉とフィー少尉がいないんだ。無理は禁物だぞ!」 「聞こえてる?フォローは少ないんだ。こないだみたいな無茶は死につながるよ」 修羅相手と聞いて熱くなりがちなヴィクトールにイーリスが言うと、 「わかってます・・・!」 とは答えるが、その表情は熱いままだ。 イーリスもそう簡単には変わらないかと肩をすくめるが、 「飲みの約束があるんだ。すっぽかしたらただじゃ置かないよ」 イーリスなりに生き延びろと伝えると、先に出撃した。 続けてヴィクトールのガーダイド・ナイトも出撃すると、黄昏時の町並みに早くも戦闘の煙が立ち上り 通信機からは友軍の量産型ビルトシュバイン、量産型ヒュッケバイン、ガーリオンなどからの報告が立て続けに入る。 「戦況は既に押され気味・・・敵はカメレオン5、バット3、新型5・・・」 「上空から確認したよ、街の四方で暴れてる。中央にはそれを見守る一機、こいつがリーダーみたいだね」 イーリスからの追加情報をレーダーの個別情報にアップロードする。 暫定リーダーは動かない。こういう時は頭をつぶすのが定石だが、それは最低限そこまでの敵の 足を止める味方が居た場合で、今回のようにチームメンバーが2機の場合となればそれも望めない。 こういう時に取るべき手段は・・・ 「各個撃破・・・!中尉!支援を!」 「あいよ!」 ヴィクトールのガーダイド・ナイトがバーストレールガンを抜き、ビル間から姿を見せたところで撃ち込む。 向こうも不意をつかれて食らうと、さらにそこにイーリスのシェイルフィードがマウントした メガビームライフルが火を噴き、大角の人型の修羅神に爆発が起きる。 それを見てヴィクトールは追撃の手を緩めまいと、 「よし!直撃!このままとどめだ修羅!!」 「・・・っ待ってください!」 と、リボルビングランスでの突撃を慣行しようと身構えたところで、ナハティガルの フロレンツからの通信でヴィクトールは思わず前のめりに倒れそうになる。 「な・・・なんで止めた!」 その問いかけには、代わりに通信に出たリュカが答える。 「あの爆発はビーム直撃の爆発じゃない。敵表面温度が氷点下まで下がっている。あれは水蒸気だ!」 「なっ・・・」 白煙の中で何がおこっているのか、ヴィクトールが困惑していると 不意にその中から飛び出した影がヴィクトールのガーダイド・ナイトに蹴りかかってきた。 ヴィクトールはとっさにシールドでそれをガードすると、膝をシールドに突き立てたままさらに押し込む力を強める 敵修羅神の目が怪しく輝く。 そして聞こえる敵の声。 「フンッ・・・やるな」 それは若い男の声だった。 「この声は・・・この間の奴、アルフィンとか言う奴とは違う・・・!?くそっ・・・いい気になるなよ、修羅!!」 「俺たちが誰かというのはわかっているみたいだな。だが・・・っ!」 相手がシールドに手をかける。するとそこから冷気が立ち上り徐々にシールドが凍り付いていく。 「腕ごと固めちまえば頼みの盾もただのお荷物だろうがっ!」 左の二の腕まで凍らされたところで蹴り飛ばされ、ヴィクトールのガーダイド・ナイトはビルに 背中から激突してしまう。 だがヴィクトールは更なる追撃を避けるべく、スラスターを噴射しすぐに左に逃げると 自由な右手でリボルビングランスを構え、さらにはスラッシュリッパーを射出する。 「何だ?この羽虫みたいなのは」 「気をつけ・・・いや、気をつけなくて良い。黙って切り刻まれろ!」 一気に目標めがけてスラッシュリッパーを向かわせ、 逃げ場を封じるように3基のリッパーが襲いかかった。 「こんなもの・・・ぐっ!?」 敵がそれに気を取られていた隙をついて、上空からイーリスが狙撃する。 背中で今度こそ直撃の爆発をうけると、よろめいた敵修羅神の足を今度はリッパーが刻んでいく。 「悪いな、なりふり構ってらんないのさ!」 動きが止まった今こそ好機。そう言わんばかりにブーストチャージの体勢をとるヴィクトールのガーダイド・ナイト。 今だリッパーとシェイルフィードに翻弄される敵めがけ飛び出そうとしたまさにその瞬間、 「機神空円脚!!」 「巨霊重断脚!!」 両サイドから割り込んできた二機の同型の修羅神、だがそれぞれに動き・・・いや、型が違うとでも言えば良いのか、 空を切り裂くような回転蹴りと、高高度から断頭台のごとく踵で断ち落とす二つの蹴りが リッパー2基を粉砕し、それで体勢を整えた彼奴も 「氷槍烈空!!」 地面を殴り、その勢いを受けたかのように地面から飛び出た巨大なつららが残る一基のリッパーを打ち砕いた。 「くっ・・・」 ヴィクトールも今突っ込むのはまずい。それは熱くなっていても理解できた。 距離を置いて身構えると 援護しにきた敵の修羅神は、身構えるでも無くだらんとした態度でさっきまでヴィクトールが戦っていた相手の方を向いた。 そしてオープンチャンネルで聞こえてくるのは相手の声。 「ネイル何苦戦しちゃってんの?」 「うるせえっ!あれからあの羽虫をまとめて蹴散らすところだったんだよ、マキ!  フェルナ、お前も割り込んできてるんじゃねえよ!」 「ちょっとネイル焦ってた。 この相手・・・多分あっちに居た同じような機体より強いよ」 と、先ほど回し蹴りをした修羅神のパイロットはヴィクトールの方を向いて言った。 ここに居る3体・・・いや、同型機はあと2体この戦場にいるから計5体。 同じく細い目に大きな角、細身の体に肘と足からのびる突起が共通した特長の機体ではあるが それぞれが持つスタイルは異なって見える。 例えるなら流派の違いとでもいうべきか、 ネイルという氷を操る若い男、マキという声は若く口調も軽いが攻撃は重量級の女、 そして軽やかな速度の速い攻撃を繰り出すフェルナという若い女。 ノリはどこか緊張感がないが、実力は本物・・・ヴィクトール、イーリスの表情には逆に緊張感が走る。 「く・・・ふざけやがって・・・!こいつら・・・っ!?え・・・嘘だろ!?」 「どうしたんだヴィクター!?」 ヴィクトールがふと動くものに気づいて視線を落とす。そこには瓦礫の間を抜けようとする一台の乗用車があった。 「逃げ後れた人だ!くそっ・・・!」 とにかく自分の後ろに。 敵との距離は決して遠くはないが、民間人を危険にさらす訳にも行かずあえてヴィクトールのガーダイド・ナイトが 相手との距離を詰めにかかる。 当然先方も応戦の構えを取り、フェルナという女修羅が操る修羅神が懐に飛び込んできた。 「一人でこのスキウス3体に向かってくるなんて・・・無茶過ぎ」 「ぐっ!!!」 リボルビングランスを振り抜く前に懐に入られ、衝撃がコックピットのヴィクトールを襲う。 「インファイトは機神拳の得意とするところ、ごめんね、終わらせるよ・・・!」 スキウスと呼ばれた修羅神の拳に白いオーラが巻き起こり、ガーダイド・ナイトの胸部零距離で そのエネルギーが放出される・・・その寸前、後ろの方のビルが崩落してまた修羅神スキウスの別個体が 何者かに突き飛ばされてビルの瓦礫に埋もれる。 フェルナもそれに気づいて攻撃をやめヴィクトールとも距離を取ると、 ネイル、マキともにそのビルの崩落の土煙の向こうにいる存在に対し構えを取った。 「アルギース!無事か!」 「・・・油断した。気をつけろ、強いぞ」 崩落したビルの瓦礫から、落ち着いた男の声でアルギースと呼ばれた男が返事をしておき上がる。 ヴィクトール、そしてイーリスも敵が何者かに突然吹っ飛ばされあっけにとられていると、 レーダーに既知の反応として、土煙の中の機体が識別ビーコンを返した。 「このコードは・・・民間企業?」 「L&Eコーポレーション・・・形式番号EXF-01S、EXF-02S・・・エクサランス!?」 碧い光が粉塵に輝き、赤いボディが白い爪で煙を払い飛び出してくる。 エクサランス・ストライカー・・・シャドウミラー戦役、修羅の乱でハガネ・ヒリュウ改・クロガネらの 独立遊撃混成部隊に所属していたとされる民間の協力者が操る機動兵器。 これまでの常識を遥かに超える燃費性能とブースト性能を持ち 換装を戦術に組み込んだ機体でここに現れたのはその近接フレーム、ストライカー・・・! 「エクサランス!?先の戦いでハガネ・ヒリュウ改・クロガネに参加していたっていう・・・パイロットの名は確か・・・」 「こちらL&Eコーポレーション、ラウル・グレーデン!そこの連邦軍の人!協力する!!」 ラウル、そう名乗った男のエクサランス・ストライカーは熟達したマシンさばきで 丁度ヴィクトールのガーダイド・ナイトとの中間に居た修羅神四機を散らすと、そのまま もう一機のエクサランス・ストライカーとともに戦場を抜けてガーダイド・ナイトの脇に並んだ。 「間違いない、エクサランスだ・・・。ってことはもう一機にいるのは・・・」 ヴィクトールが前大戦の中心部隊に居た機体の登場に驚きながら、記憶を辿ってもう一人のパイロット・・・ たしかラウルの双子の妹、そのを呼ぼうとすると 「すみません・・・フィオナさんは営業で忙しくて・・・  L&Eコーポレーション社長秘書、デスピニス・グレーデンです・・・」 「お、女の子!?」 通信画面に出たのはおよそ十代前半中盤、紫の長い髪に黄色いカチューシャ、 赤いドレスのような服を着たまるで生きた人形のようなたたずまい。 そこまでは聞いていなかったとヴィクトールが呆然としていると、 「軍の人、見た目は可愛いけどデスピニスは腕は確かだ。  デスピニス、ここは俺が抑える。 お前は逃げ後れた人を護衛、誘導、運搬してくれ」 「はい。ラウルさんも、気をつけて」 お互いの呼吸がわかっているのだろう。 心配しあうようなことはなく互いを信頼してそれぞれの役割を担う二人に イーリスもここは渡りに船だと彼らの協力を受け入れようとヴィクトールに呼びかける。 「ヴィクター、どうやら本物のエクサランスみたいだ。 せっかくだからこのまま助力願うよ!」 「りょ、了解・・・けど、L&Eって・・・?」 「ああ、修羅の乱のあと会社を始めようってことになって・・・レスキューを専門にした民間企ぎょ・・・っおっと!  こっちはまだしゃべってるのに・・・とにかく!たまたまこの街には視察ついでに立ち寄って逃げ後れた民間人がいたから  馳せ参じたまで!改修前のストライカーフレームだからまだ普通に戦闘できる!・・・でもその前に・・・!」 と、右手の巨腕・ギガントクラッシャーアームを展開させ修羅神スキウスらに向けた。 「あんた達!!何でまだ戦いを続けるんだ!フォルカは、新しい修羅王はもう地球人との闘争はやめたんだぞ!」 ラウルは修羅との決戦にも参加している。 そして司令部経由で修羅とは対話が成立したという話もヴィクトール達は聞いていた。 だが、その後のリュカの分析等で、今地球を再び戦乱に落とそうとしている修羅は 所謂修羅の乱で現れた修羅とは別の種族である可能性が高いという仮説をあげていた。 するとやはり、マキと名乗った修羅がその言葉に一番最初に反応して、 「フォルカ?誰それ」 「何だって・・・!?」 ラウルもその言葉には驚いた様子で、さらに別の修羅、ネイルと呼ばれた氷を操る若い男の修羅が 「やはりこの世界には別の修羅がいたか。 だがとんだ腑抜けのようだな。   修羅のくせに闘争をやめたとはな!」 と言い放つと、ラウルは押し黙ってしまった。 そしてさらにネイルは畳み掛ける。 「俺たちが本当の戦乱、闘争を教えてやる!!我らガクルクス一門・・・真の武門の力を見るが良い!」 「くっ・・・勝手な事言いやがって・・・  おい、ラウル・グレーデン、所詮修羅は修羅だ。野蛮な連中は力づくでわからせてやるしかない!」 ヴィクトールも臨戦態勢。幸いガーダイド・ナイトの左腕の氷もとけかけ、動かした拍子にくっついていた氷塊は砕けてとれた。 自由になった両腕で改めて身構えると、 ラウルのエクサランス・ストライカーが半歩前に出た。 「・・・あんたたちは、まだ戦いの空しさをわかっちゃいない・・・。  その戦いが、自分たちの世界を滅びに向かわせたかもしれないのに」 「・・・この人、修羅界の事も知ってる・・・?」 フェルナがラウルの言葉に耳を傾けかけるも、 マキがそれを体で割り込んで遮って、 「そんな言葉で惑わしても無駄無駄ぁ!」 「・・・戦いこそが進化への道。 戦いを忘れた者は緩やかなる死へと向かうも同義」 同じくスキウスを駆るアルギースがラウルの、いやラウルの知る修羅の言葉を否定した。 もはや問答無用・・・。次に言葉が発せられるのが先か激突が先か、両者の間に緊張感が走る。 だが、その空気は思わぬ者によってさらに混沌を増すところとなる。 「!接近警報!何かが高速でこのエリアに向かってきてる!!それも2機!!」 「修羅の増援ですか!?」 イーリスの言葉にヴィクトールが訪ねると、 「いや、この機体はデータベースにある・・・アサルトドラグーン、アシュセイヴァー!!」 ナハティガルから送られてきたデータに表示された名前を読み上げた瞬間、 ビルの上に降り立つ影がひとつ。 「・・・そう、繰り返される闘争こそ人類に残された生存、そして進化への道・・・。  修羅の再臨は俺たちにとっても僥倖だった。彼らこそ俺たちの目指した未来の体現者だ」 「こいつは・・・」 低いがまだ若さの感じる男の声で、そう宣ったのは 突如戦場に乱入したアシュセイヴァーの・・・いや、アシュセイヴァーの面影が残る機体のパイロット。 そしてさらに、 「こっちの反応は、この間の・・・!」 両腕に回転鋸のついた量産型ヒュッケバインMk-II・改。前回の戦いでLFXチームに協力してくれた 所属不明機がアシュセイヴァー改修型とは別の方角から現れた。 LFXチーム、L&E、修羅、そして恐らくシャドウミラーと所属不明機、それぞれが 互いを牽制し合うようににらみ合う。その様子を見てラウルが叫ぶ。 「次から次へと・・・どいつが誰の敵なんだ!?」 「いいぜ、片っ端からかかってこいよ!全員氷付けにしてやる!」 続けて逸ったネイルが氷の闘気を周囲にばらまく。ダイヤモンドダストのように煌めく氷の粒子が大気に拡散し、 次の瞬間それぞれ立っていたビルの屋上を蹴り空中で激突したのはアシュセイヴァー改修型と 鋸付きヒュッケバイン。 アシュセイヴァー改修型は右手にトンファーとブレードを合体させたような武器を持ち、 鋸付きは右腕のサンダースピンエッジでそれに応戦する、 「フッ・・・しばらくぶりだな!鋸付きの!」 「・・・また形が変わってる・・・!こんな武器、データに無い・・・!」 音声同士での通信。すごみのある青年の声のアシュセイヴァー改修型とは対照的に鋸付きからは若い女性の声。 何度か互いの武器をぶつけ合うと、再びはじけ合うように戦場の反対同士に降り立ちにらみ合った。 「あのアシュセイヴァーと鋸付きは敵同士・・・それも知り合いなのか・・・!?」 ヴィクトールが言うと、それを聞いてかアシュセイヴァー改修型のパイロットが反応を示す。 「連邦の・・・。お前達も自分たちの持つ戦力を棚に上げ平和などという幻想にとらわれた  進化を止める罪人だ。 そっちの女もな。 ことあるごとに俺の邪魔をするが・・・  オロチブレードを得て改修を終えた俺のプリーズラクで今度こそ終わりにしてやる」 「призрак・・・ゲシュペンストへの意趣返しのつもりか。悪趣味な奴だな」 ロシア語で幽霊、ゲシュペンストと同じ意味を持つ名前は、PTの進化の始まりだったそれをもじってのものか、 ヴィクトールが辟易した様子で呟く。すると、鋸付きヒュッケバインのパイロットも 辟易したような声色でアシュセイヴァー改修型改め、プリーズラクのパイロットへ言い放つ。 「シャドウミラー残党・・・コード・プリーズラク。  ほとほとあなたとは縁があるようだけど・・・それも今日で終わりにするわ!・・・!!」 その瞬間、両腕の回転鋸を繰り出す姿勢をとった鋸付きの足下のビルが爆発する。 とっさにそのビルから飛び退くと、ビルの中を突き抜けるようにして吹き上がった青白い光が 龍の形をとって鋸付きに襲いかかった。 見ると、修羅の一人、フェルナと名乗った少女の修羅神スキウスが放った光の龍で 鋸付きをさらに追尾すると、鋸付きの背中から有線のガンポッドが射出されその龍を光の弾で撃ち抜く。 「覇龍撃をかわすなんて・・・!」 覇龍と呼ばれる龍を模した覇気の奔流。 その技を見てラウルは 「あの技・・・フォルカと似てる・・・!それにあっちの氷使いはメイシス、  ということはアリオンも、フォルカの兄貴とも同じような技の使い手がいるのか・・・!」 と見入っていると、修羅の一人、寡黙な拳士アルギースが一気にエクサランスストライカーに距離を詰めてくる。 「・・・隙だらけだ。巨爪の戦士・・・!!」 「っ・・・そうはいくか!!」 ヴィクトールがとっさに間に入る。 シールドを展開しぐっと地面を踏み込んだガーダイド・ナイトのシールドに、赤黒い波動を纏った拳がぶつかると、 激しい衝撃にガーダイド・ナイトも吹っ飛ばされそうになるが、ヴィクトールも自身の機体の特性は把握していた。 力の向きをそらし、くっと盾を地面へ向けると勢いのついたアルギース機スキウスの拳は舗装道路へと突き立てられる。 「むっ・・・!!」 「まずはお前からだ!リボルビング・・・っ!!!」 動きの止まったスキウスめがけ、リボルビングランスの撃発体勢を取る。 だが今度はそれを阻止するように割り込んでくるのはシャドウミラーのプリーズラクが放ったファランクスミサイル。 小型ミサイルがラウルのエクサランス、ヴィクトールのガーダイド・ナイト、アルギースのスキウスすべて巻き込み 降り注ぎ三機が爆煙に包まれた。 「フッ・・・良い的だな。おっと!」 プリーズラクの立っていたビルが浸透性のある衝撃で揺れたかと思うと、細かく崩れて落ちていく。 ビルに掌打を撃ち込んだ修羅・マキのスキウスが飛び退いたプリーズラクにさらに追い打ちを仕掛けようとすると 上空からイーリスのシェイルフィードがプリーズラクとマキ機にメガビームライフルの連射で襲いかかった。 「くっ・・・!」 「外した・・・!っていうか、メチャクチャだよ!街も、戦況も!!」 イーリスが通信ごしに叫ぶ。 ヴィクトールもそれには激しく同意しながら、母艦であるナハティガルに呼びかけた。 「艦長!隊長達はまだですか!?」 街に出かけたままの三人は果たして無事なのか。 そもそもそこからが心配だったが、そこを疑ってはおしまいだ。だがリュカからの返答は、 「まだ何も無い!そっちももし見つけたら保護してくれ!」 「っていってもこの混戦状況じゃ・・・  L&Eのもう一機に救助してもらえてる事を祈るのみか!」 街の別区画へ向かったデスピニスに望みを託すと、ヴィクトールもまた目の前の敵に意識を集中させた。 その頃、ヴィクトール達の戦場からさほど離れていない一角、 デスピニスのエクサランスが避難民を誘導しているのとは逆方面の街角・・・ 「アカリさん!この先右へ!」 「ちょっ・・・と、艦に近づけて無いじゃない!これじゃ・・・」 買い物中に巻き込まれ、目的もそこそこに母艦への帰還を目指すスフィールとアカリだったが 港地区はちょうど二人がいた商業地区から戦場となっている中心街を挟んだところ。 町外れを行けばあるいは港へいけるかもしれないが、それではかなりの大回りを強いられてしまう。 ところどころの瓦礫も足回りの強いジープなら多少であれば乗り越えられるし、 スフィールにではなく、自身で運転を買って出たアカリも自動車の運転には覚えがあるものの、 これ以上戦闘エリアに近づく事は危険きわまりなく、既にこの辺りも避難が済んでいて 万が一の事があっても救援が望みにくい。 アカリもわかっていたが、依然続く危機的状況に焦りを感じていた。 「さっきから妨害電波が出てるのか通信もつながらないし・・・  上のイーリスがせめても信号拾ってくれれば・・・!」 上空を時折通るイーリスのシェイルフィードを見てアカリは呟く。 通信による呼びかけを頼まれていたスフィールも、ぎゅっと通信機を握りしめていたが、 戦闘による避難無線による通信の混線か思った通りに連絡できない。 だが、どうやら原因はそれだけではないようで、スフィールが通り過ぎるビルの隙間から 何かを見つけたのかアカリの服の袖を引っ張った。 「あ、アカリさん!4時の方向、ランドリオン見敵!」 「ノイエDC!?さっきのアシュセイヴァーの仲間・・・!?もう、勘弁してよ!!」 ハンドルの上をバンっと叩く。 そしてさらにアクセルを踏み込むと、やがて地響きが近づき進行方向の路上にランドリオンが回り込んできた。 「っ・・・!!」 とっさに急ブレーキをかける。ガクガクっと車体が揺れてタイヤのこげた臭いが立ち上った。 制動中に車体の向きが変わり、アカリはハンドルを握って姿勢を保とうとするがそのまま車はスピンして 街灯に側面からぶつかってしまう。 「うぅっ!」 「ああっ!!」 真横からの大きな衝撃が二人を襲いさらにエアバッグが二人の視界を塞ぐようにはじける。 その後車は完全にストップしてしまうとランドリオンはゆっくりとこちらに近づいてきた。 朦朧とする意識の中、アカリはエアバッグの向こうにランドリオンの銃口がゆっくりとこちらを向くのを 目にした。 「う・・・逃げないと・・・」 ランドリオンの武器はレールガンとミサイル、他にも追加武装をしている可能性はあるが、 こちらに向けられたが最後、電磁加速の弾速はトリガーとほぼ同時にこの車体を簡単に撃ち抜くだろう。 同じくエアバッグに突っ伏するスフィールの腕を取り、アカリが車から脱出しようとすると、 ついにランドリオンのレールガンの銃口が車に向いた。 そしてその銃口に青白い光が輝いたかと思った次の瞬間、 ドォンッ!!!と激しい閃光と衝撃がランドリオンの方から巻き起こった。 「!!!?」 勿論ランドリオンのレールガンの発射音ではない。では何か・・・。 アカリが閃光の向こうに見える影をよく目をこらして見てみると、 それが何かわかった瞬間我が目を疑った。 「っ・・・ホースヘッド・・・!?」 アカリ達、恐らく逃げ後れた避難民と見て狙ってきたランドリオン。それを真上から その閃光を纏った拳で叩き潰したのは先日LFXチームと交戦した敵、修羅神サレオスだった。 直後爆発するランドリオンを背に、赤色の甲冑を纏った馬面の闘士はアカリ達の車両を一瞥すると、 再び背を向け郊外を指差して、自身は主戦場たる中心街へ向かっていった。 「っ・・・あたし達に逃げろって・・・助けてくれた・・・?」 「う・・・ぅ・・・」 「っ!フィー、大丈夫!?」 「何とか・・・あっ!」 アカリ越しに上空を見上げていたスフィールが接近してくるPTに気づく。 「隊長のゲシュペンスト!!この距離なら・・・!」 アカリも気づいてスフィールが握りしめていた通信機を取り、量産型ゲシュペンストMk-II改へ チーム周波数で呼びかける。 するとすぐにユウイチロウから応答があった。 『無事か!二人とも!』 「はい!」 『艦へ運ぶ!車体に捕まっていろ』 とにかく早く安全なところへ、二人が車のシートにしがみつくのを見ると ユウイチロウのゲシュペンストは銃火器を腰にマウントして車を両手でしっかりとつかみ、 一気に港のナハティガルへ踵を返した。 幸い他のDC増援ランドリオンもホースヘッド、修羅神サレオスと名乗った機体に目標を変えたか 中心街へ向かいユウイチロウのゲシュペンストは会敵することなく港へとたどり着いた。 二人が車から降りて艦に入ったのを見るとユウイチロウは再度戦場へと足を向け、 スフィールも愛機アイスフォーゲルへ走るとアカリは自らの戦場、ナハティガルブリッジへと急いだ。 そしてその頃、主戦場、市街地中心部では・・・ 「氷霊剣!」 冷気が集まり氷で形取られた両手甲からのびる剣が鋸付きに襲いかかる。 だがそのコックピットで当該機のパイロット、ナナミは冷静に軌道を見定めていた。 「1・・・2・・・このパターンなら・・・!サンダースピンエッジ!クロスアタック!」 1、2、3と斬撃、斬撃、刺突の何度目かになるパターンを読み、くるっと背を回してよけると同時に 振り抜いた左腕のサンダースピンエッジで通り過ぎた修羅ネイルの修羅神スキウスの背を斬り、 さらにバランスを崩した相手の左腕を断ち折る。 「ぐっ!!」 ネイルのスキウスは接近戦では分が悪いと踏んだか、体勢を立て直すと ビルの縁をつかみ上昇、ナナミのさらなる追撃の手を逃れるべく大ジャンプして距離をとる。 だが、相手が知らないだけでナナミには遠距離の得物もきちんと準備されていた。 「とどめ・・・!!」 倒せる敵は倒せる時に。ナナミが背にマウントしていた砲身を両手で持ち 月を背景に距離を取ろうとするスキウスに狙いをつけた。 「ターミナスランチャー、シュー・・・っと!!!?」 トリガーを引きかけたその瞬間、上空・・・いや、左右からもビームが砲身と機体をかすめて さらには小型の遠隔兵器そのものがビームエッジを展開してナナミの機体に襲いかかった。 ナナミはこの武装には覚えがあった。 「半端ソードブレイカー!また邪魔をする・・・!!」 苛立ちを覚え、3基のソードブレイカーが戻っていく主の方を見ると、 そこにいたのはアシュセイヴァー改修型プリーズラク。 チャージを終えて再び射出されると、ナナミを牽制するような動きに変わり、 ナナミはそれが本命を撃つための布石だとこれまでも何度か戦場で相見えている相手の性格からすぐに悟り プリーズラクから目を離さず、ただソードブレイカーには注意を払いつつ 試作型マシンガンポッドを射出すると自身もターゲットをプリーズラクに定めて 互いに牽制を仕掛ける。 「相変わらず目ざといな!よく見ているものだ!」 「あんたもいい加減邪魔なの・・・!今日こそ!」 「フッ、今日はずいぶん不機嫌だな。平静を無くして俺に勝てるか!」 音声通信でどこまでこっちの感情がわかるのかは不明だが、不機嫌なのはプリーズラクに会ったからだけではない。 恐らく避難しているとは思うが、今日出会ったアレックスもいるこの街で戦いを拡大させているこの敵が、 こちらの心配も知らず相も変わらず闘争を楽しんでいるかのような言い草をしていることが腹が立つ。 試作型マシンガンポッドでソードブレイカーの軌道を邪魔しつつ、再びサンダースピンエッジのエネルギーチャージを行い ナナミが一気にプリーズラクに距離を詰めた。 プリーズラクも右手のトンファーブレード、オロチブレードを構え 応戦の姿勢をとった・・・その時だった。 「今です・・・!」 「!!」 数にして十以上だろうか、蝙蝠型修羅神の群れが上空から一気に降下して ナナミの鋸付き量産型ヒュッケバインmk-IIとプリーズラクに襲いかかる。 そしてそれは二機にあるいは当たり、あるいはかすって地面にぶつかると溶け合うようにして消えていった。 「つっ・・・!」 「くぅっ・・・!!何、今の・・・!」 つま先を霞めたプリーズラクに対し、サンダースピンエッジの一つに被弾した鋸付き量産型ヒュッケバインMk-II。 このままぶつかれば明らかに分が悪い。  すぐさま身を翻してナナミはプリーズラクとの距離を取って、戦いに介入した声の主を捜した。 「蝙蝠型の反応が消えてる・・・幻とでも言うの?」 「フッ・・・私の覇気が作った幻影です。 しかしただの幻かどうかは・・・その身で感じてもらえたようだ」 さっきまでの戦いには姿を見せなかった5機目のスキウスが、二人とは丁度等距離にあるビルの上に立ち こちらを見ている。 プリーズラクのパイロットも、邪魔をされた事が少し面白くないのか 「貴様、さっきまでの連中とは違う奴だな」 と、オロチブレードを向けると、その修羅神スキウスは恭しげなポーズをとると 「ガクルクス一門が一人、震魔・ラジム。以後お見知り置きを・・・。いえ、やはりお別れかな」 そこまでラジムと名乗った修羅が言った瞬間、別のスキウス・・・機神拳を操る修羅、フェルナが プリーズラク目指して一気に加速し技の体勢に入った。 「機神・・・豪撃衝!!」 両手に覇気を貯め、相手の懐で一気に爆発させようと言うのか極限まで距離を詰めようとする 踏み込みだったが、プリーズラクのパイロットもそれは狙いを読んでいたのだろう。 「甘い!」 「うぐっ!!」 チャクラムシューターの基部ごとの肘打で修羅神スキウスを地面に叩き付けるプリーズラク。 腰にマウントしたガンレイピアの銃口を倒れた敵に向けて 「惜しかったな。 お前はここまでだ」 そう言い放ち、トリガーを引いた。 ビーム弾頭が発射され、スキウスを何発もの光が貫いた・・・が、手応えが無い事にすぐにプリーズラクのパイロットも異変に気づく。 それを傍目からみていたナナミは何がおこったか、至近距離の彼よりもはっきりと見ていた。 「早い・・・!9時の方向!!」 左を向くと、そこには先ほどまで地面に倒れていたスキウスを抱えた馬面の修羅神が立っていた。 残像を残しての救出劇、いや実際は覇気とやらを使った目眩しだろうが、いずれにせよ高速で味方を救い出したその敵に ナナミは情報として聞いていた修羅の特性から違和感を感じた。 「仲間を助けにきた・・・。修羅が弱者を守った・・・?」 「フン、新手か・・・。・・・こっちもか」 プリーズラクのパイロットが呟くと、量産型ゲシュペンストMk-II改、 量産型ヒュッケバインMk-IIの高機動改修型・・・ナナミは知っていたが名をアイスフォーゲル。 他のスキウスと交戦していたガーダイド・ナイトとエクサランス・ストライカー、 さらに、 「ラウルさん!この一帯で避難中だった人はみんな安全な郊外へ誘導しました」 「助かる!・・・しかし今度はアリオンのアガレスそっくりな奴まで・・・」 と、L&Eコーポレーションのエクサランスが合流すると、 LFXチーム・L&Eコーポレーション組と彼らと敵対行動はとっていないナナミ、 すでに増援のランドリオンも失ったプリーズラク単機、 そして2機中破のスキウス計5機と、修羅神サレオスの修羅軍 それぞれにらみ合う形となった。 サレオスはアルギースのスキウスにフェルナの機体を預けると、殿とでもいうのか 覇気をみなぎらせ戦いの構えを取った。 『来い・・・俺が相手だ・・・!』 連邦、シャドウミラー、修羅、それぞれの思惑と意地がぶつかる乱戦に次ぐ乱戦に、決着がつこうとしていた。
第四話