OGPGサイドストーリー「信念を継ぐもの」
OGPGサイドストーリー「信念を継ぐもの」


















義勇軍ヴァールハイト……

常に真実と向き合い、紛争やテロを防ぐ事を目的とした影の掃除屋。

その存在は公にはされてはいないものの一説では世界の命運を決める戦いにも

深く関与していたとされ、

また歴戦の兵や噂ではコロニーでも有力者の家の出自の者が参加しているとされ

理念を持つ富裕層の支持を受けていると言われている一方で

その志の高さから若年層からも支持を集め、

逆に彼らこそがテロの元凶ではないかと吹聴する者も出るなど

その実態の不確かさ同様に評価もさまざまだった。

だが、皆が口をそろえて言う。

「彼らは、決して信念を曲げはしない」と……







そんなヴァールハイトに、新たに若き二人の戦士が生まれようとしていた。







大西洋にて停泊中の旗艦、クロガネ……その艦長執務室前に二人の足音が止まった。

「兄キ!入るよ!」

「しつれいしますなのです、おにい様」



バァーン!と勢い良く引き戸……状の自動ドアが手で開けられ 二人の少女がとある執務室に入る。 それを見て部屋の中で待っていた20代後半の男が 頭を抱えて扉を指差した。 「自動ドアを手でこじ開けるな……。  ていうか、兄キはやめろ。 私はシェスター=S=ハインツ大尉。お前の上官。ここは職場だ」 「はーい、兄キ!」 と、少女はしまりかけた自動ドアを再び手で閉めると 辛抱耐えかねた男は声を大きくして 「シーナ=S=ハインツ伍長!!」 「っ、あ、はいっ!」 「……それから、ツバメ=ナルミ軍曹」 「はい、なのです」 「……上官からの召喚に応じて出頭した場合、まずどうするんだ?」 肘を突き、手を顔の前に組んで男は疲れた様子で二人に尋ねると、 ばつが悪そうにして二人も顔を見合わせて、 「えと……  ツバメ=ナルミ軍曹及びシーナ=S=ハインツ伍長、  ただいま出頭いたしましたっ。シェスター=S=ハインツ大尉殿……なのです」 階級上上官にあたる茶髪のロングヘアを後ろで束ねた少女、鳴海 燕がそう挨拶すると その隣にいた青髪のショートヘアが健康的な少女、シーナ=S=ハインツは 頬をぽりぽりかきつつではあるが姿勢を正して見せた。 するとその挨拶を受けて、その男、シェスターは ため息をつきつつも緊迫した態度を解き、立ち上がって二人の前に立つ。 「よろしい。……まったく、お前達は緊張感と言うものがないのか」 「だって……兄キぃ。燕が失礼しますっていったし……あたっ」 舌の根も乾かぬうちのその態度にシェスターの人差し指がシーナの額を小突く。 「あのな……お前達がこの船、クロガネに乗り込んでいる以上は  俺が……ゴホンッ、私が艦長、そして上官なのだ。  この船は組織上旗艦ということもあり、功をあせるのはよくはないが  乗船を志願する同志もたくさんいる。  そんな中、正規の試験と手続きで乗船したお前達がそんな態度では  他の者に示しがつかないばかりか、コネで乗船したと後ろ指さされる事にもなる。  家ではそれでもいいが、ここではきちんとした態度を心がけろ。いいな?」 「はぁい……いだっ」 「わかりましたなのです……あたっ」 言っているそばから。 「了解しました、だ」 そういうようなシェスターの今度はやんわりではあるが拳骨が二人の脳天に落ちた。 頭をさする二人を他所に、シェスターは再び執務机につくと 壁のモニターにリモコンを向けて、いくつかのデータを表示し、 そこには、正規軍……つまり統合軍の将校の一人のプロフィールが表示されていた。 「この人……」 「シーナは見覚えがあるだろうが……  改めて説明しよう。  彼は、キョウスケ=イヌイ。統合軍情報部所属の上級佐官、つまりは統合軍大佐の立場にある男だ。  信用の出来る情報筋から得た話によると、とあるテロリストが彼を狙っているとの  情報が入った」 「えっ、本当!?」 「……」 「あ……いや、どうぞ、続けてください」 シェスターの冷たい眼差しに、シーナは苦笑いを浮かべ続きを促した。 シェスターはそんな妹の態度にため息をつきつつ、 モニターの情報を先に進める。 「彼はその職務ゆえ、表ざたになっていない情報など多くの機密を抱えている。   年齢は37、若くして今の地位についた事をやっかまれる事も少なくなく、  彼の持つ情報が都合の良くない連中の差し金か、或いは純粋にその情報を狙っての事か、  いずれにせよほうっておくわけにはいかない。  ……なんだ?燕」 恐る恐る挙手する燕を、まるで学校の先生が指名するがごとく 指示棒で燕を指すと、 「その、護衛はついていないのです?」 命を狙われるような立場であるなら尚更、という至極真っ当な指摘である。 それにはシェスターももっともだとうなずいて 「確かに護衛はいるが何も四六時中というわけにもいかない。  彼もその職務上必要以上に周りに人をおくことを嫌っていてな。  まあどこから機密情報が漏れるかわからないし、  元々諜報部で内部調査員をしていた際、やはりテロリストの内通者がいたこともあり  その辺りは神経質になっているんだ」 つまりは軍務として公の場に立つ以外護衛はつけていないとの事。 シェスターは二人が納得した事を確認したように頷き、再び話を続けた。 「次に彼を狙っている者の情報だが……  詳細な情報はまだこちらでも掴みきれていない、が、  詳細な人数、実態こそ不明だが主犯格とされているのは二人組の男女だとされている。  二人ともPT・AMの操縦に長けているがその経歴、素顔、年齢はすべて謎だ」 「ミステリアスなのです……」 「とはいえ、今回の情報に彼らが関与しているとの可能性は高く、  実際彼の進行航路を先回り調査していた一樹……神道中尉も、  彼らのAMと小競り合い程度のやり取りではあったが交戦して確認している」 と言って、低解像度ではあるものの確かにレールガンを発射するガーリオンタイプのAMが 写った写真を二人に見せていよいよ核心へと迫った。 「そこで、二人を呼んだ理由だが……」 「「ごく……」」 シェスターの溜めに二人して息を飲む。 ようやく二人が緊張の面持ちになったのを見てシェスターは僅かに笑みを浮かべたが すぐに緊迫した表情を戻すと、 「二人には来月の頭から一週間、彼の護衛をしてもらう。  一週間、という期限があるのはその翌週には彼の信用の置ける人間が任務から彼の元に帰り、  周囲の安全がある程度確保されるからだ。  そして、二人には当然ヴァールハイトであるという身分を隠して行動してもらう。  なぜだかわかるか?シーナ」 名指しでその理由を尋ねるシェスターに、まさか指されるとは思っていなかったのだろう、 シーナはびくっとして、ひとしきり思案した挙句 「……わかんにゃい」 「……我々は世界の影だ。正規の軍にはよらず、独自の判断と理念に基づいて行動していて  当然正規軍からは公には反乱分子として扱われている。  それが大手を振ってヴァールハイトですじゃ逮捕してくださいと言っているようなものだろう。  ……それとお前に尋ねたのはそれだけじゃない。  この方にはお前も以前会った事があるだろう。小さい頃だが……」 「あ、うん。隣のおじさん」 「本人はお兄さんと呼んで欲しいそうだが……まあ、お前の歳じゃおじさんか。  私も昔世話になってな。それもあって今回なんとか事なきを得たいと思っているのだが  いかんせん私は今の立場があるし、統合軍では失踪した扱いになっている人間だ。  面識はあるとはいえおめおめ彼の前に顔を出せないのだ。  その点お前なら、会った事もあるのはずいぶん前だし気づかれにくい。  万一彼の前に立つ事があっても大丈夫なよう、お前達に対応をしてもらうことになった」 と、シェスターは今回の指令の概要を二人に告げる。 すると今度はシーナが挙手して発言を求めた。 シェスターがシーナを指すと、 「その、乾大佐を狙う相手がものすごく乱暴に出た際は?」 AMとの交戦があった事から、その場合の事をたずねるシーナ。 するとその質問に、シェスターは書類を取り出して二人の前に差し出す。 「装備部門への指示書だ。  今回AMと輸送シャトルの持ち出し許可を出している。  これをリィズマン曹長に見せてリオンを受領しろ」 リオン、という指示にシーナの表情にも緊張が走る。 それを見て燕が、 「なぜリオンなのです?」 と尋ねる。 それもそのはず、いまやリオンは数あるAMの中では一山いくらの機体で 拡張性などポテンシャルは低くないもののいかんせんパフォーマンスという点では 上位機種のガーリオンなどに劣る。 ましてや部隊運用ならいざ知らず、単独任務でリオンとなればそれなりにパイロットの力量が求められるし 相手がガーリオン、バレリオンなどを持ち出した場合はその基本性能の差で大分不利になる。 それをシェスターが知らないはずはない。そういうような燕の指摘にも似た質問だった。 するとシェスターは少し困ったような顔で、 「今回は目立たないよう極力小型のシャトルで後方支援を行う。  そのため降着姿勢の取れるリオンの方が2段階シャトルのクラスを下げられる。  それにシーナは基本とリオンの技術講習は大分前に終えていくつか任務でも使っているが  ガーリオンはまだ講習終わったばかりだろう?」 「……なるほど、了解しましたのです。  AMと輸送機ってことは、シーナちゃんがリオンで私が輸送機担当なのです?」 「そうと決めたわけではないが……  燕、君はオペレータではあるが操縦技術も高い。  万一に備え、シーナのバックアップできるようにしておいてくれ  装備は個人の慣熟もあるだろうから任せる。いざという時自分の能力を最大限発揮できる装備を選べ」 「はっ、りょうかいなのです」 燕はこのあたり要領が良い。きちんと敬礼して了解してみせると、 シェスターはシーナのほうを向き、シーナもその視線にはっとして敬礼のポーズをとった。 それを見てシェスターは改めて二人に念を押すように 「では、二人の奮闘に期待する。解散!」 というと、二人も声をそろえて 「「はっ!」」 元気良く返事をすると、シェスターの執務室を出て行った。 バシュッと空気圧で扉が閉まると、 シーナははじめての単独……燕とは一緒だが、初めて 自分達が中心となって与えられた任務に気合が入り、 「燕!がんばろう!」 と、傍らの燕にも気合をおすそ分けするように声をかけるが、 一方燕は何か考え込んだような表情でいて、シーナの声が届いている様子はなかった。 おかしいとおもってシーナは彼女の顔を覗き込み、 「……燕?」 「え?あ、はい。どうかしたのです?シーナ」 「あ、いや。燕こそ。……便秘?」 「……女の子同士でもそこはオブラートに包んで欲しいのです。  ていうか、そうじゃなくて……  シーナは今回の任務、何かおかしいと思いません?」 燕はある程度神妙な面持ちでシーナのほうを向きそう尋ねる。 だが、シーナはそんな燕の心配がよくわからず、 「……おかしいって……どの辺が?」 と、聞き返す。 それは「せっかくの主担当任務なのに」という若干水を差されたような表情ととともに返されると、 せっかくのシーナの気合を無碍にしてはと燕は苦笑いして 「ああ、いや、私の考えすぎなのです。  さ、じゃあ出張の準備始めましょう♪」 後ろからシーナの両肩を掴むと、燕はシーナと共に買出しに出かけて行った。 一方、シェスターの執務室では…… やがて二人の気配が消えると、 部屋にあったもう一つの扉、シェスターの私室につながる扉から その様子を伺っていた数名が入ってくる。 「名演だったな。ハインツ大尉」 「しっかし酷い兄キだな。職権濫用じゃないの?  ま、それ言ったらこの悪巧みに応じたその統合軍の乾大佐ってのも  相当だけどさ」 ウェーブのかかった背中まで伸びた金髪、目にはサングラスをした長身の男と 色は青く、肩ぐらいまでのラフな髪をした、どこかまだ少年のような瞳を持った男が 口々にそう言うと、 シェスターは軽くため息をつきつつ 「ひやかさないでください、少佐……。  ……それに如月、これはあいつらの為でもあるんだ」 その二人、シェスターの尊敬する上司レーツェルと、 やはり同じくいくつも同じ戦場を共にした部下、如月京にそう言った。 すると二人と共に部屋に入ってきた藍色の髪の女性が、京の方を向いて言う 「……京も、この話を聞いて大乗り気だった」 彼女のその言葉に、京は自らの拳を手のひらにぶつけ 「おうよ!あの年上を尊敬しない小娘をギャフンといわせるチャンスだからな。  ふっふっふ……ビンビンに泣かしてやるぜ」 「お……おいおい……」 「……嫁入り前だ。怪我などさせぬよう大人な対応をしてやれ」 レーツェルも多少心配を抱えた様子で京を諌めると、 京は聞いているのかいないのか、 「あいつら……人が手加減してやっているのをいい事に、  シミュレータでたまに勝つと最大限調子こきやがって……  実戦の怖さ思い知らせてやるぜ……くっくっく……」 「……駄目だこりゃ。  ……とはいえ、今回は多少の荒療治は承知の上だ。  何せ、二人にはヴァールハイトで戦うことをあきらめてもらわなければいけないのだからな」 燃え上がる京を他所に、シェスターは心情を吐露する。 そんなシェスターの言葉に、京の傍らにいた娘、イリス=サイレントが 「……大尉は、二人をヴァールハイトから抜けさせたがってる。あの子達が、邪魔?  二人とも聞き分けが良くてとってもいい子……」 とたずねると、シェスターはため息をついて答える。 「そういうわけじゃない……が、ここはいつ戦いに巻き込まれるかもわからない場所だ。  あの大きな戦いが終わり、いまやっと地球圏に平和が訪れつつあるといっても  まだまだ小さな紛争や事件は耐えない。平和そうに見えて危ういところもある、そんな時なんだ。  二人もまだ16……俺や雀に憧れて勝手に組織に入ってきて……  シーナの奴は自分がこんなのだから親父は官職につかせたがって、  ハイスクールも大学付属のくせに勝手に休学して気づいたら組織にいるし……  燕も、雀とは違う道を行くって安心させておいて、  メカニックじゃなくてオペレータって、それじゃ大してかわらんと……」 「まるで父親の悩みだな、大尉」 レーツェルは悶々と悩みを打ち明けるシェスターの様子を ほほえましい様子に見ながら笑っていた。 「あいつらにはもっと表向きな仕事についてもらいたいと思っているんですよ。  少なくとも、最初からこんな修羅の道にすすむのは……。  少佐も人が悪いですよ……私に黙って入隊を許可するなんて」 「フッ……有能で志ある人間は誰でも参加する資格はある。  出自やかつての所属にとらわれないからこそ今の我々が成り立っている、違うか?」 レーツェルは笑みを浮かべそんなシェスターの文句をかわした。 「それはそうですが……、  あの子らの意思の高さは私も知っています…………でも、  シーナも燕も、まだ他にもやれる事はいくらでもあるはずです。  ……だからお前達に、あの二人に実戦の怖さと任務に対する責任を教えてやってもらいたい。  そして、願わくば自分達の選ぼうとしている道の厳しさを知り、考えを変えてもらいたいんだ」 シェスターは真摯な眼差しで京とイリスにそう言った。 すると、京は力強く頷き、 「わかった。フフフ……腕がなるぜ。  俺のガーリオン・カスタム=K・Y・Oスペシャルが  そろそろ月でマリアの手で完成する頃だ」 態々今回のために偽装ガーリオンを作らせたのだそう。 マリアも難儀な依頼をうけてしまったものだとシェスターは同情する一方で、 「……偽装なのに、自分の名前をつけてるのか?まさか誰とわかるような  妙なペイントとかしてないだろうな」 「ノン!<K>カッコ<Y>よすぎる<O>俺様スペシャルの略だぜ。  クックック……俺の恐ろしさ小娘共に思い知らせてくれる……」 もう手に負えない。 とはいえ、ノリよくやってくれそうな絶好の人材でもあるので シェスターもあえてツッコミを入れることなく、ご機嫌な京に一抹の…… いや、多大な不安を抱えていると、不意にイリスがボソッと 「……<K>空気の<Y>読めない<O>男・すぺしゃる。……なんちゃって」 「ぶっ」 自分の世界に入っていた京は気づかなかったが、 イリスの強烈なツッコミに思わずシェスターも吹いてしまった。 「あれ?どうかした?」 「あぁ……いや、なんでもない。まあ……よろしくたのむ」 深くは触れるまい。シェスターは適当に京にことばをかけると、 対してイリスにはがっしりと肩を掴んで、 「……イリス、頼む。お前が手綱を握ってくれ。……一樹も付けるか。念の為」 「了解……そのほうが、いいと思う」 一方その頃…… 「え?エルズさんッスか?ちょっと待って欲しいッス」 クロガネのドックにて整備班のレベッカにシーナが依頼書を出すと、 レベッカはすぐにエルズを呼び出してくれた。 長身で顔立ちも良く、作業着を着ている事がほとんどだが、 さらさらの髪に眼鏡もお洒落で、最近は一輪の花の髪留めをつけて クールさの中にワンポイントの可愛さも演出するといった、 若い女子には人気の高い青年。 それがヴァールハイトの中でもとりわけ目立たない、というか 浮いた話に今世紀一番縁がなさそうだったレベッカとくっついたというので 女子会では一騒動に発展しつつもあったがそれは別の話。 彼を待つ間年上ではあったがレベッカを二人でいじっていると、 五分ほど経ってそこへ作業を終えてきたエルズがやってきた。 「悪い、待たせたなレベッカ」 「エルズさん、これ指示書ッス」 「ああ」 プライベートでは「サクラ」と、彼女の持つ和の名前で呼んでいるそうだが ここではファーストネームで呼んでいる。 それでも二人の交わす視線はただの同僚以上のようにも見え、 二人が実現した戦場のロマンスにシーナ、燕がうっとりしてみていると、 おもむろにエルズが指示書を手に二人の方を向いた。 「なるほど、内容は理解した。  テロ屋相手に要人の護衛任務か。  AMも出張るとなれば隠密任務とはいえ結構大事だな」 「は、はい。そうなのです」 燕も緊張気味に答えると、 「リオンタイプ……確か二人のパイロットライセンスはリオンで取ったやつだったな」 勿論、ライセンス取得時主に使っていたのがリオンというだけで、 それ以外に乗れないわけではないが、リオンはAMの基礎操縦方法を学ぶのにはうってつけであり、 そこに全ての基本があると言っても良い。所謂、PTにおけるゲシュペンストのようなものだ。 加えて近年の量産タイプはゲシュペンストやガーリオン同様、汎用性にも長けて さまざまなバリエーション、武装変更などにも対応している。 正直性能では勝るガーリオンも、その基本スペックの高さ故に 性能をフルに発揮するにはそれなりの錬度を要し、訓練も必要とする。 先にシェスターが言ったとおり二人はまだそれの途中であり、燕は勿論、 パイロット選任であるところのシーナですら講習は終えたもののライセンス取得はまだで、 そのレベルにまで至ってはいない。 なにより二人も慣れ親しんでいるということからこそのリオンタイプ選定ともいえる。 「任務は来月、ターゲットとの接触は艦から近くとなれば  準備をする時間は充分にあるな。  何か好みの仕様があれば……」 エルズはそう言うと、懇切丁寧に二人の希望を聞き始めた。 そして…… 「うん……そうだな、シーナの適正を見るとやっぱり兄妹というか、  大尉の癖と近いものがある。  これならいっそガーリオンをかつて大尉が乗っていたガイストカスタムに近い仕様にすれば  シーナの良さを発揮できると思うんだが……今回せるガーリオンは空いているのがないしな。  依頼どおりリオンを回すしかないか……」 「でも、ノーマルのガーリオンの適正テストとリオンのをくらべると、  小回りの聞くリオンの方が被弾率低いッスよ」 「総合的に見ても被弾率は大尉よりはどうしても高くなるがな。  それだったらいっそアポジモーターとハイブリッドアーマーをつけて被弾重点箇所を保護しつつの  回避能力プラス保険の装甲上げが良いか。  問題はリオンでシーナの適正の高い格闘をどこまで上げるかだ」 本人そっちのけでエルズとレベッカが思案にふけていた。 時々ヒアリングこそされるが、ほぼ置いてけぼりで会話が進む中、 エルズはおもむろに電話をとって、誰かを呼び出した。 ……そして数分後、そこにはティエルとミティナの二人も参加して あーでもないこーでもない会議第二幕が始まっていた。

「単独任務でしょ?だったら武装の予備はあったほうがいいわよ。  シャトルと一緒?なら積んじゃえばいいじゃん  あと格闘を考慮するならリオンじゃきついからシールドがあると楽じゃない?  こないだ作ってもらった予備のシールドあったわよね?」 「まあ、装備の幅はそれで広がるから良いとして、  ただノーマルリオンじゃキャパシティがそれほどないし、  ……そうだ、リオン・フィンスタリヒトのデータベースに、同じく選考漏れした  派生機のアイデアが……」 「おおっ、それ面白そうッス!  でも時間間に合うッスかね……」 「リオン・フィンスタリヒトはさすがにエンドソニックドライブが特殊だが……  あれはそうは言っても基本フレームはガーリオンのそれだしな。  そのままフィンスタリヒトを参考には出来んが、  リオンでもT−ドットアレイの応用である程度剛性は高められるとして、  それだけの出力を備えるにはノーマルのドライブじゃきついか……  いや、まてよ。大尉のグラオベの腕部用小型試作ドライブがあったな。  ほかにも使えそうな予備パーツはあるし、  さっきのティエルの話も運用目的を限れば何かしらアイデアがあるかもしれない。  改めてまずはパイロットの特性だが……」 そこにパイロットの意見としてミティナとティエルが加わり、 当事者そっちのけの談義はさらに続いた……。 そして……一ヶ月後…… 衛星軌道ターミナルから月へ向かうシャトルにシーナの姿はあった。 ビジネスクラスの端っこに、スーツ姿で乗り込んだシーナは 新聞に穴を開けてその穴から目標……すなわち、乾恭輔をまんじりともせず見つめていた。 プライベートな移動のようで完全に護衛は自分以外に無し。 本人的には守られているということも考えてもいないだろう 「じぃー……」 「……お客様」 「じぃー……」 「お客様」 「えっ、あ、はい?」 「……お客様、お飲み物……」 キャビンアテンダントにしては表情が硬い上に、夜時間で照明が暗い事もあり、 黒髪で長髪の髪の毛も前髪にかかっていてその表情がわかりにくいが、 シーナは今キャビンアテンダントに気をとられているわけにはいかない。 だが喉が渇いていたのも事実で、シーナはその女性に 「ミネラルウォーターをください!」 と注文すると、女性は無言で頷いてギャレーへ戻っていく。 そして再びシーナが新聞の穴越しに目標に視線を向けると、シートの背もたれ越しに見えた 対象、乾恭輔の頭が見えない。 あわててそのまま立ち上がると、やはり椅子には座っていない様子だった。 「え……嘘……痛っ」 飛び上がった勢いあまって天井に頭をぶつけつつ まさか今のキャビンアテンダントが、気をそらす役で その隙に護衛対象を……そう考えた瞬間、自分の横をスッと抜けていく目標の姿が見えた。 「あ」 新聞で単純に視野が限定されていただけ。 一瞬ターゲットと目が合ってしまい、あわてて新聞を見ている振りをしながらそこにあった ゴシップ記事がショックだったというように 「うそーあの人とあの人が〜……ショック〜……ちら」 再び視線を移すと、目標の男は手洗いに入って行き 特に意識もされなかった様子。 ホッとして椅子に座った。 と、そこへ先ほどのキャビンアテンダントがやってきて、ストローのついたミネラルウォーターパックを シーナの椅子のドリンクホルダに固定した。 「無重力で危ないので……シートベルトをして」 「あ、すみません……頂きます」 照れ笑いを浮かべ、封を開けて水を一口飲んだ。 そしてまた浮いてしまわないようシートベルトに手を伸ばすと、 後ろからガタッと音がして、護衛対象が手洗いから出てきたかと振り返ったその瞬間、 シーナの目に飛び込んできたのは、銃を顎に突きつけられた姿で現れた護衛対象、乾恭輔の姿だった。 「っ!!」 「全員動くな!……つっても、他の乗客はお嬢ちゃん一人だけか。  大人しくしていれば無事に解放する事を約束するぜ」 恭輔の後ろから銃を彼に向けるその男は、中分けの金髪に口元以外を隠す仮面をつけた謎の男。 恭輔も銃を向けられては大人しくするしかないようで、 ただそこは何度も修羅場をくぐってきたのだろう、冷静に相手の動きを見ているようだった。 「あ…………」 対してシーナといえば、突然始まった事件といきなりの護衛対象のピンチに固まってしまう。 するとそこへ、耳元に届く仲間の声。 「シーナちゃん、何かあったのです?……その感じ、何かあったっぽいなのですね……  シャトルがコースから外れているのです。  しゃべれない状態だったら、咳き込んでほしいのです」 「んんっ……」 そこは機転の利く燕に助けられた。 正しく状況が彼女に伝えられると、燕はある提案を投げかけた。 「シャトルのコースが変わったということは、二人組の一人はコックピットで操縦……  しゃべれない状態ってことは、シーナちゃんの目の前にもう一人の犯人がいる、  そういう認識で良いのです?」 「ごほっ」 「じゃあ、私が隙をつくるのです。  シーナちゃんはその隙に乾大佐を助けるのです」 「えっ?…………」 くぐもった声でだが思わずびっくりして声を上げてしまう。 するとそれには男も気がついたようで、 「ん?おい、何ぶつぶつ言ってる?誰かと話してるのか?」 そう言うと、ゆっくりこちらに近づいてきた。 「っ……!」 思わずシーナが息を呑んだ、その直後、 ゴゴンッ!と大きな音と共にシャトルが揺れ、警報が鳴り響いた。 その瞬間、バランスを崩して乾恭輔を放しかけた男の隙をついて、 シーナが彼の手を引こうと手を伸ばすと、 不意に後頭部に硬く冷たいものが押し付けられるのにシーナは気づく。 「ッ……!」 「……残念」 冷たい女性の声が後ろから聞こえた。 聞き覚えがある。そう、あのキャビンアテンダントの声だ。 そうこうしている間に恭輔も再び男の方に捕まえられ、 今度は二人同時に銃を突きつけられた形となった。 「つつ……隕石にでもぶつかったのか?  おい!どこ見て操縦してる!」 仮面の男は通信機を手にどこかに連絡している。 恐らくコックピットの仲間だろう。 すると無線機から、仮面の男よりは穏やかそうな口調で、別の男が応えてきた。 「違う、ステルスシェードにミラーコーティングした宇宙艇にぶつけられた。  エア漏れやエンジントラブルはないけど、このままランデブーポイントまで急ごう」 「フン、護衛がいたってか。  まあいいさ、ポイントまで行けばこっちのマシンもある。  のこのこついてきたところで返り討ちにしてやれば良いだけの話だ。  もうぶつけられるなよ、カズ……じゃない、イツキ!」 「了解、ミヤビ」 ブツッと最後にノイズが走り、無線が切れた。 コックピットの男にイツキ……"樹"と呼び、 ミヤビ……"雅"と呼ばれ、よく見ると仮面にもその文字を刻んだその男は ポケットに無線機をしまうと、今一度銃を恭輔の首につきつけて 「残念だったな、役に立たない護衛で」

「手配した記憶はないけどな」 「くく……ま、どっちでもいいさ。  案外護衛はそこのガキだったりしてな?」 雅は笑みを浮かべ仮面の奥からレンズ越しにシーナを見ている。 シーナもそれがヤマをはってのことだろうとは認識をするも、 ここで動揺しては肯定しているのと一緒。 なるべく相手の注意の外にいなければ救出もままならない。 「ご……護衛って何の事ですか……?」 今はしらばっくれて、機を伺おう……そう思って、 怯えた様子を取り繕いながら答えた。 だが、背後からつきつけられた銃口が少しだけ強めに押し付けられたかと思うと、 「……油断しないで雅。この子……さっきの衝撃の時、  その男をあなたから引き剥がそうとした……」 「あん?そいつは本当か?シズカ」 今度は"シズカ"。女性の方をそう呼んだ仮面の男"雅"は 恭輔に銃を突きつけた手とは逆の空いた手で、もう一丁の拳銃を取り出すと シーナに向ける。 「だったら、邪魔にならないうちに始末するか」 「っ……!」 シーナの顔から一瞬で血の気が引く。 するとそれを制したのは以外にもシーナに銃を突きつける女、静の方だ。 「……急がなくてもいい。 始末は……いつでもできるから」 「……ま、それもそうか」 別に助かったわけではない……が、今この場は命がつながった。 シーナはようやく忘れかけていた深呼吸をすると、 シーナの命が助かった事に逆にホッとした様子の恭輔に今度は雅が再び銃を強く押し付けていた。 「さて、じゃあ俺達の船に乗り換えるまでの間シンキングタイムといこうか、大佐殿。  A……素直に俺達に協力して、軍内部の情報を洗いざらい提供するか、  B……それとも貝のように口をつぐんだまま、永遠に口をあけられなくするか……」 後者はすなわち、死、ということだろう。 だが恭輔は怯えた風もなく、首だけ横を向いて冷たい目で提案してきた仮面の男を見ながら、 「C……どっちも断る、といったら?」 「そうだな……D……特別サービスで、あの世のお供に若い女をプレゼントだ」 そう言って再びシーナに向けた拳銃の撃鉄を起こす雅。 その言葉に、恭輔も選択肢がない事を悟ったのだろう。 深いため息をついて両手を挙げて見せると 「オーケイ、降参降参。何でもしゃべるよ」 「お利巧さん♪では、大佐殿、到着までごゆっくり。  静、大佐殿にお飲み物をお出ししてくれ。  そっちのお嬢ちゃんはミルクがいいかな?」 口元に嘲笑を浮かべ勝ち誇る雅。 だがシーナは何もすることが出来ず、そのまま静によって椅子に座らされ シートベルトで固定されると となりには助けるはずが気づいたら命を救われていた保護対象、乾恭輔が座らされた。 シーナと恭輔両方が目の届くところに置いた事、そしてそこには雅が付いている状態で 静の方は本当に飲み物を準備する為ギャレーへ下がって行った。 すると再び静寂が訪れた事で、燕から小声で通信が入る。 『聞こえてるのです?……多分、またしゃべれない状態だと思うので  Yesなら沈黙、Noだったら鼻をすすってほしいのです』 「……」 沈黙を返す。 燕も少し時間を空けて言葉を続けた。 『それにしても二人組って言ってたのに、三人組だなんて想定外。  このままランデブーポイントとやらに行かれたら、  いよいよもって救出は困難なのです。  発信機の位置情報を見ると、今シーナちゃんは  前方よりの席にいるのですよね?  乾さんも近くにいるのです?』 それも沈黙。 判別する為の時間を空けて燕はさらに続けた。 『乾さんの購入している席の前辺り、  コックピットブロックのすぐ後ろに緊急脱出ポッドがあるのです。  一緒になんとか逃げ込んで扉を閉めれば、シャトルから射出されて  助ける事が出来るのです』 「……ぐすっ」 隙はない、雅が近すぎる。 そういいたかったが、とりあえずその案は今は難しいという意味で 鼻をすすって意思を燕に伝える。 一瞬雅がこちらを向いたが、ただのよくある仕草であり気づかなかったようだ。 と、そこへ不意に目の前にドリンクパックがぶら下げられる。 「ひゃっ!?」 「……ミルク」 静がまた飲み物を持ってきてくれた。 その名の通り"静か"な彼女は気配すらsilentだ。 気づけば後ろに立たれており、ましてや彼女がテロリストというのだから始末が悪い。 それでいて何故かやさしいのだから、シーナはすっかり混乱してしまった。 「あ……う……」 シーナは思わず飲み物を受け取ってしまう。 すると静は無表情のまま頷き、雅の方へと向かった。 「雅、樹と二人の分」 「ああ、サンキュ。  多分もう少しで合流地点に着くだろうから、乗り換えどうするって樹と話してくる」 と、そこで雅が静に拳銃を渡すと、おもむろにコックピットへと入っていく。 もう一人の仲間の下へいったのだろう。 期せずして、賊はひとりとなった。 これは千載一遇のチャンス…… シーナはシートベルトを解放し立ち上がると、シートの背もたれを蹴ると同時に 後ろを向いたままの静に飛び掛った。 「っ……!」 「このっ……!」 まずは最初にその手に持った拳銃を蹴りで奪う。 無重力でバランスを崩しながら蹴り上げた爪先が 静の手の拳銃握り手部分に直撃し、そのまま拳銃は静の手から離れて 「乾さん!今!」 「っ……!」 脱出ポットを指差したシーナの一言で恭輔も状況を理解したのか、 シーナが静から距離をとると同時に恭輔も脱出ポッドへ向かう。 「さあ、早く!」 「いいからお前が先に乗れ!」 先について待つシーナを恭輔が先に行くよう指示する。 だがシーナは首を横に振って拒否した。 「ボク護衛です!先になんていけません!」 「言ってる場合か!乗れ!」 信じてくれているのかいないのか、とにかく背中を押され脱出ポッドに押し込められると、 シーナは急いで中から手を伸ばして恭輔に急ぐよう促した……その瞬間、 "パン!"と乾いた音が響いたかと思うと、 シーナのすぐ横の壁に穴が開き、シーナは瞬間的に硬直してしまう。 「え……あ……」 「……チェックメイト」 いつの間にか静が拳銃を拾ってこちらに銃口を向けていた。 チェックメイト……フリーズとでも言うのだろう。 だが至近距離を撃たれシーナも言われるまでも無く文字通り凍りついたように固まってしまうと 不意に恭輔がシーナの肩を突き飛ばし、外からハッチ閉鎖のスイッチを入れてしまう。 その動きにハッとしてシーナも 「だ、だめ……!恭輔おじさんも!」 「っ……そうか……助けに来てくれて、ありがとうな。でももう……こんな無茶はするな」 思わず昔の呼び方でそう呼んでしまうも、恭輔はそれに気づいて 穏やかな笑みと共に閉まるハッチの向こうに消えていく。 やがて救命ブロックが切り離される音がして、ぐらつく足元が 救命ポッドが船から切り離された事をシーナに理解させた。 「そんなっ……!」 シーナはあわてて扉を開けようとするが、 すでにもう機体から切り離され真空の宇宙へ放り投げだされた状態。 ロックがかかっており開ける事も、また当然再びシャトルに戻る事も許されなかった。 「くっ……!うぐ……」 ドンッ!と封鎖されたハッチを拳で叩き、 同じく額を押し付けながらシーナは、目の前で救うことが出来なかった知人、 そして自分に課せられた任務……重要人物を守る事という重責を 果たせなかったこと、それを悔やんで嗚咽をこぼした。 するとそんなシーナに、燕から通信が入る。 「シーナちゃん!無事なのです?」 「燕……燕ぇ……ボク…………ぐすっ……ふぇ……」 「泣いてる場合じゃないのです。 まだ、勝負は終わってないのですよ」

「燕……?」 シーナが顔を上げると、救命ポッドの通信モニタに映った友の顔が見える。 画面の向こうの彼女は、いつになく真剣な眼差しで、 「わたしは、シーナちゃんの思いの強さを誰よりも知ってます。  シーナちゃんの思いは、これしきの苦境きっと跳ね返せるって、  わたし信じてるのです!」 「つば……め……」 「お義兄様にも負けない鉄(くろがね)の信念、今こそ見せるときなのです!」 画面と連動して耳元から聞こえる友の声。 すると、ガクンッという振動のあと、ポッドは何かにつかまれたように いずこかへと牽引されていく感覚をシーナはおぼえる。 そして、やがてどこか地面のあるところへ置かれるような振動の後、 救命ポッドに搭載された外気状況を表示するモニターに 『酸素あり』 の表示がつくと、おもむろに脱出ポッドのハッチがあけられた。 そしてそこには友、燕の姿。 「シーナちゃん、無事なのです?」 「燕……燕っ!」 思わずシーナは自らを拾い上げてくれた仲間、親友である燕に抱きつき、 燕もシーナの無事を喜んでぎゅっと抱き返してくれた。 それでいくらか元気が取り戻せたシーナは、 ふと見上げるとそこに自分を今拾い上げてくれたAMがいるのに気づく。 燕がそれを駆り、シーナの乗る脱出ポッドをピックアップしたのだ。 「これはシーナちゃんの機体、思いの形なのです。  あの人は重要な情報を持つ人、敵もそう簡単には殺せないのです。  がんばりを、認めてもらうのですよね?お義兄さま……そして如月副長に」 「……っ……ボクの思い…………。……燕!」 一度は失意に飲まれかけたシーナの眼に、再び闘志が宿る。 そしてそんなシーナの呼び声に、燕はにっこり微笑んで 「はいなのです♪  シャトルはシーナちゃんのポッドを改修とほぼ同時に、  小惑星の前で停止したのです。周囲に艦影はないですけど、気をつけて……!」 燕のそんな激励にシーナの胸も熱くなる。 友の思いを受け、シーナは急ぎ機体に乗り込んで出撃準備へと入った。 一方その頃…… 「……コーヒーでいいの?」 「ああ、ありがとよ」 コーヒーのドリンクパックを仮面の女・静……いや、仮面を取り 黒髪のウィッグを外した素顔の彼女、イリス=サイレントが、 人質・乾恭輔に手渡す。 すると恭輔も笑みを浮かべそれを受け取ると一口飲んでのどの渇きを潤した。 そしてイリスは別のパックを隣にいた仮面の男・雅……ではなく、 仮面を取り、髪を金髪に染めた如月 京は受け取った。 「京はコーラ……はい」 「こらこら、雅と呼びたまえ静君」 「一樹は日本茶でよかった」 「うん、ありがとう、イリス」 ノリノリな京を無視するように、運転手・樹(イツキ)を務めていた一樹に 緑茶のパックを渡す。 「ふう……それにしてもまさか僕まで担ぎ出されるとは思って無かったよ……  演技苦手だって断ったじゃないか……」 「だから表には出さなかったろ?それに実際俺とイリスだけじゃ  手が足らなかったし。大事な裏方裏方。コードネームもつけてやったろ?ちゃんと」 そういいながら京はご機嫌で一樹の肩をバンバン叩いた。 「イツキ……って、まんまじゃん。"一"取っただけじゃん……  それ言ったらイリスの"静(シズカ)"silentもそのまんまだけど」 「俺のは洒落が聞いてるだろ?京は雅な町ってな」 「だからって髪まで染めて……いつだったかの潜入任務もそれくらい本腰入れてくれたら  よかったのに……。イリスはさすがにウィッグだよね」 「いつぞやの潜入は結果としてイリスもアラドも釣れたから、あれはあれで良かったろ」 まるで友達同士のダベリ風景。 一樹と京がどうでもいい話をしていると、 それぞれが好みの飲み物で一息ついたところで京は恭輔の方を向いて 「それにしても大佐殿、名演だったじゃん」 京はからからと笑いながら恭輔に言う。 それには人質"役"だった恭輔は軽くため息をつきながら、 「ま……業務柄昔から嘘や演技は得意だったけどな……。  皮肉だと思ったのは、またこの俺がハイジャック狂言に加担する事になったってことか……」 「過去にも……経験が?」 「……そのときは俺も巻き込まれる側だったが……。  その時、シェスターの奴もそこにいた。まだガキんちょだったけどな。  まあ今回はその時のような事件じゃないものの、  さすがに個人的事情でこれだけのドッキリは心が痛むな」 「でもまあ、これであいつらもこの仕事にこりたろ。  あとは、俺達が人質を救出したって事にすれば、問題なし……と。  一つ心残りは、実戦でメッタメタに泣かせてやることができなかったぐらいだが……  おしいことしたぜ」 京はそういい不敵な笑みを浮かべる。 それを見て恭輔は、横にいたイリスを手で呼ぶと 「なあ、あいつはいつもああなのか?」 「……大体」 「……シェスターの奴も苦労してるだろうな」 そう苦笑いを浮かべ肩をすくめた。 するとそんな恭輔の様子を見ていた一樹が、一歩前に出て一礼すると 「あの……大佐殿はシェスター大尉とは……?」 一樹がそう切り出すと、飲み物で渇いた喉も潤った恭輔は うわさに聞いていた性格……どこと無く近寄りがたい雰囲気とは真反対に朗らかに応じる。 「ああ、知りたい?いいぜ、あいつがいつまで寝小便してたか教えてやろうか。昔近所だったんだ」 「あ、いえ……それは……。ええと、  どうして大佐は、この件をお引き受けになられたのでしょうか……。  旧知とはいえ、半ば失踪気味に軍を抜けた大尉のこの個人的なお願いに協力されると  いうのは……」 ましてや情報を扱う部門の人間。 逆にシェスターを使ってヴァールハイトの情報を探ろうというのか、 一樹はそういった探りの意味もこめて尋ねていた。 だが、恭輔はすこし中空を眺めて考えると、 「んー……まあ……確かにあいつは軍を抜けたが、それは変わらなければ出来ない、  為さねばならない何かが見つかったからだというのはすぐにわかった。  そして、その境遇を変えることはあいつの中でたった一つ変わらないモンのために  必要なことだというのもな」 彼の口から自然に出てきた言葉。 それはシェスターをよく知っているからこそ出てくる言葉で、 一樹は彼が嘘をついていない事がそれだけで感じ取れた。 「たった一つ変わらぬもの……」 「そう、信念だよ」 「信念……ね」 「大尉の……そして、あの人の信条……」 京、イリスも僅かに笑みを浮かべその言葉を復唱すると、 恭輔は少し驚いたようにイリスの言葉に反応した。 恭輔、シェスターの他にシェスターの周りで信念を標榜する者はそう多くない。 「……エルの事を知ってるのか?  ……エルフレア、シェスター、俺達三人には共通する想いがあった。  そしてそれは自分を取り巻く全てが変わろうと決して揺れない芯の想い。  真実を見つめ非道に屈せず、この死の真空と隣り合わせの世界で  剣も持たず盾も持たないそんな人たちを守りたい、その思いを決して曲げぬこと、  それが俺達の信念だ。  だから、そんな変わらぬ信念をシェスターが今も抱き続けて  立場を変えても、剣や盾を持たない人々ために戦い続けているのはうれしかったのさ。  だからそんな奴が、めったに曲げない筋を曲げてまで守ろうとしたもの、  それを俺も守ってやりたいと思った、それだけのことよ。  ……だましたことは、なんか悪い事をした気がするけどな……」 と、饒舌に語って、照れ隠しのように再び飲み物に口をつける。 一樹、京、イリスもそれ以上詮索、疑う気もおきず、 ただ彼とエルフレア、そしてシェスターの絆をまざまざと感じ、さていよいよ撤収……といったところで、 不意にコックピットのレーダーから反応音が鳴り響く 「っ……!アーマードモジュールの反応一機!  後続のシャトルからだ!」 「まさか……シーナか……!」 恭輔もそれには驚いたように腰を上げる。 だが、一方で京は不敵な笑みを浮かべ仮面を手に取ると、 「ヘッ……負けたっぱなしじゃいられないってか。 良い根性だ……  一樹!早く資源衛星に接岸しろ!  俺の機体で迎え撃つ!!」 「仕方ない……わかった!イリスは大佐殿の安全を」 「了解」 一樹がコックピットに飛び込み、京は気密服を着てエアロックに急ぐ。 イリスは念のため仮面をつけ、"静"となると恭輔にシートベルトをつけさせ、 あるかもしれない衝撃に備えて身構えた。 一方のシーナ、 自身に与えられたカスタム機、リオン・グラオベで出撃すると 停船したシャトルに対し通信を開く。 「武装テロリスト!大人しく人質を解放して投降しなさい!」 傍から見ればどちらも非正規軍ではあるが、ここではあえて相手をテロ屋と呼んで 自らはそれから人質を守る存在である事を強調する。 だがそんなシーナの呼びかけに応答は無く、シーナはゆっくりとシャトルの周囲をまわり 様子を伺う。 燕の言った事もそうだが、彼らは乾恭輔という軍情報部中核を担う人物から 情報を欲しがっている。であればおいそれと殺されはしないだろう。 だからと言って怪我をさせるような無茶もしたくはないもので、 投降を呼びかけてはいるもののこれ以上の決定的な手段はなかった。 唯一救いなのは敵が生身で制圧にかかってきたこと。 こちらには戦力がある。それをアドバンテージにして投降を促せられればと思ったが、 相手は貝の様に口をつむいで応答してこない。 シーナが痺れをきかせてシャトル正面から覗き込もうと回り込むと、 突然すぐ横の小惑星の一部が爆発して、そこから飛び出した影にシーナの リオン・グラオベは吹っ飛ばされてしまった。 「わああっ!!な、何!?」 「はっ!機体を準備してたのがお前だけだと思うなよ!」 その声にシーナも聞き覚えがあった。 テロリストの片割れ、雅(ミヤビ)。 態勢を立て直して身構えると、目の前に居たのはリオンの上位機種 ガーリオン、そのカスタム機であった。 「ガーリオン……!」 「フッ……妙ちくりんな改造のリオンだな。  ガキ、どこの所属だ?」 「そんなこと……あんたに関係ないでしょ!あんたこそどこの誰よ!?」 「女が仮面の男に正体を聞く時は、完膚なきまでに叩きのめすかベッドの上で聞くかどっちかだぜ。  ま、俺様はガキには興味は無いからお前が俺の正体を知る事はないわけだが……」 いちいち鼻に付く、そして腹の立つ言い回しの雅の言葉に シーナもレバーを握る手に力がこもる。 するとそこへ燕から通信が入り、 「シーナちゃん!相手の挑発に乗ったらだめなのです!」 「っ……わかった、わかってる……!」 そう、自分には果たさなければならない使命がある。 そして貫かなければならない信念もある。 友の言葉に今一度自分がすべき事を思い出させてもらうと、 上位機種、それも一対一で、ヴァールハイト部隊長の一樹が取り逃がす程の腕を持つ相手に シーナは己の全神経を集中させて対峙する。 「……あんたを倒す……!そして、あの人を守る!」 「吹いたな……やってみせろ!!」 そう言うと、先制攻撃を仕掛けてきたのは相手のガーリオン。 バーストレールガンを向け、連続射撃でシーナのリオン・グラオベを襲う。 シーナはとっさに両手を組し、防御態勢をとると とりわけ装甲の厚い改修を施された腕部にすべて敵の銃弾ははじかれた。 「っ……はっ……!」 一拍遅れて呼吸するシーナ。 うまく防御できたとはいえ、今のは確実に実弾であり、 敵の銃弾は防御してなかったらダメージ確実だった。 だが緊張してばかりはいられない。 (お前の適正はインファイトだ。ちょっとやそっとの銃弾の雨なら耐えられるようにしてある。  恐れず進んで、相手の顔面に拳をくれてやれ) シーナの脳裏に、この機体を預けてくれたエルズの言葉がよみがえる。 「インファイト……っ!」 訓練でも得意だった。 シーナは一呼吸置くと、通常のスラスターによる加速よりもさらに速く、 そう思わせるような体さばきで一気に相手の懐に飛び込むと、 通常のうすっぺらいリオンのアームを四角柱のように、点でぶつけた時に威力が高くなるよう 組み立てた左腕を、さらにその指先をそろえる事で、まるで抜き手のような構えとなったそれを 勢い良く振りぬいた。 「っ……と!」 だが、それは相手もぎりぎり読みきったようだ。 すんでのところでかわされて、相手の膝蹴りが逆にリオン・グラオベの胸を襲う。 「がっ……!」 無重力の宇宙空間ゆえに、勢いは止まらずそのまま吹っ飛ばされてしまいそうになる。 シーナはすぐに衝撃で飛びかけた意識をつなぎとめると、 姿勢制御して再度身構えた。 ヘルスチェックを行うモニターは全てまだグリーンがついている。 頑丈さに救われた形だ。 「今のを耐え切った……か、的確な改造してるじゃねーの。  ……いや、それでも普通ならパイロットが無事じゃない。  慣性制御プログラムとショックアブソーバーが一級品みたいだな」 「はぁ……はぁ……」

こちらが無事だった事に敵"雅"も感心した様子を見せる。 その言葉に、シーナの脳裏に浮かぶのはレベッカの言葉。 (Gキャンセラーのプログラム、ハインツ伍長の戦闘レコードをベースに再組み立てしてみたッス。  部品もエルズさんの口利きでなるべくいいのを組みこんで……  なるべく伍長の癖にあわせて反応するようにしてみたんで  思い切り暴れて欲しいッス!……でも、くれぐれも無理無茶は駄目ッスよ) 「ボクに合わせて……!グラオベ!」 シーナは再び雅のガーリオンカスタムめがけ加速する。 「バカが!性懲りも無く!下位機種が上位機種に勝てるかよ!」 またも真正面からつっこむシーナに、雅が再びバーストレールガンを向けると、 シーナは緊急制動をかけ、90度の角度で真上に向きを返る。 銃弾はそれまでシーナが居たところを抜け、雅はバーストレールガンの発光の隙に シーナの機体を見失ったのか、射撃をやめて辺りをうかがっている。 千載一遇のチャンス……そんな言葉が、機体の構想に協力してくれた ミティナとティエルの言葉と共に思い浮かぶ。 (リオンみたいな華奢な機体でも、武装の選び方、戦い方で色々出来る。  ガーリオンやバレリオンよりも必ずしも弱いとは限らない、そう思うよ。  とくにこいつはリオンシリーズでは上位のリオンVがベースだしね) (いい?とにかく敵の隙を見たら逃さないこと。自分の100%を一点にぶつけるのよ) 「油断大敵大胆不敵……一点集中ガイスト……ナックルッ!!!!」 「っ!!?」 抜き手の左腕に対し、シェスターのガーリオン・グラオベの右腕部スペアを移植した ガイストナックルが雅のガーリオンカスタムの右肩を砕く。 右腕に内蔵されたT−ドットアレイ斥力場発生装置から生まれた力場により ひしゃげる様に破壊されるガーリオンの右肩を見て、 たまらず距離をとる敵のガーリオンカスタム。 右腕は奪った。だが、 本当であれば今の一撃で戦闘不能に追い込まなければならなかったのだ。 しかしシーナの一撃はそこまででとどまり、相手はいまだ健在…… タイミング、思い切りは悪くなかったはず。だがそれ以上に相手が、 攻撃の瞬間冷静に身を守る事に専念したことで、半歩踏み込みが足りなかった。 やはり、パイロットとしての腕は相手のほうが上にあるとシーナは直感で感じ取る。 すると…… 「チッ……やってくれたな。  調子に乗っているようだが……俺様はお前と遊んでやってるんだぜ?  わざわざタイマンに付き合ってやってるのはサービスだよ」 「え……」 「静!シズカ!人質をモニターの前につれて来い!」 その言葉に、シーナは改めて今のパワーバランスを思い出す。 こちらが優位に立っていたのは、明確に相手に勝る戦力があったから、 テロリスト達に降伏を促すことが出来た。 だが、今は向こうにも戦力がある。そして、人質も居る。 パワーバランスは既に向こうに優位性があるのだ。 「ひ……卑怯!」 「スポーツでもやってるつもりか?これは戦争なんだぜ?  おい……!静!何やってる!」 なかなか通信画面に現れない静に、いらついたのか雅が声を荒げる。 すると、ボソッとした声で入ってくる静の声…… 『……もう一人……』 「あん?」 『……いつの間にか、シャトルにもぐりこんでた。  護衛はもう一人……いた』 物静かだがどこか緊迫した口調……その言葉にシーナは気づいた。 「燕……!」 先ほどシーナを見送った親友が、"そこ"に既にいた事を…… 「……」 「……」 にらみ合う二人。 手にはお互い銃が握られている。 仮面の女性、静に銃を向けるのは鳴海 燕。 シーナが雅と交戦している隙に、停泊中のシャトルの貨物用エアロックから忍び込み、 静が恭輔から目を離した隙に、静に銃を向けた…… そして、それに反応して静が燕に銃を向けた。 それからの膠着だった。 「……そういうわけだから、雅、そっちはお願い」 『チッ……わぁった』 船内に聞こえる雅の声。燕から見るに、 静のお願いという言葉に大人しく応じるあたり、二人は共犯者以上の関係なのだろうか。 燕は相手と銃を向け合いながらそんな事を思う。 今まさに命を取り合おうと言わんばかりの状況だが、ふと相手に興味がわいた燕は あわよくば隙をつくってやろうと、静に話を振ってみる事にした。 「……雅さん、って言うのです?彼」 「……」 無言。だが、燕は続けた。 「粗野な感じがする殿方なのです。 お二人は、お付き合いしてるのです?」 「……それ、今関係のある事?」 無関心を装う回答だが、それは是に等しい答え。 燕はにやりと笑みを浮かべ、 「私ああいう感じの方好きじゃないのです。  やっぱり毅然として、かつきちんとした信念を持つ、お義兄様のような方が  理想の男性像なのです。それに比べて、あのガーリオンの人はまるで獣のようなのです」 「……私を怒らせようとしてる?……なら無駄。  そういうところも含めてあの人だって、私はわかってるから」 静は銃口を揺らし視線とターゲット……すなわち燕を直線上に据える。 動揺はさそえない、だが、明らかに反応はあった。 そしてそれは最初に燕が問いかけた、二人は特別な関係であるという質問に対して 肯定ともいえる答え。 燕はここに来てさらに別方向からアプローチをかけた。 「……ふうん、でも、シーナちゃんはわからないのです。  意外とああいうワイルドな感じの人、タイプかもしれないのですから。  拳を交えて、何か思いが通じる事があるかも……」 「……、」 「っ!」 一瞬、ほんの僅かな隙だったが、静の意識が外の二人に向いた。 燕はそれほど得意ではなかったが、銃を天井のスプリンクラーに向けて数発放つ。 このシャトルが地球便も行っているシャトル……つまりは、大気圏内での 短期間の通常飛行も想定されているが故、設備されていた事が功を奏したが 燕の銃弾2、3発でスプリンクラーが壊れ、機内に水が勢い良く噴出して 客室内に居た静、燕、恭輔を消火用の水が濡らした。 これだけであれば大した隙にはならないが、今の敵は目の部分を色付きのレンズで覆った 仮面をつけている。それが水滴に塗れれば、前は見づらくなるうえに ましてや無重力。水滴はその場にとどまりなかなか離れてくれない。 はたしてその作戦は的中し、静は銃を撃つどころではなく 必死にマントの端で水滴をぬぐおうとするがなおも雨のようにスプリンクラーの水は振り続け、 彼女の視界をさえぎっていた。 燕はすかさず恭輔の袖を引いて、 「今のうちなのです!」 「お、おう……」 恭輔と共にもう一基の脱出ポッドに乗り込み、ロック。 すかさず脱出する燕はポッドを操作して自分達のシャトルへ向け噴射機を操作した。 「チッ!させるか!」 敵のガーリオンが転進する。 シャトルに向かって急ぐ脱出ポッドを捕獲するべく手を伸ばし加速する雅のガーリオンカスタム。 だが、シーナは当然見逃さない。 間に割ってはいると、左手のバックラーで突撃を受け止めて スラスターを最大に吹かせると雅のガーリオンカスタムを押し返す。 「こいつ……ガーリオン並の出力か……!?  なめるなよっ!!」 ガーリオンカスタムのテスラドライブが出力を上昇し、 それと同時に両肩のアーマーから金属粒子が散布、ガーリオン前面に力場が形成されると ガーリオンシリーズの得意芸、ソニックブレイカーのブレイクフィールドが リオン・グラオベを弾き飛ばす。 「くぅっ……!」 フィールド発生に飲み込まれた左腕のバックラーをとっさに手放し、 拉げてゆく盾を見ながらシーナは雅のガーリオンカスタムから距離をとる。 だがすでにソニックブレイカーを発動した雅のガーリオンカスタムは ここからが真骨頂。 テスラドライブフルドライブでシーナめがけて襲い掛かった。 「逃がすかっ!」 猛烈な勢いで光の弾と化したガーリオンカスタムがシーナの機体を掠める。 リオン・グラオベも兄の機体の予備パーツ……特に推進系を借りての機体のため、 突撃力……その大元になる推進力にはガーリオンに比類するものがある。 ぎりぎりのところで雅の攻撃をかわすと、高速で移動する相手に攻撃をどう決めるか、 シーナは思案を凝らした。 「……(どうする……シールドが無いから受け流しもできない。  回避に専念すると反撃ができない……)」 「フッ、どうした?もう打つ手無しか?」 旋回して再び舞い戻ってくるガーリオンカスタム。 雅は止めを刺すべく、シーナに狙いを定め一気に迫ってきた。 だが攻撃も難しい以上回避に専念したシーナは、 紙一重、いや、薄皮一枚ずつ持っていかれつつ、何とか致命傷を受けぬよう 自身の周りを旋回するガーリオンカスタムのソニックブレイカーの攻撃を耐える。 やがてブレイクフィールドの発生限界まで耐えると、 そこに残ったのは、片や片手を損傷したのみのガーリオンカスタム、 そしてもう片方は四肢はかろうじて残ったものの、装甲をところどころもって行かれて 傷だらけになったリオンのカスタム機だった。 「フン、致命傷を避けたのは褒めてやる……が、よけてばかりじゃ勝てないぜ?」 「そんなの……わかってる!でも……負けるわけにはいかない!」 「青いな。負けられない戦いが自分だけのモンだと思ってるのか?」 「っ……」 その言葉に、不意にシーナの脳裏に訓練中の京の言葉が蘇る。 (相手だってそれなりに負けられない理由があるんだ。  そうなったらあとは意地の、根性のぶつかりあいだ。 気後れした方が、負けるぜ) 普段は悪態をついてきて、シーナ自身勝気なところもあるので 反発しがちだが、ここぞという時は決めてくれる。 そんな彼の言葉がこの場面で思い出せたのは、この今目の前にいる敵が、 どこか京と重なって見えたからか、その言葉を胸にシーナはスロットルレバーを握る手に 力を込めて、声を絞り出す。 「ボクにも……」 「あん?」 「ボクにも負けられない理由がある!!」 「ハッ!吼えたな!だがいくら意地を張っても事態は何も変わらないぜ!」 『いいえ、そんなことはないのです!』 通信に割り込んでくるのは相棒、燕の声。 それと同時にリオン・グラオベにいくつかの飛来物が投げ込まれた。 「っ!!」 それを受け取ると同時に、機体のハードポイントにマウントされ コックピット内の画面にロングレンジライフル、レオシールド、五連装レールガン、 全てステータスオールグリーンで、ステータスが表示された。

そしてそれらを投げ込んだ燕のリオンVがレールガンをガーリオンカスタムに向けながら リオン・グラオベの傍らに立つと、 「シーナちゃんが必死に耐えたおかげで、ポッドは無事私たちのシャトルに  収容できたのです。  そして奥の手は敵がこちらの手がなくなったと思って油断した時がもっとも効果的!  さあ、応援してくれてるみんなの力を借りていざ反撃なのです!」 「うん……!」 威勢をあげるシーナと燕。 するとそんな二人を見て雅は仮面の下に訝しげな表情を見せて、 「反撃だと……?  くっ……ありゃあスレイプニールの長槍にフィンスタリヒトの連装銃、  おまけにタイニーレオの入れ歯シールドだと……?どんなチートだよ……」 「……?何か言ったのです?」 「言ってねえよ!くそっ、ゴテゴテしたら良いってもんじゃねー。  借りもんの装備でどこまで戦えるか、やってみな!」 そういうと、雅のガーリオンカスタムはバーストレールガンを乱射。 ノーマルのリオンVである燕をかばうように、リオン・グラオベが前に出ると、 レオシールドでボディへの直撃をさけつつ、全弾シールドで受けきる。 そのお返しとばかりに、今度はシーナがロングレンジライフルをガーリオンカスタムに向けた。 「いっけぇっ!」 「くっ!」 咄嗟に退く雅のガーリオンカスタム。 さっきまで雅が居たところを光の槍が貫くと、 今度はレールガン数丁分の無数の銃弾が雅の逃げたところに襲い掛かる。 「っ……!右足被弾……!まだまだっ!!ブレイクフィールド、展開!」 ガーリオンカスタムが再びソニックブレイカーの態勢をとる。 これで前方からの生半可な攻撃は無効化されるうえに、 高速機動中はその本体に狙いをつける事も難しい。 それはシーナの腕であれば尚更だ。 それを見越したような戦術の選択に、シーナ、燕は息を呑み 旋回するガーリオンカスタムを見据え身構える。 「燕!ボクの後ろに来るようにして!」 「大丈夫なのです?」 「みんなを……自分の力を信じる!」 いよいよシーナの機体を正面に見据え、雅のガーリオンカスタムが ソニックブレイカーを繰り出してくる。 シーナはそれの正面から、スレイプニールのロングレンジライフルと フィンスタリヒトのレールガン、自機の補助兵装であるバルカンを一斉発射し ブレイクフィールドに負荷をかける。 だが斥力場表面ではいくらかの反応を示すものの、フィールドを突破するには至らない。 そして次の瞬間、ガーリオンカスタムの全質量を乗せたソニックブレイカーが リオン・グラオベに衝突……その時、シーナは同様に体全体を相手にぶつけるよう 噴出させて、ミティナのタイニーグリフから借り受けたレオシールドで受け止めていた。 「く……!!」 「受け止めた……!?ふざけろ……!リオンとガーリオンじゃ推進力はこっちが上だ!」 一度は勢いを止められたガーリオンカスタムのテスラドライブが光を増し、 さらに勢いをつけると、シーナは機体両手の銃火器をほうり捨て、 「一点突破力なら……負けない!」 右腕のガイストナックルに、面積はすくないもののガーリオンのソニックブレイカー同様の ブレイクフィールドを展開させると、ガーリオンカスタムのフィールド表面に勢い良くたたきつけた。 ぶつかり合う力場と粒子が閃光となって一瞬周囲を白い世界に染め上げる。 そして次の瞬間、 「ぐっ!!?」 「あっ……!」 リオン・グラオベの右腕が爆発を起こし、はじけ飛ぶと同時に ガーリオンカスタムのブレイクフィールドが臨界を迎える。 そしてフィールドが解けたガーリオンカスタムめがけ、これまでソニックブレイカーを防いでいた レオシールドの前部分、獅子の口になっているところで ガーリオンカスタムに噛み付きを敢行するも、まるでガーリオンカスタムのパイロットは その武器をよく知っているかのように、すんでのところでガーリオンカスタムは身を引いて牙は空を切る。 「あっぶねぇ……実戦装備の入れ歯爆弾なんかまともに食らってたまるか……!」 「……!……やっぱり……」 「惜しい……!このっ!」 シーナは浮遊していた五連装レールガンを手に取ると、ガーリオンカスタムに向かって放つ……が、 不意に何ものかの影が割り込んだかと思うと、銃口の先端がすっぱりと切り落とされて やや遅れてレールガンは爆発。 幸い左腕の損傷はなかったが、シーナ……そして燕が爆発の先に見たのは、 これもフェイスマスクが竜のような意匠を施したガーリオンカスタムで、 手にはシシオウブレードよりも一回り大きな太刀を持っていた。 今しがたシーナの武器を破壊したのは間違いなくこの相手……そしてそのパイロットは恐らく テロリストの片割れ、"静"だろう 「新手……!?さっきのもう一人……!」 「……待って!シーナちゃん……様子が、おかしいのです」 「え……?」 新たな敵の出現にいきり立つシーナを燕がいさめる。 今一度見直してみると燕の言うとおり、その相手には戦おうとするようなそぶりが見えなかった。 「……勝負……あった。  雅……あなたの、負け」 「なっ……!まだだろうが!どこ見てしゃべってやがる!」 「……」 そんな雅の言葉に静は刀の切っ先をガーリオンカスタムの肩に向けて、 その仕草に雅も彼女の言葉の意を察したのか、だがそれでも納得いかないといわんばかりに 「くそっ……!」 と吐き捨てるように言うと、雅の代わりに静が二人の方を向いて 「……今回は、私たちの負け…… ……けど、次はこううまくはいかないかもしれない。  死と隣り合わせの戦いを、これからも続ける気?  あなた達じゃなくても、あの男の護衛は出来たはず……」 そうたずねてくる。 思っても見なかった謎のテロリストの言葉に、二人は顔を見合わせるも、 シーナはそんな脅しには屈しない。 そういわんばかりに身を乗り出して 「でも、ボクは今あの人を守る……!  そこの人からも、あなたからも……!」 「仕事だから?」 「……それは違うのです。  私たちは、真実から目をそむけたくないのです」 静の言葉に今度は燕が答える。 すると、それを聞いて雅が 「どういう真実だ……?」 そう尋ね、シーナがそれに呼応した。 「……壁一枚隔てた隣は死の世界……みんな安心して暮らしているけど  そんな平和を崩そうとしているあなた達みたいな人がいる。  それが、でも不必要に恐怖を与えてはいけないって  事実は隠されてることも多い……それが悪い事とは言わない。  けど、実際人々はそんな見えない恐怖にさらされてる……  ボク達はそんな脅威から目を背けず、真実を見据えて戦い続ける……!  如月副長や兄キみたいに!」 「まだまだ私たちじゃ力不足で、お義兄様たちみたいな  力なき人たちの剣にはなれないかもしれない。 けど、盾にはなれるかもなのです。  あの人も軍人ですけれど、一人の人である事には変わりは無い……  任務がどうとか関係ない。私たちは、目の前で脅かされる命から目を背けたく無いのです」 「……それがあなた達の……」 静の、その言葉を待っていたかのように シーナは力強く答える。 「そう、信念だ……!」 「……まだ、若葉マークなのですけどね」 最後、燕がぺろっと舌をだしておどけるように言うと、 仮面の下の静が僅かに笑ったような、そんな口元の変化を見せると、 おもむろに雅のガーリオンカスタムを抱えて、 「……退却、するわ」 「……好きにしろ」 「うん」 興が殺がれた、そんな風に手を頭の後ろに組みつつ言う雅のガーリオンカスタムを 静のガーリオンカスタムが抱えて離れていく。 途中シャトルの接岸した衛星から出てきた別のガーリオン……恐らくもう一人の賊・樹だろう。 3人のテロリストはいずことも無く去っていった。 やがてレーダー圏内に敵の反応も消え…… そしてテロリストも姿を消し立ち往生したシャトルにも、まもなく燕の通信によって、 ヴァールハイトの救助隊がかけつけ、二人はやっと一息つく事ができた。 そして…… 「シーナちゃん!」 「つ、燕ぇ……」 シャトルのキャビン、機体から這い出すように出てきたシーナを 親友燕が抱きとめてくれる。 そして無重力の中フロアーに降りてくると、そこには 今回の保護対象であり、シーナ、シェスターにとって旧知の存在である 乾恭輔が、今回のヒロインの到着を待っていた。 「い、乾さん……」 「恭輔お兄さんで……いや、さっきみたいにおじさんでいいか。  あんまりずうずうしいとあの世でエルフレアの奴が笑ってやがるかもしれないからな」 「恭輔おじさん……」 おずおずとシーナが恭輔をそう呼ぶと、にかっと笑みを浮かべた恭輔は ぽん、とシーナの頭に手を乗せる。 「おう、今回はお前の……お前達のおかげでたすかったぜ」 「いえ、一人でテロリストを撃退したのはシーナちゃんなのです」 「そ、そんなことないよ……。燕がフォローしてくれなかったら今頃駄目になってたよ」 友人を立ててくれる燕にそういいながらシーナは、燕も立派な功労者だと恭輔に告げる。 すると恭輔もそれをわかっているというように、燕の頭を軽く撫でた。 「ああ、そうだな。 お前も大したもんだ。咄嗟の機転とかな」 「お褒めに預かり光栄なのです♪  でも、大佐さん?護衛とかつけないのです?また今回みたいに狙われたら……」 燕が核心にせまる。 たしかに、立場的なものは勿論、職務的に機密情報を持つ以上 SPの一人や二人を同行させてもいいようなものの、今回は特にプライベートということもあり まるでフリーの旅行気分でシャトルに乗っていたのが、いささか不自然というか、 そうでなければただただ危機意識が希薄なのではと思えてくる。 「護衛ってのがどうも苦手だったんだが……。大概の奴だったら、  俺の早撃ちで追っ払えるからな。  ただ今回はまさか美人の客室乗務員まで敵とは、不意をつかれたとしか言いようが無いな。  さすがに俺も若くない……か」 そういいながら恭輔は苦笑いしていたが、ふと何かを思いついたように シーナの肩に手を置いてじっとシーナの目を見つめてきた。 「え……あ、あの?」 「……思ったんだがどうだ、お前……俺のところにこないか?」 「え、えぇえっ!?」 「おぉ」

驚嘆するシーナを横目に、燕は他人事のように感嘆の声を上げる。 だがそんな二人とは対照的に恭輔は真剣な眼差しで、 「命を懸けたやり取りをした奴らには、背中を預けられる。それが俺の信条でな。  シーナ……シーナ=S=ハインツ。 それに鳴海燕、君もだ。 俺はお前たちが気にいった。  まだ荒削りなところはあるが、そこはそれ、まだ若いんだしこれから研ぎ澄まされるもんだ。  俺のところへ来い。俺が面倒見てやる」 「っ!」 思わぬ申し出に、シーナは言葉を失う。 いや、自分を高く買ってくれたのも勿論だが、 シーナからすればシェスターともタイプの違う、どちらかといえば京に近いような さらに壮年の渋みも乗せた恭輔のそんな告白にも似たセリフに思わず顔を赤くしてしまう。 それを見て燕は、 「実は、まんざらでもなかったりなのです?」 「つ、つばめっ!  ボクは、ボクはまだ……燕こそどうなの!」 「私は、悪くはないお誘いだと思いのですけど」 「はは、ま、急に言われても決められんわな。  だが考えておいてくれ。 お前みたいな多少不器用でもまっすぐな奴、  かなり嫌いじゃないんでな」 引きどころもわきまえている。 そんな大人な対応にシーナは胸に熱いものを覚えながら 「……はい」 そう静かに答えた。 そんなシーナと恭輔を比べ見て、燕はぐいっと腕をシーナの首にかけて こっそり耳元でささやいてきた。 「普段もそれくらいしおらしかったら如月副長とも喧嘩にならないのです。  売り言葉に買い言葉で二人とも模擬戦だってのに熱くなっちゃって」 「うー……でも今回はちゃんと感謝の言葉を言うよ……」 「おぉ。どういう心境の変化なのです?」 と、友は興味深げに身を乗り出してくる。 シーナはやや圧倒されながらも、どうして自分がそういったのか 理由がはっきりせずに視線を左右させる。 すると燕は人差し指をピッとたてて  「ずばり、今回の戦いで如月副長のシゴキの成果を実感したのです?」 「ずばり、そうでしょう……敵モーションとかも訓練で出たままなところあったし……  本当に実戦的だったんだなぁって」 「……そりゃーそうかもしれねーのです……」 燕はすこしだけ視線をそらしつつ言う。 だがさらに小声でつぶやいたその言葉がシーナには聞き取りづらく、 「え?何か言った?」 尋ねなおすとあわてた様子で首を横にぶんぶん振った。 燕の前髪が首の動きでぺちぺちとシーナの顔を叩く。 「あ、いえいえ、ううん。なんでもないのです。  でもシーナちゃん……何気に乾大佐の言葉効いてるんじゃ?」 「うっ」 「如月副長とタイプ似てますしね。おまけに大人の渋さっていうんです?」 「つつつつばめ!?」 畳み掛けるような燕の言葉に、シーナは慌てて燕の口をふさぐ。 正直なところ燕の言葉通り図星というところがシーナには悔しい。 この燕はいい友人ではあるが、直情タイプのシーナとは違い頭が回るのがシーナにとって燕の唯一の欠点だ。 「もごもご……ああいやいや、皆まで言うななのです」 完全に遊んでいる目をしている。 シーナも顔を赤くしてにらみつけていると、おもむろに背後から声がかかった。 「あー……もしもし?」 「あっ、ごめんなさい。失礼いたしましたなのです!」 「はは、仲いいな、お前達」 そういいながら恭輔はもう一度ぽん、とシーナと燕の頭に手を乗せそのまま優しく撫でると、 「さて、ちょっと休ませてもらおうかな。さすがにつかれた」 と、燕の方を向いて言い、燕も笑みを浮かべて 「はい、キャビンがありますので、そちらへご案内するのです。  シーナちゃんは、救援の連絡、お願いできます?」 落ち着いた様子でてきぱきと手配をこなす。 シーナも彼女のこういうあたりは頼りにしており、接待は任せた方がいいと判断すると、 「わ、わかった。じゃ、じゃあ恭輔おじさん、失礼します!」 シーナは頭を下げて恭輔を見送った。 恭輔も最後にそんなシーナの頭を軽く撫でて、 「ああ、またな。  ……俺達の思い、願いはちゃんと受け継がれてるぞ、エル……」 「えっ?」 「なんでもない、また、な」 最後に一言、ぼそりとそうつぶやくと恭輔は燕と共に シャトル客室の方へ向かった。 そして……数日後…… 「何だって?負けたぁ……?」 京達が報告に訪れたシェスターの執務室で、 そんな気の抜けた声を上げたのは他でもないシェスター。 そのリアクションに仏頂面で応える京は、つまらなそうにブツブツ何か文句を口にするばかり。 戦闘記録も目の当たりにして、シェスターは身を乗り出した反動そのままに 革張りの椅子にどかっと腰を沈めて大きなため息をついた。 「あの自信はどこ行ったんだよ……頼むよ……」 それには京も不満げな様子で 「しょうがないだろ。みんなよってたかってあいつの味方すんだし……。  だいたいあいつのリオン、リオンのガワかぶったガーリオングラオベみたいなもんだったぜ?」 「……まあ装備は好きにしろとは言ったが……たしかにあそこまでするとは私も予想してなかった。  だが、いくらなんでもお前、負けるってのは……」 「いや、出力がさ……っていうか一樹!  マリアの奴俺のガーリオンカスタム、デチューンしやがったろ!  衝突時のブレイクフィールドの結晶化までの時間がどノーマルより2秒半もはやかったぞ!  右腕の動きもいまいちだったし……あとで見たらOSが認識してるメモリの量も規定の7割ぐらいで頭打ちになってる!  あいつまで俺の敵かよ!」 「あはは……ちょっとぐらいハンディないと、京なら一方的に勝っちゃうだろうし  京作戦前にあんまり自分の機体のシステムデータ見ないからきっとばれないだろうって……  僕がマリアに言ったんだ……でも彼女はちゃんと一応危険だって反対はしてくれたよ。結局やったけど」 「お前かよ!ていうか反対したくせにやったのかよ!」 「それぐらいの方が操縦の見せ方に必死さ……本気さが出る……でしょ?」 イリスも一樹とマリアの所業を弁護する。

「リアルに必死だよ!死ぬかと思ったわ!  ……まあ?言ったところで俺が本気を出せば敵じゃないけどな?  イリスが横槍入れなきゃ、向こうだって限界近かったし何とかなった……」 と、気づけば最初から四面楚歌だった事に嘆いて京はそっぽを向いてふてくされた……が、 そっぽを向いたままその時の様子を思い浮かべると京は、 「……といいたいところだが、よく考えればわからなかったかもな。  あいつ、本気だったみたいだし……  命を懸けてでも俺に勝つつもりだった。そう見えたな」 京は途中でトーンを下げそう言った。 その反応にシェスターの隣に立つ女性……他ならない、燕の姉である雀が、頬に手を当ててクスクスと 笑みをこぼして口を開いた。 「あら、京君が認めるなんて珍しいのですよ」 「……命を懸けて向かってくる、一矢報いる覚悟のある相手であれば、  それが本気ではなかったとはいえ京に届いたって事でしょう……」 一樹が京の反応について評すると、雀も同感だとうなずいてシェスターのほうを向いた。 「大尉、あの子達はあなたや私たちが思ってる以上に……ヴァールハイトの一員としてやりぬく覚悟をもっているのですよ」 一樹や京、そして雀までもがシーナたちの弁護をするようにシェスターを見ると 「わかってる。私だってあいつらが本気だって事ぐらいは。  ……いや、この組織に参加する者全てが本気で地球圏の事を考えている。  だからこそ困難な任務もあれば命の危険もある。  シーナも燕も、私にとっては守りたい対象なんだ」 百も承知、そういうようにうな垂れ、言った。 認めてやりたい、だが、それでも……そういうようなシェスターの葛藤に 京も一樹も言葉を捜して宙を仰ぐと、おもむろにイリスが言葉をかけた。 「だったら……背中を守ってあげればいいと思う」 「何……?」 「私は、京と、ミティや仲間達とこの世界で生きる。  共に生きるには死んじゃ駄目……それはお互いに言える事。  でも私達は戦わなければいけない……であるなら、  お互い背中を預けあえばいい」 「……マリアだって雀さんだって、ここじゃないところで戦ってます。  せめて、彼女達は近くにいる事で守りやすい、そう思えば、少しは気が楽になりませんか?」 「……ま、そういうこったな。  とはいえ、あいつらの事だ。自分の身ぐらいすぐに自分で守れるようになるさ。  いや、もうなってるかも」 「それに……大尉が誰かを守る為はじめて悪に立ち向かったのは……もっと幼い頃だった、そうでしょう?」 イリス、一樹、京、雀ら四人のその言葉にシェスターは押し黙ってしまった。 すると、次の瞬間執務室の扉がノックされ、 「……兄……じゃなかった。ハインツ大尉、シーナ=S=ハインツ伍長、出頭しました」 「同じくツバメ=ナルミ軍曹、出頭いたしました」 「……入れ」 シェスターが入室を促すと、先日のどたばたとはうってかわって 規律を守って二人が入室してきた。 と、そこに京や雀らがいる事に気づくと、 「如月副長……」 「よっ」 「お姉ちゃん……神道隊長やイリスさんも、いらしてたのです?」 「お疲れ様なのですよ、二人とも♪」 「……二人の活躍を、大尉に聞いてた」 談話ムードだったことに少し緊張が和らいだのか、イリスのその言葉に 二人は顔を見合わせて照れ笑いする。 そして、シェスターが 「……二人とも、この度の任務はご苦労だった。  対象は無事休暇を終えて職務に戻られたそうだ」 無事目的も果たせた。任務の収束を宣言するシェスターの言葉に二人の顔にも安堵の色が浮かぶ。 だがシェスターはそんな二人の喜ぶ様に水を差すように、 「……とはいえ、だ。 シーナ=S=ハインツ伍長。  お前はいくつかのポイントにまだまだ判断ミスがあるほか、  護衛対象をむざむざ危険な目にあわせてしまった事は看過する事ができない。  それにあの戦闘レコードもだ。 誰かを生かすということは  それを完遂するためには自分も生きなければならないということだ。  それは自分の命を捨てて誰かを助けるということよりもはるかに難しい。  今回は運が良かったが、あの戦い方では命を落とすぞ」 「……はい」 「ツバメ=ナルミ軍曹。君もだ。  君はシーナのバックアップが主な任務だったはずだ。  その一端といえなくもないが、たった一人でテロリストが二人いる  敵シャトルへ再突入……それも突入班としての専門訓練を受けていない君一人での突入など、  危険すぎる。 結果としていい方向に転んだとはいえ、一歩間違えれば人質が増えるだけだ。   お姉さんを悲しませることだけはするな」 「……はい、なのです」 任務成功、てっきりそれを褒められると思っていたのだろう。 シェスターからの苦言に意気揚々と入ってきた二人は、いつしか消沈した面持ちで 視線を伏せていた。だが、厳しい言葉を吐いたシェスターが次に口にしたのは…… 「…………とはいえ、だ。支援もない状態でよく対象を守りきった。  それについては、よくやった……。お前達のおかげで、大佐は難を免れたよ」 そう、苦笑いにも似た笑みを浮かべてシェスターが言うと、 シーナと燕は顔を見合わせて、兄からの褒めの言葉に破顔して喜んだ。 「ま……100点満点中80点てとこかな。大サービスだ」 「……私は100点あげる……」 「僕からも、100点かな」 京やイリス、一樹もそんな二人の様子をほほえましく見てそういうと、 シェスターは懐から一通の書簡を取り出し、広げて視線を落とした。 「それから、乾大佐から非公式に礼文も届いた。  ……シーナ、お前の度胸と操縦センス、大佐が褒めていたぞ」 「えへへ……」 「燕、シーナへの的確な支援と、冷静な判断力と時に大胆な行動力、  それも大佐殿はいたく感心されていた」 「恐縮、なのです」 褒められうれしそうな顔をする二人。 すると雀はひとしきり話が終わったタイミングで懐から一枚の封書を取り出した。 そしてそれをシェスターの前に差し出すと、すでに開封済みのそれに目を落とし、 シェスターはそれに手を添え少し考えてから二人の顔を交互に見る。 それは神妙な面持ちで……。 「……シーナ、燕、お前たちも一人の戦士だ。これから聞く事の答えは、おまえたち自身で考えて決めろ」 「……兄、き?」 「……実はな」 京、一樹、イリスの顔にもいささか緊張の浮かぶ……一方雀はすべてわかったように目をつぶり微笑む そんな微妙な空気の中、シェスターがゆっくりと口を開いた。 ……そして…… 「……そうか、俺はフラれた、か」 統合軍情報部の執務室、乾恭輔のオフィスで個人携帯の通話相手……シェスターに 恭輔は苦笑いを浮かべそう答えた。 するとシェスターは 「申し訳ありません、どこまでも生意気な妹で……  せっかく大佐殿に栄転のお誘いをいただいたのに……」 「ああ、良い良い、お前が気にすることじゃないさ。  むしろ揺らがず、良く蹴ったって褒めてやりたいぐらいだよ。  揺らがない信念、俺が誘いたかっただけのことはある」 恭輔は本気でシェスターにシーナを部下として引き取る事を打診していた。 だが、シーナはそれを固辞。 ヴァールハイトの一員として戦うことを選んだ。 それを聞いて恭輔は残念なような、それでいてうれしいような そんな表情を浮かべシェスターの謝辞に応える。 「まあ、あいつらの目から見てもまだお前達の組織が必要な時代って事だろ。  あまりいいことじゃ、ないけどな。  だから世界が平和になって、お前らがお飯食い上げになったらまた俺に声かけろよ。  兄妹縁故まとめて世話してやるからさ」 「ふ……ありがとうございます。その時は、宜しくお願いします」 相変わらずの調子でシェスターたちを気にかける、そんな恭輔の調子に シェスターも笑みをこぼしてそう答えると、 恭輔はふと思い出したように、言葉を返した。 「……あ、そうだ。そういえばそろそろだな。  今お前どこにいるんだ?」 「ちょっと所用で地球に……北欧近辺です」 「相変わらず飛び回ってるね。……来週の金曜日、月にこれるか?」 「来週?ええ。その日は……」 「ああ、あいつの……エルの命日だよ。あいつにもこの事、教えてやらんと……だろ?」 恭輔から信念を受け継ぎ、シェスターに信念を繋げた、気高く強く、そしてどこか弱さも見せる女性、 エルフレア=E=シェフィールド。 さらなる次代に想いは繋がっている、それを報告しようというのだ。 するとシェスターもそれはやぶさかではないようで、しっかりとした口調で 「……はい。伺います、必ず」 「ああ、じゃ、来週。 土産よろしくな。  ああそうそう、お前の嫁さんも紹介してくれよ」 その言葉に、恭輔も笑みを浮かべ返すと、 シェスターも敬礼で返し、通信は終了した。 一方その頃…… 「本当に良かったのです?栄転の機会蹴っちゃって」 相部屋になっているクロガネ内の二人の部屋で、飲み物片手に燕がシーナに問いかけた。 するとシーナはベッドの上で足をばたつかせ、 「うん。ボクにはボクなりの戦い方があるんだって、  今回わかったし……それより、燕こそよかったの?  ボクに付き合って辞退して……」 向き直ってそう親友に尋ねると、燕はにこっと笑って 「私もまだまだここで勉強したい事がいっぱいあるのです。それに……」 そういいかけて、ベッドの上のシーナに覆いかぶさってきた。 「わぁっ!」 「シーナちゃんにはサポートが要るみたいに、  私にも私の支援を最大限活かしてくれるパートナーが必要なのです」 親友の思わぬ言葉に、シーナの目元に涙が浮かぶ。 そしてシーナは自分の上の燕をぎゅっと抱きしめて 「燕……燕っ」 「わっとと、苦しいのです」 燕も手足をばたつかせるも、嫌がっているという風ではなく、 どちらかというとじゃれ合うようにしていると、 不意に部屋のインターフォンが鳴って、二人は顔を見合わせる。 「? どうぞ、なのです」

燕は手を伸ばして枕元のモニターから開扉のボタンを押すと、 何の気なしに 部屋の扉が開いてイリスが顔をのぞかせた。 「……・・ごめん、邪魔した」 二人が抱き合ってるのを見て、部屋を去ろうとするので 「え、いやいやいや、ちょ……!」 「イリスさん!そういうのじゃないのですっ」 「……」 あわてて二人が呼び止めて、イリスは再び踵を返して部屋に入り 「うそ……。冗談」 真顔で言う。 そんな先輩のわかりにくいジョークに嘆息しつつ、二人がベッドに腰掛けるように 姿勢を変えると、イリスは 「京が、訓練の時間だって。  ……訓練レベル上げるから、覚悟して……燕も、私が白兵戦を見てあげる」 と、言い二人に背を向けた。 シーナは燕と顔を見合わせると、頷き合い、イリスのその言葉にもそろって気合充分で 「「はいっ!」」 力強く答え、部屋を飛び出した。 〜Fin〜
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